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2025/03/10 11:38 |
星への距離 11/スーシャ(周防松)
PC:スーシャ  ロンシュタット
NPC:バルデラス 団長 団員 団長の息子
場所:セーラムの街(自警団の詰め所)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一日の始まりに唐突なことがあると、しばらく唐突なことが続くらしい。
スーシャはちょっとだけ悟ったような気持ちになった。

今日という日は、唐突なノックの音で始まった。
その前に起きてはいたけれど、一日の行動の始まりはとにかくそのノックの音が合図
だった。
その後久しぶりの温かい朝ご飯を済ませ、片付けを手伝っているところへ団長が現れ
た。
彼の登場は唐突だった。
事件についてもう少し聞きたいことがあるから、詰め所まで来てもらえないか、とい
う話だった。
スーシャ一人を迎えに来たのかと思えば、団長は宿屋の主人に「ロンシュタットとい
う男がいると思うが」と尋ねた。
いる、と宿屋の主人が答えると、彼にも聞きたいことがあると言い、部屋まで案内す
るよう求め、二人で二階へと消えていった。
どうして彼に会おうとするのだろう?
スーシャは疑問に思ったが、団員が「行こう」とうながしたので、仕方なく詰め所に
向かった。

「ごめんねスーシャちゃん。家族が死んで一人ぼっちになったっていうのに、こんな
気苦労まで背負わせちゃって」

あまり掃除の行き届いていない詰め所。
事件について質問をしておけ、という団長の指示でテーブルについた団員は、開口一
番、すまなそうに告げた。
スーシャは何と答えたら良いのかわからず、小さく「いえ……」と答えた。

「団長、一体何を考えてるんだろう。これじゃまるで、弱いものいじめだよ」

ため息とともに吐き出された言葉に、スーシャはおそるおそる目を上げ、相手の表情
を盗み見る。
沈痛な表情。
それが安っぽい同情から来るものなのか、それとも親身になって考えてくれているの
か、まだ十二歳の彼女には読み取れなかった。

「あ、あの……」
「ん?」
「事件のことで、何を言えばいいんですか?」
「ああ、あれ。いいんだ。適当に時間つぶして終わりにしよ」

スーシャは目をぱちくりさせる。

「で、でも」
「団長の言うことはもう聞かないって決めたんだ。聞く必要ないよ」

そう言う団員は、嫌悪と苦悩がごちゃ混ぜになった、複雑な表情をしている。

「今の団長は、尊敬してついて行こうって決めた時の団長じゃない。何があったのか
わからないけど、平気で恐ろしいことを言ったりするし……。少なくとも、今の団長
を尊敬なんてできない。指示されたって従う気になれない」

「遅くなって済まないな」

その時、詰め所のドアを開けて団長が入ってきた。
団員は表情を固く引き締めて椅子から立ちあがり、一応の敬礼らしいことをする。

「何か聞き出したことは?」
「いいえ。役に立てなくてすいません」

答える団員の声は固い。
スーシャはうつむいたままだった。

(どうして嘘を言うんだろう……)

ただ、その思いだけは頭の中をぐるぐると回っていた。

「……そうか」

団長は追及することもなく、外套を脱いでフックにかける。
その後に入ってきた人間を見て、スーシャは思わず立ち上がった。

「あ……」

黒髪を無造作に束ねた、ロンシュタットという名の色白の青年。
スーシャが上げたかすかな声に気付いたのか、無表情ながらこちらにちらりと視線を
向ける。
(ど、どうしよう)
スーシャは内心アタフタし始めた。
声を上げたくせに、そのくせ特に話すこともなかったことに今更気付いたのだ。

「お、おはようございます……」

スーシャは取りあえず挨拶をした。
まったく間抜けな行動である。
ロンシュタットからの返事はない。
表情にも特に変化は見られない。
が、取りあえず拒絶するような空気だけは感じられない。

「仲は悪くないようだな?」

その様子を見ていた団長が意味ありげに呟く。
それはどういう意味合いだろうか、と考えたところで、

「父ちゃんっ!」

唐突に、詰め所のドアがバタンと開け放たれた。
スーシャはビクッと震えて体を強張らせたものの、ロンシュタットは特に反応を見せ
なかった。

入ってきたのはスーシャよりもずっと年下の少年だった。
何があったのか、ひどく取り乱している。

「父ちゃんヒドイよ! 今日は馬に乗せてくれる約束だったじゃないか、オイラずっ
と楽しみにしてたのに!」

言いながら、少年はみるみるうちに涙をあふれさせ、鼻声になっていく。
団長には訳あって離れて暮らす一人息子がいる。
どんな訳かはわからないが、こうして会う機会があるのだから、さほど深刻な事情で
はないかもしれない。

「父さんの仕事の邪魔をするんじゃない。馬だったら後ででも乗れるだろう」

団長はどこか冷淡に答える。
スーシャの目には、息子を邪険に追い払っているように見えた。

「何言ってんだよ、いっつも仕事に行く前に乗せてくれたじゃないか!」
「今は大事な話をしているんだ! 邪魔をするな!」

団長の大声は、相手をすくませるには充分な威圧感があった。
他人であるスーシャでさえ、まるで自分が悪いことをしているような気持ちになっ
た。
だから、怒鳴られている少年には、ひとたまりもなかった。
大好きな父親からの拒絶。
その事実だけが頭の中を一気に埋め尽くした。

「父ちゃ……っ……!!」

少年は、ついに大声で「ワーッ」と泣き喚き出した。
それでも団長は顔色一つ変えない。
いかに冷静沈着な人間だって、泣き喚く我が子相手にここまで無反応ということもな
いだろう。
スーシャの目には、団長が不気味な生き物のように見えた。

「団長、何も怒鳴りつけなくたって……」
見かねた団員が口を挟むと、
「人の家庭に口出しする権利があるのか?」
団長はどこか笑ったような顔で告げた。
「っ!」
その態度に、頭に血が上ったらしい団員が拳を握り締めて険しい顔をする。
(なんとかしなくちゃ……)
スーシャはスカートのポケットからハンカチを取りだし、少年におずおずと歩み寄っ
た。
「ねぇ、泣かないで……」
そっとハンカチを差し出すと、少年が目をカッと見開いた。
「触んなバカーっ!」
少年は乱暴にスーシャの手を払いのけ、わめいた。
完全な八つ当たりである。
払いのけられた拍子に、ハンカチが室内の隅の方に飛んでいった。
スーシャは手よりも胸が痛くて泣きそうになった。
慣れたとばかり思っていたが、誰かから拒絶されるということは、相変わらず心がえ
ぐられるような痛みをもたらす。
じわり、と視界が涙で歪む。
スーシャは、隅に飛んだハンカチを拾いに行ったついでに目の端をこっそりとぬぐっ
た。

「父ちゃんのばっかやろう! 大っ嫌いだ!」

泣きわめいていた少年は言い捨てると、大声で泣き喚きながら外へと飛び出して行っ
た。
それでも団長は平然としている。


――この時、ロンシュタットだけが「何か」を感じ取っていることに、誰も気付いて
いなかった。



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2007/11/07 01:22 | Comments(0) | TrackBack() | ○星への距離

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