滅びの巨人 第9話 : 雑とサラ、そしてエリオット
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PC : 雑
NPC : サラ、エリオット
場所 : ポポル郊外のクレーター
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*あらすじ*
クレーターにおびき寄せられた雑は、突如現れたカマキリのモンスターと戦うことに。魔法学院の生徒、サラとエリオットが駆けつけるも、雑は二人の応援を拒み、実力を試すことに。サラとエリオットは、雑が秘める、底知れない炎の力を垣間見ることになる。そして二人は、その力に嫉妬を覚える。
武者震いが襲ってきた。目の前にいる、カマキリの化け物、これが雑の最初の相手だ。いかなる光も拒むかのように黒い体に、赤い目が鈍く光る。エリオットとサラは、この怪物に見覚えがあった。ポポル近辺に生息する、モンスターと似ていたのだ。けれども、あまりに大きくて、禍々しかった。なによりも、体中からにじむ邪悪なオーラが、下級モンスターとかけ離れていた。
「ねえ、エリオット。これって」
「ああ、講義で習った。下級モンスターのサイザーのはずだ」
エリオットはソードを握り締めた。
「だが、こいつは違う。下級モンスターに違いないが、こんな大型じゃないはずだ」
「お二人さんよ」
雑が話しかけてきた。
「何か知ってるらしいが、ちょいと引っ込んでくんな。ちょっくら腕試しすっからよ」
そういって雑はエリオットたちにウインクし、ニッと笑った。
「どうする? エリオット」
「ここは任せることにしよう。やつは使えそうだ」
エリオットたちはだまってその場を見守ることにした。にわかに沈黙が流れ、シャキシャキという、謎の鳴き声がする。雑はまるで、修羅場をくぐってきた戦士のごとく、どっしりと構えている。モンスターがおもむろに鎌を振りかざすと、雑はすかさず反応した。せい! と気合を発して、横っ腹にハンマーの鉄槌を加えたのだ。鍛え抜かれた筋肉が繰り出す一撃はすさまじく、空気がはじけたのではないかと感じるほど音がした。しこたま腹を打たれたモンスターは吹っ飛ばされて、樹木が横倒しになった。
「どうでぇ!」
エリオットとサラは目をまんまるくして驚いてしまった。
「すごい!」
「なんてヤツだ……。力だけは一流だな……」
ところがこの強烈な一撃にも関わらず、怪物は起き上がった。片方の鎌を杖代わりにしてはいるものの、まだまだ余力があるようだ。
「もういっぺんお見舞いしてやるぜ」
雑はハンマーを担ぎ、突進した。するとモンスターの赤い目が一際赤くなった。
「あぶない!」
サラが叫んだと同時に、雑は大きくジャンプした。怪物の眼から光線が出たところを飛び越え、雑は空中で体勢を整えた。みるみるうちにハンマーが炎を帯び、キャンプファイアーと見まごうばかりに燃え盛った。ハンマーを天高く掲げ、脳天に叩きつけた。
「くらえ!」
怪物は地震かと思うほど揺れたと思った瞬間、地獄のような熱さを感じた。視界がみるみるうちに狭くなり、闘争本能が薄れ、倒れこんだ。怪物は煙のようになって消えてしまい、後にはなぎ倒された樹だけが残った。
雑は見事に着地を決めると、満面の笑みを浮かべた。
「やったぜ」
ハンマーを肩に持ち直して、エリオットたちに近づいていった。
「おどろいたわ」
「お前、なかなかやるな。ずいぶんと荒削りだが」
「どうも。にしても、こいつはなんなんだ?」
「わからん」
エリオットが答えた。
「だが、村人に危害を加えようとしているのは確かだ」
そういって、ポポルの居住区の方角をさした。
「なるほどね。ところで、お前さんたちは?」
「そうね、自己紹介がまだだたわね」
サラが変わって、自己紹介をした。自分達は魔法学院から派遣された者で、ポポルで起きている、一連の事件を追跡していると話た。
「あなたは?」
「俺か? 俺は雑だ。鍛冶屋なんだが、修行のために旅してる。武器が壊れたら、まかせてくんな」
親指でハンマーをさして、ニカっと笑った。口元には花崗岩のように、真っ白な歯が並んでいた。
「そいつは頼もしい」
エリオットはぎこちなく笑った。
「(利用しやすそうな男だな。ま、いい子ちゃんぶっておくに越したことはなかろう。せいぜい使わせてもらおう)」
エリオットがそう考えた瞬間、雑は脳に不快感を覚えた。相手がいかがわしい考えをすると、いつもこうなるのだ。こういうときは、あからさまに警戒せず、様子をみるのが一番だ。握手をもとめるエリオットに、釈然としない思いを抱きつつも、応じることにした。
「私はサラ。よろしくね」
「おう!」
「(さっきの炎、なかなかのものだったわ。ま、私ほどじゃないけどね。)」
雑は額を押さえた。
「あら、どうかしたの?」
「いや、悪い。オレ、偏頭痛もちなんだ。そんなことより、よろしくな」
雑はすか手をさしだした。魔法学院といったら、魔法教育機関の頂点だ。ココロを読めないとも限らない。実際のところ、ココロを読む能力には雑の才能のほうが数倍優れていたのだが、訓練を受けていない雑には見抜く目がなかった。
「そうですか。お大事になさってください。よければ回復してさしあげますけど」
手を握った瞬間、こんな思考が流れてきた。
「(あら強がっちゃって。どうせさっきのモンスターにやられちゃったんでしょ。意外とたいしたヤツじゃないのかしらね。まあそんなこと、どうだっていいけどね。私にくらべたらカスみたいなもんだし)」
「いや、大丈夫だ。ちょっくら顔を洗えばすぐ治るさ。んじゃ、お疲れ」
雑は精一杯の笑顔で答えた。魔法学院の人間は、こんなものなのか? 忌まわしい考えを必死にふるって、荷物を担ぎ、その場を去った。初勝利の余韻を、台無しにされた気分だった。
「このままじゃ終われねえよな」
雑は夜空を見上げた。夏の星座が煌々と照り、数え切れない星が瞬いている。怪物の前に現れた巨大な影は、この空のどこかから現れたのか?
「この村で何が起きてるか、俺さまの目で確かめてやる」
雑はこぶしを握り締めて、夜道を歩いていった。
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