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2024/04/30 05:52 |
易 し い ギ ル ド 入 門 【20】/ミルエ(匿名希望α)
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場所 :ソフィニア
PC :シエル ミルエ
NPC:イルラン
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 これは楽しいことになりそうですわね。


 感じたのは風だった。
 自然に近い風だったが、流れが異質。
 かといって精霊や魔法要素を含んでいるわけでもない。
 一体コレは?
 その後に何か重いものが地面に落ちた音が聞こえる。
 何か落ちたのだろうか。
 確かめに裏へ回ると、その落し物は木陰を気にしながら移動している白髪の美
女だった。

「……ええと、匿ってくれない?」

 その美女は追われているらしい。だからミルエはクスリと笑う。
 これは楽しいことになりそうですわね、と。


 先程の風で思い当たったこと。
 植物の育成を研究しているミルエにとって、空気や水は密接した関係にある。
 精霊への干渉度が低そうな自然界に近い風。
 気ままな精霊・妖精は自分がやっていることに対しての干渉を嫌う。
 精霊魔法を駆使して成長過程を促進させてはいるが、その他の面にはなかなか
手が回っていないのが現状だ。
 育成を促進させつつ適度な温度や湿度の調節が出来れば……。

「使えるのは風だけかしら? 水が使える人を探しているのですけど……」
「霧や雨なら多少。水単独では使用経験がないわ」

 好都合だった。
 ふふ、と笑みを漏らしながら白髪の美女を眺める。
 木にブツかって落ちたままの姿、彼女の黒い服のところどころが破けている。
 よほど急いでいたのか、ただの失敗か。見つめながら考えるが答えはでない
かった。
 ただ、することは

「では、協力してくれるのなら手当てしてさしあげますわ」

 交換条件を取り付けること。
 彼女のような異質なものを簡単に手放しては面白くない。
 せっかくの出会いを楽しんでみよう。

「今日中に帰れる?」

 あなたを見極めてから考えますわ。と心の中で呟いてミルエは少し笑った。

「協力しだいですわね」

 差し伸べた手を、彼女は手に取った。


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『 易 し い ギ ル ド 入 門 【20】』

              ~ 逃走には細心の注意を ~



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「こちらに逃げ込んだようですけど、まだ追われていますの?」

 次の行動を考える。
 彼女の手当てをするのを先にしたい所だが、そうもいかない都合がある。

「……私としては早くここを遠ざかりたいんだけど」

 相手はしつこいらしい。
 彼女は緊迫した表情ではなく、うんざりとした感じで眉間にシワを寄せている。
 ミルエはせっかくの容姿が台無しだと思いながら、顎に指を当てて意識を頭の
隅に集中する。

「仕方ありませんわね、私の研究室へ向いましょう。そう遠くないところですけ
ど、私(わたくし)の知り合いしか訪れませんわ」

 知り合いが彼女を追っているということもあるが、追い返すことは容易だろう。
 互いに、決めたことなら押し通す知り合いばかりだからだ。
 相手がそれを知っているからこそ、深くは踏み入らないだろう。
 踏み入れば互いに実力行使になるだろうことを。

「匿ってもらう手前、あまり文句も言えないわね」
「それでは行きましょうか」
「あ、ちょっと」

 一歩を踏み出そうとした時に彼女がミルエの手をとって止める。
 ミルエは少し不服そうに「何か?」と振り返った。

「日差しのない所を通ってもらえないかしら。私は日光を浴びると火傷を負う体
質なの」

 その一言に「まぁ」と驚きの表情を上げ「それは大変ですわね」と付け加えた
後、空にある太陽の位置を確認する。
 さらに校舎を眺めた後に「こちらですわ」と歩き始めた。
 進路方向には日陰が続いているようで、彼女もミルエの後ろに続いていく。

「貴女を追っているというのはどのような方なのでしょうか?特徴がわからなけ
れば気をつけることもできませんわ」
「馬鹿エルフ。金髪。男」

 嫌悪感をたっぷり含んだ彼女のセリフにミルエは思わず笑う。
 それを感じたのか彼女はむすっとした表情になった。

「あんなのに付きまとわれる身にもなってみなさいよ……」

 恨めしそうに軽く睨みながら呟く。相当キてるらしい。
 深いため息が聞こえてくるようだった。

「貴女のお名前を伺ってもよろしいかしら?」
「あ……私は」
「シエルさーん!どこですかー!」

「「……」」

 唐突に会話をを止める二人。思わず歩みも止める。
 叫んでいる声の主は見当たらないが、周囲一体に響いている。
 名前を呼ばれる側としては恥ずかしくてたまらないだろう。

「アレですの?」
「アレです」

 眉間をを押さえて悩めるポーズな白髪な彼女。
 良く見ればワナワナ震えているようだ。
 すでにアレ呼ばわりしているミルエだが、それ相応の価値があると判断している。

「貴女のお名前は?」
「シエルです」

 名前はすでに解ったのだがあえて聞きなおすミルエ。シエルは疲れた表情で顔
を上げつつ答えた。
 本当に疲れているのだろう。その宝石のように紅い瞳も、すすけて見えるよう
だった。

「親切な方ですわね。追っ手の居場所と貴女のお名前を教えてくれたんですもの」
「なんで!?」
「冗談ですわ。大声を出すと気づかれてしまいますわよ」

 う、ぐ。と言葉に詰るシエル。ふふ、と少し冷ややかな笑いを浮かべるミルエ。
 不信感あふれるシエルの視線を受けつつ「確かに馬鹿ですわね」と呟いた。
 すなわち「待てと言われて待つヤツがいるか」という事だ。
 逃げているというのに相手の名前を叫んでは余計逃げるに決まっている。
 しかし確実にこちらに向っているという困った現実がある。
 この辺りを通らねば日陰伝いで研究棟に入れない。

「魔法で認識をごまかそうにも、相手はエルフ。ごまかせる相手かしら?」
「多分無理。私の風も打ち消してたし」

 にっこり、と。ミルエが笑顔を浮かべた。
 綺麗な笑顔だというのに、シエルは何故かビクリと体が震えた。
 楽しそうな雰囲気なのだがそれが怖い。そんな印象を与えるフシギな表情。
 シエルは知らないが、学園内の一部で知られる「何かイイ事を思いついた時」
の顔。
 何か言おうにもあまり声が上がらない。

「では、あの方を”説得”してきますわ。ここで待ってていただけます?」
「え、えぇ」


 気分はクスクス笑ってゴーゴーである。


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「本当にどこに行ってしまったんだろう。大きな音もしていたし……怪我をしてい
たら大変だ。早く手当てをしないと」

 少し焦りの表情を見せているエルフの青年が周囲を見回しながら歩いている。
 駆け足できたのか少し息が上がってる。
 すぅっと息を吸い込み、また声を張り上げた。

「シエルさーん!」
「私の友人の名前を叫ぶのは貴方? 恥ずかしいから止めてくれないかしら」

 腕を組んで憮然とした表情でミルエが声をかける。

「あぁすみません。貴女は?」
「シエルの友人ですわ」
「大変なんです!シエルさんが壁を越えた拍子に大きな音がして……怪我をしてい
るかもしれません!」

 叫ぶなというミルエの忠告は全く聞き入れられていなかった。

「知っていますわ。手当てしましたもの」

 まだ手当てはしていない。ミルエは平然と虚実を言ってのける。
 予定された事実なのだからと勝手に括っていた。
 彼はミルエの言葉に驚きと喜びを露にし、ミルエのほうに進み出た。

「本当ですか!彼女は無事ですか!」
「かすり傷程度、心配なさらずとも大丈夫ですわ」

 近づき過ぎたところをミルエが手で制する。
 彼は「これは失礼」と間を置きなおし深く安堵の息を漏らした。
 うつむき加減の微笑みが本当に心配していたことを伺わせる。

「よかった……では彼女に会わせてください」
「必要ありませんわ」

 一転、彼が驚きに染まる。
 ミルエの言葉の意味が理解できないのか、まばたきをニ、三回繰り返す。
 頭の中で言葉を反芻し、処理を行うよう回す。一間あいてようやく意味が彼に
浸透する。

「何故です?」
「会わせる理由がりませんもの」

 これは事実だ。
 むしろ拒絶の理由が挙がっている。
 質問に対して即答。ミルエの表情は憮然としている。

「理由ならあります。私が会いたいんです。無事を自分の目で確かめたいんです」
「それは貴方の希望。私が貴方をシエルに会わせる理由ではありませんわ」

 熱を持った発言で応対する彼だが、お話にならないと切って捨てるミルエ。

「ではどうすれば貴女は私をシエルさんに会わせてくれるのでしょう」
「そうですわね……貴方が二度とシエルに会わないと誓ってくださらないかしら?」

 口調と表情にそわない発言をするミルエ。内容のせいかかギャップのせいか、
彼は即座に理解出来なかった。
 ミルエの発言の一つ一つが彼の思考を走らせる。
 答えは一つだろうというのに彼はしばらく考えた後にやっと答えをだした。

「それはできません。私はシエルさんに会いたいんです!」
「では無理ですわ」

 が、にっこりと嬉しそうに微笑むミルエに呆然とする事になる。
 だが彼は律儀にもミルエを押しのけてでも、という思考はできないようだった。
 苦虫を潰したような表情へと変わっていく。この壁は厚いと感じたのだろうか。

「貴女はまるで物語に出てくる悪い魔女のようだ」
「貴方はまるで物語に出てくる性質の悪い王子様のようですわね」

 悪態をついた即座に反撃を食らい、言葉に詰る。
 ミルエは追加で言葉を添えた。

「ついでに頭も悪い……なんていう事はありませんわよね? ”エルフ”なんですから」
「失敬な!」

 直接的に罵倒された事はないのだろうか、種族を持ち出され過剰に反応する。
 あからさまな敵意を叩きつけるがミルエは涼しい顔をしている。むしろ高圧的
な笑みを浮かべていた。

「では、そう思われないように振舞ってくださらないかしら?今の貴方のような
エルフばかりだと……私はエルフという存在自体を改めて考えなくてはならなくな
りますわ」

 わざと深いため息をつき困惑な表情をする。
 猛進している彼にはこれが演技だと気づくだろうか。
 彼が口を開こうとしたその時、ミルエはさらに言葉を重ねた。

「それと……ここは部外者立ち入り禁止ですわ」
「君。ちょっとこっちに来なさい」

 ポムリ、と彼の肩を叩くのは警備員の格好をした白い短髪の男。「ニィちゃん
ちょっと事務所イこうか」という顔をしていた。
 ミルエとのやり取りを聞いていたのか、相当ご立腹な様子である。
 あれだけ騒いでいれば人目につかない道理はない。

「わ、私は会うべき人がっ」
「ルールやマナーを守れない、事はありませんわよね?」
「ぐっ……」

 それではごきげんよう。また会いましょう。
 にっこりと微笑みながら連行されていく彼を眺めながら”聞こえるように”呟いた。


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 木陰に隠れていたシエルの元に戻ってきたミルエ。
 その表情は何事もなかったかのように平然としていた。

「さぁ、行きましょうか」
「え、えぇ……」

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2007/02/12 17:09 | Comments(0) | TrackBack() | ○易しいギルド入門

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