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2024/05/21 11:08 |
星への距離3/スーシャ(周防松)
PC:スーシャ
NPC:仕立て屋一家
場所:セーラムの街
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「スーシャ!」

今日、一体何度目だろうか。
スーシャは怒鳴り声で名を呼ばれた。

このような呼び方をされた場合、何をさておいても駆け付けなければならない。
遅れれば遅れるほど、余計な怒りを買いかねないからだ。

「はいっ」

声は、一階の作業場から聞こえた。
作業場へ慌てて駆け付けてみると、彼女にとって養母にあたる女……一家において女
房だったり母だったりする女だ……が、怒りの形相で仁王立ちしていた。

「な、なんでしょう……」

おそるおそる尋ねると、養母はいきなり、スーシャの髪をひとふさつかみ、ぎゅうっ
と頭を持ち上げた。
その力の強いこと。
髪の毛が、根こそぎ引っこ抜けてしまいそうだ。
スーシャは、つま先立ちの状態でよろけながら、倒れないようにするのが精一杯だっ
た。

「うちの売り上げに手をつけたのは、お前だね! 養ってもらってる分際で、なんて
悪いガキだ!」

ヒステリックに告げられた言葉に、スーシャは絶句した。
それはつまり、泥棒をはたらいたということだ。

洗濯物が綺麗になっていないとか、皿の洗い方が雑だとか、その程度の話なら、たと
え納得できない言いがかりでも、謝ることはできる。
さっさと謝ってしまったほうが、まだ穏やかに事が収まるからだ。

しかし、この場合、謝ることはできない。
だって、スーシャは盗んだりしていないのだから。
謝るということは、盗んだと認めるに等しい。

「わ、わたしじゃ……わたし、そんなこと、しません」

だから、スーシャは反論した。
弱々しく、おろおろしてはいたものの、身の潔白を訴えた。
それを見た養母は、さらに恐ろしい形相をする。
頭に血が上っている彼女には、発言の内容ではなく、養女の分際で口答えしたという
点が気に入らないのだ。

「じゃあ誰だって言うんだ、えぇ!?」

髪の毛をつかむ手に、さらに力がこめられる。
スーシャは小さく悲鳴を上げながら、それでも耐えた。

よく確かめもしないで、人を悪人と決めつけてののしる。
悪魔のような顔、というのは、きっと今の養母の顔だ。
スーシャはそう思う。

売り上げは、常に、作業場の一番奥にある、小さなタンスの引き出しに入れられてい
る。
しかしそれにはカギがついていて、スーシャはそのカギを持っていない。
売り上げを盗むなんてことはできないのだ。

それでも、養母はスーシャを疑っている。

「だったら身の潔白を証明してもらおうじゃないか」
「け、潔白……?」
「お前の持ち物全部、持って来て見せな」

言うと、養母はスーシャを突き飛ばすようにして離した。
スーシャが、盗んでいません、ともう一度訴えようとすると、

「早く!!」

養母は、家が揺れそうなほどの大声で命令した。


スーシャにも、一応、自分の部屋というものが割り当てられている。
階段下の、普通なら物置に使うような場所だ。
当然、窓はない。

スーシャは、小さな扉を開けてそこへ入ると、小さな箱を持ち、養母のところへ戻っ
た。
彼女の私物は、その箱にまとめて入れてあるのだ。

「……これ、です」

養母は箱を開けると、ピクリと眉を動かした。

「ゴミが入ってるじゃないか」

養母が、箱から布をつまみ上げる。
それは、色あせてすり切れて、ほとんどボロ布のようだが、ハンカチだった。
スーシャと生き別れになった兄が残していった、思い出の品。
兄は、これで顔や体についた汚れを拭いたりしてくれたのだ。

「親のない子は、貧乏性でいやだねぇ。ゴミまで取っておくんだからさ」

養母は「これは何だ」と事情などを尋ねようともせず、ゴミ箱に放り投げようとし
た。
――スーシャの体を、電撃が走った。

「やめてくださいっ!」

スーシャは鋭く叫び、養母の手から奪い取った。

養母にとっては、汚いものでも、スーシャにとっては大事な大事なものだ。
この世に二つとない、大事なものだ。
それを汚れもの扱いされて捨てられるなんて、黙って見ていられるはずもない。

「生意気なんだよ!」

その途端、拳なんだか平手なんだかわからないものが、彼女の横っ面を張り飛ばし
た。
ぶたれたのだ、と察知したのは、床に投げ出され、じんじんと頬が痛むのに気付いて
からだった。

――どうして?

その一言が、頭の中を埋め尽くす。

どうして、こんな目にあわなくちゃいけないの?
わたしは、何か悪いことをしたの?
盗んでいないのは、本当なのに。
大事なものを捨てられまいとしただけなのに。

あふれた涙が、頬を伝い、ボタボタと床を濡らす。


「わああ……………っ!」


感情を、押さえることができない。
どうしてもどうしても、我慢できない。

スーシャは、ちょうつがいが馬鹿になりそうなほどドアを乱暴に開け、外へと飛び出
した。

夜のとばりが降りたセーラムの街は、ひんやりとした空気が流れ、人の姿もない。
スーシャは泣きじゃくりながら、わけもわからず、通りをひたすら走った。


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2007/08/24 01:55 | Comments(0) | TrackBack() | ○星への距離

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