PC:礫 メイ
NPC:ニャホニャホタマクロー キシェロ 雇われ冒険者
場所:ポポル
+++++++++++++++++++++++++++++++++++
その血走った目で見据えられると、射竦められる様で怖かった。
その瞬間、動けたのは礫とキシェロだけだった。
キシェロは血走った眼で礫を見据えると、脇目も振らずに突撃して来た。両手でダガーを正眼に構え、一気呵成に走り出したのだ。その切っ先に、迷いはなかった。礫は当然、その彼の動きを見定め、メイを庇う様に動いた。
「危ない! 礫!」
タマクローの制止の声に、礫は答えるように一つ頷いた。
礫は十分冷静だった。冷静に状況を判断し、対処できる姿勢を維持していた。だから突撃してきたキシェロを牽制することが出来のだ。礫はキシェロの手首を掴むと、反対の手でダガーを叩き落とした。乾いた金属音が鳴り響き、くるくると床を滑っていくダガー。キシェロがそれを目で追っている間に、礫はもう一動作起こしていた。利き腕でキシェロの胸倉を掴み、逆手で袖口を掴んで全身の動きでキシェロの体を持ち上げた。そのまま下に振り下ろす。一本背負いという、東洋の格闘技の一つである。投げられたキシェロは脳震盪を起こして気絶していた。
暫しの間、キシェロが気絶から回復するまで礫は待った。途中、雇われた冒険者は三々五々逃げ出していったが、後を追うことはしなかった。彼らが後で仕返しに来たとしてもなるようになるしかない。それに、雇い人は捕まえたわけだから彼等には何をする理由も無いだろう。彼等の脳裏には、賃金の支払いに対する不安が漂っているだろうけれど、それも自業自得というものだ。とはいえ、礫は何だか彼等が気の毒に思えてきた。これから生活費とかどうするんだろうとか勝手に想像を膨らませて、心の中で静かに「ごめんなさい」と呟いた。
礫は、床に落ちているダガーを拾い、キシェロに向き直った。
「キシェロさん、あなたは間違っている」
一拍おいて、続ける礫。
「あなたに、他人の幸せを踏みにじる権利なんて、無い。……あなたは、苦労してきたかもしれない。血の滲むような人生を歩んできたかもしれない。でも、だからこそ、他人を不幸に巻き込むことをしちゃいけないんだ。他人の幸せを妬むより、自分がどれだけ幸せに近付けるかを、努力して欲しい。もう一度、やり直して下さい。罪を認めて――」
「…………コロシテクレ」
「……?」
「お願いだ! コロシテクレ! 生きていても何もいいことなんて、ない。ただ、あるの
は苦痛のみだ。それならばいっそ、――」
「――駄目です。あなたは生きるべきだ。生きて罪を償うんです」
「…………イキル?」
キシェロはその言葉を吐き出すと、仰向けに横たわったまま顔を両の掌で覆った。男泣きに咽び泣くキシェロを、ただ見詰めるしかなかった。その声は確かに生きているものの慟哭で、希死念慮の欠片も見当たらなかった。「この人はもう、大丈夫だな」と心の中で呟いて、礫は不安げな顔で礫をじっと見詰める、メイの方へ向き直った。
視線と視線がぶつかった。この一件は、これでもう終わったのだと確信した。
「れっきー……」
涙を浮かべるメイ。不安と恐怖ではなく、喜びと安堵の涙だった。
「れっきーぃぃぃ!」
堰を切ったように泣き出すメイ。
それを宥め賺[すか]すように近付く礫。
「メイちゃん……良かった。無事だったんだ」
走り寄ろうとしてふと何かに気付く。
そうだ。彼女は今鳥篭の中に捕らわれているのだ。何とかして助け出さねばと、周囲を見渡した礫の目に飛び込んできたのは、慟哭を嗚咽に変えたキシェロだった。恐らく鍵は彼が持っているのだろう。礫はキシェロに声をかけた。
「キシェロさん。鳥篭の鍵は?」
嗚咽に咽びながら、人差し指で胸ポケットを指し示す。暫し胸ポケットを漁ると、一本の鍵が転がり出た。
メイを留めおく鳥籠の鍵。
試すまでも無く、それは合致した。
「れっきぃぃぃぃ!」
弾かれたように飛び出して、礫の首筋に抱きつくメイ。赤い瞳に大粒の涙を浮かべ、必死にしがみついている。「こわかったよー!」だの、「何でもっと早く来てくれなかったの!」だの、好き勝手に泣き喚いている。礫はそんなメイを優しく掌で包み込むと、優しい眼差しで見詰める。そして、静かに微笑んだ。
■□
今日はポポルで宿を取ろうということになって、その日の夜は“牡鹿の角”亭に枕を預けた。
その日の夜。刀の手入れに余念が無い礫が、口を開いた。
「メイちゃんの生まれ故郷って――妖精の森だっけ、どういうところ?」
それは、ほんの些細な日常会話。他に会話することが無いから、とりあえず口に出したというだけの、小さな小さな疑問。でも、その小さな疑問でさえ、メイにとっては嬉しかったようで、嬉々として話し出した。
「んっとねー、森の中にあるのよ。よく人間が迷い込んでくるの。森の中にあって、お花畑が広がっているの。いろんなお花が咲いているわ。種類もそうだけどいろんな色のお花が咲いているの。お城があって、女王様と王様がいるのよ。私の家もそこにあるの」
「楽しそうだね。だけど、メイちゃんと同じ大きさの国だと、僕は入れないのかな?」
「ううん。そのへんは大丈夫。迷い込んできた人間達、皆私たちと同じ大きさになってたから」
あっけらかんとして言うメイの笑顔に、不思議と不安が取り除かれるのだった。
■□
翌日。竹を割ったような晴天の空の下、礫はポポルのギルドを訪れた。
「れっきー、ここは?」
「ああ、メイちゃんはギルド初めてなんだっけ。ここはね、僕達みたいな自由人――冒険者って言うんだけど、そういう人達に仕事を斡旋するところなんだ。お金が底をついてきたから、そろそろ働こうと思ってね」
乾いた笑いを漏らす礫。手には一枚の依頼書が握られている。
依頼書
■小人さん、小人さん
小人さんがいたずらをして困っています。なんとかしてください。
報酬 銀貨五十枚。
依頼人 カイン・レーベンドルフ
+++++++++++++++++++++++++++++++++++
NPC:ニャホニャホタマクロー キシェロ 雇われ冒険者
場所:ポポル
+++++++++++++++++++++++++++++++++++
その血走った目で見据えられると、射竦められる様で怖かった。
その瞬間、動けたのは礫とキシェロだけだった。
キシェロは血走った眼で礫を見据えると、脇目も振らずに突撃して来た。両手でダガーを正眼に構え、一気呵成に走り出したのだ。その切っ先に、迷いはなかった。礫は当然、その彼の動きを見定め、メイを庇う様に動いた。
「危ない! 礫!」
タマクローの制止の声に、礫は答えるように一つ頷いた。
礫は十分冷静だった。冷静に状況を判断し、対処できる姿勢を維持していた。だから突撃してきたキシェロを牽制することが出来のだ。礫はキシェロの手首を掴むと、反対の手でダガーを叩き落とした。乾いた金属音が鳴り響き、くるくると床を滑っていくダガー。キシェロがそれを目で追っている間に、礫はもう一動作起こしていた。利き腕でキシェロの胸倉を掴み、逆手で袖口を掴んで全身の動きでキシェロの体を持ち上げた。そのまま下に振り下ろす。一本背負いという、東洋の格闘技の一つである。投げられたキシェロは脳震盪を起こして気絶していた。
暫しの間、キシェロが気絶から回復するまで礫は待った。途中、雇われた冒険者は三々五々逃げ出していったが、後を追うことはしなかった。彼らが後で仕返しに来たとしてもなるようになるしかない。それに、雇い人は捕まえたわけだから彼等には何をする理由も無いだろう。彼等の脳裏には、賃金の支払いに対する不安が漂っているだろうけれど、それも自業自得というものだ。とはいえ、礫は何だか彼等が気の毒に思えてきた。これから生活費とかどうするんだろうとか勝手に想像を膨らませて、心の中で静かに「ごめんなさい」と呟いた。
礫は、床に落ちているダガーを拾い、キシェロに向き直った。
「キシェロさん、あなたは間違っている」
一拍おいて、続ける礫。
「あなたに、他人の幸せを踏みにじる権利なんて、無い。……あなたは、苦労してきたかもしれない。血の滲むような人生を歩んできたかもしれない。でも、だからこそ、他人を不幸に巻き込むことをしちゃいけないんだ。他人の幸せを妬むより、自分がどれだけ幸せに近付けるかを、努力して欲しい。もう一度、やり直して下さい。罪を認めて――」
「…………コロシテクレ」
「……?」
「お願いだ! コロシテクレ! 生きていても何もいいことなんて、ない。ただ、あるの
は苦痛のみだ。それならばいっそ、――」
「――駄目です。あなたは生きるべきだ。生きて罪を償うんです」
「…………イキル?」
キシェロはその言葉を吐き出すと、仰向けに横たわったまま顔を両の掌で覆った。男泣きに咽び泣くキシェロを、ただ見詰めるしかなかった。その声は確かに生きているものの慟哭で、希死念慮の欠片も見当たらなかった。「この人はもう、大丈夫だな」と心の中で呟いて、礫は不安げな顔で礫をじっと見詰める、メイの方へ向き直った。
視線と視線がぶつかった。この一件は、これでもう終わったのだと確信した。
「れっきー……」
涙を浮かべるメイ。不安と恐怖ではなく、喜びと安堵の涙だった。
「れっきーぃぃぃ!」
堰を切ったように泣き出すメイ。
それを宥め賺[すか]すように近付く礫。
「メイちゃん……良かった。無事だったんだ」
走り寄ろうとしてふと何かに気付く。
そうだ。彼女は今鳥篭の中に捕らわれているのだ。何とかして助け出さねばと、周囲を見渡した礫の目に飛び込んできたのは、慟哭を嗚咽に変えたキシェロだった。恐らく鍵は彼が持っているのだろう。礫はキシェロに声をかけた。
「キシェロさん。鳥篭の鍵は?」
嗚咽に咽びながら、人差し指で胸ポケットを指し示す。暫し胸ポケットを漁ると、一本の鍵が転がり出た。
メイを留めおく鳥籠の鍵。
試すまでも無く、それは合致した。
「れっきぃぃぃぃ!」
弾かれたように飛び出して、礫の首筋に抱きつくメイ。赤い瞳に大粒の涙を浮かべ、必死にしがみついている。「こわかったよー!」だの、「何でもっと早く来てくれなかったの!」だの、好き勝手に泣き喚いている。礫はそんなメイを優しく掌で包み込むと、優しい眼差しで見詰める。そして、静かに微笑んだ。
■□
今日はポポルで宿を取ろうということになって、その日の夜は“牡鹿の角”亭に枕を預けた。
その日の夜。刀の手入れに余念が無い礫が、口を開いた。
「メイちゃんの生まれ故郷って――妖精の森だっけ、どういうところ?」
それは、ほんの些細な日常会話。他に会話することが無いから、とりあえず口に出したというだけの、小さな小さな疑問。でも、その小さな疑問でさえ、メイにとっては嬉しかったようで、嬉々として話し出した。
「んっとねー、森の中にあるのよ。よく人間が迷い込んでくるの。森の中にあって、お花畑が広がっているの。いろんなお花が咲いているわ。種類もそうだけどいろんな色のお花が咲いているの。お城があって、女王様と王様がいるのよ。私の家もそこにあるの」
「楽しそうだね。だけど、メイちゃんと同じ大きさの国だと、僕は入れないのかな?」
「ううん。そのへんは大丈夫。迷い込んできた人間達、皆私たちと同じ大きさになってたから」
あっけらかんとして言うメイの笑顔に、不思議と不安が取り除かれるのだった。
■□
翌日。竹を割ったような晴天の空の下、礫はポポルのギルドを訪れた。
「れっきー、ここは?」
「ああ、メイちゃんはギルド初めてなんだっけ。ここはね、僕達みたいな自由人――冒険者って言うんだけど、そういう人達に仕事を斡旋するところなんだ。お金が底をついてきたから、そろそろ働こうと思ってね」
乾いた笑いを漏らす礫。手には一枚の依頼書が握られている。
依頼書
■小人さん、小人さん
小人さんがいたずらをして困っています。なんとかしてください。
報酬 銀貨五十枚。
依頼人 カイン・レーベンドルフ
+++++++++++++++++++++++++++++++++++
PR
トラックバック
トラックバックURL: