忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/16 12:47 |
光と影 第一回「決意の旅立ち」/ヴォルボ(葉月瞬)
PC:ヴォルボ (ウェイスター)
NPC:キャサリン デブスな少女
場所:ドワーフ村(過去)~ソフィニア市街
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 村を出るときは、単純な理由だった。
 結ばれる予定であった村娘が気に入らなかったからだ。
 彼女の名前はキャサリン。村一番、否、ドワーフ族一の器量良しとして、一
族の男共からもてはやされていた。キャシーと言う愛称で呼ばれて親しまれて
いる。
 ヴォルボはそんな彼女との婚約を破棄する事に何の躊躇いもなかった。理由
はいたって単純。彼はブスと呼ばれるような女性の方が、好きだったからだ。
しかも、肥っている、という事項も追加されていた。
 つまるところ、キャサリンは振られたのだ。
 キャサリンは、喜んで村を出ていくヴォルボの背に向かって泣き叫んで、引
き留めるためのありとあらゆる言葉をその背に浴びせた。

「待って! いかないで! 私を置いていかないで! ヴォルボ――!」

 ついでに、私の何処が嫌なの? と質問もぶつけてきた。
 答えられるわけが無い。お前の器量良しなところがだよ、と。そんな酷い
事、言える訳が無い。言ってしまったらキャサリンの心を砕いてしまうだろ
う。そんな事はいくらなんでもヴォルボの良心が許さなかった。
 キャサリンを気に入らない理由がもう一つあった。
 それは、両親が自分を無視して勝手に決めた縁談だったからだ。ヴォルボに
とって両親――家族と呼べる者達はすべからく嫌悪すべき対象だった。何故か
彼に対して家族達は辛く当たるのだった。蔑まされ、自分の自由になる物など
一つも無かった。そんな家族達が勝手に縁談を組んだのだ。よりにもよってキ
ャサリンなんかと。自分は腹が立ってしかたが無かった。キャサリン自身には
恨みも辛みも無いが、いかんせん家族同士が組んだという部分が気に食わなか
ったから当の縁談を蹴って村を出立せざるを得なくなったのだ。
 キャサリンの家は金持ちだった。最近家庭内で資金不足が目立ってきたもの
だからここぞと言わんばかりにキャサリンと結婚させようと企んだのだろう。
その目論見も当てが外れる事になるのだが。ざまあみろだ。
 ヴォルボの実家は地主だった。キャサリンとは幼馴染で、キャシーのほうは
ヴォルボに気があるようで、幼き頃から常に「私、大きくなったらヴォル君の
お嫁さんになるの」と言っていた。美的感覚が他人と一線を画しているヴォル
ボにとって、その言葉は恐怖と呪いの言葉だった。
 そんな恐怖の対象、キャサリンから離れられる。これほど嬉しい事はない。
思わずスキップを踏みたくなるほどだ。いや、踏まなかったが。
 食い扶持を稼ぐのは案外容易だった。冒険者ギルドには登録済みだし、自慢
の装飾品はそのなりに似合わず何故か好評だったからだ。主に奇抜なデザイン
を好む奇天烈な収集家が買っていくのだが。
 ドワーフは基本的に樽体型だと言われている。胴長短足で身長が1mしかな
いくせに、胴回りが太いからだ。樽と揶揄されるもう一つの理由に、いくら酒
を飲んでも酔わない、という体質がある。少なくとも人間の作った酒では酔え
ないのだ。
 ドワーフは、ドワーフの作った火酒でしか酔えないというのが通説だった。
 ヴォルボはそんなドワーフの例に漏れず、樽体型で胃袋や肝臓も樽並だっ
た。当然ドワーフの造った酒、火酒でしか酔えないし、手先も器用で細かい仕
事が得意だった。主に装飾品作りに秀でていたが。だが、いかんせん他人と美
的感覚が正反対に違うからその作り出す装飾品もゲテモノになりがちだった。
それでも、その世間一般的には余り美しいとは言い難い装飾品も好事家には受
けが良かった。

 そんな昔の事に思いを馳せながら、ヴォルボはエールを煽っていた。勿論、
仕事帰りの一杯だ。エールを煽るついでに、壁に貼り付けてある依頼書を流し
で見る。どれも然して大したことのない、儲けの少ないごくごく簡単な依頼ば
かりである。
 ここはソフィニアの冒険者の酒場。二階が宿屋になっている典型的な冒険者
の溜まり場である。通りには“トラベラーズイン”と銘打った看板が乾いた風
に靡いている。
 世間様では“行方不明事件”などという大層な事件が頻発している頃、ヴォ
ルボは自作の装飾品を売って生活費に当てていた。その仕事の帰りに立ち寄っ
たのだ。この、冒険者の酒場に。
 酒場ではいつもの如く、喧騒に満ちていた。
 冒険者という仕事柄、皆お上品とはかけ離れた存在なのだ。
 欠けた歯を思い切り見せびらかしてガハハと笑っている者も居れば、大人し
く酒をちびちび飲んでいるものも居る。中にはカードゲームで金をつぎ込むも
のも居て、それはそれは見ていて楽しそうである。しかし、ここは冒険者の酒
場。普通の酒場と違うところは、半数近くが酒場に張り出されている手配書を
物色しているところである。かく言うヴォルボも手配書を物色していたが。
 だが、然して大した依頼もないので、ヴォルボは酒場を後にすることにし
た。とりあえず、ギルド支部にでも寄ってみることにしたのだ。

 酒場を出て裏通りの入り口に差し掛かったとき、突然少女の泣き声が聞こえ
て来た。よくよく耳を澄ませてないと聞こえて来ないような小さい、か細い泣
き声だった。

「しくしくしく」

 裏寂れた裏通りで少女が一人泣いていた。
 ヴォルボが声を掛けてみると、少女が振り向いた。ヴォルボの心はときめい
た。
 彼女は世間一般で言うところの醜悪な顔を晒していた。鼻は低く丸まってい
て、両の目は位置が微妙にずれている。唇だけが薄くて小さくて可愛らしかっ
た。しかし全体的に太目だったため、顎が二重顎になっておりそれを台無しに
していた。

「ど、どうしたんですか?」

「しくしくしく。私、少し前に誘拐されたんだけれど、私みたいなブスでデブ
な女は必要ないって放り出されたの。あんまりだと思わない?」

「それはあんまりな言い様ですね。貴方のような可憐で美しい少女を捕まえ
て」

 ヴォルボの目には彼の少女が可憐で美しく見えていた。
 彼女は誘拐の一部始終を話してくれた。
 要約すると、こうだ。



   *■□*



 彼女はある日街を歩いていたら、突如として転移魔法で飛ばされたのだとい
う。瞑っていた目を開いてみると、目の前には今まで見ていた街の景色とは打
って変わって荘厳で重厚な造りの広間みたいなところに出たのだという。左右
には円柱が立ち並び、部屋の中央には黒尽くめのローブを身に纏った人間が
4、5人は居たという。彼らは中でも飛びぬけて贅沢な作りの黒ローブを身に
纏ったリーダー格らしき人物のいう事を聞いていた。そのリーダーらしき男は
大きな魔方陣を前に両手を翳していた。その魔方陣の前にはなにやら台座らし
きものがあつらえてあった。
 男は振り返って厳かに言った。

「ようこそ。生贄の少女よ……」

「……生贄……?」

 少女が疑問を口に出しても、それにはまったく反応を示さずにただ一点を見
詰め硬直している男。出る言葉がない、開いた口が塞がらない、といった風体
だ。

「……」

「……」

「……おい。これは何の冗談だ?」

「はっ。見ての通り、生贄の少女、でございます」

「そんな事を聞いているのではない! 問題はその顔だ! 生贄の少女と言っ
たら、そら、あれだ。美少女と、相場が決まっているではないか! それが、
何だ! この、……不細工な造りはっ!」

 男はそこまで一気に捲くし立ててぜいぜいと息を整えると、少し落ち着くよ
うに胸を撫で回した。

「まぁ、あれだ。……コホン……。このようなブスでデブな少女は役に立た
ん。あのお方もきっと満足されんだろう。……返してきたまえ」

「え? 今何と?」

「返してきたまえと言ったんだ! 何度も言わせるな!」



   *■□*



「…………と、こういうことなの」

「あのお方って、何だ?」

「さぁ? 私にも解らないわ。でも、とても邪悪な匂いがしたの」

 それを聞くと、ヴォルボは突然少女の手を両の手で力強く握り締め煌びやか
な瞳で力強く言った。

「よし、その問題、ボクが解決してあげますよ。安心して下さい」

 一体どんな問題をどう解決しようとしてるのか。それは、彼自身にも解らな
かった――。

PR

2007/02/12 17:15 | Comments(0) | TrackBack() | ▲光と影

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<易 し い ギ ル ド 入 門 【24】/ミルエ・アルフ(匿名希望α) | HOME | 光と影 第二回「その男、いい加減につき」/ウェイスター(ノーマン)>>
忍者ブログ[PR]