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2024/05/16 15:13 |
獣化の呪いと騎士の槍  02/レオン(マリムラ)
PC:レオンハルト・クラウゼヴィッツ
NPC:アスラン 
場所:シカラグァ連合王国・グルナラス氏族領→直轄領
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 男はごつごつとした手で、玉のように流れる汗を拭った。そしてふと、窓の外に目
をやる。噴煙の上がる火口を見下ろせるこの都市は、彼の自慢の一つでもあった。そ
して、同じ方角から自分の館に向かって登ってくる人影が見えた。
「そうか、時間か」
 男は短くそう言うと席を立ち、煌々と燃えさかる炎から離れ、手に持つハンマーを
しまう。そう、余り気が進まない予定があった。だからその事実を少しでも考えない
で済むように、日課となりつつある鍛冶仕事をしていたのだ。
 迎えの使者が来る前に、簡単な準備を終わらせなくてはならない。手持ちの正装も
恐らく丈が足りないだろうがやむを得ないだろう。コレしか持たないからと言ってガ
マンして貰うか、そう苦笑しながら、手早く水を浴びようと肌に張り付いた服を剥が
す。
 汗を流すだけに止め、水を滴らせたままの髪を整えようともせずに、男はわずかに
丈の足りないシャツに袖を通した。
 コンコンコン。木製のドアが叩かれる音。
 あの急な山道をこの短時間で登ってきたという事実が、扉の向こうの人物を特定さ
せる。ソレは恐らく幼なじみのアスラン、しかも他の供を置いて一人先にやってきた
のではないだろうか。
「着替え中、外で待ってろ」
 そう扉に向かって声を掛けたのに、アスランは遠慮する素振りすら見せずに部屋に
ずかずかと入ってくる。袖の短いシャツと下着姿のままの男を見つけると、にやっと
笑って紙袋を放った。
「おまえデカくなりすぎだよ、その服で降りて来るつもりだったのか?」
 なるほど、紙袋には新しい正装が入っているらしい。
「面倒だな、代わりにお前が行けよ」
「ヤなこったい」
 ちなみに、面白がっている風のこの男は、グルナラス氏族領の次期領主と目される
「若様」だ。何故か風貌も声も全然違うのに、この二人が従兄弟だというのだから、
血というのも案外面白い。
「選ばれると思ってないんだったら、観光のつもりで行けばいいだろ」
 アスランがハンマーを手の平で踊らせながら声を掛ける。男は無言で着替え直す。
新しく渡された正装が謀ったような寸法なので、若干の陰謀を感じながらもタイを締
める。
「ベルファスが落とす気満々だしね、頭数合わせに借り出されてらっしゃい」
 自分の弟の名を他人事のように報告すると、アスランは男の曲がったタイを笑っ
た。
「似合わないだろ」
 そう言いつつも男は準備を終え、アスランと共に外へ出る。追いついてきた従者達
が一度男を見上げ、頭を下げた。
 そう、男は背が高い。平均よりも高いはずのアスランの頭が、肩までしか来ないほ
どには長身で、しかも姿勢が悪かった。姿勢が良ければもっと高く見えることだろ
う。この一際高いところに位置する屋敷に籠もるようになってからは、ただでさえ高
い背が更に伸びた。知っているのは時々お忍びで遊びに来ていたアスランだけのはず
だ。
「お迎えに上がりました、一緒にお越し下さい」
 頭を下げたまま、従者が言う。
 男は肩を竦めた。どうせ反対したところで、行くことには変わりないのだ。
「土産、期待してるよ」
 アスランが手を振り、笑う。おざなりに手を振って返す。
 彼に当分会えなくなるとは、その時は考えても見なかったのだが。



 グルナラスの馬車は赤い。元々赤みを帯びた木材を使っているのかそういう加工な
のかは知らないが、遠目に見てもはっきりと分かるほどには赤いのだ。わかりやすい
と言えばわかりやすいのだろうが……まあいい。一応識別の意味があってのことだろ
う。
 そう、グルナラスの旗は赤だ。朱の氏族領と呼ばれるほど、その色は馴染み深い。
シカラグァ連合王国の中でも鉄工業・金属細工など、鉱物資源を加工させるならココ
をおいて他にはなく、生産する品質は大陸中に知られているが、その中でも良質な一
部には「朱」という名のブランドで売り出されているのだ。

 グルナラスにはドワーフ中心の街もあるが、入れる人間は信用に足る者だけだとさ
れている。だから、岩山を掘り抜いて造られた都市は確認されているモノの、実態が
あまり知られていない。そのドワーフと共存しているのだから、やはり謎の多い土地
柄なのだろうと、自分を半ば強引に納得させる。

 窓の外の風景が変わり行くのは面白い。特徴的な赤土の火山が遙か後方へと流れて
いく。
 早く帰りたいのは本当だが、滅多にない長旅だ。何か面白いことでもあればいいの
だが。

 そんなことを考えながら瞼を落とす。先は長い。寝ておこう、と。



  † † † † † † † † †



 場所は変わってシカラグァ直轄領。王都へと向かう長い橋を渡る馬車。
 レオンハルトは本日幾度目かの溜め息をもらした。
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
 気が進まない用事が目前に迫っている。
 今年三十になった自分への、領主である叔父の命令。それは「見合い」だった。
「そろそろ王都へ入ります。失礼のございませんよう」
 御者に溜め息をたしなめられる。
 大体集団見合いに何故自分が出なければいけないのか。しかも一対六という変則見
合いなんぞというものに。
 どうせ引き立て役なら他のヤツに行かせればいいじゃないか。ベルファスが思惑通
り、相手に好かれるならソレも良し、年齢制限ギリギリのヤツをわざわざ行かせる必
要もないだろう。それなのに。
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
 思わず、脱走の機会を窺ってしまうのだった。



  † † † † † † † † †



 事前情報:女王の末娘、アナスタシア・ベル・ラス、15歳。

 見合い相手に関する自分に与えられた情報はそれだけだ。
 まあ、本気で口説くつもりがあれば、好きな食べ物なり趣味なり、調べることも出
来たろう。容姿に関する情報も入るだろう。だが、自分の半分の年齢というだけでウ
ンザリするのに、叔父の命令というのが気にくわない。だから、それ以上の情報は持
つ気になれなかったというのもある。
「アナスタシア様でございます」
 十代から三十まで、よくもまぁ幅広い年齢層が集まったモノだと感心しながら待つ
応接間の隅で、壁にもたれていた時、彼女は現れた。
「……ほぉ」
 虚をつかれた。
 正直、もっと乳臭いお子さまだと思っていた。
 肢体がすっかり伸び、小振りながらも形の良い胸が目を引く涼やかな水色のドレス
で、栗色の髪を高く結っている。顔の作りなんてモノは好みの問題だろうが、意志の
強そうな目が興味を引いた。

 他の連中は我先に、と彼女へのプレゼントを片手に声を掛ける。五人の男に囲ま
れ、少し困ったような表情を浮かべながらも笑顔で対応するアナスタシア……それを
観察していた自分に、観察されていた彼女が突然視線を向けた。
 まあ、一人だけ寄ってこなければ気分が悪いかも知れないとは予想していたが、彼
女は一瞬楽しそうに目を煌めかせ、男どもに一声ずつかけると、壁際まで足を運ぶ。
「始めまして、レオンハルトさま」
「……始めてお目にかかります、アナスタシア嬢」
 嫉妬の目が痛い痛い。おい、お前らとも彼女は同じ挨拶をしていたじゃないか。
 片手を差し出されて、そういえば儀礼用の挨拶とやらもあったっけなと片膝をつ
き、白い絹の手袋の甲に軽く口づける。

 彼女とその時会話をしたのはそれだけだった。
 彼女は会話の輪の中へ戻っていき、自分は会話に加わろうとしなかったのだから。



 夜、六人はそれぞれに部屋を割り振られ、屋敷に泊まることになっていた。
 ランプの明かりが一人には広すぎる部屋を照らす。長く伸びる影が炎に合わせて揺
れる。

 コツコツコツ

 入り口のドアは一つのハズだが、その音はドアから聞こえたモノではなかった。
 不審に思い耳を潜めると、どうもクローゼットから聞こえるらしい。
「誰だ……?」
 返答無ければ無視を決め込もうと思いながら、一応クローゼットに声を掛ける。
「私(わたくし)です、開けてもよろしいかしら」
 声の主は見合い相手のお嬢様。つい、頭を抱えて座り込んでしまった。
「あまりお話しできませんでしたでしょう? 少しお話しできないかと思いました
の」
 そんな理由で夜這いをかけるなよ。襲われても知らんぞ。
 そう思いつつも断り方が思いつかず、開けようか迷って踏み止まった。
 偉いな、俺。
「何処から入られたかは存じませんが、お帰り下さい」
「困ったわ、この隠し通路、一方通行ですのに」
 おいおい、もうちょっと後先考えてみてくれ。頼む。
 迷って迷って迷った挙げ句にクローゼットを開ける。

 彼女は体の線が透けるほどに薄い生地のネグリジェを纏い、その上から申し訳程度
にケープを羽織って立っていた。とっさに目を背ける。頭がクラクラした。
「ありがとう、レオンハルト様」
 ああ、ヤバイ。面倒なことは嫌いなんだ。なのに何でこんなに面倒事がやってくる
のか。
 彼女はにっこり笑うと、何も聞かずに部屋に入り込み、勝手にベッドに腰掛ける。
 と、手招きをしてベッドを叩いてみせた。
「あー……あのですね、それは『夜』のお誘いでしょうか?」
 思わず眉間に皺が寄る。何だ、何なんだ、この状況は。面倒臭い。
 こちらの理性でも推し量ろうというのか。そんな馬鹿な。冗談じゃない。
 擦れ違ったときに嗅いだほのかな香が、心臓を高鳴らせる。
 待て、落ち着け、気のせいだ。眉間に更に力を込める。
 そんな様子を見て意味深な笑みを浮かべた姫君は、ゆっくりと返事をした。
「隣に座ってお話を聞かせて下さいな」
 イエスともノーとも答えないが、それは「誘い」の肯定と受け取れた。平穏な日常
が遠ざかる。ちょっと待て、こんな小娘首尾範囲外だ、思い出せ、自分。
 必要以上に頭を振ると、ベッドを背に立ち、頭を掻く。
「何か羽織って部屋にお戻り下さい。こういう駆け引きは嫌いです」
 しばしの沈黙。ようやくベッドが小さく軋む音が聞こえた。
 ああ、そうだ。おとなしく帰れ帰れ。自分の半分の年の少女に欲情してたまるか。
さっきのは錯覚だ。そうに決まってる。そんな面倒な道を選ぶなんて冗談じゃない。
平穏なこれまでの暮らしに戻って、また鍛冶仕事に精を出すのだ。最近は結構いい仕
事が出来るようになってきたじゃないか。そうだ、俺は間違っていない。
「……ではせめて、一杯お付き合い下さい、レオンハルト様」
 帰るのかと思いきや、気が付けばグラスを両手に一つずつ持ち、隣に姫君が立って
いる。
「これを飲み干すまで位は、側にいてもよろしいでしょう?」
 見下ろすと、胸の谷間がよく見える。……ではなく、それは飲み干しさえすれば帰
ってくれるということか。
「では、頂きましょう」
 受け取りざまに一気にあおってグラスを返す。乾杯すらしない。
「帰りなさい、もう中身は残っていない」
 少しは残念そうな顔でも拝めるだろうか、そう思ったのが間違いだった。
「約束ですモノね、今は帰ります。またお目にかかりましょう」
 一瞬、彼女の年齢を忘れるほどに妖艶に微笑んだ姫君は、ひらりとネグリジェを翻
すとクローゼットを開け放った。
「……一方通行というのは嘘ですか」
「ふふ、方便ですわよ、それに」
 クローゼットに滑り込み、振り返る。
「こんな恰好を他の方に見られるわけにもいきませんでしょう?」
 艶やかに笑う。こんな年齢なのに、女性とはこうも表情が変わるモノなのか。
「ああ、貴方が通ることは出来ませんから、全くの嘘というわけでもありませんわ」
 一つウィンクをすると、そのままクローゼットの奥へ消えていった。
 何だったんだ、今のは。

 疲れ果て、そのままベッドに倒れ込む。
 服が皺になったって構うモノか。もう、今日は色々あり過ぎた。

 ぐったりとした身体に睡魔が忍び寄る。
 うつらうつらと意識を手放しかけたとき、突然心臓が暴れ出した。
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2007/02/12 16:55 | Comments(0) | TrackBack() | ○獣化の呪いと騎士の槍

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