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2025/03/10 12:18 |
星への距離 19/スーシャ(周防松)
PC:スーシャ  ロンシュタット
NPC:バルデラス 自警団員 団長 
場所:セーラムの街 宿屋

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「団長、今までどこへ行っていたんです? 探したんですよ」

団員は、つっけんどんな物言いをした。
彼の言葉には、本音が半分、警戒が半分含まれている。

「どこへ?」

団員の言葉に、団長は眉をしかめる。

「決まっている。街の様子が妙だから見回りをしていたんだ。そうしたらどうだ、何
でも『悪魔が出た』とかいうじゃないか。宿に避難しているというから来てみたんだ
が――」

そこまで言って、団長は団員越しに中の様子をうかがう。

「どうやら、ひどいパニックに陥っている様子もないな。安心したよ」
「ええ、今ここにいる人達は全員、まだ悪魔の姿すら見かけてませんから」

表情を変えず、団員は答える。

「話は変わるが、街の人々を避難させる前にせめて報告が欲しかったところだな。私
は曲がりなりにも『団長』だ。団員がそれぞれの意思でそれぞれ動いていたら統率が
取れなくなるよ」
「……すいません」

「ところで……いつまで私は通せんぼを食らっていなければならないのかな?」

団員は、表情を引き締めた。
わずかに口元が引きつるのを感じながら。


団員と団長のやり取りは、スーシャも聞いていた。
スーシャも、団長の言葉にドキリとした。

どうしてか、団長が怖い。怖くてたまらない。
近くに来て欲しくない。
以前はこんなことは一切なかったのに。
立派な人だと思って、尊敬もしていたのに。

「団長、外の見回りは終わったんですか?」
「終わったよ。宿へ来る前に終わらせておこうと思ってね」
「街の中に、他に人はいなかったんですか?」
「いないよ。念の為にあちこちの家をのぞいてみたけれど、誰も残っていなかった」

「おい、どうしたんだよお前」

その様子を見かねてか、他の団員や村人達が集まり出す。

「うだうだやってないで、早く入ってもらえよ」
「団長がいてくれたら一番心強いじゃないか」
「そうだよ、団長はこの街で一番剣の腕が立つ人なんだから」
「団長に任せておけば大丈夫だって」
「見張ってもらったら、百人力さね」

大勢に詰め寄られて、団員は言葉に詰まった。
団長のことを信用できないから、とはっきり言えたらどんなに良いだろう。
だが、団員意外の村人が団長を信用している状況で、それを口にできるほど、彼は肝
が据わっていない。
せめて確証があれば良いのに、と団員は思った。
確証がない状況で「信用できない」なんて言ったところで、子供じみた好き嫌い程度
にしか思われないだろう。

団員は、スーシャをちらりと見た。
スーシャの顔には、ありありと不安の色が浮かんでいた。

「――どうぞ」

団員は奥へと身を引っ込めた。

「見慣れた人間だからといって警戒を怠らないのは良い事だ。気にしなくていい」

団長は笑い、ぽす、と団員の胸を軽く叩いて大股に入っていく。

スーシャは、椅子から立ち上がった。
宿屋の中にある酒場は、さして広くもないが、その中で、団長から最長距離を保とう
とする。
右に来れば左に、左に来れば右に。
まるで鬼ごっこのようである。
あるいは、猫に追い詰められたネズミ。

「スーシャ。どうも落ちつかないようだが、大丈夫か?」

団長に声をかけられ、スーシャはビクッと震える。

「い、いえ……あの、ちょっと、トイレに……行きたいなって……」

そうごまかしてから、スーシャはしまったと思った。
トイレは団長の立っている方向にある。
行こうとするなら、どうしても団長のそばを通らなくてはならない。

「そうか、早く行っておいた方がいい」
「何かあったら大変だ、俺、ついて行ってやるよ」

団員がすかさず申し出てくれたので、スーシャはちょっと安心した。

「スーシャ」

近くへ寄ったところで声をかけられ、スーシャはまたビクッと震える。

「息子がつまらないかんしゃくを起こして、すまなかった。どこか傷を負っていない
か?」
「いえ、大丈夫、です……」
「そうか、それなら良かった」

スーシャはぺコリと頭を下げ、素早く団長の脇を通り抜けた。

……トイレのある方向へと廊下を曲がるものの、別にトイレに用事はなかったので、
二人は物陰に入ったところで立ち止まる。

「スーシャちゃん、二階の部屋に泊まってたよな? あの部屋にでも避難してた方が
いい。入り口には俺が見張りに立つよ」

ひそひそ声で団員が言う。
スーシャはおろおろと見上げた。

「で、でも」
「誰かが来たら『具合が悪くなった』って言ってごまかしてやるから、な。窓とドア
にはカギをかけておくんだぞ」

そう言う団員のほうが、不安と緊張でガチガチに固まっていた。

「ごめんな、俺、これぐらいしかしてやれる事なくって……本当は団長を入れたくな
かったんだけど……ごめんな」

どう答えたら良いのかわからなくて、スーシャはひたすらおろおろするばかりだっ
た。
私のことを気遣ってくれるこの人に、お礼を言わなくちゃ。
ただそれだけを考えていた。

「そんなこと、ないです……あの……気遣ってくれて、本当に、ありがとうございま
す……」

ヘタくそな感謝の言葉を並べ、スーシャは部屋に入ると、窓とドアにカギをかけた。


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2008/03/27 13:39 | Comments(0) | TrackBack() | ○星への距離

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