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2024/05/17 03:20 |
易 し い ギ ル ド 入 門 【23】/シエル(マリムラ)
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『 易 し い ギ ル ド 入 門 【23】』 
   
               ~ 白と金の友人 ~



場所 :ソフィニア
PC :シエル ミルエ (エンジュ イェルヒ)
NPC:白髪の男
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 どこをどう通ったのか、影伝いに屋外を進み、研究棟へと辿り着くことが出
来た。途中で何人かの学生と顔を合わせたが、彼らは気付かないのかあえて無
視しているのか、こちらに興味を示さなかったし、遠くから「わー」と楽しそ
うに響く声も、遠くで走り回っている人参達だとミルエに教えられ、シエルは
何も聞かなかったことにした。
 取り立てて何も無い、夕方の風景だ。



「そういえば、あなたの名前を聞いていないわ」

 無事に研究室とやらに通されたシエルが、回転椅子に座らされた状態で問
う。
 お嬢様風の彼女は、ピンセットでつまんだ白いコットンに何かを染み込ませ
ながら顔を伏せて座って、忍び笑いをもらした。

「そうでしたかしら」
「ええ、聞いてないわ」

 彼女が浸していたのは消毒液らしく、つまんだソレでシエルの傷をなぞる。
地味に痛い。
 シエルが憮然とした表情になったのは、彼女の消毒がやたら滲みるせいか。
それとも彼女がはぐらかそうとしたせいか。小さな傷口を丁寧に消毒しなが
ら、彼女が言った。

「でも、名乗る必要ってありますの?」

 消毒するたび、体に緊張が走る。それを楽しんでいるようにも見える彼女に
半ば呆れながら、シエルは答えた。

「じゃあ、なんと呼べばいい? 変な名前付けるわよ」

 意外な答えだったのか、面白いと判断したのか。彼女は手当てを中断し、顔
を上げてシエルを見た。変わらずの値踏みするような視線の後に笑みが浮か
ぶ。

「それは確かにイヤですわね。なかなか面白いお方」
「それはどーも」

 褒められている気はしないが、とりあえず認めては貰ったらしい。にーっこ
りと笑顔で返す。彼女は心なしか楽しそうに、そして優雅に一礼すると名を名
乗った。

「ミルエ。ミルエ・コンポニートですわ。植物の育成を研究していますの」

 つられてシエルも礼をする。

「シエルよ……って、知ってるわよね。一応冒険者ギルドに登録したばかり」

 苦笑ついでに肩を竦めると、粗方消毒は終わったのか、ミルエは応急セット
を片付け始めた。そして、何やら小さな壷を取り出してくる。

「シエル、とお呼びしますわね。裂け目が酷い一部に軽度の火傷があります
の。コレを試してもよろしくて?」
「試し……って、一体何なのよ、ソレ」
「ただの火傷用軟膏ですわ。天然植物性ですのよ」
「でも、試しなのね……」
「ええ、試しなんですの」

 一言一言全てが遊ばれているような気がする。軽い頭痛を感じながらも、シ
エルはされるがままにすることにした。

「アナタを信じるわ、ミルエ」
「まあ、初対面の人間をそう信用してもよろしいのかしら」
「毒を盛るならさっきの段階でも充分出来たでしょ。だから信じる」

 シエルは自分でも裂け目が酷いと感じた右腕を差し出した。目が合ったミル
エは一瞬驚いたようにも見えたが、すぐに表情が読めない笑みに戻る。不思議
なお嬢様だ。

「シエルは素直ですのね」
「痛っ……!!」
「ああ、うっかり言い忘れましたけど、かなり滲みますの。でも効き目は保障
しますわ」
「……わざとでしょ」
「あら、シエルは私のこと信用してくださったのではなくて?」

 そういって笑うミルエは本当に楽しそうで。人をおもちゃにするのが楽しい
のか、少しでも心を開いてくれたのか、シエルには分からないままだった。



 コンコンコン。
 三度のノックが扉を叩く。誰が訪ねて来たのか分かっている、とシエルに目
で合図し一つ頷くと、ミルエは薄く扉を開けた。

「どうなりまして?」
「学院内で遭遇はもうないと思うゼ?」

 そう悪巧みが成功した子供のように笑った男の声は大きく、室内で対応して
いるミルエの声よりよく響く。隙間からチラッと見えた白髪の男は、同じく垣
間見えたであろうシエルに対して、楽しそうに、そしてやたらと下品に口笛を
吹いた。

「貴方のおもちゃには差し上げられませんわ」
「めーずらしい」
「私達『友人』ですもの」

 振り返って、にっこり、とミルエが笑う。楽しそうだがソレが怖い。シエル
が若干引きつった笑みで返すと、扉の向こうの男と目が合った。
 僅かに額が紅く見える。壁にでもぶつけなければああはなるまい、と考え
て、対象が壁ではなくイルランであることを理解した。ああ『遭遇はもうな
い』とはそういうことか。シエルの引きつった笑顔が噴出す笑いに変わる。イ
ルランなど、割れるような痛みに頭を抱えて宿でゆっくり寝ていればいいの
だ。想像するとおかしくてしょうがなかった。

「あら、察しがいいですこと」

 ミルエのほうこそ察しがいい。噴出したシエルの思考経路を読みきっている
のだから。
 男はにんまり笑うとその場を後にした。


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 日が暮れてどのくらい経ったろう。まだそんなに時間は経っていないはずな
のに、シエルは例の温室で睡魔と格闘していた。
 治療が済むとミルエはシエルに学士用のレトロなガウンを羽織らせ、再び西
日に当たらないよう注意を払いながら温室へ戻ってきて指示したのだ。温室内
の湿度を上げて下さいな、と。シエルは温室を霧で満たすと、それからずっと
集中を切らさないようにしている。

「人使いが荒いわよ、ミルエ……」
「あら、約束したのは貴女ですわ」

 シエルがいくら風や天候に関与出来るといっても、風は元来一所に留まらな
いモノである。しばらくはミルエの指示で温室内の湿度調節をしていたが、こ
うも長時間に亘っての『風』の使用に、シエルも疲労を重ねていた。

「霧で一度満たせばしばらくは持つじゃない」
「あら、それでは一定を保つことは難しいんじゃなくて?」
「水遣りが必要なら、雨を降らせれば早いのに……」
「今は直接水で濡らさずに経過を観てますの」

 ミルエは一向に取り合ってくれない。シエルは目を擦り、若干揺れを感じる
体をミルエに向けた。

「私このままじゃ寝るわよ、ココで」
「まあ、ソレは困ってしまいますわ」
「……いや、冗談言ってる余裕ない」
「仕方がないですわねぇ、まだ全然約束を満たしてませんのに」

 のうのうと答えるミルエの両肩に、目の据わったシエルが手を置いた。

「抱きついて離さないまま爆睡してやるわよ……」

 さすがに本気が通じたのか。それとも遊ぶのに飽きたのか。

「では、続きは明日でよろしいわよね?」

 ミルエは軽くシエルを押し戻しながら、にっこり、と例の笑みを浮かべた。
結局、明日の日が落ちる頃に再び手伝う約束をさせられてしまったのだ。反論
する気力も尽きた。

「いいわ……でも、今日は宿に帰ってゆっくり寝たい」
「わかりました、誰かに送らせますわ。宿の名前は?」
「クラウンクロウ……」

 集中を解いて楽になったものの、気を張らないおかげで睡魔がどっと押し寄
せてきた。自然と舟を漕ぐような形になって、慌てて壁に手を付く。

「まあ、大変」
「だからミルエのせいだって……」

 風を使ってひとっとび、というわけにはいかなそうだ。送ってもらえるとい
うのならそれに甘えるほかないだろう。
 そんなことをぼんやりと考えながら、シエルはまどろんでゆく意識を少しで
もはっきりさせようと、小さく欠伸をした。
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2007/02/12 17:10 | Comments(0) | TrackBack() | ○易しいギルド入門

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