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2024/05/17 06:57 |
易 し い ギ ル ド 入 門 【21】/エンジュ(千鳥)
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『 易 し い ギ ル ド 入 門 【21】』

              ~ かしましき女たち ~

場所 :ソフィニアの酒場
PC  :エンジュ イェルヒ (シエル ミルエ) 
NPC :ナンシー
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 「同族なら誰もが知り合いだとでも思っているのか?不愉快だ、他をあたってく
れ」

 再び店内に入ったエンジュが耳にしたのは、感情の苛立ちを隠そうともしない男の
一言だった。

「あら、ごめんなさい。そういうわけじゃないのよ。ただ、私たち人間より正確で
しょ?無駄足を踏みたくないの」

 二人の声が大きかったわけではない。
 ただ、ようやく夕方に差し掛かった酒場の店内は閑散としていて、話をしているの
は彼らしかいなかったからだ。

「若い…貴方たちの年齢でいってもそうみたいだけど。金髪のエルフよ。名前はイル
ラン」
「イルランですって!?」

 女の口から出た名前に、エンジュは入り口で立ち止まったまま声を上げてしまっ
た。

「あら?」

 店の奥で話していた男女が振り返る。
 男は先程シエルがイルランと勘違いしたエルフだ。
 女は黒髪に短く刈った髪を逆立て、軽装に短剣と、いかにも冒険者、といった雰囲
気をかもし出していた。
 30代前半だろうか、未だ衰えのみえない筋肉質な身体をスキップするように躍ら
せて、エンジュの元へやってきた。

「あなた彼を知ってるの!?」
「知ってるというか…」

 女から解放されほっとしたのだろうか、先程のエルフがエンジュを見ていた。
 その視線がわずかに下に移動し、げんなりとした表情に変わると彼は再びテーブル
へと身体の向きを変えた。
 何だか分からないが女性に対し失礼な態度ではないだろうか。

「最近、私の友達の周りに出没してるのよ」
「もしかして、愛だの恋だの語っているんじゃない?」

 まさにその通りだ。

「あの男、もしかしてお尋ね者なわけ?」

 女が手にした髪には、何かの記号が記されていた。
 大きな丸に点二つ、横には二つの線が―――どうやら似顔絵なようだ。
 よほど才能のない似顔絵師に頼んだのだろうか。
 これではまともな情報も掴めそうにない。

「彼は、結婚・・・いえ、恋愛詐欺師なのよ」
「恋愛詐欺師!?」

 初めて聞いたその呼称に再びエンジュは声を上げる。

「彼は、仲の良いカップルの間に割り込んでは女性の気持ちを奪い、彼女が自分惚れ
た頃には姿を消す…要するに壊し屋なのよ」
「イルランがねぇ・・・」
「彼は容姿は美形だし、世の中の女性はああいう顔に弱いのよ。それで被害者が続出
して『イルラン被害者友の会』から、私に依頼がきたのよ」

 女はエンジュがたずねもしないのに詳しく理由を語った。
 同業者からの情報提供へのギブアンドテイクなのか、単に依頼の保守意識すらない
三流のハンターなのか・・・。

 シエルにも入会を勧めようか・・・。

 そんな事をぼんやりと思う。

「で、この男を捕まえたらどうするの?まさか命を奪うなんて事は無いわよね」
「それは依頼人たちが決めることだけど、取りあえず『あの長ったらしい金髪を坊主
にしてやりたい』って意見が大半ね」
 
 よほど恨まれているようだ。

「数日前、ソフィニア魔術学院の講義に顔をだしていたわよ。なんでエルフが人間の
魔法なんかを勉強するのかしら」

 エンジュは単純に疑問を口に乗せる。

「自分たちの魔法が一番だと思うのはエルフの性質ね」

 女はそう言うと、学院をあたってみるわ。と腕を組んだ頷いた。
 エンジュも友人の悩みの種を取り除くため協力はしてやりたいが、学院にはベル
ベッドもいるのだ。
 当分は近づきたくない。

「私はナンシー・グレイトよ。もし新しい彼の情報が手に入ったらここに連絡をちょ
うだい『肉食エルフ』さん」
「!」
 
 そういってウインクした女は、店員にチップを投げると颯爽と酒場をあとにした。
 ナンシーの後姿を見送り、思わず軽く口笛を吹くとエンジュは感心して呟いた。

「なかなか面白い女じゃない」
「・・・エンジュさん・・・」
「わっ!」

 上機嫌で席に着こうとしたエンジュが再び身体の向きを変えると、そこにはいつの
間にかアンジェラが立っていた。
 肩にはあの青い鳥、パティーがとまっている。
 
「ア、アンジェラ!パリスに会ったのね」

 本来ならば喜びを露わにするはずのアンジェラの顔が暗い。
 それは薄暗い照明のせいだけではなかった。

「ど、どうしたの?またベルベッドが仕掛けてきたの?」
「・・・は何処?」

 パリスと並んでいるときのあの初々しい様子は何処に行ったのか、半眼でエンジュ
を睨み上げる彼女にはある種の殺気が宿っていた。
 
「え・・・?」
「あの女は何処なのッ!?」
「ドコナノォ!!」

 飼い主の言葉を反芻したパティーが右腕に吸い込まれるように形を変えた。
 アンジェラが高ぶった感情のままに武器へと姿を変えたパティー ―――青銅斧を
振るう。
 おろされた先にあったテーブルが真っ二つに割れた。

「シエルは何処!? パリスは渡さないわ!!」

 その一言にエンジュは全てをさとり、額に手を当てた。
 
「あンの・・・バカ男」

 恋する女は恐ろしい。
 恋する男はうっとうしい。

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2007/02/12 17:09 | Comments(0) | TrackBack() | ○易しいギルド入門

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