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2024/05/17 05:57 |
獣化の呪いと騎士の槍  04/レオン(マリムラ)
PC:レオンハルト
NPC:アナスタシア
場所:シカラグァ連合王国・直轄領
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ……ドクッ!

 眠りかけている身体が、ガクンと揺れた。
 一度心臓が跳ねたような錯覚。いや、錯覚ではないかも知れない。バクバクバクと
心拍数が上がる。徐々に大きくなる心音。一気に汗が噴き出す。
 ……しまった、毒でも盛られたか!?

 激しく暴れる心臓を押さえようと胸に強く手を押しつけるも、一向に治まる気配は
ない。脂汗が滝のように流れ出し、強張った全身の筋肉が悲鳴を上げる。心臓が自ら
肋骨を破って飛び出してきそうな苦痛に、体を起こすこともできない。
 意識せずとも勝手に収縮と弛緩を繰り返す筋肉に疲労が溜まっていく。時々骨の軋
む音さえ聞こえる。眠りかけていた意識は覚醒しないまま、靄の中で足掻いているカ
ンジだ。

 何だ、何がいけなかったんだ。誘ったのを断られたのが殺す理由か?そんな表情微
塵も見せずに、大した役者だなお姫様。それとももっと前か。自分から挨拶をしなか
ったから怒っているのか。もう、何もかもが原因のような気がしてくる。
 こんな所でこんな死に方か、お笑い種だな。
 そんなアスランの声がしたような気がした。くそっ、そんなこと言わせてたまる
か。



  † † † † † † † † †



 ひんやりとした肌が頬に触れた。
 ……身体は大量の汗でねっとりと濡れているのに、心臓の暴れる感覚がない。
 いや、まあ、動悸は治まっていないが、とにかく日常生活並までには落ち着いてい
る。
 何だ、夢見が悪かったのかとうっすら目を開けて、思考が固まった。
「おはよう、レオン」
 視界が顔に塞がれる。柔らかく甘い唇がゆっくりと口づける。ふわっと甘い香りが
して、長い睫毛に目を奪われる。頬に手を置くのは、そう、見合い相手のお姫様。
 ……って、ちょっと待て、何でコイツがココにいる!?

 跳ね起きて、いつの間にか掛けられていたシーツを持ち上げ、自分の姿をまず確
認。
 勘弁してくれ。なんで裸なんだ、なんで下着すら付けていないんだ。
 恐る恐る隣を見ると、そのシーツを掻き寄せ身体を隠しながら、彼女が微笑んでい
るではないか。細い肩紐と白い肩が艶めかしい。
「何でココにいるんです……アナスタシア嬢」
 喉が枯れて変な声だが気にしていられる状況じゃない。
 跳ね起きる際に払い除けた形になった手を、彼女は腕に絡み付けて擦り寄ってく
る。
「アンでいいのに」
 絡み付いた細腕と押しつけられた胸の感触に押し倒したくなるが辛うじて自制。
 何やってるんだ、自分。
 もう片方の手で軽く彼女を押し、なんとか密着状態から脱する。
「……ねえ、昨日みたいにキスして、レオン」
 拗ねるような媚びるような……そしてほんのり照れるような上目遣い。
 あまりの衝撃に、思わずベッドから転がり落ちた。
「嘘……だろ?」
 えーっと、何の冗談だろう。
 言い逃れさせてくれそうにない環境だが、自覚はこれっぽっちもない。記憶もな
い。
 ああ、きっと何かの罠だ。そうだ、そうに決まってる。
「覚えていないのね、酷いわ」
 そんな、泣き出しそうな顔をされても困る。というか、こっちが泣きそうだ。
 腰をしたたかに打った床には脱ぎ散らかされ、服が散乱している。
 散乱している服を掻き集め、慌てて袖を通した。
「見て……これでも思い出せない?」
 彼女が髪を掻き上げると、首筋にいくつか小さな内出血の痕が見られた。
 えーと、コレってもしかしてキスマークだったりしますか……?
 ぶんぶんぶんと音が聞こえそうな勢いで頭を振る。そんなはずがあってたまるか!

 すると、彼女はガラリと表情を変えた。
 寂しそうなおとなしそうな子供っぽい表情から、妖艶な雰囲気に一変する。
「思い出させてあげる……」
 そう言うと、ふわりとベッドから舞い降りる。
 身体のラインが透けるスリップドレス一枚だけというのが、余計にいやらしい。
 生唾を飲み込みながらも、腰が上げられないまま後ずさる。
 ガンバレ理性。御馳走が出されるのは面倒事の前兆だと相場が決まってるんだ。
「冗談はやめてくれ、俺に何の恨みがあるんだ!」
 そう言いながら天井を仰ぎ見た。
 真っ直ぐ彼女を見ることができない。無意識に腰のラインや胸の膨らみを観察して
しまうのだ。うわ、コレって視姦か。暫く籠もってたからってそんなに節操ナシか、
俺。
 髪を乱暴に掻き、眉間に力を込めてぎゅっと目を瞑る。
「あんた、俺になんか薬を盛ったろう!
 俺が一体何をしたっていうんだ。俺は一体何時間眠ってたんだ!」
 もう、礼儀なんて構うものか。大声で叫ぶ。

 寄ってきた彼女が、手を伸ばしてきた彼女が、一歩引いたのが分かった。
 至近距離の大声は凶器と変わらない。彼女の気持ちは砕けただろうか?

 とすっ。ベッドから音がした。多分彼女が腰掛けたんだろうと推測、ある程度距離
が開いたことで、ホッとして目を開ける。
 窓からの光を背に受ける彼女は美しかった。ベッドに腰掛け、足を組み、膝に片肘
を乗せて、顎に手を当てている。絵画のような錯覚を一瞬覚え、ぼうっと見入ってし
まったこっちの顔を、口元だけで笑われた。
 見下ろす態度と表情が、別人のように見える。
「……貴方のことが気に入ったのは本当よ、レオンハルト・クラウゼヴィッツ」
 そこにいるのはもう15歳の少女ではなかった。

「媚びられるのは好きじゃないの。
 それに、貴方が父親だったら子供達にも期待が出来るわ。
 その身長は武器になる、顔もそんなに悪くないしね」
 とりあえず迫るのを諦めてくれたようなので、座り直して言い返す。
「顔がいいのは揃ってたろう。あんたも見る目がないな」
「表情なんて教育でどうとでもなるのよ。元が悪くなければソレで充分」
 ここで誉めたりしないところが彼女の本性なのかも知れない。
「それに、貴方は欲望に振り回されずに自制してたわ。
 美味しそうに見えたでしょう? でも、手を着けようとはしなかった」
 そんな面倒なこと、してられるかよ。とは、敢えて言わないでおこう。
 ああ、でも、後腐れのない女だったら違ったかも。と、思ってしまう自分が憎い。
「色香に惑わされる人なら、ソレでコントロールできるってコトだものね。
 浮気しないとは言いきれないけど、結婚しなくたって充分手駒になってくれる」
 ……なんて恐い女なんだ。
「貴方は周りにいなかったタイプよ。
 初めて手に入れたくなっちゃった……私と手を組まない?」
 そこまで言うと、間を空けた。
 きっとこれも計算のウチなんだろうと思うが、言葉の意味が飲み込めない。
 何を言ってるんだ、この女。
 こんなコトしておいて、平和な顔して手を組めるとでも思ってるのか。
「ああ、そうそう。貴方には残念ながら選択権がないの」
「何!?」
「薬って、いってたでしょ? アレ、当たり」
 くすっと笑う様は可愛らしいが、出てきた言葉は何とも物騒なものだった。
「ウチのお抱え魔術師が開発したばかりの新薬『百獣の王』よ。
 中和薬はもちろんウチにしか無いし、効果は絶大。助けて欲しい?」
 余裕の笑みで見下ろされる。効果ってなんだ、絶大って何だ!?
「効果を聞いておく必要があると思うんだが」
 ぼそりと反論してみる。いや、反論にすらなんていないような。
 寝に入るときのあの感覚が毎晩襲ってくるとか、徐々に効いてくる惚れ薬だとか
色々考えて、それだけでぐったりする。
「獣化よ」
 彼女はこともなげにそう告げた。



  † † † † † † † † †



「私を信じて、既成事実があるモノだと思ってしまえば良かったのに。
 それとも、目が覚める前に既成事実を作っておいた方が良かったのかしら?」
 そう言って、彼女は部屋を後にした。
 残されたのは愕然としたまま取り残された自分一人。
 立ち上がることすらせず、後ずさった壁際に座り込んで、言われたことを反芻す
る。
「婚約発表を済ませたら中和薬を飲ませてあげる。
 そしたら貴方は色んな意味で逃げられないモノね」
 自分に残された自由は、盛大に溜め息をつく自由だけなのだろうか?
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 面倒なことは嫌いだ。だから見合いなんて嫌だったのだ。
 今更遅いが、こんなことなら出された据え膳を食っておけば良かったのかもしれな
い。オイシイ思いをした上に、変な薬は使われずに済んだかもしれないのだから……
いや、それも別の意味で恐そうだから、想像は自粛。一生手駒なんて楽しい話じゃな
い。



 ドアが僅かに開き、しなやかなシルエットの黒猫が隙間から滑り込んだ。
 遅れて淡いグリーンにドレスアップした彼女が入ってくる。
「いつまでそうしてるの? レオン」
 甘えるような声は、扉の向こうの誰かに聞かせるためのものなのか。
 壁に寄りかかるようにしながらのろのろと立ち上がって、虚ろな目を向ける。
「食事の時間よ、早くいらして」
 扉を今、ようやく閉める。想像力の豊かな連中は、何を思い描いているのだろう
か。
 彼女を抱きしめ、軽く口付ける自分か?
 それとも、彼女に抱きつかれ、困る自分なのか。

「……扉さえ閉めてしまえば、外に声は聞こえないわ。本題に入りましょ?」
 一瞬で表情を変えた彼女は、さっきまでよりずっと生き生きと、そして艶やかに笑
う。
 その事を知っているのは自分だけかもしれないとつい考えてしまい、頭を振る。
 顔が好みに見えてこようが、相手が自分だけに気を許そうが駄目だ、アレに惚れち
ゃいけない。本能が危険だと叫んでいるのだ。面倒事はもう沢山だ。
「ご挨拶して、マイラ」
 足下にじゃれついたと思ったら、器用に身体を駆け登り、肩口に座る黒猫。
 にゃーん
 顔に擦り寄ろうとしてバランスを崩すと、爪を出して首筋を引っ掻いた。
「なっ!?」
「あら、ごめんなさいね」
 彼女が手を伸ばすと、黒猫は彼女の手に飛び移る。
 首筋に、細い血の跡が残る。傷は深くない。が。

 ……ドクッ!
 壁により掛かるように立つ身体が、ガクンと揺れた。
 膝から崩れ落ち、勢い余って強かに額を床で打つ。
「これで、薬が冗談じゃないと分かってくれるかしら?」
 猫を撫でながら、彼女はこちらを見下ろしていた。

「症状には随分個人差があるみたいだからハッキリとしたことは言えないけど、
 傷から獣化が進行するみたいね。傷を受け続ければどんどん症状は進行するわ。
 傷ついたところから、触れた動物の一部を身体に取り込むって感じかしら。
 例えば……そうね、攻撃してきたのが単一の動物じゃない場合、
 キメラみたいな合成生物になるかもしれないわね」
 そう言うと、抱いていた猫を下ろした。
 ビクッと身体が身構えようと反応する。しかし、心臓が激しく脈打ち、汗が滴り落
ち、腕の筋肉は痙攣を始め、自由に身動きがとれない。
 しかし、今度は傷を負わせるつもりはないようだった。
「マイラは特別な猫でね、舐めることで傷を癒してくれるの。
 ……薬を飲んだときのように、獣化した部分は元に戻らないけど」
 にゃーん
 とてとてと近づいた猫は、血の匂いにイヤな素振りすら見せず、ぺろぺろと傷を舐
めた。
 浅い傷跡が、気のせいだとでも言うように消えていく。
 が、収まりかけた心臓が、再び暴れ出し、呻き声を漏らす。。
「面倒なこと、嫌いなんでしょう?
 だったら、早く折れた方が、面倒も気苦労も少なくて済むわ。
 いずれ折れるのなら、傷は浅い方がいいものね」
 彼女はそう言うと、きびすを返してドアを開けた。

「一緒にお食事出来ないなんて、とても残念だわ」
 それは猫を被った甘えた声。やはり誰かに聞かせるためのセリフなのだろうか。
「またお見舞いに伺いますわね、レオン」
 わざとらしくも名を呼ぶ。そういう親しい仲なのだと主張するように。
 黒猫が彼女の足下を擦り抜けて、部屋を先に出る。
 静かに、ドアが閉まった。

 動悸が収まったら、体が自由に動くようになったら、急いでここから逃げなけれ
ば。
 まだ落ち着かず、床に突っ伏した状態で決意する。
 あの女の思い通りには、ならない。


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2007/02/12 16:56 | Comments(0) | TrackBack() | ○獣化の呪いと騎士の槍

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