忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2025/03/10 12:01 |
星への距離 25/スーシャ(周防松)
件名:
MLNo. [tera_roma_2:0892]
差出人: まっつぁんさん
"周防 松"
送信日時: 2008/07/12 23:34
本文: PC:スーシャ ロンシュタット
NPC:バルデラス 街の人達
場所:セーラムの街 宿屋前の大通り

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あ、悪魔だ!」

どこからか、男の声がした。

――それは、雫といって良かった。
言うなれば、なみなみと水をたたえた湖の上に落ちた、小さな雫。

だがその雫は、自身の大きさをはるかに越えた波紋を広げる。
湖の大きさに比例して、どこまでも、どこまでも。

ざあっと、人々の間に緊張と恐怖が伝染するのを、スーシャは感じ取った。
振り向くと、人々が全員、一人の男に注目している。
注目されているのは、色あせたシャツによれよれのズボンの、農夫とおぼしきやせた
男だ。

男は、震える指でロンシュタットを指差した。

「考えてみろ。全部、こ、こいつが来てから起きたことじゃないか! 仕立て屋の一
家が殺されたのだって、団長がおかしくなったのだって、こいつがこの街に来てから
なんだろう!?」

男は目を見開き、口からつばを飛ばしながらロンシュタットを糾弾する。

「こいつも悪魔なんだ!」
 
対するロンシュタットは表情一つ変わらない。
これだけ糾弾されれば不快そうな顔の一つもしそうなものだが、『事実ではないから
気にしていない』というよりも、『そもそもこの男に関心がない』というような態度
である。

「そうだわ!」

太った中年女が、自分の子供をぎゅっと抱き寄せながら同調する。

「今まで、この街は何の問題もなかったじゃない! 平和で、安心して暮らしていた
のに、一体どうしてこんなことに……」

平和で、安心して暮らしていたのに――。

その言葉が、スーシャの胸を突き刺した。

朝起きて朝食の仕度をし、夫と子供を起こして食べさせて、掃除と洗濯にいそしみな
がら夕飯の献立に悩み、夜になったら子供を寝かしつけ、夫と少し話をした後で眠り
につく。

退屈ながらも、何事もなく平和に過ぎていく毎日。
何の不安もない、心配事とは無縁な日々。
彼女にとってはそうなのかもしれない。

だが、自分にとっては……。

「悪魔め!」

じわり、と恐ろしいものが伝染していく。

「きっと、さっきのやつの仲間なんだ」
「何もかもこいつのせいだ」
「こいつが街に災いを呼んだんだ」

数人の男が女・子供を後ろにかばうようにして進み出る。
進み出てきたのは、さっきは背を向けて逃げ出した、自警団員達だった。
わけのわからないもの相手に剣を振るうのは怖いが、人間の見た目をしている相手な
ら怖くない、というわけだろうか。


やめて。

やめて。

やめて。やめて。

やめて――。


「や……やめてくださいっ」

スーシャは、一瞬遅れてから、自分が何をしているかを理解した。

ロンシュタットの前に立ち、か細い両腕をピンと広げ、震える足で地面に踏ん張って
いる。
まるで、街の人間から彼をかばうように。

「何をしてるんだ、そいつは悪魔なんだぞ」

スーシャはぶんぶんと首を横に振った。
本当は、「違います」と大声で言いたかったが、いつもいつも黙って耐えてきたせい
で癖がついたのか、どうしても喉が開かなかった。

「どきなさい、危険だよ」
「そうだよ。さ、こっちおいで」
「殺されるかもしれないんだぞ」

ロンシュタットさんは、そんなことしない――。

スーシャは、愕然とした。

彼らは、先ほどのロンシュタットの行動を見ていなかったのだろうか?
水柱に飲まれるスーシャと団長の子供を助け出した、彼の行動を。
街の人を守るためにいるはずの自警団員でさえ、命が惜しいとばかりに逃げ出した、
恐ろしい水柱にただ一人立ち向かった男。

ほめられるべきはロンシュタットだ。

それなのに、怖いものから逃げ出した者が、逆に立ち向かっていった男相手に、どう
して平然と正義ヅラをさらしていられる?

嫌悪感が、ぞわぞわと背すじをはい上がって来た。 

「逃げた、くせ、に……」

心の中から押し出されてきた言葉に、唇が震えた。
聞き取れそうにない小さな声だったけれど、自分の気持ちを吐き出したのは、ずいぶ
んと久しぶりだった。

本心をさらけ出すのは、とてもとても怖いことだ。
傷つかないためには、やらない方がいい。
いつの間にか身につけた、彼女なりの処世術。

しかし、もう、止められない。
今言わなかったら、自分は一生後悔する。

「なんだって?」

自警団員の一人に聞き返された瞬間、スーシャの中で何かが爆発した。

「知らないふり、したくせに! 見ないふり、したくせに! 助けてくれなかったく
せに!」

痛いほど、周りがしいんと静まり返った。
自警団員の中には、目をそらす者もいた。

「ロンシュタットさんは、助けてくれたもの。恩人なんだもの……だから、だから、
ののしったら、わたしっ、みんなのこと、軽蔑します!」

たかがちっぽけな小娘が一人、街の人達を軽蔑したところで痛くもかゆくもないだろ
う。
冷静に考えれば、思いあがりも甚だしい台詞だ。

だが――これが偽らざる気持ち、だった。

――もう、この街にはいられない。

スーシャは、覚悟を決めた。

この街を出て、どこか別のところでなんとかやっていこう。
武器を振るって怖いものに立ち向かうほどの強さはないけれど、一人でもちゃんと生
きていけるほどの強さなら、手が届くかもしれない。

自分の足で、しっかり立って、生きる。
それだって、強さの一つに違いない。

――じゃり。

後方から、砂を踏む音がした。

見ると、ロンシュタットがこちらに背を向けて歩き出していた。
その足は、街の外へと向かっている。
気まずいから逃げる、というような歩き方ではない。
仕事を終えた職人が帰宅する時のような、そんな足取りだった。

「あ……」

まだ、ちゃんとお礼を言ってない。
スーシャはロンシュタットの後を追いかけた。

――街の人達がどんな目で自分を見ていたとしても、もう気にならなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
PR

2008/07/13 01:25 | Comments(0) | TrackBack() | ○星への距離

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<Get up! 08/フェイ(ひろ) | HOME | AAA -03rd. "A"nswer, I am requesting the answer./ヴァージニア(マリムラ)>>
忍者ブログ[PR]