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2024/04/30 07:12 |
易 し い ギ ル ド 入 門 【19】/シエル(マリムラ)
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『 易 し い ギ ル ド 入 門 【19】』 
   
              ~ 後悔先に立たず ~



場所 :ソフィニア
PC :エンジュ シエル 金髪お嬢様 (イェルヒ)
NPC:イルラン
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 シエルはエンジュが店内に入っていく後姿を見ながら、このまま喧嘩沙汰に
なるとしても関わりたくないと踵を返した。うっかり姿を見られようものなら
何を言い出すか分からない。あんな芝居じみた勘違い野郎、顔を合わせるのも
嫌だ。エンジュに心の中で詫びつつ、無言のまま走り出す。
 エンジュとは宿に戻ればいずれ会えるだろう。情報を聞くのはその後でもい
い。というか、どんな理屈を並べるより一刻も早くココから遠ざかりたかっ
た。
 後で思えば風を使ってでも宿へ舞い戻り、不貞寝していればよかったのだろ
う。が、それはそのときの選択肢にはなかった。思いつかなかった。
 それが運命の分かれ道であることなど、まだ知る由もなく。



 シエルは知らずのうちに避けていたはずの魔術学院へと近づいていた。
 昨日利用した正門からは遠い。しかし、学院の領域というのは予想以上に広
く、そして変形したものだった。地図を見た際に確認したはずだったのに、迂
闊だった。
 
「ごめんなさ……!!」

 幾つ目の角を曲がったところだったろう。出会い頭に誰かとぶつかった。予
想以上の速度が出ていたらしく、双方弾かれる様に尻餅をつく。

「シエルさん!!」

 ぶつかったのは二度目の男、出来れば今一番会いたくなかった男、昨日の悪
夢の原因、生粋のエルフ・イルラン。
 顔を上げたときに愕然としたこちらに、満面の笑みで名を呼びかけてきた彼
を見て、何故自分は本名を知られてしまったのだろうと強く後悔した。いや、
アレはパリスが悪い。私のせいじゃない。でも不本意で、不愉快だ。
 後悔先に立たず。
 分かってる。後悔するときにはもう遅いのだ。遅いから後悔するのだ。た
だ、分かっていても後悔することには変わりなく。ただ、エンジュの元を無言
で走り去ったことを悔やむのだった。

「また会えると思ってましたよ」

 本当に嬉しそうに立ち上がる彼を見て、さすがに眩暈がした。
 手を差し伸べられるが、それを無視して自力で立ち上がり、体に付いた砂埃
をはたく。ちょっと残念そうに手を引くと、イルランは困ったように笑った。

「こういうの、嫌いですか?」
「……運命を語る人は嫌いです。道は自分で切り開くものだから」

 キッと睨み上げる。エンジュに比べれば自分に身長が近いかもしれないが、
それは男女比のなせる業か、必然的に見上げる格好になってしまう。

「貴女に、こうしてもう一度会えたのに?」
「アナタこそ偶然に理由を付けたがるのは何故?」

 目をまっすぐ見ながら話すイルランの視線から逃げるように、シエルは視線
を外した。

「もし運命が存在するのなら、私が村から出ることなどありえなかったことに
なるわね。ここに居ることもなかったってこと。矛盾してるじゃない」

 シエルはヴァーンの風の巫女の家系だ。数年前にヴァーンが守り続けた遺跡
がさらに砂の奥深くへ沈み込んだりしなければ、今でも村に縛られ続けていた
だろう。

「……あと、芝居じみた決闘も嫌いよ。絶対に止めて。そもそも何のための決
闘なのよ。それで私が喜ぶと本気で思ってるの?」

 最後の方は半ば畳み掛けるように語気が荒くなっていた。大きく息を吸う。
 少し肩を落としたイルランは、落ち着いてゆっくり、語りかけるように口を
開いた。

「彼が貴女にそぐわないと思った。だから決闘を申し込んだ。……人間の文化
とはそういうものだと思っていました」
「太古の昔か、物語の世界ね」

 そんな少女向けの夢物語があると、いつだったか聞いた気がする。

「私はエルフの森から出る前に沢山の本を読みました。すべて人の手による本
です。私は人と友達になりたかった。変わり者だとは言われましたが、人の手
による本はエルフの手で書かれた書物よりもずっと魅力的だった。だから、本
当に沢山、沢山読みました」

 まるで今その手に大事な本を持っているかのように、イルランをじっと手を
見る。

「貴女に出会って、私は貴女に会うために森を出たのだと思いました。心臓を
鷲掴みにされる思いは初めてだったんです」

 手をぎゅっと握り締め、視線をまっすぐシエルへ戻す。まっすぐな、恋する
視線。

「……アナタの知識は間違ってる。古いものなのか偏ったものなのかは知らな
いけど」
「ではやはり、貴女が私に人間の文化を教えてくれませんか?」

 待て。まてまてまて!!

「アナタの感情は一目惚れに近いものかもしれないけど、それはきっと勘違
い。今のアナタならお芝居を見たって役者に恋をするわね。……言ってるこ
と、通じてる?」
「……ああ、コレが一目惚れなんですね。本で読んだけど、こんなにドキドキ
するなんて知りませんでした」

 イルランが嬉しそうに頬を染めながら笑った。自分とは何の関係もないエル
フなら、可愛くも見えよう。だが、当事者には頭痛の種にしかならない。
 微妙に話が食い違いを見せる。それがシエルをさらにイライラさせる。

「だーかーらー、違うの。勘違いなの。私はアナタが夢見ていたような物語の
お姫様じゃないの!」
「こんなに可憐な方は物語の挿絵ですら見た事がない。謙遜しなくても」
「……とりあえず容姿のことには触れないで。私のコンプレックスだから」
「しかし、貴女は思ったとおり知的で、そして優しい方だということは変わら
ない」
「そういう取って付けたような語り口が嫌なのよ! 芝居はもう終わってる
の!!」

 視線を外すだけでは足りず、体ごと横を向く。道は狭い。走り抜けように
も、手首を捕まれるのがオチだろう。
 イルランは考えながら、確かめるように聞いてきた。

「……あれはお芝居だったんですか?」
「まあ、そんなところね」

 イルランは心底ほっとしたように胸を撫で下ろす。

「彼を愛しているわけではないんですね?」
「まあね。でも、これ以上は詮索しても無駄よ。企業秘密ってやつだから」

 腕を組み、向き直るシエルに、イルランは嬉しそうに言い放った。

「じゃあ、私にもまだチャンスがありますね」

 何故そうなる!?

「えーと、芝居がかったのも鬱陶しいのも嫌い。問題外です」
「そんなに私は鬱陶しいですか?」

 シエルの切り返しは早かった。

「鬱陶しい」

 どキッパリ。

「では、私が不快な存在にならないように、やはり色々と教えていただかなけ
れば」
「既に不快なので却下します」

 会話が、やはりどこかおかしな気がする。
 人間文化オタクの知識は偏っているし、受け答えも的外れだ。自分が付き合
わされる苦痛をどうすれば伝えられるのだろうか。

「とりあえず、今会いたくない人の中でもダントツ一位がアナタなので、私帰
ります」

 頼むから、苦手だと思われていることを自覚してください。

「また会えますか?」
「少なくとも、自分から会う機会は作らないわねあ」
「私は貴女に会いたい」

 最初のような芝居じみた感じは減っていた。でも、まっすぐに熱のこもった
視線を向けられるのは勘弁して欲しかった。

「私は、二度と、会いたくないんです」

 二度と、を強調して、シエルは冷たく見返した。

「冷たいおっしゃりようだ」
「そういう性分です」
「そういうところも好きですよ」

 さらり。何でこの会話のタイミングでその言葉が出るのか。ガツンと頭を殴
られた気分になって、シエルは頭を抱えた。

「どうしました? さっきぶつかったせいかな……」
「気にしないで下さい。逃げる算段中です」
「そうですか。私の得意魔法は魔法効果の打消しです」

 にっこり。逃がさないつもりか、この男は。
 じりじりと後退して、背中がレンガ造りの塀にぶつかる。シエルは再会して
初めて笑顔を浮かべた。

「もう会わないと思うけど、お元気で」
「え」
「……【クードヴァン】!」

 シエルの使う風は、発動が早いのが魅力だ。詠唱が必要な魔法は多岐にわた
ると聞くが、シエルの場合、よほど大掛かりな魔法でなければキーワードだけ
で発動できる。
 シエルは瞬く間に宙へと舞い上がり、上を見上げた。

「ちょっ……【解(ほど)けよ解(ほつ)れよ風の精霊 我が声に耳を傾け 
静まり鎮まり給え】」

 イルランが咄嗟に風の精霊に打消しを求めるが、その詠唱が終わるまでシエ
ルは高度を上げた。この高度での落下は危険だ。抱きとめようとイルランが手
を広げる。
 シエルは風の揚力が消える寸前、背面跳びのように宙を舞った。元の位置へ
ではなく、レンガの塀の向こう側へと落下していく。

「シエルさん!!」

 イルランの絶叫に近い声は、シエルが木の枝に引っかかり、バキバキガサガ
サと音を立てながら落ちる壮絶な音でほぼかき消される形になった。ドスン、
と着地したらしき音がやけに痛々しく響いた。

「シエルさーん!!」

 イルランがもう一度叫ぶ。彼が軽く越えられるような高さの塀ではなかった
ことを、シエルは痛む体をさすりながらも強く感謝した。



 レンガの向こうは、高い常葉樹の林と、硬質な透明物で出来た温室らしきも
のがあった。とりあえず青々と茂る木の下はほぼ日陰となっていることに救わ
れる。
 木々に突っ込むように落下したシエルは、途中で服のところどころが裂け、
仮面も落としてしまっていた。露出した肌に直射日光を浴びると火傷をしてし
まう体質のため、日陰でより濃い影へと必死に這い進む。

「……今の風、貴女?」

 温室の陰から出てきたのは、金の髪が眩しいお嬢様だった。縦ロールの髪型
がこんなに似合う人も珍しい。そう思いながら見上げると、女の冷たい蒼眼が
シエルを見下ろす。まあ、見るからに不審者なのだから仕方がない。

「……ええと、匿ってくれない?」

 シエルの苦笑をどう受け取ったのだろうか。女は小首を傾げ、シエルに問う
た。

「使えるの風だけ? 水が使える人を探しているのだけど」
「霧や雨なら多少。水単独では使用経験がないわ」
「じゃあ、協力するなら手当てしてあげる」

 じーっと観察するように見る女の目線は気分のいいものではなかったが、今
はイルランの視線と比べてしまうせいか、大抵の事は気にならない。自分に非
があるのは明白だったこともあるだろう。不法侵入者なのだから追い返されて
も不思議はないのだ。

「今日中に帰れる?」
「協力しだいね」

 女は少しだけ笑うと、シエルに手を差し伸べた。
 シエルは少しだけ躊躇すると、白く細い女の手を取った。

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2007/02/12 17:08 | Comments(0) | TrackBack() | ○易しいギルド入門

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