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2024/04/30 05:57 |
易 し い ギ ル ド 入 門 【18】/イェルヒ(フンヅワーラー)
****************************************************************

『 易 し い ギ ル ド 入 門 【18】』 
   
               ~ 女難の相 ~



場所 :ソフィニア
PC :エンジュ シエル イェルヒ
NPC:ベルベッド
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 その日は、いつもよりもイライラしていた。
 本当ならば、寮で食事がでる日だというのに、先日来たばかりのいつもの酒場
に来たのは他でもない。気分を変えたかったからだ。
 先日の事件……いや、あれは悪夢だ……は、ここの場所からが発端だったので、あ
まり来たい場所ではなかったが、他に店は知らなかった。
 ただでさえ、昨日の公開講座のアルバイトを入れていたのをキャンセルせざる
を得なかったというのに、知らぬ店に入って、思わぬ多額の出費を出したくは無
い。結局は、値段を知った店に入った。
 勿論、入る前に、店の中に、あの悪夢の登場人物がいないかどうかは細心に注
意を払った。
 確認がとれ、ほっとしていつもの定位置へと席につく。

「いらっしゃいませー」

 店員の声に反応し、まさか、と思って入り口を見る。
 入り口には、仮面をつけた女がいた。
 その容姿に、目を奪われる。白い……そう、それ以外に形容しようの無い、容姿
だ。肌も、髪も白い。
 ただし、その女は変わっていた。その白さの次に目を奪われるのは、仮装パー
ティーにでもつけるような奇異な仮面だ。その非日常さがありながらも、服装は
飾り気も何も無い、全身黒尽くめ。
 ……変な女だ。イェルヒの評はそんなものだった。
 視線を戻そうとしたとき、その変な女がびくり、と身を竦《すく》ませた。直
後、その変な女は身を翻して、駆け出して店を出て行った。
 なんなんだ。気分が悪い。思わず、その背に向けて睨みつける。
 あぁ、そうだ。ここに来た理由も、女が理由だった。
 今日は女難だ。

「お待ちどうさまです」

 すぐそばまで来ていたのだろう、女給が野菜炒めセットを盆で運んできていた。
 見やると、いつもの野菜炒めセットとは別に、注文した覚えの無い皿が置いて
ある。

「……なんだ? コレは」

 抑えているつもりであったのに、わずかに声が震えた。
 指でささなかったのは正解だ。きっと、隠しようが無いほど、震えたに違いない。
 女給は、そんな様子に全く気づかず、答える。

「新メニュー、今日から始めたんですよ。
 お得意様にだけ、現在無料サービスでつけてるんです」

 しばし絶句している間に、女給は他のお客の追加注文の呼び声に応え、その場
を離れた。
 小さく呻いて、そのサービスの皿を睨みつけるように対面する。睨まれた小皿
に盛られているのは、小さく刻んだ具材と米を炒めたモノ。
 普段なら全く見ないメニューを見る。派手派手しく赤と黄色のインクを使っ
て”チャーハン 始めました!”と元気良い書体で書かれているのを読み取って、
イェルヒは絶望した。
 忘れようと決めたのに、あの事件の爪あとは深々と傷痕を残してくれたようだ。
 下げてもらおうか……そう思ったが、「あのエルフ、2日前の騒動の関係者か」
と不審がられるかもしれない……いや、冷静になれ。多少変な客であると思われる
であろうが、普通の人間はそこまで考えないはずだ。ならば大丈夫だ。
 ……そこまで思って、イェルヒは、過剰反応を起こしている自分自身に対して落
ち込んだ。
 落ち着こう。
 お冷をぐい、と一口含み、頭にこもった熱を追いやる。
 改めて、例の小皿と対面する。今度は、先ほどのように、威嚇するようにでは
なく、克服する相手を見定めるように。
 銀のさじを掴み、チャーハンをすくい、震える手を押さえながら、一気に口に
運んだ。 ここの味付けの傾向通り、味は濃い。卵はボロボロと炒り卵が混ざっ
ているような感じでご飯にパラパラ感があまり生まれていない。具材はありあわ
せの野菜と、きっとチャーシューは用意できなかったのだろう……鶏肉を用いていた。
 味は、比較するまでもない。所詮、見よう見まねでつくった”もどき”モノだ。
 そうだ、あの恐怖は、もう終わったのだ。
 イェルヒは、わずかに頬をほころばせる。それが今日で初めての笑顔らしきも
のであるという事実は、彼に伝えない方が良いだろう。きっと再び落ち込むこと
だろう。
 背後に気配を感じた。
 怪訝に思って振り向くと、長身の銀髪のエルフがいた。……いや、よくよく見る
と、ハーフ・エルフのようだ。しかも、やたら胸のでかい女だ。

「ごめんなさい。エルフ違いだったみたい」

 ハーフ・エルフの女は肩をすくめてみせる。それだけの動作だというのに、や
けに胸が揺れる。
 一般的な多くの男性ならば思わず見入ってしまうだろう。しかし、イェルヒの
率直な感想は、気持ち悪いという、ミもフタも無いものだった。
 イェルヒは再び食事に戻った。
 とにかく今日は、あまり女には関わりたくない。
 イェルヒは朝のことを思い出していた。



 ******* 



「ちょっと!!」

 起こされたのは、甲高い女の声だった。
 一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
 目を開けると、勝気そうな目をした赤毛の女がイェルヒの胸倉を掴んでいた。

「昨日、なんで来なかったのよ!!
 まぁいいわ。ちょっと聞きなさいよ! 昨日、ムカつくクソ女がいてね……」

 目が開いたのを確認するやいなや、機関銃のように喋りだす、
 イェルヒは女の顎を、掌《てのひら》の腹の部分で上へ押しやった。すると、女
は舌を噛んだようで、なんとも表記しがたい発音をする。その際、襟《えり》から
女の手が離れた。

「何すんのよ!」

「それはこっちのセリフだ! お前こそが世界一のクソ女だッ!!
 ここは、男子寮だぞ!? バカじゃないのか!?」

「何よ。アンタに押し倒す甲斐性なんてあるわけ無いし。
 押し倒されたとしても、アンタ、私より非力じゃない」

「そういうことじゃないだろう……」

 寝覚めから聞かされた声によって、まだ頭がくぁんくぁんとする。思わず、額
に手を当てて支える。

「近々結婚するんだろう」

 そのイェルヒの言葉に、赤毛の女、ベルベッドは、決まり悪そうになった。

「……心配してくれ…」

「これがきっかけで、自業自得で破談して、関係ない俺を騒動に巻きこむつもり
か。退学になったらどうしてくれる」

「……アンタが友達いないのがよぉく分かるわ」

 冬山の豪雪を含んだ風よりも冷たい視線をイェルヒに送るも、このエルフの男
はちっとも効かないようだ。

「人のことが言えるのか?」

 ひらひらと手のひらを振り、ベッドから降りろと指示する。
 イェルヒは棚にある1つのコップに水差しから水を注ぎ、寝起きで乾いた喉を
潤す。朝から怒鳴ったので、張り付いていた喉がみずみずしさを得る。

「私室にコップが1つしかない男に言われたくないわ」

「必要ないからな」

 それは、2つ目のコップのことなのか、友達のことなのか。どちらにしても、
侘しい男であることには変わりない。

「この前だってそうだ。あの鳥の封印を俺に頼むなんて、友人が居ないと言って
いるも同然だ」

 自ら言う台詞でもないことを、イェルヒは何にも気にせずに言う。

「何よ。礼はたっぷり払ったでしょ」

 イェルヒのセリフからは的外れな言葉を吐くベルベッド。
 話が飛躍したのは「金をもらったくせに」と言いたいからか。その金も、婚約
者の親が出したもので、自分が出したわけではないというのに。
 イェルヒは、フンと鼻を鳴らして口元と眉間を歪めた。それは皮肉げに笑った
のではなく、単に不快さを表した表情なだけに、ベルベッドは、地味に、そして
彼以上に不快になった。

 学院で魔女と揶揄されているベルベッドは、学院でイェルヒに積極的に声をか
ける珍しい人物の1人だった。
 しかし、それは好意からではない。興味からだ。生物学寄りの専攻をしている
彼女は、『イェルヒ』にというよりは、『エルフ』に興味を持っていた。
 イェルヒは、学院から正式に依頼があった時のみ、髪の毛や血などのサンプル
摂取に協力しているが、そのサンプルは普通の研究員や学生のもとへは届かない
ようで、個人的に頼んでくる者も少なくない。しかし、イェルヒはその他の場合
は頑としてその類の頼みは聞き入れないことにしていた。
 勿論、1人許可すると、他の人が求めてくるというのもあったが、それより
も、『研究対象』として見られるのは、あまりいい気分ではないからだというの
が本音だ。
 だから、多分にもれずベルベッドの存在も、イェルヒにとって気分のいいもの
ではなかった。何かとあれば話しかけてきて、隙を見つけては肩に付いた髪の毛
を狙っているのだからうんざりする。
 その彼女が、先日、鳥篭を持ってきて封印の施しを頼むため、イェルヒを訪ね
てきた。

「だからといって、愚痴まで付き合う謂《いわ》れは無いな。
 というか、俺のところに来るって、末期だぞ。
 お前、特に同性の友達いないだろ」

「……できたわよ。昨日」

 ふん、とイェルヒは興味なさそうな声を出した。事実、質問したのは自分であ
るが、興味は無い。

「アナタと違って、とても協力的だわ。
 いい友達になれそうって言われたもの」

 他種族か。
 この女は、同種族である人間にはひねくれているクセに、研究対象である他種
族であると、興味が剥き出しになる分、普段他の人間には見せない素顔の部分を
見せる。
 今の台詞一つ取っても、隠しているものの、本音として嬉しそうなのが伺える。

「それじゃぁ、そのオトモダチに愚痴るんだな。
 俺は、熱があるんだ。健康状態であっても聞きたくないがな」

 椅子にかけてある上着を羽織る。
 熱は少し下がったようだが、まだ完全とは言い切れない。
 あの悪夢から再び意識を戻したとき、先生から3日間休養するようにと告げら
れた。イェルヒは覚えていないのだが、昨日発見されたときは、人づてによる
と、高熱の上、何か口走って暴れたとのことだ。
 よくよく見れば、魔法陣を描いたチョークの名残や、床には部屋の隅のゴミ箱
の中には、紙くずとなってしまった呪符が集積していた。
 イェルヒは、その事実から目を逸らした。その意識を拡散したかったからだろ
うか、イェルヒは、先ほど自分から否定した話を広げた。

「どうせ、婚約者がらみだろう。
 普通の言い合いなら、怒鳴りながら『ムカツク女』だと言うことはないだろ
う。せいぜい、いつものあの笑みで嘲うくらいだ。
 なんだ? あの獣人の恋人とやらが殴りこみにでも来たか?」

 ベルベッドは何も言わない。
 当たらずとも遠からず、というところだろうか、とイェルヒは中《あた》りをつ
ける。 自分から怒鳴りこんできておいて、聞かれたら口ごもる。なんなんだ、
この女は。まったく分からない。
 分からないついでに、イェルヒは質問を重ねる

「お前の結婚の目的はなんだ? あのボンボンを獲得したいわけか?」

「馬鹿言わないで。私の目的はあくまで研究費よ」

 巷で言われているお得意の”ウィッチ・スマイル”をベルベッドは作る。何故、
世間はこの笑みに嫌悪を示すのか、イェルヒには理解できない。イェルヒは、そ
の笑みは滑稽にしか見えなかった。

「なら、別にどうでもいいだろう。
 お前が欲しいのは、金。男は金を捨ててまで欲しい愛だ。共存できなくはない
だろう。
 男は、お前と結婚し、愛する女とそのまま愛し続けりゃいい。お前は、それを
黙認して金を吸い取ればいい。
 家のために、お前とその男との子供は産まなきゃならんだろうが、そこは我慢
してもらえ。
 女と張り合う意味がわからんな。俺なら懐柔する」

 しかし、ウィッチ・スマイルは微塵もたじろがなかった。そんなことは考え済
みだと言いたいかのようだ。

「魔女は、全てを奪うからこそ恐れられるのよ。
 私はね、ろくな苦労をしたこと無い男が、愛さえあれば生きられるとと思って
いる、あの思い込みのを壊したいのよ」
 その言葉に、イェルヒは何故だか、イラついた。
 反射的に出た言葉は、乱暴な響きを持っていた。

「なら、脱げばいいだろう」

 イェルヒの言葉にベルベッドの笑みが凍りついた。

「着飾って、化粧して、『愛してる』と言って男にしなだれかかれ。
 あとは脱いで既成事実を作れば、土台に”婚約”というのがある分、『愛』とい
う言葉に酔っている男は罪悪感に苛まれるさ。
 それで簡単に壊せれる。
 まさか純情を気取るつもりじゃあるまい?」

 今や、ウィッチ・スマイルは完全に崩れていた。ベルベッドは、何か悔しがる
ように、あるいは耐えるように、歯噛みしていた。

 ”人間の男に心を奪われた魔女は、ただの人間の女に成り下がる”

 それは、どこかで聞いた童話の内容を思い出させた。
 あぁ、そうだ。ウィッチ・スマイルが滑稽にしか見えないのは、それが虚勢だ
からだ。
 イェルヒは、鼻で嘲った。
 ベルベッドという女は、口で否定しておきながら、結局は『愛』とやらを信じ
ているのだ。単に、得られないのが……負けるのが怖いから、否定しているに過ぎ
ない。
 イェルヒに愚痴りに来たのは、イェルヒが『愛』を信じていないからだ。イェ
ルヒを利用して、魔女であるという錯覚をしたかったのだ。
 不快だ。
 イェルヒにはそれが、ひどくカンに触った。

「金目当てなら、別に、他の男でもいいわけだろう。
 時々見かける、あの植物男、クノーヴィ家の人間なんだろう? 学院への寄付
金だって、かなり多いらしいじゃないか」

 嫌味に、嘲笑を含んでそれを言い放つ。
 握り締められたベルベッドの拳は、ぶるぶると震えていた。
 惨めさを自覚したのか、恥辱に耐えているのか、それとも単に侮辱された怒り
か……はたまた自分の本音と対面した慄《おののき》きか。
 その姿を見ても、イェルヒの胸の内はすっきりしなかった。それどころか、途
端に、自分に嫌気が差した。
 暴いて、何になるというのだ。
 少なくとも、自分の利益にはこれっぽっちもならない。
 自分の内にこもった熱が、途端に逃げていく。
 寒気を覚え、鳥肌が立った。だが、心はもっと、冷めていた。

「……出て行ってくれ。体調が、悪いんだ」

 泣いているかもしれない、と思っていたが、顔を上げたベルベッドの目は、気
丈にもイェルヒを睨んだ。
 今日初めて見る真正面の彼女の顔は、疲れの色が伺えた。

「言われなくても、帰るわ。
 友達が、お昼から来るの」

 威力の弱まったウィッチ・スマイルを、それでも彼女は浮かべる。

「その前に、渡しておくわ。これ」

 イェルヒの手の平に、紙包みが置かれる。

「解熱の作用がある薬。よかったら飲んで。
 それじゃ、邪魔したわね」

 くるりと踵《きびす》を返して、ドアを開けるベルベッドに、イェルヒは、思わ
ず声をかけた。

「おい、待て……」

 ベルベッドは、立ち止まる。

「その……」

 次に出す言葉の選択に迷いは無かった。

「ポケットに入ってるモノを、置いていけ」

「……? 何のことかしら?」

 ベルベッドは、振り向き、怪訝な表情で問いただす。

「置いていけ」

 しかし、イェルヒは動じない。
 観念したように、ベルベッドはポケットから、一枚のくしゃくしゃになった紙
切れを机の上に叩き置く。イェルヒの血が含まれている、あの呪符だ。

「これでいいんでしょ!」

 駆け出そうとするベルベッドの腕を、イェルヒは掴む。

「まだあるだろう」

 数秒、睨まれたが、イェルヒの鉄面皮には全く効かなかった。
 ベルベッドは、掴まれた腕を振り払うと、ポケットから、今度は折りたたまれ
た紙片が出される。
 イェルヒが中身を確認すると、予想通り、イェルヒの髪の毛があった。
 ふと見たらベッドや枕に、髪の毛が全く付着してないので、もしや、と思って
いたら案の定、予想通りだった。

「これで全部よ!」

 今度こそ、ベルベッドは駆けて部屋を出て行った。
 出て行ったのを確認して、イェルヒは扉を閉める。
 こうなると、先ほど手渡された薬も、怪しいものだ。
 紙包みを鼻先に持っていき、恐る恐る匂いを嗅ぐ。

「………」

 懐かしい、匂いがした。
 エルフの里で、よく解熱に使っていた、薬草を干した、あの匂いだ。
 里では比較的よく見つかったが、このソフィニアではちょっと探し回らないと
手に入らない薬草であるはずだ。

「髪の毛の1本ぐらいならくれてやってもよかったかもしれないな……」

 そんなコトを思いながら、包み紙を開く。
 ……まさかな、と思って、イェルヒは、軽く舌先で薬に触れた。
 舌先は、思い出の薬草には全く無かった、痺れるような刺激を受けた
 イェルヒは、再び、丁寧に包んで、くずかごにソレを叩きつけるように捨てた。


 ******* 


 結局、あの後、再びベッドにもぐりこんでも、素直に寝ることが出来なかった。
 あの部屋にいるのが苦痛になり、飛び出したのだ。
 その苦々しい思いをすりつぶすように、野菜炒めをゴリゴリと咀嚼し、水と一
緒に流し込む。
 あぁ、そうだ、今日は、やたら女と関わるといいことが無い。
 やっぱり、食事を済ませたら、すぐに帰ろうと、イェルヒは決めた。
 いつの間にやら、店内はにぎわってきた。テーブル席はどこも埋まっている。
 食事は、まだ半分も残っている。熱のせいか、いつもよりペースが落ちてい
た。まだ、かかりそうだ。
 再び、野菜炒めにとりかかろうとしたとき、声をかけられた。

「ここの席、空いてるかしら」

 それは、女だった。

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2007/02/12 17:07 | Comments(0) | TrackBack() | ○易しいギルド入門

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