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2024/04/30 03:41 |
易 し い ギ ル ド 入 門 【17】/エンジュ(千鳥)
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『 易 し い ギ ル ド 入 門 【17】』 
   
               ~ 解放 ~



場所 :ソフィニア
PC :エンジュ シエル 謎の金髪エルフ
NPC:ベルベッド アンジェラ パティー 

※エンジュはベルベッドに対してアンジェラという偽名を使っている。
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「よく来たわね、アンジェラ」

 そういってエンジュを出迎えたベルベッドの顔色は余り良くなかった。
 パリスの父親との昨晩の話し合いは上手くいかなかったのだろう。

「お邪魔するわね」

 研究室は狭く、机の上には山のような書物と剥製が交互に並んでいた。
 辺りを見回して、パティーの居場所を探す。
 赤い布に包まれ、鎖で何重にも縛られた四角い箱が、部屋の奥で異彩を放っ
ていた。
 布には様々な文字が縫い描かれており、いかにも魔法がかかった箱だった。

「今、お茶を出すわね」

 その箱を凝視するエンジュに背を向けて、ベルベッドがお茶を入れる支度を
始めた。

(とりあえず、脱出経路は後ろのドアと窓の二つ…か)

 これからの作戦を練りながらエンジュは唸る。
 正直言って、大雑把な自分にはこういう仕事は向いていないのだ。
 普段ならユークリッドが全てを手配してくれるから楽なのだが。
 しかも、場所は警備を普段よりも強化させた魔術学院の真っ只中。
 あまり騒ぎを起すわけにもいかない。

「どうぞ。あの、アンジェラ・・・」

 お茶をテーブルに置くと、ベルベッドは少し疲れた声で話を切り出した。

「ねぇ。どこに魔法生物がいるの?楽しみだわ!」

 しかし、そんなベルベッドの話を無視してエンジュは声を上げた。
 彼女がエンジュにパリスの事を相談したがっているのは一目で分かった。
 しかし、目的のパティーが目の前にある今、彼女と友達ゴッコをするつもり
はなかった。
 ベルベッドは気が乗らない様子だったが、立ち上がると例の箱へと足を進め
た。

「―― Open 」

 ベルベッドの言葉に幾重にも巻かれていた鎖が解けた。
 赤い布を取り払うと、中には空色の羽根をもつ一匹の鳥が入っている。

「これがパ…魔法生物なの?どーみても唯の鳥じゃない」 

 気の抜けたエンジュの声に、ベルベッドはクスリと笑う。

「魔法生物は人語を解し、主の武器となるのよ。もっとも重要な点は、親から
生まれるのではなく、魔法によって作り出される事なのよ」
「へぇ・・・」

 人の言葉を理解する。
 それは好都合だ。
 檻の中に捕らわれた鳥、パティーはベルベッドに威嚇のポーズをとった。
 その様子を鼻で笑ってベルベッドは言う。

「無駄よ。檻の中ではそうやって羽根を広げるだけが精一杯なんだから」
「喋らないの?」
「五月蝿いから喋れないようにしてるの」
「そうなの?でも、このままじゃこの鳥が魔法生物だって何一つ分からないじ
ゃない」
「あ、アンジェラ・・・?」

 ベルベッドは困ったようにエンジュを見た。

「出してみてくれない?」

 にっこりと笑顔のままエンジュは提案した。

「私も、貴女もいるし、大丈夫よ」
「・・・・・・」

 ベルベッドは暫く沈黙していた。
 彼女は慎重な性格だ。
 さすがに無理だろうか。
 笑顔を維持するのが苦痛になってきた頃、ベルベッドが折れた。
 
「いいわよ、でも気をつけてね」

 分厚い手袋をはめると、ベルベッドは檻の中に手を入れた。
 くちばしで攻撃しようとしたパティの頭を慣れた手つきでつかみ動きを封じ
る。

「よくもアタイをこんなところに閉じ込めたわね!!この性悪魔女めッ!!見
てなさいよ!!」

 外に出た瞬間、パティーはもの凄い剣幕で喋り始めた。
 

「こんな薄暗い場所にアタイを押し込めて!!アタイの美しい青い羽根がくす
んじゃうじゃない!」
「うるさいから、さっさと戻すわよ」
「あ、ちょっとまって!」
「先生ちょっと質問が…」
 
 2人と一羽の声に交じって新たな声が一つ加わった。
 二人ははっとして動きを止める。
 その瞬間を狙ったかのように、パティーは二人の手から逃れた。

「え!?」

 呆然とする生徒の足元をパティーがすり抜けていった。

「貴女、追いかけて!!」
「あ、はい・・・」

 エンジュに鋭くいわれ、少女は慌てて廊下へと姿をけした。
 
「アタシたちも一緒に」
「私に任せて。あなたはここで待ってて」

 絶好のチャンスにエンジュはベルベッドを引き止める。
 そのままパティーを捕まえて逃げてしまえばこっちの勝ちだ。
 逡巡したのち、ベルベッドはエンジュの腕をつかんで言った。

「アンジェラ」

 それは、普段のベルベッドの声とは全く異なる声だった。
 低く、低く、不思議な発音でエンジュの名前を呼ぶ。 

「あの鳥を捕まえたら、すぐに、戻ってきてちょうだいね」 
「ええ」

 頷くと、ベルベッドの手の力が弱まって、エンジュは逃げるように部屋を出
た。

「ふーっ。危ない危ない」

 額に浮いた汗を拭いながら、エンジュは女生徒とパティーの姿を追った。

「本名だったらやばかったかも…」

 さっきのは、魔法だ。
 いや、呪いといったほうが近いかもしれない。
 名前と言葉で人の行動を制約する術だ。
 まるでベルベッドに縄で繋がれたような感覚に首の辺りをさすった。

「ま、まってぇ~」

 少女のか細い声で、二人の居場所は直ぐに知れた。
 パティーは頭をぐんと前に出し、地面を疾走していた。
 飛ぶ気配はない。

(怪我をしているの…?)

 それにしては、その速さは尋常でない。
 廊下から庭に飛び出し先回りすると、エンジュは叫んだ。

「パティー!私の元へ、アンジェラの元へ帰りなさい!!」 
「!」
 
 パティーの顔が、クンッとこちらに向いた。

「乙女の細腕 絡めよ絡め 愛しき者に 柔らかなる束縛を 『蕾鎖』 」

 エンジュが捕縛の魔法をかけ、すかさず少女が捕まえるが、パティーは暴れ
、その腕から逃れようとする。

「ちょっと!放しなさいってば!!」
「ありがとうね」

 女生徒からパティーを受け取ると、エンジュは少女を見つめた。
 見た目は美しいエルフのエンジュに、少女はぼーっとしたような表情になる


「あなた、ベルベッドの元に戻るの?」
「え…、その、私のせいでこの鳥が逃げちゃったんですから、謝らなきゃ」

 素直な少女の言葉には好感が持てたが、エンジュがパティーを手に入れた事
が直ぐにばれるとまずい。

「でも彼女きっとすごく怖いわよ。私がかわりに謝ってあげるから今日は辞め
ておきなさいよ」

 渋々ながら頷いて後を去ろうとした少女にエンジュが思い出したように尋ね
た。

「ところで、パリス・ヴァデラッシュって男が今何処にいるか分かるかしら」

  
*********

 パリスは、友人のグレイスとお茶を飲んでいた。
 しかし、彼はしきりに自分の懐中時計の針を気にし、席を立った。

「そろそろ授業の時間だ。すまないけれど失礼するよ」
「あぁ、サイズマンは時間に厳しいものね」

 青年はすこし困ったような笑顔を返してパリスの部屋を後にした。
 パリスもベルベッドもグレイスも、みな研究生という立場だったが彼らとパ
リスの学院生活は少々異なっていた。
 パリスは彼らのように教授の助手をすることなく、研究に没頭できた。
 それも父親という資金源があるからである。
 これがベルベッドが彼をよく思わない理由でもあったのだが、元々のんきな
性格の彼は、一人窓の外を流れる雲を眺めながらぼんやりとお茶の時間をくつ
ろいでいた。

「…リス?」

 遠慮がちに小さな声がかけられた。

「どなたですか?」
「わたしよ」

 扉を開けると、そこには布でくるんだ何かを腕に持ったエンジュが立ってい
た。
 
「どうぞ入ってください」

 人目を気にしているのか、入る前にさりげなく辺りを見回したエンジュは、
今度はパリスの言葉を待たずにどっかりとイスに背を預けた。

「その中身は…もしかして」

 パリスの声に応えるように麻の布から青い鳥が転がり出た。

「アタイよアタイ!アンジェラの有能な相棒にして、世界一美しい青い羽を持
つパティーちゃんよ!!」
「でもアンタその羽飛べないじゃない」
「アタイの羽は鑑賞用なのよ!あんなじめじめした場所に押し込められてなき
ゃあんな小娘すぐにまいてやったのに。キィーーー!!」
「パティー…取り戻してくれたんですね」

 騒がしい魔法生物を見下ろしながらパリスは薄く笑みを浮かべた。
 
(あら…?)

 その笑みは、他に浮かべる表情がなく仕方なく作ったようなぎこちなさがあ
った。

「本当は今日夕方にアンジェラに会う予定だったけど、今すぐパティーを連れ
て彼女のところに行ってやりなさいよ。きっと心配してるわ」
「そうですね。有難うございます。報酬の方は…」
「この依頼を受けたのはシエルだからね。でも急ぐんならギルドを経由したら
どう?」
「ええ、そうします」
「じゃあ、私はもう帰るわね。ベルベッドが怪しむのも時間の問題だから、さ
っさと学院から逃げないと」

 首の辺りを再びさすると、エンジュは立ち上がって出口へと向かった。
 そして、扉を開ける前に振り返って一言。
 
「お幸せに!」 

 パリスも頷きながら彼女を見送った。

「さぁさぁ!あの魔女が来る前にとっととアタイたちも行くだわさ!あぁ、ア
ンジェラに会うのは何日ぶりかしら!」

 パティーが興奮して羽根をばたつかせると、机に青い羽根が散った。
 しかし、その羽は机に広がるより先に霧のように消えてなくなる。
 不思議な生き物だ。
 ベルベッドが研究したがるのもよく分かった。
 パリスは白衣を脱いで上着を羽織ると、机の引き出しにしまってあった指輪
を取り出した。
 指輪の内部には二人の名前が彫られている。
 じっくりとその文字を眺めた後、ケースごとポケットにつっこんだ。

「そうだね。アンジェラに会いに行こう…」

 *******

「やあ、アンジェラ」
「パリス?どうしたの?必要以上に近づかないって言ってたのに…」 
  
 アンジェラが滞在していたのはソフィニア郊外の一軒屋だった。
 パリスの友人が所有する別荘だった。
 彼女はここの管理人の手伝いをしながらパリスの連絡を待っていた。

「パティーを取り返したよ。」
「アンジェラ!!」
「パティー!!」

 久しぶりの再会に、主と魔法生物は抱き合った。

「有難う、あなたが取り戻してくれたの?」
「いいや、エンジュさんだよ」 
「あぁ、パリス!直ぐにでもソフィニアを立ちましょう?また邪魔が入らない
うちに!!」

 アンジェラは身に着けていたエプロンを脱ぐと叫んだ。
 閉鎖的な砂漠の民である彼女にはここでの生活は我慢の連続だったのだろう


「…じゃあ、君は今日にでもソフィニアを離れてくれ」
「あなたはどうするの…?」

 パリスの言葉に、アンジェラが不安げに首を傾げた。
 その仕草を愛しく感じながらも、パリスは首を振った。

「僕は、いけない」
「…どういうこと?」
「僕は…君といけない」

 ポケットに入れた指輪のケースを触れながら、パリスは目をそらせて答えた

 都合の悪い事を話すとき、目を合わせないのは彼の癖だった。

「僕は、シエルさんのことが好きになってしまったんだ」

 ******* 

 仕事を終えたエンジュは軽い足取りで約束の酒場へと向かっていた。
 今頃アンジェラはパリスと一緒だろうから、この場には来ないかもしれない
が、シエルが来る可能性もあったし、誰も来なければ夜まで時間を潰せばいい
だろう。

 店に入る前に、シエルが出てきた。

「シエル?」

 彼女はエンジュの顔を見ると、ほっと表情を緩ませてエンジュの後ろに回っ
た。
 
「いるみたいなの」

 誰が、とは言わない。
 でも、だいたい想像がついて、エンジュはシエルを待たすと店の中へ入って
いった。
 先日、エンジュが座っていた席に、金髪の男の姿があった――後姿でも一目
で分かる。
 エルフだ。

 しかし、近づいてみて、人違いだと分かった。
 同じ金髪ではあったが、雰囲気も年齢も全く違った。
 もっとも人間のシエルからみたら、エルフはみな同じに見えるのかもしれな
い。
 かつて人間との生活を始めたときの自分がそうだったように。

「……?」

 視線に気がついたのだろう、男が振り向きこちらを見た。

「ごめんなさい。エルフ違いだったみたい」

 肩をすくめて見せると、男は直ぐに興味を失ったのか再び食事を始める。
 外では珍しい同種族だったが、向こうも馴れ合う気いようだ。 

「シエル…違ったわよ」

 店からでて、彼女を探すが、いつの間にかシエルの姿は消えていた。
 よほどあのエルフに不愉快な目にあったのだろう。

「さて、どーするか…」

 シエルを探してソフィニアをさまようか、再び店に戻って来るか分からない
依頼人を待つかエンジュは店先で頭を悩ませた。

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2007/02/12 17:07 | Comments(0) | TrackBack() | ○易しいギルド入門

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