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2024/11/01 08:03 |
易 し い ギ ル ド 入 門 【24】/ミルエ・アルフ(匿名希望α)
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『 易 し い ギ ル ド 入 門 【24】』 
   
                   ~ 睡眠不足にご注意を ~



場所 :ソフィニア魔法学院-温室
PC :シエル ミルエ (エンジュ イェルヒ)
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 あくびをしているシエル。
 気を抜くとまぶたが下りるのか、時折まばたきを繰り返している。
 その様子をクスリと笑うも「アンタのせいよ」という恨めしい視線が帰ってくる。

 送らせるのは誰がいいか。
 こんな美女を送るのだ。自分の友人?である彼らが断るはずもないと勝手に判
断する。
 シエルに選ばせる?

「胡散臭い男と騒がしい男と何も言わない男、誰がいいかしら?」

 睡魔と闘っているシエルの動きが止まる。
 一時考えたあとミルエを正面から見据えて聞き返した。

「ごめん、もう一回言ってくれる?」

 意味が解らなくて聞き返しているのだろうが、眠くて聞き取れなかったのです
わね、と内容が理解できなかった理由を面白いと思う方向に解釈する。

「仕方ないですわね。胡散臭い男と、騒がしい男と、何も言わない男。誰がいい
かしら?」

 選択肢のところで少し間を置いて喋る。
 只でさえ男の所為でこの状況になったシエルの心境をまったく考えていない発
言に眉を寄せる。
 眠いがまだ判断力はなんとか保っている。要は男を選べと。

「……何ソレ」

 ミルエは腰に手を当てて、ルールを説明するかのようにはっきりと言う。
 その表情は自身ありげといわんばかりだ。何故えらそうなのかはわからない。

「何もなにも、シエルを宿屋へ送る護衛ですわ。誰がいいのかシエルに選んでも
らおうと思いまして、私のお奨めは……」
「何も言わない男」
「あら、いいんですの? 会話がないと寝てしまいますわ」
「いいの」

 ミルエの勧めの言葉を遮り即答。
 それでも心配そうに覗き込んでいるミルエ。良く見れば口の端が歪んでいるが
シエルはそこまで確認できなかった。

「ミルエあんたね、わかってるの!? 私はあの馬鹿エルフの所為で困ってんの
よ! 胡散臭い考え方もイヤ!煩くてしつこいのもイヤ!」

 ミルエの覗き込む視線を交わすようにのけぞり、地団駄を踏むような勢いで拒
絶する。
 友人を表現した言葉は、天敵となっているイルランをイメージさせるものだっ
たらしい。
 即答したのもうなずける。

「イヤイヤだらけですわね。でもイヤよイヤよもス…」
「ミルエ!」
「冗談ですわ」

 あぁ、とミルエは閃いた。

「寝てしまったら……抱きかかえて送ってもらうというのもいいですわね」
「……絶対寝ない」

 ふふ。とシエルの無愛想に眠たそうな表情に軽く笑みを零すミルエ。
 出口の方向に進み出て、シエルに手を差し伸べる。

「では行きましょうか」


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 研究棟でも離れになっている建物……調合などを扱う研究棟、通称「錬金棟」

 空振りは避けたいミルエ。風に問いかけ風が囁く。
 ちょっとひねくれた答えが返ってきたが事実は把握できた。

「居るようですわね」
「何も言わない男って言ったけど、大丈夫なの?」
「何を心配しているのかわかりませんが、大丈夫ですわ」

 少々精霊さんに嫌われていますけど、と付け加える。シエルは「ふぅん」と相
槌を打っただけだった。
 何が大丈夫なのだろう?ミルエもシエルもよく考えていないだけかもしれない。
 私は大丈夫ですけど、シエルは大丈夫かしら?と頭の隅で考えながら連金棟に
足を踏み入れる。
 錬金棟内は、消毒液が散布されたような少し異質な香りが漂っている。
 訝しげにシエルはミルエの名前を呟くが「こういう所ですわ」と軽く返した。
 靴の音が建物にあまり反響しない。

「アルフ。いらっしゃるのでしょう?」

 ドアをノックしながら部屋の中に問いかける。
 シエルはこの研究室の表札を確認する。「ラボ アルフ・ラルファ」と少し右
に崩れた字で書いてあった。
 室内からガラス質が擦り合うような音が聞こえた後、ドアが開く。

「要件は」

 挨拶もナシに切り出す赤髪の男。アルフ・ラルファ。
 今はめがねをかけていないようだ。白衣を羽織っているということは何かの作
業中だろうか。
 推察はするがそれ以上はない。

「彼女をクラウンクロウまで送って欲しいの。宿屋ですわ」

 ミルエもアルフにあわせているのか挨拶はない。
 アルフはちらり、とミルエの脇に立っているシエルを見やるがすぐに視線を戻す。
 まじまじと見つめられる事はあっても、流される事は少ないのだろうか。
 目を軽く見開いた後に逆に目を細め「へぇ……」と呟く。

「彼女のお陰で新たな栽培方法が確立できそうですわ。理論は成ってましたけど
実証がまだだった低温高湿度での……」

 と言ったところでアルフはミルエの意を汲み「了解した」と短く答えた。

「では今からお願いしますわ。私の友人ですから丁重に。あぁ『お姫様ダッコ』
というのも憧れますわね」
「だからヤメテ」
「問題ない」
「あなたも否定しなさいよ」
「……」

 アルフの返事は「今から」という部分に対するものだった。少し会話がかみ
合っていない。
 否定する要素が見当たらないアルフに表情の変化はなかった。
 ミルエはクスリ、と笑った後に真顔に戻る。

「注意事項は二つ。彼女は追われていますので、あまり人目のつくところにはい
かない事。殺傷する類ではないので争いの心配はありませんわ。それと、彼女は
日光に弱いので日のあたる所は通らないこと……と言っても大分日が傾いています
わね」

 三人は共に廊下の外からもれてくる日差しを眺める。
 その色はすでに赤みを帯びていた。

「あぁ、あともう一つ。彼女は極度の睡眠不足状態ですので、途中で眠ってしま
わないようにお願いしますわ。眠ってしまったほうが絵的は良いのかもしれませ
んけど」

 夕暮れの空の下、白銀の姫を抱いて歩く騎士……、などと呟くミルエ。
 ピクリ、と反応するのはもちろんシエルだ。

「寝ない」
「惜しいですわね」
「そんなに寝て欲しいならミルエに抱きついたまま寝るわ」
「私にそちらの趣味はありませんけど……シエルなら悪い気はしませんわね」
「今。ここで」
「それでは動けなくなってしまいますわ」
「ミルエのせいなんだから自業自得よ」

 シエルにとっては死活問題、ミルエにとってはただの雑談だが、学院内ではな
かなか見られない光景。
 『絶対四重奏』と呼ばれる彼らとの雑談でもミルエのこういった感情の起伏は
稀だった。
 その間もアルフは出る準備をしていた。作りかけていた混合物を乾燥棚に上
げ、広げていた薬剤を元の位置に戻す。流れで白衣を脱ぎコートに換えた。

「……」

 無言のまま部屋を出てドアの鍵をかける。
 そのまま錬金棟の出口へと歩き始めるアルフに、シエルは怪訝に思うが「私達
も行きましょう」とアルフの後に着いていくのを即す。
 一言もなしに行動を開始したアルフに驚きつつも「そうね」と軽く返して歩き
始める。


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「シエル、明日もお願いしますわね。研究室で待っていますわ」

 錬金棟の出口で分かれることになる。ミルエは留まりシエルを見送るつもりの
ようだ。
 赤暗くなってきた空。伸びる影。
 アルフはすでに学院出口へと向っており途中で振り返った体勢で待っていた。

「ホントに何も言わないわね……」
「ふふ。それではごきげんよう」

 手をひらひらさせながらミルエと別れアルフの後に続くシエル。アルフは追い
つくのを確認すると再び歩き始めた。
 シエルの少し前方を行くアルフ。顔が見えることなくアルフが振り返ることも
ない。
 日光に弱い、という話だったので夕日とシエルの間に立つように歩く。
 この辺りは学院の寮に近い手前、関係者ぐらいしか通らない。人通りが少ない
が、こちらに歩いてくる人物がいる。
 目つきの悪い金髪の男。人外であることを示す長い耳。
 認識はある。学院に所属している有名なエルフ。イェルヒ。ミルエが何回か
ちょっかいを出しているようだが、アルフには関係ない話であり、今は係わり合
いもない。
 目が合った。お互い自然に視線をはずし、そのまますれ違う。
 シエルが一瞬体を震わせたようだが、それ以外何も無かったのでアルフは気に
することなく歩き続けた。

 宿屋クラウンクロウ。直行するならこの道を道なりに進めば大通りに当たる。
 人目のつくところはよくないらしいのでアルフは迂回路を取る。
 それにあわせてシエルもついてくる。
 夕暮れ時の建物のお陰で日陰が多い。道が細ければその分日陰も大きくなる。
日差しを気にする必要がなくなってきた。
 気がかりが「睡魔」の事ぐらいか、と少し間を置いて歩くシエルを確認する。
 歩いてはいるが少しおぼつかない欝な表情。
 一旦足を止めてシエルを待つ。ふらついた足取りだったがアルフが立ち止まっ
ているのに気づく。

「大丈夫よ」

 アルフは彼女のセリフを無視し、距離を詰めて移動を開始する。シエルも何も
言わず歩き始める。
 先程まで自分のペースで歩いていたアルフは、歩調をシエルにあわせる。だが
それがまずかった。
 ついていくという程よい緊張感があったのだが、意識していない軽い緊張感が
抜け落ちる。

 宿屋まで半分を過ぎた。

 何事もない裏通り。雑踏の喧騒が少し遠くきこえる。
 会話もなく刺激もないこの環境。それがシエルの睡魔を助長し、歩きながらも
舟を漕ぐようになった。
 シエルの歩調を覚えたアルフはその速度で動いているが、それでもシエルは遅
れ始めた。
 その度に元々赤い目を擦りアルフに追いつく。
 だが、何度か繰り返しているうちに、ふら付いた拍子にアルフにぶつかってし
まった。

「あ、ごめ……っ」

 その拍子に目が覚めたのだが元に戻ろうとした反動と目が覚めた反動が重な
り、逆方向に大きくバランスを崩してしまう。アルフはすかさずシエルの背中に
手を回した。

「っ」

 社交場のダンスのような体制で、二人は一瞬固まった。
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2007/02/12 17:10 | Comments(0) | TrackBack() | ○易しいギルド入門

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