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2025/03/10 15:51 |
星への距離 17/スーシャ(周防松)
PC:スーシャ  ロンシュタット
NPC:バルデラス 自警団員
場所:セーラムの街 宿屋

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今日の宿屋は、珍しく大勢の人が集まっていた。

とはいっても客ではないので、主人としては嬉しくも何ともないだろう。
街の住人たちが避難所よろしく集まっているに過ぎない。

小さい子供らがどたばたと走りまわり、その親達はどこか陰鬱な表情をつき合わせて
いる。
団員は他の団員と腕に覚えのある者を集め、表側の入り口と裏口の二手に分かれて外
からの侵入者に備えている。
先ほど一緒に行動していた団員は入り口側を守っていた。

スーシャは酒場のすみの方に一人でぽつんと椅子に座り、ただひたすら黙っていた。

そのうち、スカートのポケットをごそごそと探り始める。
再び手をポケットから抜き出した時、その手にはししゅう糸を何本か束ねて途中まで
三つ編みにしたものが握られていた。
スーシャの認識するところ、お守りの一種の作りかけである。
本当ならばそのお守りを作る時は道具などを使うのだが、見よう見真似でやっている
に過ぎず、やり方としてはでたらめである。

別に、お守りを作りたくてやっているわけではない。
手持ちぶさたでどうしようもない時に時間を潰すためにしているだけだ。

これをやっている間なら、誰かの視線を気にしておどおどすることもないし、何かや
ることはないのかと変に気をもむこともない。

――物思いにふけることもできる。

(ロンシュタットさん、今どうしているんだろう……)

不意に、あの黒髪の青年のことが頭をよぎる。
一番安全なこの宿ではないところにいるという事は、危険に身をさらしているという
事だ。
その危険の度合いは、申し訳ないが、宿の出入り口を守っている人々とは比べものに
ならない。
たった一人で脅威に立ち向かっているのだ。
今、この間にも。

(無事だと……いいな)

スーシャは、手を止めた。

思えば、薄っぺらい間柄だ。
何の義理もないし、親しい言葉を交わしたわけでもない。
それでも……無事でいて欲しかった。
何事もなく、またその姿を見たいと思った。

突然誰かがいなくなってしまうのは……置いて行かれてしまうのは、もう嫌だ。

『兄ちゃん、絶対に迎えに来るから……だから、ここで待ってろよ』

優しい記憶を思い出しそうになって、スーシャは耳をふさいだ。


「あたしゃ聞いたんだけどね。なんでも、悪魔がいるんだって?」
「ああ、そうらしいよ。団員が言うんだから間違いないさ」
「おそろしい! この街は一体どうなっちまうんだろうね」
「悪魔って言ったらあれだろ? 美人の血をすするんだろ?」
「あら~、じゃああたしなんか危険だわねぇ」
「あんたは一番安全だよ!」
「まったくだわ」
「あっはっはっはっは」

スーシャの向かいのテーブルでは、中年を過ぎた女性が集まってわいわいと話をして
いる。
話が進めば進むほど妙な方向に向かっているようだが……いかなる状況でも口さがな
いのが、おばさんというものの習性である。
事の重大性がわかっていないのか、わかってはいるが神経が太いのかは不明である。


その時、ぞっとするような寒気を、スーシャは感じた。
ごく自然に、目が宿の入り口の方へと引き寄せられた。
寒気を起こさせる“何か”があると、本能が感じ取ったためである。

「団長……っ」

団員の顔が強張っている。

「突然街の人々が見えないから心配になって、あちこち見回って来た。ここにいるな
らいると連絡をよこしてもらいたいものだ」


――団長が、宿の扉に手をかけていた。


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2008/02/07 21:22 | Comments(0) | TrackBack() | ○星への距離

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