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2024/05/16 13:36 |
獣化の呪いと騎士の槍  01/ピエール(魅流)
PC:ピエール
NPC:イングラム、シカラグァ女王
場所:シカラグァ 闘技場
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 女王御前試合。
 シカラグァにおいて不定期に開かれる、兵士達の腕を披露する戦以外での晴れ舞台。
 ここで闘い、優勝すれば女王から直接の言葉を賜る事が出来る上、副賞としてある程度の褒美もでるので、国内の騎士団や傭兵団などからそれぞれ腕自慢が集まりその技を思う存分揮う。ここで優勝できればかなりの実力者だろう。

 そして、燈の氏族領騎士団"戦乙女の投げ槍"に所属するピエール・ド・カッパーダボードもまた、御前試合に参加するべく会場に足を運んでいた。愛用の突撃槍を肩に背負い、軽量化してあるとはいえ総重量10kgのフルプレートアーマーを身に纏い、平気な顔をして歩いている。普通の騎士ならば馬を使うはずなのだが、彼は馬を使うのを好まずに自分の足で移動している。その奇行は、周囲から興味の視線を集めていた。

                ◆◇★☆†◇◆☆★

 今回の大会の開催を決めた女王は、つまらなそうに消化されていく試合を眺めていた。

「なんじゃ、もっとこう、インパクトのある試合展開はないのか?」

 行われている試合は槍を携え馬に乗った騎士達の戦で、お互いにまっすぐに突撃し合い、雌雄を決する戦いにはそれなりに見ごたえがある。しかし、それが何試合も連続して行われるとなると話は別だった。

 試合は進んで行く。繰り返される同じ展開に飽きた女王は側近の目を盗んで抜け出せないかと本気で思案を始めた。実際に抜け出す事はできなくとも、思考するだけで少しは退屈な御前試合から意識を離す事ができる。それが狙いだった。

 現実逃避が昨日行われた末娘の見合いにまで及んだ時、ふと女王は違和感を感じて闘技場に注意を戻した。ぱっと見て感じた違和感。その正体を求めて、闘技場の二人の騎士をじっくりと観察する。

「あ。」

 それに気づいて、思わず声が漏れた。片方の騎士は普通に馬に乗っているのだが、もう一人が馬に乗っていない。今までは全て二人とも馬に乗っていたから、それが違和感として心の隅にひっかかったのか。

「あやつはどうして馬に乗っておらんのじゃ?自分の馬がないのか」

 思わず声をあげた事に反応してか、不思議そうな視線を向けてくる側近に誤魔化すように問いかけた。

「あの盾の紋章から判断しますに……そうですな、彼こそが"戦乙女の投げ槍"随一の奇人として知られる、徒(かち)の騎士、ピエール郷なのでしょう」

 女王の疑問に傍らの側近が答える。持ち前の途方もない記憶力を最大限に生かして、女王の疑問を解決するのが彼の仕事であり、またそのために知識を蓄えるのが彼の唯一の趣味だった。
 女王と側近がそんな会話を交わしている間にも対戦者二名による女王への礼をすませ、いよいよ試合が始まる。

 ピエールは半身になって片手で槍を持ち、構えた。その相手――"海神の三叉槍"所属のイングラム郷は普通馬に乗った騎士がやるように、ランスを鎧のわきの部分に金具で固定して、突撃(チャージ)の構えをとっている。

「そなたがかの有名な徒の騎士か。噂では騎兵すらも打ち倒すらしいが、私相手には通用しないと思っていただこう」

「なぁに、わしはただ騎士道に則り戦うのみよ」

 ピエールの返答にイングラムは兜の面頬を下ろし、馬の腹を蹴って突撃の命令をくだした。
 人と馬合わせて500kgを超える重量の突撃を防ぐことなどできはしない。それは騎馬戦の中でも無敵を誇る攻撃のひとつ。故にこそ、イングラムは自分の勝ちを確信していた。戦場にて数多の敵を沈めてきた自分の一撃が、馬にすら乗っていないヤツに負けるはずはないと。
 引き降ろされた面頬の、刻まれた細いいくつかのスリットから相手の位置を確認しつつ、イングラムは槍を小脇に抱えて突き進む。相手がパイクやクロスボウなどのようにこちらよりも射程が長い武器を用意していても一騎打ちであれば勝てる自信を持つイングラムにとって、自分のそれよりも短いランスを持つピエールなどは相手にもならない、そう思っていた。それが起きる瞬間までは。

「徒の騎士、おそるるに足らず!」

 イングラムとピエールの間は見る間に詰まって行く。5歩、4歩、3歩、2歩、1歩。
 後1歩で届く。イングラムが兜の下で会心の笑みを浮かべたその瞬間、面頬に空けられたスリットからみえていたピエールの姿がガッという音を立てて掻き消えた。
 思わず「馬鹿なっ!」と叫んで手綱を引き絞るイングラム。だが、全力疾走していた馬が急にその速度を0にする事なぞできはしない。さらに数歩進んで、ようやく止まったと思った瞬間、左の方から大きな衝撃がイングラムが乗る馬を襲う。左を見ると、馬の脇腹に肩からぶつかってきているピエールと、おそらくは彼が地面を蹴った跡であろう、先ほどまではなかった罅割れが目に入った。
 イングラムが転倒する前に馬から飛びのく事ができたのはひとえに今までに培ってきた無数の戦の経験が生んだ成果だ。着地すると同時に金具を外し槍を捨て、倒れた馬に結び付けてあった剣を引き抜いた。背中に背負っている盾まで降ろして構えるほどの暇は流石になく、抜いたロングソードを両手で構える。

「く、徒の騎士の名は伊達ではないという事か。だが懐に入ってしまえば私の勝ちだ!」

 強気な発言を繰り返すイングラムだが、その反面自分から動こうとはしなかった。今までの戦いは全て馬を使った突撃で勝ち抜いてきた彼だが、だからといってけしてこの重い鎧を着たまま剣術の立ち回りができないという事はない。ただ、この相手に対しては静に徹し、落ち着いて懐に入るべきだと彼の理性が告げていた。先ほどのような慢心はけしてしない。イングラム郷は自信家だったが、相手の実力を見極め、それを素直に認める事が嫌いなわけではない。だからこそ、歴戦を勝ち抜き今この場に立っているのだから。

 ピエールは真半身で槍を肩と腰の中間辺りで前に向かってかまえ、やはり動こうとしない。しかし、観客が長期戦を予想した直後に間合いをあっさりと詰める。そして、剣の間合い一歩手前で立ち止まった。

「侮るかっ!」

 上体を揺らさず、安定したままに歩く独特の歩法に一瞬虚を突かれるが、その隙を突かずただ立っているだけのピエールに、イングラムは怒声を上げた。
 槍の横、ピエールの体正面に向かって踏み込み、面頬が上げられたままのためにむき出しになっている顔に向けて全力で突きを繰り出した。ガッと硬い手ごたえ。繰り出した一閃はピエールが左手に持っていたカイトシールドに命中、そのまま左腕を払われ、イングラムの体が泳ぐ。あろうことか、次の瞬間ピエールは左腕を払った動きでそのまま盾を投げ捨てた。即座に引き戻された左手が突き出され、イングラムの肩を抑える。その動きに連動して、槍を持った右手は大きく後ろへと行くことになった。

「おおおおおりゃああああああああ!!」

 イングラムの目は、引き絞られた弓につがえられた矢のように今まさに放たれんとしている右手の槍を見ていた。両腕の長さと胴体の横幅を足した長さにほぼ等しい槍は、まっすぐにイングラムの左胸、心臓の部分をポイントしている。そこは鎧の中でも最も装甲の厚い部分だが、恐らくはあっさりと貫かれるのだろう。人生で初めて、イングラムは自分の負けを素直に受け止めた。体の力を抜き、目を閉じる。

 衝撃は一瞬だった。体の左側を何かが貫いていく。ギャリリリッという、鎧の装甲が削れる耳触りな音が衝撃とともにイングラムを撃つ。与えられたベクトルに従い、イングラムの体は地面へと倒れこんだ。地面からの衝撃が鎧を貫通し、肺を直撃。中に溜まっていた空気が抜け、一瞬の呼吸困難に陥る。酸素を求めた体はほとんど反射的に口を大きく開け深呼吸、そこでようやくイングラムは別の痛みが脇腹から来る事に気が付いた。

「……心臓を突いたのでは、なかったのか?」

 呆然とし、半ば独り言に近いイングラムの言を受け、ピエールは言葉を返す。

「なぁに、こんな試合で命の取り合いまでする必要はないだろう。お前さんはもう負けを認めていたみたいだったようだしの」

 そういうとピエールはイングラムを助け起こし、盾を拾いにいく。
 馬に跨り闘技場を後にする直前、イングラムは退場していくピエールの背中に、言葉を掛けた。

「徒の騎士の名、伊達ではないと教えられた。暴言を撤回させていただきたい。今後の貴公の勝利を願っている。ピエール郷」

 槍を軽く振り上げて答えるピエールが退場するのを見届けると、イングラムも痛む脇腹を堪えて、闘技場の外へと馬を走らせた。

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2007/02/12 16:54 | Comments(0) | TrackBack() | ○獣化の呪いと騎士の槍

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