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2025/03/10 06:22 |
滅びの巨人:第8話 闇夜に浮かぶ影/雑(乱雑(月草))
___________
場所 ; ポポルの町郊外のクレーター
PC  ; 雑
NPC ; サラサーテ、エリオット
___________

ガラスのような星が満天に満ちた夜、
大きなリュックサックを枕に横たわる一人の青年がいた。
数日前にこの村を訪れた青年、雑だった。

「ふ……ふぁーあ!」

青年はふと大きなあくびをした。

「っと、まだこんな時間かよ。最近寝つき悪ぃな、俺」

時刻はちょうど12時を回ろうとしていた頃だった。
辺りはまだ、墨をたらしたような闇に覆われていた。
まいったな、とこぼしながら上体を起こす。
頭をぼりぼりと掻きながら辺りを見渡した。

この村へ来てからなんとなく気分が落ち着かない。
最近は宿屋にも泊まらず、ただただカンに任せては辺りを調査(といっても歩き回るだけだが)
している。

「(なにか、なにかあるはずなんだ。この辺りには)」

雑の周囲にあるものといえば、ふさふさと滑らかな雑草や、
どんな風にもびくともしそうに無い丈夫な木々だけだった。
いくら耳を澄ましても、コロリコロリと鳴く虫の声ばかりが聞こえてくる。
一見するとただの平和な夜中の風景でしかなかった。

しかし雑のカンは違った。ここにいること事態が危険極まりないと告げ、
警戒を解くなと泣き叫ぶ子供のようにわめき散らすのだった。
この手の直感は、いままで一度も外れたことが無い。
夜中に何度も目を覚ましては、神経を研ぎ澄ますのも関係があるに違いなかった。

この危機感が、雑を宿屋でぐっすり眠らせてくれないのだった。

「(ぼーっとしててもしゃあねえ。ちょっくらあっちへ行ってみっか!)」

雑がせい! と気合を入れると、大岩のようなリュックがボールのように持ち上げられた。
彼の怪力のすごさを雄弁に物語る様子だった。

雑が向かった先は、数日前に突如として隕石が落下してきた場所だった。
目の前には相変わらず、大きなクレーターが広がっている。
あれから魔法学院の教授二人がなにやらごそごそと忙しく立ち回っては作業をしていた。
きっと何かあるに違いない。

何よりも、あの時隕石から感じた凄まじいまでの……禍禍しさ……。
思い出しただけでも身の毛がよだってきそうだ。

「……やっぱ、ここって変だよな」

雑はクレーターの中央を目指して歩き出した。
気のせいか、一歩進むごとに寒気が増していく感覚を覚える。
一歩、また一歩、進むごとに。
中心へと近づくごとに……。

ふと気付いた。自分はなぜこんな所へやってきたのか?
何もこんな気味の悪いクレーターへ、わざわざ近づく理由なんて無いはずだ。なのに、なぜ?
我に帰った雑が何気なく上空を見た時、目に飛び込んだ光景が雑を戦慄させた。

「……うお!?」
「――オォォオォ――オオオォオオ!!」

そこにあったのはデスマスクのような、空を覆い尽くすほど巨大な半透明の影だった。
囚人のような憎悪の眼で雑をまっすぐに見据え、口からは血に飢えた狼のような牙をのぞかせてい

る。
これは一体、なんなのだろうか!?
必死に思考をめぐらす雑の耳に、突然透き通るような声が聞こえてきた。

「あぶない!」

声は若い男のものと、女の二人の人物の声が混じっていた。
雑は足元から、ただならぬ気配を察して、その場から飛びのいた。
ザシュ! という鋭い音と共に砂があたりに飛び散る。
見るとクレーターの中心からは巨大なカマが突き出て、さっきまで雑がいたところを刺していた。
一歩間違えれば、危ういところだったろう。

「大丈夫ですか!?」
「お怪我はありませんか!?」
「……あ、ああ! サンキュー、たすかったぜ」

二人組みの人物は雑の元にかけよって、雑の無事を確かめた。

「サラ! 気をつけろ! こいつ、相当気が立っているみたいだぜ!」
「ええ、そうらしいわね。いくわよエリオット!」
「(な、なんだ? なにが起こっているんだ!?)」

現れた二人の名前はサラと、エリオットというらしい。
サラと言うのはヒスイ色の髪をしたかわいい少女で、エリオットは見事な金髪をした凛々しい少年

だった。
上空に見えていた、あの禍禍しい影は憎々しそうに二人を睨みつけつつ、煙のように消えていった



影が消えたと同時に周囲には大きな地鳴りが響く。あのカマの根元からくるようだ。
空気を揺るがす轟音と共に砂柱が天高く舞い上がり、不気味な影が姿を現した。
雑よりも頭二つ分ほど小さな体に、不釣合いなほど巨大な二本のカマを備えた、
気味の悪い真っ黒なエビのようなモンスターだ。

……理解できないことだらけだが、はっきりしていることは、
自分があの気味の悪い影におびき出されて、このモンスターに狙われたこと。
そして、いままさに襲い掛かられようとしているということだった。

「にげてください! あなた、狙われいるんですよ!」
「そうです! 早く! 詳しいことは後で説明します!」
「……そいつは無理な相談だぜ、お二人さん」

雑は不敵な笑みを浮かべつつ答えた。

「そんな! 早くしてください!」

こんな得たいのしれない化け物に狙われて、お返しもしないで帰れるか!
雑は燃え盛る炎のような思いが、心のそこから湧きあがるのを感じていた。
何よりも、どこの誰から知らないが守られてばかりというのは面白くない。
この制服は確か、魔法学院の制服のはずだ。二人は同級生か何かなのだろう。

「あんたたち魔法学院の学生だろ? さっきはありがとうよ!
 この礼はきっちり返さなくっちゃな」

雑はリュックをその場に下ろすと、担いでいた自慢の特製ハンマーを手に取った。

「あ、ちょっと!」

一歩づつ地面を踏みしめながら、雑は黒いモンスターとの距離を詰める。

「グァァァァァァァ!」
「全く、うるさいやつだなお前は」

雑は、恐れとも勇気ともつかないような、今まで感じたことの無い感覚を覚えていた。
モンスターは突如カマを振りかざし、凄まじいスピードで雑めがけて振り下ろした。

「危ない!」

エリオットが雑を守ろうと素早く駆け出したが間に合いそうも無い。
もうだめかと思ったその刹那、金属がぶつかり合う甲高い音が鳴り響いた。
雑のハンマーが悠然とモンスターの一撃を受け止めていたのだ。
片手でモンスターのカマを抑えて、雑は余裕の笑みを浮かべている。

「ガグググ、グ、ググ……!」
「俺様にちょっかいを出したことを、後悔させてやるからよ。今夜は楽しんでくれや!」
「(……すごい。なんてバカ力なんだ!!)」
「(そんな、こんなことって……!? あの人、凄いできるのかも!?)」

あいにくと雑は戦闘経験が皆無だった。
彼の初の戦闘が、まさに始まろうとしていた。
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2008/03/27 15:44 | Comments(0) | TrackBack() | ○滅びの巨人

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