PC:スーシャ、ロンシュタット
NPC:バルデラス、団長、団員
場所:セーラムの街、詰め所
「では、始めようか」
息子を追い払った団長は事務的な口調を装って──少なくとも、部屋の隅にいるスーシャにはそう聞こえた──話を続けた。
「実は今朝、この街で医者をしている夫婦が殺されている、と言われた」
びくり、と意識せず、スーシャは身体が震える。
「言って来たのは、医者にかかっている老夫婦だ。いつも早朝から通院しているが、そこで医者夫婦の死体を見た、と言ってきた」
団員はスーシャを助け起こしながら、話を聞いている。落ち着いているところを見ると、彼もこの報告を受けていたのだろう。
「駆けつけて見ると、死体も姿も無い。急な往診で出かけたかとも思ったが、道具は置いたままだ。住人の手も借りて探したが、街中どこを探しても見つからない。何かあったのか、事故に巻き込まれたのか、そう思って一度この詰め所に引き返したんだが」
団長は言葉を切った。
「調査に同行していた住人がひとりいなくなっていた。先に家へ帰ったとは考えにくいが、万が一と言うこともある。一緒の班にして調査させた者に聞いてみたが、いつの間にか姿を消していたらしい」
そう言うと、今度は黙って、ロンシュタットの顔を見る。
彼の反応を窺っているのは、スーシャにもはっきり分かる。
自分の世話になっていた一家が殺されたのは、とても悲しい事だが、関係ないはずのロンシュタットに疑いの目が向いている、あるいは街の治安を一手に引き受ける団長が、彼に何か辛いことをしようとしてるのではないかと思った。
それは嫌な事だ。
犯人は別にいるのに、まるで自分のせいで、彼まで事件に巻き込まれてしまったような気がして、これからロンシュタットがどうなるのか、心配になってまともに彼の顔を見れず、眼を伏せてしまった。
一方、そのロンシュタットは街の住人の行方など関係無い、と言わんばかりに無表情だった。
数十秒、団員も息を呑む静かな向かい合いが続いたが、先に動いたのは団長だった。
溜息をつくと、背もたれに体を預けながら、それでも視線はロンシュタットから外すことなく、話を続けた。
「医者の一家も、消えた住人も、まだ見つかっていない。まるで街から出て行ってしまったようだが、君と違い、地に足を付けて生活している者が、何の前触れも無く消えることは無い。医者なら尚更だ。だが、この件も重要だが、もっと不可解な件がある」
団員の眉が寄り、首を傾げる。
自分を助け起こし、近くの椅子を持ってきて座らせてくれる間も、疑問を感じている視線をずっと団長に向けているのを、スーシャは見た。
彼にも教えられていない何かを、団長は知っているんだ。
一体何だろう、とスーシャもちらりと思った時、団長は話を続けた。
「昨夜殺された仕立て屋の一家を、医者の家の近くで見た、という報告があった」
スーシャの心臓が大きく飛び跳ね、喉まで上がって来そうだった。
体が再び震え始める。
今日見た、あの見覚えのある家族は、やはり、仕立て屋の一家だったのだ。
でも、昨夜殺されてしまった。
自分でその死体を見たわけではないが、ここにいる団員も、自分にそれを教えてくれた農夫も見ている。
死んだ人は、動かない。
死んだ人は、街を揃って歩いたりしない。
死んだ人は、医者へ行ったりしない。
すぅっと、自分の指先から体が冷えていく感覚が、スーシャには分かった。
知らず自分の肩を抱きながら、耐え切れなくなり、彼女は囁く様に言った。
「私……見ました」
か細い声だったが、詰め所に木霊したように、全員の視線が彼女に集中した。
「今朝……まだ外が暗かった……女将さんと、旦那さんと、子供と……」
初めて幽霊を見た、と思った。彼らが医者を殺して姿を消したのだと。
だから、最後は歯の根が震えて言葉にならなかった。
体の震えが止まらない。
──こわい。
その事だけが心と頭の中を統べ、他の感覚が無くなり、視界さえぼやけた。
どれくらいそうしていたのか分からない。
ようやく、自分が息を荒くして震えている事に気付いたとき、前にロンシュタットがいた。
まだがたがたと震えながら顔を向ける。
彼は相変わらず無表情だったが、肩を抱いている手に、自分の手を重ねていた。
掌から伝わる暖かさが広がるように、彼の眼を見ている内に、少しずつではあるが、震えは収まってきた。
まだ恐怖が心の中から去った訳ではないが、何か安心できるものを見つけた気がした。
「……!」
何かが口をついで言葉になりかけたが、震える唇はそれを形にすることは無かった。
だがロンシュタットは頷いた──そう見えた。
気のせいかもしれない。だが、僅かに首を縦に動かしたように見えたのだ。
まるでそれは
──分かっている。
そう言っている様だった。
どうしてなのか分からず、泣き出しそうになるのを堪えながら、スーシャはロンシュタットを見る事しかできなかった。
数分の沈黙の後、団員はひとつ咳払いをすると、
「そうか、スーシャも見ていたのか……昨日はここから宿へ戻った後、どこへも行っていないから、見たのは宿からということになるな」
自分に言い聞かせるように言った。
「そして、その仕立て屋の家から、昨夜あった死体が消えていた。我々には何がどうなっているのか、理解できない」
団長が話を継ぎ、席を立ちながら言う。
「だが、理解できないからといって、手をこまねいているわけにもいかない……ロンシュタット、君が無関係かまだ分からないが、君が来てから事件が起こったのは確かだ。単刀直入に聞こう。君はこの件に関して、何を知っている?」
「宿で言った通りだ。何も知らん」
スーシャから眼を背けることなく、彼は団長に答えた。
ここに来て初めて、強気一辺倒だった団長は失望したような溜息をついた。
「君なら何か知っていると思ったが……残念だ。しかし、完全に無関係かどうかはまだ分からんし、行方不明と殺された住人がいるのも確かだ。君らには悪いが、重要な参考人として、この詰め所にいてもらう」
まあ、仕方ないな、と言いたげに、団員も溜息をつく。
「牢に閉じ込める訳ではない。だが出す訳にもいかない。少々狭いが、この詰め所の部屋から一歩も出ないでくれ……おい」
団長は団員に顎をしゃくって
「お前はスーシャに、ここにいるのに何か必要な物は無いか聞いて、宿から取ってきてやれ」
「はい、分かりました」
突然の言いつけに少々驚きながら、団員は素直に答えた。
「俺は腕の立つ若い連中をもう一度集めて、事件のあった場所を探ってみる。夕方までには引き上げるから、それまでこのふたりをここから出すなよ」
そう言うと団長は詰め所から出て行った。
団員も、スーシャに身の回りのものを持って来るよ、と言い残し、少ししてから詰め所を出て行った。
困惑したような表情をしていたのは、彼女を気遣うような団長の発言が、まだ信じられなかったからかもしれない。
それに気付いたスーシャは、団員が首を捻りながら出て行くのが何だかおかしくて、ようやく自分が平静さを取り戻しつつあるのを感じた。
ロンシュタットが横に椅子を置いて座っているのも、何だかうれしかった。
だが彼はスーシャの心の変化に気付かないのか、いつもの無表情で、正面にある扉を見据えたままだ。
「ふう、ようやく誰もいなくなったか」
さらにしばらくして、もうひとつ別の声がした。
忘れるはずも無い、バルデラスだ。
「あいつら、結局何も掴んじゃいなかったなぁ、ロン。まあ、お前やこの俺様にもさっぱりなんだ、無理も無いよな」
小馬鹿にしたように言う。
「そのくせ理由を付けて軟禁しておこうなんざ、俺達が犯人だって言ってるようなもんじゃねえか。ばればれだぜ」
ぺらぺらと好き勝手に口を利いている剣を見ていると、改めてスーシャは、本当によく喋るなぁ、とへんな感心をした。
きっと今までじっと黙っていたから、その反動で口が(?)むずむずしているに違いない。
案の定、今の出来事を、団長が息子を追い返した所から始まり、現在に至るまで、面白おかしくこきおろした。
「それで、スーシャちゃんはどう思う?」
まだ話し足りないのか、今度はスーシャに会話を求めて来た。
きっとロンシュタットに言っても、無視されるんだろうなぁ、と内心でバルデラスに同情したスーシャ。
大悪魔のくせに、同情されてしまったバルデラスはそんな事に気付く由も無く、どう? と重ねて聞いてくる。
もちろんそんな事分からないので、スーシャは話題を変えることにした。
「それにしても、団員さん、遅いですね」
「そう言えば、そうだねぇ。でも、あいつがいない方が俺はいいね。好き勝手にできるから」
実に楽しそうにバルデラスは答えた。
不意に背後で、かたん、と何かが倒れる音がした。
詰め所の奥へ繋がる隣の扉が開き、入っていた箒が倒れたのだ。
スーシャの表情が、振り向いた瞬間に固まる。
そこには、いなくなったはずの医者が、何も無い眼窩をこちらへ向けながら、手を伸ばしゆっくりと歩み寄ってきていた。
みし、と床鳴りがする。
音のする方へ、反射的に眼が動く。
扉どころか、窓さえない壁の前に、スーシャが見た、仕立て屋の女将がいた。
やはり眼窩には眼がなく、口を大きく開きながら、ゆっくり歩み寄ってくる。
「おい、一体どうなってんだよ!」
バルデラスが言う。
「こいつら、いつからいた? いや、どうやってここへ入った!?」
その通りだ。
扉は開かなかったし、窓は閉まったままだ。そして掃除用具入れの中に、人が隠れられるような隙間はない。
だが、死んだはずの彼らが、歩み寄ってきている。
どうなってるの?
そんな疑問が浮かぶより早く、スーシャは切り裂くような悲鳴を上げた。
NPC:バルデラス、団長、団員
場所:セーラムの街、詰め所
「では、始めようか」
息子を追い払った団長は事務的な口調を装って──少なくとも、部屋の隅にいるスーシャにはそう聞こえた──話を続けた。
「実は今朝、この街で医者をしている夫婦が殺されている、と言われた」
びくり、と意識せず、スーシャは身体が震える。
「言って来たのは、医者にかかっている老夫婦だ。いつも早朝から通院しているが、そこで医者夫婦の死体を見た、と言ってきた」
団員はスーシャを助け起こしながら、話を聞いている。落ち着いているところを見ると、彼もこの報告を受けていたのだろう。
「駆けつけて見ると、死体も姿も無い。急な往診で出かけたかとも思ったが、道具は置いたままだ。住人の手も借りて探したが、街中どこを探しても見つからない。何かあったのか、事故に巻き込まれたのか、そう思って一度この詰め所に引き返したんだが」
団長は言葉を切った。
「調査に同行していた住人がひとりいなくなっていた。先に家へ帰ったとは考えにくいが、万が一と言うこともある。一緒の班にして調査させた者に聞いてみたが、いつの間にか姿を消していたらしい」
そう言うと、今度は黙って、ロンシュタットの顔を見る。
彼の反応を窺っているのは、スーシャにもはっきり分かる。
自分の世話になっていた一家が殺されたのは、とても悲しい事だが、関係ないはずのロンシュタットに疑いの目が向いている、あるいは街の治安を一手に引き受ける団長が、彼に何か辛いことをしようとしてるのではないかと思った。
それは嫌な事だ。
犯人は別にいるのに、まるで自分のせいで、彼まで事件に巻き込まれてしまったような気がして、これからロンシュタットがどうなるのか、心配になってまともに彼の顔を見れず、眼を伏せてしまった。
一方、そのロンシュタットは街の住人の行方など関係無い、と言わんばかりに無表情だった。
数十秒、団員も息を呑む静かな向かい合いが続いたが、先に動いたのは団長だった。
溜息をつくと、背もたれに体を預けながら、それでも視線はロンシュタットから外すことなく、話を続けた。
「医者の一家も、消えた住人も、まだ見つかっていない。まるで街から出て行ってしまったようだが、君と違い、地に足を付けて生活している者が、何の前触れも無く消えることは無い。医者なら尚更だ。だが、この件も重要だが、もっと不可解な件がある」
団員の眉が寄り、首を傾げる。
自分を助け起こし、近くの椅子を持ってきて座らせてくれる間も、疑問を感じている視線をずっと団長に向けているのを、スーシャは見た。
彼にも教えられていない何かを、団長は知っているんだ。
一体何だろう、とスーシャもちらりと思った時、団長は話を続けた。
「昨夜殺された仕立て屋の一家を、医者の家の近くで見た、という報告があった」
スーシャの心臓が大きく飛び跳ね、喉まで上がって来そうだった。
体が再び震え始める。
今日見た、あの見覚えのある家族は、やはり、仕立て屋の一家だったのだ。
でも、昨夜殺されてしまった。
自分でその死体を見たわけではないが、ここにいる団員も、自分にそれを教えてくれた農夫も見ている。
死んだ人は、動かない。
死んだ人は、街を揃って歩いたりしない。
死んだ人は、医者へ行ったりしない。
すぅっと、自分の指先から体が冷えていく感覚が、スーシャには分かった。
知らず自分の肩を抱きながら、耐え切れなくなり、彼女は囁く様に言った。
「私……見ました」
か細い声だったが、詰め所に木霊したように、全員の視線が彼女に集中した。
「今朝……まだ外が暗かった……女将さんと、旦那さんと、子供と……」
初めて幽霊を見た、と思った。彼らが医者を殺して姿を消したのだと。
だから、最後は歯の根が震えて言葉にならなかった。
体の震えが止まらない。
──こわい。
その事だけが心と頭の中を統べ、他の感覚が無くなり、視界さえぼやけた。
どれくらいそうしていたのか分からない。
ようやく、自分が息を荒くして震えている事に気付いたとき、前にロンシュタットがいた。
まだがたがたと震えながら顔を向ける。
彼は相変わらず無表情だったが、肩を抱いている手に、自分の手を重ねていた。
掌から伝わる暖かさが広がるように、彼の眼を見ている内に、少しずつではあるが、震えは収まってきた。
まだ恐怖が心の中から去った訳ではないが、何か安心できるものを見つけた気がした。
「……!」
何かが口をついで言葉になりかけたが、震える唇はそれを形にすることは無かった。
だがロンシュタットは頷いた──そう見えた。
気のせいかもしれない。だが、僅かに首を縦に動かしたように見えたのだ。
まるでそれは
──分かっている。
そう言っている様だった。
どうしてなのか分からず、泣き出しそうになるのを堪えながら、スーシャはロンシュタットを見る事しかできなかった。
数分の沈黙の後、団員はひとつ咳払いをすると、
「そうか、スーシャも見ていたのか……昨日はここから宿へ戻った後、どこへも行っていないから、見たのは宿からということになるな」
自分に言い聞かせるように言った。
「そして、その仕立て屋の家から、昨夜あった死体が消えていた。我々には何がどうなっているのか、理解できない」
団長が話を継ぎ、席を立ちながら言う。
「だが、理解できないからといって、手をこまねいているわけにもいかない……ロンシュタット、君が無関係かまだ分からないが、君が来てから事件が起こったのは確かだ。単刀直入に聞こう。君はこの件に関して、何を知っている?」
「宿で言った通りだ。何も知らん」
スーシャから眼を背けることなく、彼は団長に答えた。
ここに来て初めて、強気一辺倒だった団長は失望したような溜息をついた。
「君なら何か知っていると思ったが……残念だ。しかし、完全に無関係かどうかはまだ分からんし、行方不明と殺された住人がいるのも確かだ。君らには悪いが、重要な参考人として、この詰め所にいてもらう」
まあ、仕方ないな、と言いたげに、団員も溜息をつく。
「牢に閉じ込める訳ではない。だが出す訳にもいかない。少々狭いが、この詰め所の部屋から一歩も出ないでくれ……おい」
団長は団員に顎をしゃくって
「お前はスーシャに、ここにいるのに何か必要な物は無いか聞いて、宿から取ってきてやれ」
「はい、分かりました」
突然の言いつけに少々驚きながら、団員は素直に答えた。
「俺は腕の立つ若い連中をもう一度集めて、事件のあった場所を探ってみる。夕方までには引き上げるから、それまでこのふたりをここから出すなよ」
そう言うと団長は詰め所から出て行った。
団員も、スーシャに身の回りのものを持って来るよ、と言い残し、少ししてから詰め所を出て行った。
困惑したような表情をしていたのは、彼女を気遣うような団長の発言が、まだ信じられなかったからかもしれない。
それに気付いたスーシャは、団員が首を捻りながら出て行くのが何だかおかしくて、ようやく自分が平静さを取り戻しつつあるのを感じた。
ロンシュタットが横に椅子を置いて座っているのも、何だかうれしかった。
だが彼はスーシャの心の変化に気付かないのか、いつもの無表情で、正面にある扉を見据えたままだ。
「ふう、ようやく誰もいなくなったか」
さらにしばらくして、もうひとつ別の声がした。
忘れるはずも無い、バルデラスだ。
「あいつら、結局何も掴んじゃいなかったなぁ、ロン。まあ、お前やこの俺様にもさっぱりなんだ、無理も無いよな」
小馬鹿にしたように言う。
「そのくせ理由を付けて軟禁しておこうなんざ、俺達が犯人だって言ってるようなもんじゃねえか。ばればれだぜ」
ぺらぺらと好き勝手に口を利いている剣を見ていると、改めてスーシャは、本当によく喋るなぁ、とへんな感心をした。
きっと今までじっと黙っていたから、その反動で口が(?)むずむずしているに違いない。
案の定、今の出来事を、団長が息子を追い返した所から始まり、現在に至るまで、面白おかしくこきおろした。
「それで、スーシャちゃんはどう思う?」
まだ話し足りないのか、今度はスーシャに会話を求めて来た。
きっとロンシュタットに言っても、無視されるんだろうなぁ、と内心でバルデラスに同情したスーシャ。
大悪魔のくせに、同情されてしまったバルデラスはそんな事に気付く由も無く、どう? と重ねて聞いてくる。
もちろんそんな事分からないので、スーシャは話題を変えることにした。
「それにしても、団員さん、遅いですね」
「そう言えば、そうだねぇ。でも、あいつがいない方が俺はいいね。好き勝手にできるから」
実に楽しそうにバルデラスは答えた。
不意に背後で、かたん、と何かが倒れる音がした。
詰め所の奥へ繋がる隣の扉が開き、入っていた箒が倒れたのだ。
スーシャの表情が、振り向いた瞬間に固まる。
そこには、いなくなったはずの医者が、何も無い眼窩をこちらへ向けながら、手を伸ばしゆっくりと歩み寄ってきていた。
みし、と床鳴りがする。
音のする方へ、反射的に眼が動く。
扉どころか、窓さえない壁の前に、スーシャが見た、仕立て屋の女将がいた。
やはり眼窩には眼がなく、口を大きく開きながら、ゆっくり歩み寄ってくる。
「おい、一体どうなってんだよ!」
バルデラスが言う。
「こいつら、いつからいた? いや、どうやってここへ入った!?」
その通りだ。
扉は開かなかったし、窓は閉まったままだ。そして掃除用具入れの中に、人が隠れられるような隙間はない。
だが、死んだはずの彼らが、歩み寄ってきている。
どうなってるの?
そんな疑問が浮かぶより早く、スーシャは切り裂くような悲鳴を上げた。
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