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2024/05/17 03:51 |
BLUE MOMENT -わなとび- ♯4/マシュー(熊猫)
キャスト:リウッツィ・エルガ・マシュー
NPC:ジラルド
場所:コールベル/エランド公園

――――――――――――――――

すてきな夕餉
いじわるメイドがやってきた
しょっぱいワインに甘い肉
むせても飲み込む水はない
なにもかもが気に入らない
あぁなんてすてきな夕餉!

・・・★・・・

相手が女(それも若い)と知るや否や、店主は持っていた縄の束を
ジラルドが抱えていた木箱の上に放り出し、声のするほうへ
一目散に駆けていった。

(あの人あんなに素早く動けたんだ…)

普段の隙だらけの姿からはおよそ想像できない行動に、
しばしぽかんとして――とりあえず追い掛ける。

木箱を抱えて走ることはまず無理で、しかもマシューが置いていった
縄の束が衝撃で思いの外(ほか)跳ねる。

それを落とさないようにあごの先で押さえ付けるようにしながら
どうにか早足で辿り着くと、さきほどの美女とはまた別に、
もう一人女がいた。

女は噴水のふちに腰掛けさせられ、やや困惑するように美女と
マシューを見ていたが、ジラルドが姿を見せるとさらに困ったように
身じろぎした。
野次馬かなにかかと思われたらしい。

「ジュンちゃん、彼女、転んじゃったみたいなんよ」

不必要なまでに低くしゃがみこんで女の脚を見ていたマシューが、
振り返ってきた。

「えっ」

あんたそれほぼ痴漢ですよと一言言ってやりたかったが、
踏みとどまって女に目を移す。めくられたズボンのすその下、
膝には血がにじんで痛々しく、思わず声をかける。

「大丈夫ですか?」
「ええ、まぁ」

いきなり複数の他人に囲まれて、ばつが悪そうに彼女は答えてうなずいた。

「気分が悪いとか」
「いえ、勝手につまづいただけで。なんかこう…縄みたいなのに
引っ掛かったというか」

さっとマシューを見る。彼は立ち上がったかと思えば、ごく自然に
女の隣に腰掛けなおした所だった。そこでようやくこちらの視線に気付き、
頭の上に疑問符を浮かべてこちらを見返してきた。

「ん?」
「なんかしてませんよね」
「しとらんてー」

朗らかに笑いながら一蹴する。確かにマシューの言動は普通ではないが、
見知らぬ他人を罠にかけて怪我をさせるような人間ではない。
が、その態度にあまりにも重みがなさすぎて癪に障った。

「えと、寄るところがあるのでもう行きますね。ありがとうございました」

心配されて悪い気はしないだろうが、居心地はさほどよくないようだった。
ズボンのすそをむりやりなおして立ち上がり、ぺこりとお辞儀をして、
女は立ち去って――
2、3歩歩いたところで振り返り、ポケットから一枚の紙を取り出し広げながら
戻ってきた。簡単な地図の書かれたメモ書きのようだ。

「すみません、ここに行くにはこの道でいいんですよね」
「えっと…」

答えたのは美女のほうだったが、どう見ても地元の人間ではなかった。
案の定、示されたメモを見て困惑している。抱かれている猫は
ふんふんと紙切れのはじの匂いを嗅ぐそぶりを見せたが、
すぐに興味をなくして女の腕の中に頭を突っ込んでしまう。

「うん、あっとる」

と、マシューが口を挟んだ。ジラルドもつられて女の手元を覗き込む。
行き先は図書館だった。
少なくともジラルドには無縁の場所だったが、マシューは心得たように頷く。

そこはコールベルでも有数の大きい図書館で、所蔵する資料が膨大なために
諸外国からも利用者があるほどだが、それ故に利用にあたって多くの
制約がかけられたり、申請も必要になってくるため、一般人にとって
身近な施設とは言い難い。

「でもこの道だとちょいと迷うかもしれんなぁ」
「そうなんですか?」
「うん、船を使ったほうがいい。そんなに歩かなくてもいいし」

マシューが言う「あっち」とは、彼が経営している店がある商店街を
通るルートのことらしい。確かに水路が巡るこの街では、船を使うと
徒歩よりずっと短い時間で目的地にたどり着けたりする。
足を怪我しているなら確かにそちらのほうが効率がいい。

「へぇ、船?」

興味深そうに、猫を抱いている女が口を挟んだ。ジラルドはできるだけ
視線が胸元に集中しないように注意を払いながら、やや遠目で頷いた。

「渡し船ですよ。このあたりじゃ道の長さより水路の長さのほうが
長いっていわれるくらいだから、ほとんどの人が使っているんです」
「あっちに船着場があるんよ。どうせ通り道だし、うちに寄って
絆創膏のひとつでも貼って行けばいい」

(それが目的か)

意気揚々とぺらぺら喋っている店主の横顔を半眼で睨みつけると、
ジラルドはため息をついた。

「えーと…」

案の定、怪我をした女は返答に困っていた。ここコールベルでは
観光客を標的にした犯罪が頻発している。それを知らないわけでは
ないのだろう。場慣れしたマシューの様子は、その警戒心を解くどころか
さらに強める要素でしかない。

「面白そう。ついていっていいかしら」

意外なところから答えが返ってきた。軽く驚いて視線を声の主――
異国の服を着た女に転じる。意表をつかれたのであらぬ所を見てしまうが、
それを察したような緋色の猫が威嚇するように毛を逆立てたので、
慌てて目をそらす。

「勿論」

にこりと笑うマシュー。それからさっと噴水のふちに腰掛ける女に
目をやり、

「お姉さんはどうする?」

と訊いた。女は順々に三人を見てから、お願いします、とまるで
人事のように短く答えた。
――――――――――――――――
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2009/07/25 02:53 | Comments(0) | TrackBack() | ○BLUE MOMENT -わなとび-

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