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2024/05/21 08:02 |
星への距離 5/スーシャ(周防松)
PC:スーシャ  ロンシュタット
NPC:バルデラス  店の主人  農夫
場所:セーラムの街
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「この街の子か? 泊まれる宿があったら、教えてくれないか?」

そう尋ねてきた黒髪の青年は、スーシャよりもずっと背が高かった。
髪の毛の先や衣服から、水滴がしたたり落ちている。
何も知らない純朴な田舎娘なら、カッコイイ、なんて言って見惚れているかもしれな
い。

「あの……」

スーシャは、無意識のうちに両腕を胸の前に持ってきて、ずり、と後ずさる。
怯えている、とまではいかないが、警戒している。
スーシャは、人と打ち解けるのに時間のかかるタイプである。
会った瞬間から、まるで長年の付き合いがあるかのように振る舞える人間もいるが、
彼女にはとても真似できない。

「あ、怖がらなくっていいよ。こいつ、愛想ないけど悪気ないから。こういう性格な
の。ロンシュタットっていうんだ」
ロンシュタットというらしい青年が腰に吊るした剣から、声がする。
先ほど、自分のことをバルデラスと名乗った剣だ。
「ロン、こっちの可憐なお嬢ちゃんは、スーシャちゃんだよ」
「可憐、って……」
スーシャは、困り顔でおろおろした。
普通なら、照れたり「そんなことない」なんて言ってみたりするところだが、長いこ
と罵声と怒声を浴びせられてきたためか、ほめ言葉を告げられると、どうも落ちつか
ない。

……と、ロンシュタットがじっとこちらを見つめていることに気付いた。
スーシャはハッと思い出した。
そういえば、泊まれる宿があるかどうか、聞かれていたではないか。

「あっ、できます、あります、一軒だけ、ですけど」
「……そうか」
慌てて答えると、ロンシュタットの目元がなんとなく柔らかくなったように見えた。
安心した、ということだろうか。
「ごめんなさい、その、無視したわけじゃないんです……」
申し訳ない気持ちで頭を下げると、「いい」と言うようにロンシュタットが手で制す
る。
「気にするな。案内を頼めるか?」
「あ、はい」

それから、スーシャはきょろきょろと回りを見まわした。

「あの、待っててください」

スーシャは道端に分け入ると、よいしょ、と草を二本引き抜いた。
大きな丸い葉っぱと、長い茎のついた、大きな草である。
突然雨に降られて、カサを持っていなかったりした時、これで代用ができるのだ。
もっとも、それをやるのは大人ではなく子供だが。

「あの、カサの代わりに……」
スーシャは、一本をロンシュタットに差し出した。
「濡れちゃった後だから、意味、ないかもしれないですけど」
「気がきくねぇ、スーシャちゃん」
「いえ、そんな」

――こうして、二人は雨の降る中を歩き出した。
歩きながら、人と並んで歩くのなんて、何年振りだろう、とスーシャはぼんやり考え
た。

「にしても、スーシャちゃん。夜だってのになんであんなトコいたんだい?」
不意にバルデラスに話かけられ、スーシャは、内心慌てふためいた。
「そ、その……わ、わたし、お使いに行って来た帰り、で……」
本当は、とてもとても嫌なことがあって、飛び出してきたなんて、正直に言えるはず
もなかった。
バルデラスの方も、「ふぅん」と言ったきり、それ以上追及してこなかった。

「……ここ、です」

スーシャは、とある建物の前で立ち止まり、ぎこちなく伝えた。

セーラムは小さな街で、どこかの大きな街道に直接繋がっているというわけでもない
から、滅多に人が来ない。
それでも一応宿屋と呼べるようなところはある。
ただ、客が少ないために宿屋の稼業だけでは食べていけないので、兼業として酒場を
やっている。
近頃は酒場の客が宿の客を上回り、もはや、「宿を兼ねて酒場を経営している」のか
「酒場を兼ねて宿を経営しているのか」が不明になっている。

今日は雨が降っていて、酒場の客も少ないようだ。
開いた扉からもれる明かりはいつも通りだが、酒場特有のバカ騒ぎする声が聞こえな
い。

「こんばんは」

スーシャは、ドアを開け、中に声をかけた。
客は片手で数えられる程度で、店主も退屈しのぎに客の話に加わっている。

「あれま、仕立て屋ンとこのスーシャじゃないか」

店主が、スーシャに気付いて声をかけてくる。

「どうしたんだい、夜だってのにこんなトコにいるなんて」
店の主人も、バルデラスと同じことを尋ねてくる。
十二歳の少女が夜に出歩いていると、疑問に思われるものらしい。
「あ……お使いを頼まれたんですけど……でも、時間がかかっちゃって……」
スーシャは、先ほどバルデラスに述べた嘘を、再び口にした。
「まさか、こんな時間までかかったってのかい?」
「……はい」
そこで、店主は「ん?」とロンシュタットに気付いた。
「スーシャ、この人は?」
「あの、泊まれるところを探してる、って。だから……」
すると、店主はニコニコと笑顔になった。
「じゃあうちの客だな。いらっしゃい。いやぁ、雨でびしょびしょだな。待ってろ、
拭くもの持ってくるから」
そう言うと、いそいそと店の奥に引っ込む。

それじゃ、とロンシュタットに会釈をして、スーシャは出口に足を向けた。

――帰ろう。

謝って、また家に置いてもらうしかない。
どんなにいじめられてもヒドイことを言われても、自分は結局、あの家しか帰る場所
がないのだ。
そんなに辛くて嫌なら、本当に飛び出して、どこか別の場所に行ってしまえばいい。
帰る場所を、他に作ればいい。
そういう意見もあるだろうが、全く知らない土地で一から生活を始めるのがどんなに
大変かを経験した身としては、どうしても腰が重くなる。
上手くいくとは、限らないのだから。


「自警団の団長はいるかい!?」

大声とともに、一人の農夫が駆けこんで来た。
ちょうど出ようとしたスーシャは、ぶつかりそうになって、慌てて体を引っ込める。
「っと、スーシャ!?」
農夫は驚いたようにスーシャの両肩をつかんだ。
「どうしてこんなところにいるんだ? お前、家にはいなかったのか?」
その驚きように、スーシャは面食らう。
一体どうして、こんなに驚いているのだろうか、彼は。
「ああ、この子ならお使いに行ってたんだと。今やっと帰ってきたところらしいよ」
横から店の主人が説明をすると、農夫はようやく手を離した。
「そうか。じゃあ、命拾いしたな」
「え……」
命拾い、とはどういうことだ?
スーシャは困惑しきった顔で農夫を見上げた。

「落ちついて聞けよ。仕立て屋の一家が、全員、殺されてたんだ」

スーシャは、声も出なかった。



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2007/08/28 00:41 | Comments(0) | TrackBack() | ○星への距離

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