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2024/05/16 14:31 |
滅びの巨人―3 倒れた青年/ベン&テッツ(月草)
PC: ベン テッツ 雑
NPC: プレオバンズ教授 セイル ルシーダ
場所:ポポルの森

__________________
前回のつづき
 家に鳴り響いたテッツの声に驚いたベンは、急いで集合場所へと
 向かった。ところが、時間はとっくに過ぎてしまい、彼はテッツの
 特別授業なるものを受けるハメに……
 「こりゃあ! さっさと走らんか!」
 テッツの叱声があたりにこだました。
__________________

 テッツの特別授業は容赦というものを知らなかった。

 腕立てやら腹筋やらで体力を消耗した後、彼らはゴミ袋とごみバサミを渡された。そこま
ではよかったのだが、テッツはどこからともなく木刀を引っ張り出してきた。

木刀を装備したテッツに町の中を追い掛け回されながら、森や町の中を追い掛け回された。
しかもゴミを発見すればそれをはさむために減速しなければならず、テッツに追いつかれる
前にもとのスピードまで加速しなければならない。
真夏の暑さもあいまって、普通のランニングの倍以上疲れた。

「はあ、はあ。せんせーい! 走るの……は町の……中じゃありませんでしたっけ」

 生徒の一人が悲鳴を上げた。一周は町の中であるはずなのに、森の中などを走ってい
る。あきらかに距離が長い。テッツはすかさず答えた。

「何を言うとるか、今日は森の掃除じゃろうが。町と森の両方を走るに決まっておろう」
「ええー!」

 テッツの発言に、遅刻グループが落胆の声をあげた。その声は、見事なタイミングで一致
した。

「つべこべ言わずに走らんかぁ!」

 炎天下の中でへばる若人と、恐ろしく元気なご老人との組み合わせは、はたからみるとな
んとも平和な光景であった。当事者の若者達にとっては、地獄の一時であったが。







 結局のところ、生徒達の疲労があまりにひどいかったので、小休止をはさむことになっ
た。
地べたにすわってぐったりしている彼らは、朝食がリバースせんばかりであった。

最年長のテッツばかりが、まだまだ元気そうである。

このジイさん、ほんとうに人間なのか?遅刻グループのだれもがそう思った。

「なんじゃあ、死にそうな面なんぞしよって。午後の部が思いやられるのぉ」

 「午後の部」、この言葉を聞いた生徒に戦慄が走った。

「なにをそんなに驚く? とうぜんじゃろうて、わっはっはっはっは!」

 遅刻した彼らはもはや、死刑宣告を受けたごとくであった。

豪快な笑い声を立てるテッツの後ろから、長身の老人が近づいてきた。紺色のマントに、銀
の刺繍で何かの紋様が書いてあった。しわが深く刻まれ、頭髪はほとんど白髪になってい
る。


どうやら魔法学院の教授らしい。

「まあまあ、テッツ。彼らも十分反省しているようだし、ここらで一つ勘弁してやらんか?」
「ん? おお、バンズではないか」

 現れた老人に、一同の注目が寄せられる。
しかしテッツと違ってこの老人の目つきは、周囲を和ませるような優しい空気があった。
 老人は地べたに座って休むベンたちに、自己紹介をした。

「ん、わたしかい? わたしの名はプレオバンズ。ソフィニアの魔法学院かやってきた者だ。
テッツ教授とは昔ながらの友人でね、ポポルの遺跡の研究の手伝いをしてもらっていたの
だよ」
「なあに、わしが勝手に休みを利用してついてきただけじゃ。気にせんでええ」

 プレオバンズと名乗ったこの老人は、テッツの友人でもあり、仕事仲間らしい。
 会話の雰囲気から、仲のいい間柄であることが見て取れた。

「ぬしの言うことじゃ。今日はこれぐらいにしとこうかの」
「本当ですか!?」

 遅刻した生徒たちに歓声があがった。

「はっはっは。まだまだ元気でよかったよ。さてテッツ、わたしらの昼食の用意ができてお
る。そろそろいくか?」
「そうか、ちょうど腹の虫がなってたころでな。カッカッカ! ガキども、ご苦労だったの。あと
は好きにしてよいぞ」

 と言い残してテッツとプレオバンズは、にぎわうテントへ向かっていった。プレオバンズは
帰り際に、遅刻した生徒に人柄のよさそうなスマイルをして、テッツの後を追っていった。

「助かったあ」

 ベンと一緒に追い掛け回された仲間が声をあげた。

「ほんとほんと。あの先生のおかげだね」

ベンが答えた。こういう状況になると、普段あまり会話をしない間柄でも、自然と会話が弾ん
だ。

わきあいあいと話しているところへ、ベンと反対側に座っていた少年が割って入ってきた。

「へん、なんだこれぐらい。おいベン。まさかもうへばったのか?」

その口調は、ベンを快く思っていない様子であった。

「ああ、セイル。すごいね、君は平気だったの?」
「決まってんだろ。こんくらい楽勝だぜ……ゲホぅ、ゲホッ!」
「だ、大丈夫?」

話しかけてきた少年はセイルという名前らしい。チェックの服に厚手の皮の上着を着て、髪
を額で左右に分け、やや長い茶髪を後ろで結わえている。背丈はベンよりやや高いようだ。

強がってベンを挑発するつもりが、かえって心配されてしまっている。

「大丈夫に決まって……グホゥ! ゲホッ、ゲホッ! うええ……」

セイルは必死に息を整えようとするが、一向に整わない。

実は彼は、ランニングのときに始めのうちは先頭を走っていた。

ところがそれは、彼の見栄であったため、途中から最後尾列にまで回っていた。かなり無理
をして走っていたらしく、途中から彼は鼻水やらよだれやらを吹き散らし始めた。

そのときのセイルの表情たるやすさまじく、道行く人は吹き出してしまうほどであった。

「ゲホッ! ゲホッ!」
「ねぇ、セイル。水をもってこようか?」
「余計なお世話だ!」

 心配したベンがセイルに声をかけたそのとき、かん高い声が聞こえてきた。

「おーい、ベン。ここにいたのー?」

遠くからベンたちと同い年くらいの女の子が駆け寄ってきた。
彼女の髪は混じりけのない金色で、長髪をポニーテールにしてまとめている。清楚な雰囲
気が漂よう彼女は、この地区に住む男軍団どもの憧れのマトであった。

「ルシーダ。おーい、こっちこっち」
「何、ルシーダだって!? ちょっとまってくれ……ゲホ! ゲホ!」

 ルシーダを確認した瞬間、セイルは死ぬ気で表情を整えた。
 
 彼女が到着するまでの間、何度か咳き込んだが、顔を真っ赤にしてガマンした。

「なあんだ、セイルも一緒だったの?」
「悪いかよ。ゲホッ、ゲホッ!」

 セイルは決まり悪そうな様子で言った。

「あらあら、大分まいちゃったみたいね。もうちょっと体力つけたほうがいいんじゃないの。あ
なたもベンを見習ったら?」
 
よく見てみると、ベンはいつの間にか呼吸も整っていて、咳一つしていない。すっかり回復し
たらしかった。いや、もしかすると、最初から一度も息なんて乱れていなかったかもしれな
い。

「いわれなくったって俺はいつも鍛えてるよ! おい、ベン! あとで覚えてろよ」

 セイルはそう言って、憤然と立ち上がった。そのまま森の奥へと続く道を、一人で歩いてい
った。

「あ、ちょっとセイル! どこへいくのさ?」
「特訓だよ特訓」

 セイルが振り向くと、いつの間にかルシーダがベンと距離を詰めているのが見えた。

「お昼はどうするのさ?」
「うるさい! そんなもんいるかあ! ……ゲホッ、ゲホッ、グホゥ」

 無理して大きな声を出してしまい、セイルは一際盛大に咳き込んだ。大丈夫かなあ、と、ベ
ンは心配する気持ちをもらした。

「ほっとけばいいのよ、あんなヤツ。どうせあとで戻ってくるんだから」
「う、うん。そうだけど……」

 ベンがなんとも言いようのないもやもやした気分でいると、ルシーダが声をあげた。

「ねえ、ベン。あれってなにかしら」
「え?」

 ルシーダはセイルが森の中へ入っていった方向と、90度東の方角を指差した。見ると、
白い煙がもくもくと立ち上っているのが確認できた。

「ちょっと気にならない?」
「そうだね、僕ちょっと行ってくるよ」

 言うが早いか、ベンは煙が立ちのぼる方向へ駆け出し、あっという間に見えなくなってしま
った。

「あ、ちょっと。ベン! ……もう、まだあんなに元気だったのね。疲れたフリでもしてたのか
しら?」






時刻はちょうど正午を回ったころ。

ベンは木の間をくぐり、草を踏み分けて走っていた。そろそろ煙が出ている場所へ到着して
もいいころだ。

 それにしても、森の様子がおかしい。前におとずれたときは、まるで自分を包み込んでくれ
るような暖かい空気が感じられたのに、今日はそれが全くない。

むしろ、自分を突き刺すような感覚さえ覚えた。

「なんだろ、あれ」

 そうこうしているうちに、煙の根元に到着した。煙は墨のように真っ黒コゲになった木が発
生源であった。木には葉の一枚も残らず焼き尽くされ、見事に焼き尽くされたような具合だ。

 どうしてこんな木がここに? この木も不自然なものだったが、その根元にあるものは、さ
らに奇怪だった。

見ると大きなバッグが転がっている。しかもなんと手と足が生えているではないか。

「え、うそぉ!?」

 あまりの事態に困惑するベン。手と足が生えているバッグの異様な存在感に、彼はたじろ
いだ。しかしそんなことがありえるのだろうか?

「いや、違う。だれか倒れているんだ!」

 冷静になって考えれば、当たり前のことだった。こうしている場合ではない、一刻も早く助
けてあげなくては。ベンは倒れている人物のもとへ駆け寄った。

「大丈夫ですか!?」

 声をかけてみても返事がない。とりあえずこの大きなバッグをどかさなければ。ベンはとっ
さにバッグをはずすことを試みたが、そのあまりの重量に全く動かすことができなかった。

 足腰に力を入れて、全力で動かそうとするも、ピクリともしない。このバッグの中には、何
が入っているのだろう? とてつもない重量であった。

「だ、だめだ。僕一人の力じゃ動かせないや。はやくみんなのところへ……おや、あれは?」

 助けを求めに戻ろうとした彼の目に、あるものが飛び込んできた。

 コゲコゲになった木の根元に、見覚えのある箱があったのだ。その箱は開けられていて、
中身が確認できた。

中には、何枚かの下手な絵や、どんぐりやら泥ダンゴといったものが詰め込まれている。

「あれって、たしか僕たちのタイムカプセル。そっか、ここにあったんだ」

 4歳前後のときだろうか、初等部の卒業式のときグループに分かれて作ったタイムカプセ
ルであった。セイルとルシーダと一緒に詰め込んだまま、どこに置いたか忘れてしまってい
たのだ。

 そういえば、自分が何を入れたのか全く記憶にない。ほんのちょっとだけ、のぞいてみるこ
とにした。

「この絵、僕の絵だよね?」

 みると、小さいころの自分ながらなんとも稚拙な絵が数枚入っている。このころから星空
の絵を書いていたのかと、変に感心してしまった。

 部屋を掃除していて懐かしい写真を見つけたときのように、ベンはそれらの絵を少しだけ
見てみることにした。

「あはは、だめだなぁ。こんな下手っぴじゃ。どこの方角を書いているんだろう」

 そこには、彼がまるで見たこともないような天体が描かれていた。

 渦を巻く巨大な雲の固まりが衝突しあう様子や、不規則にちりばめられた輝く星々の集
団、それらのなかにポツポツと存在する、真っ黒い空白のようなもの。一点に向けて吸い込
まれるように歪んだ空間。

「おかしいな、僕ってこんな絵をかいたっけ?」

 どの絵にも、描いた記憶がなかった。よく見てみると、見慣れない空が書かれているだけ
で、ちゃんと書き込まれている。それどころか、かなりの力作だ。

 これだけのものを書けば、覚えていてもいいはずなのに、なぜ?

 不思議におもいつつ、次の作品に目をやった。その光景が、彼に衝撃を与えた。

「あ!? この子は!?」

 それは、見知らぬ少年と幼いころの自分と思しき子供が手をつないで、星空をとんでいる
絵であった。

少年には透き通った羽が生えていて、あわい輝きを放つ衣を纏っている。耳には、どこかで
見たような青いピアスをつけている。二人はにっこりと笑って、とても仲がいいのが見て取れ
た。

 遠くには少年と同じような格好をした人物たちが、まるで見守ってくれるかのように立ち並
んでいた。

 ベンは紛れもなく彼を知っていた。いつも夢の中に出てくる、彼だと、ベンは確信が持て
た。

「まさか、こんなことって……」

 絵を見た瞬間、ベンはなんともいえない感覚に見舞われた。それはまるで古い友達に会
えたような嬉しさと懐かしさ、そして大きな役目を任されたときの重圧。それらがまとめてや
ってきたような、そういったものだった。

 ベンはひとまずこの絵を持ち帰ることにした。うちに帰ったら、部屋でゆっくり考えよう。い
まは、まだ思い出しちゃいけない。なぜかそんな気がしてならなかった。

「ごめんなさい、旅人さん。すぐに助けをよんできます」

 ベンは絵を小さく折りたたんでポケットにしまうと、掃除場所まで助けを呼びに走り出した。







「ふぅ、これくらいでいいだろう。なぁに、ただの栄養失調と過労さ。しばらく休ませておけば
すぐによくなる」

「そうでしたか。よかった」

「ベン、お手柄だったわね」

 どうやら彼は命に別城内らしい。心配そうに見守っていたベンの顔がほころんだ。喜ぶベ
ンの顔を見たルシーダも、にこやかな表情を浮かべた。

 黒コゲになった木のもとには、プレオバンズ・テッツの両教授を始め、ベンたちが通う学校
の先生たちが集まっている。そこには、ルシーダの姿もあった。

倒れていた人物の荷物はかなりの重さで、大人が十人がかりでやっとどかすことができ
た。

 出てきた人物はかなり若く、二十代前半の青年であった。

魔法学院の教授二人の手によって治療が施され、いまでは顔色がよくなっている。若者の
治療が一段楽したところで、教授二人は所感を述べた。

「こやつ、そうとう無理しちょるの。しばらく水しか飲んでおらんと見た。あとは、消化できない
草くらいか」

「わたしも同感だ。テッツが治療薬をもっててくれて助かったよ。私は回復魔法はどうにも苦
手だったからね。お嬢さん、君の回復魔法にも感謝しなくてはならないね」

 側で様子を見守っていたルシーダは、ほめられて頬を赤らめた。

「いえ、私なんてまだまだですよ。そちらの先生のお薬がなかったら、こんな具合にはいき
ませんでした」

「はっはっは! かしこまらんでよい。ワシの薬はまだまだ実験段階での、まだまだ効果の
ほどは未確認なんじゃ。むしろこやつの血色がよくなったのはお嬢ちゃんの回復魔法のお
かげじゃろうて」

「おやおや、テッツ。あの薬は大丈夫なのかい?」

「まあの、安全性だけは万端じゃ。それにしても、やはりお嬢ちゃんは大した才能の持ち主じ
ゃのう。魔法学院に進学するつもりはあるかいの?」

「はい、できれば……」

「そうかそうか、お譲ちゃんならきっと審査にパスできるはずじゃ。しっかりがんばるんじゃ
ぞ」

 ベンが助けを呼びに言った際、プレオバンズとテッツが治療を引き受けた。その時に近くに
いた学校の職員とルシーダが呼び出されたのだ。教授二人は、ルシーダを一目見たときか
ら、彼女の素質を見抜いていたのだった。

「さて、学校の先生方、どうもご苦労様でした。彼はもうしばらくで目が覚めるでしょう。あと
は私達に任せてください」

 バンズ教授が協力してくれた先生たちの労をねぎらうと、みな通常の担当場所へと戻って
いった。

「さて、ごくろうさんじゃったの。お譲ちゃんと坊主ももどってよいぞい」

「はい、どうもありがとうございました。行こう、ベン」

「うん。じゃあ、僕たちも失礼します。」

 ベンがその場を立ち去ろうとしたとき、彼はあることを思い出した。この森の異様な空気の
ことだった。ちょうど魔法学院の先生が二人もいたので、尋ねてみることにした。

「あの……すいません、ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど」

「む? なんじゃ、言ってみい」

 ベンはここの周辺一帯がなんともいえない嫌な気配がすることを打ち明けた。すると、教
授たち二人からも同じような意見を聞くことができた。

「確かに、わたしもここはどうも好かなくてね」

「わしは鈍いからよう分からん。別に嫌な感じなどせん。しかし、ここには虫やら鳥やらの畜
類どもが、一匹もおらんのう。虫の声がせんのは寂しい限りじゃ」

「ベン、あなたも変な感じがしていたのね……」

しばらく沈黙が続いた。場の空気がどんどん深刻さを増していくのを感じ、ベンは少し自ら
の発言を後悔した。そのとき、どこからかうめき声が聞こえた。

「ん……ううぅ! ん、まだ生きてるじゃねぇか、俺。あんた達、だれだい?」

「おや、気がついたようだね」

「ひょっとして、あんたたちが助けてくれたのか?」

 沈黙を破ったのは青年だった。彼は自身を雑、と名乗り旅の鍛冶屋をしているとのことだ
った。

 彼は道に迷っていたらしかったので、ここがどこなのかと聞いてきた。

「ここはポポルの森の中。古代の遺跡が特に多く遺されている地域だよ。近くに学校がある
から、私よりもそこにいる彼らにお礼を言っておくれ。ベン君と、ルシーダさんだ」

「おう、どうもありがとうな! たすかったぜ。この恩は必ず返すからな」

「いやぁ、いいですよお気になさらなくて……」

 重苦しかった空気が明るさを取り戻したなか、ベンの顔が曇った。

「(セイル!?)」

 ベンの脳裏に、セイルが巨大な影に襲われている光景が浮かんだ。彼は手にした棒で必
死に抵抗するが、かなり押されている。疲労している様子も、容易に見て取れた。

はやく助けに行かなければ、命が危ない。場所は、ここから南へ向けて進んだところだ。ベ
ンはなぜか、セイルの位置が手に取るように分かった。

「すいません、僕ちょっと急用ができたのでちょっといってきます!」

「あ、ちょっとベン。もう、そっちは掃除場所じゃないでしょ。どこいくのよ、もう」

 青年は、ベンが走り出す直前に見せた表情の変化を見逃さなかった。あの目つきは、何
か危険が迫っている目に違いないと、彼は見抜いた。

「どっこいせ、と。わりぃけど、俺も用事ができたもんでな。すまねぇけど礼はあとですっか
ら、待っててくれや」

 青年も急に立ち上がると、ベンを追いかけていった。まだふらふらする足に鞭を打って、彼
は懸命にベンの後を追った。

「(くそ! まだまともに走れねぇか。しょうがねぇ、このまま行くか)」

「ちょっと君、まだ無理をしてはならんぞ」

 バンズ教授が心配して声を掛けた。

「ああ、大丈夫だ。どうも世話になったな。またあとで会おうぜ」

「ちょっと、大丈夫ですか? 私も一緒に行きます」

 後に残ったのは、バンズ、テッツの両教授だけとなった。

「テッツ……どうする? あの子達に任せてもいいのだろうか? やはり私達が行くべき
か?」

 バンズ教授は訳知り顔でテッツに相談した。

「放っとけ、若いころの苦労は買ってでもするべきじゃ。なあに、たいした相手ではない。万
が一のときには、そのときにわしらが行けばいいんじゃ」

「しかし……」

「案ずるな、並みのモンスターごとき、丁度いい経験になるじゃろ。あのメンツなら心配ない」

 そういってテッツは、懐から古びた紙を取り出した。茶色く変色した紙面には、走っている
ベンと、必死に歩く青年とルシーダの様子が映し出されていた。そして、ぼんやりと熊のよう
なモンスターが浮かび上がっている。

「いや、たしかにそうなのだが、助けを待つ子が心配だったものでな。この子は、確かテッツ
が受け持っていた子じゃないかね?」

「ん? すまんが主のシートを見せてくれんか。わしには遠くのものはよく映しだせんでの。
どれどれ……」

 そこに移っていたのは、セイルの姿だった。彼は今にも死にそうな顔で、無我夢中で抵抗
を続けている。

見ると手にしていた棒はすでに叩き折られていて、独学で覚えた粗末な火の魔法で相手を
驚かせている。

「なんと、こやつか! かぁー、ちょいと心配になってきたのぅ。なんじゃこのお粗末な火炎
は!? まともに飛ばすこともできんのか」

「どうする? やはり私達が?」

 テッツは一考ののち、バンズに答えた

「いや、けっこう。あやつの根性を叩きなおすいい機会じゃ、死にゃせんだろう」

「了解した」

 二人の教授は、その場に腰をおろして帰りを待つことにした。

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2007/09/24 00:22 | Comments(0) | TrackBack() | ○滅びの巨人

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