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2024/04/30 04:01 |
易 し い ギ ル ド 入 門 【16】シエル(マリムラ)
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『 易 し い ギ ル ド 入 門 【16】』 
   
               ~ 衝突注意 ~



場所 :ソフィニア
PC :エンジュ シエル
NPC:イルラン
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 シエルは激しい頭痛に叩き起こされた。ズキズキと脈打つ音すら頭に響き、やたら
喉が渇いて仕方がない。体を起こそうにも頭が重く、グラグラしてしまう。

(えーと……ああ、酒を飲みながらエンジュの帰りを待とうとしたんだっけ)

 霞がかかったような記憶を手繰るように引き出しつつ、ベッド脇の水差しに手を延
ばした。思うように体が動かない。まだ酔いが残っているとでも言うのだろうか。這
うようにベッド脇に近づき、少しだけ体を起こして、慎重に水差しとグラスを引き寄
せる。何とか大丈夫そうだ。水を注ぎ、喉を鳴らしながら飲んで、また水を注ぎ、三
杯ほど飲み干したところでようやく人心地付いたように再びベットへ身を投げ出し
た。

「ふぅ……」

 天井を見上げ、ぅわんぅわんと止まない耳鳴りに眉根を寄せる。それもこれもみん
なあの馬鹿エルフが悪いのだ。きっとそうだ。八つ当たりでも何でもいい。話が通じ
ない相手は考えも推測できないから何をどう対処していいかが分からない。想像力を
越えた相手を前にして、他の人だったらどう対応するのだろう。例えばエンジュは?

「あら、起きたの?」

 身支度を整えて顔でも洗ってきたのだろうか、丁度部屋に入ってきたエンジュに片
手を挙げて答える。まだ頭を上げるのが億劫だ。

「昨日、迷惑かけたわね……ぃたたたた」

 顔だけ彼女に向けて声を掛けるが、こめかみがずきりと痛んで手を当てる。

「例の馬鹿エルフとやらに会ったら張り倒してやるから安心して寝てなさい」

 エンジュが笑って頭を撫でた。
 エンジュはシエルによく触れる。普段触られることに抵抗があるシエルが髪まで触
らせるのはエンジュくらいなモノなのだが、慣れなのか安心なのか、どちらにしても
居心地が良かった。
 大人しく撫でられるがままでいたら、ふと自分が飼い慣らされた野生動物のような
気がしてきて可笑しくなった。不意に笑うシエルを覗き込んで、エンジュも笑った。

「少し元気が出た?
 じゃあ私は魔術学院へ行ってベルベッドに会ってくるから」

 ぽんぽんと二度ほど頭の上に手を置くと、エンジュはシエルから離れた。書き置き
でもして行くつもりだったのだろう、側に紙とペンも用意してあった。

「……昨日、何か変なこと言わなかったかしら」

 シエルが痛む頭を抱えながら体を起こすと、エンジュは扉に手を掛け、肩を竦め
た。

「あまり話さないまま寝ちゃったからね。
 あ、食事がてらアンジェラとも会うんだけど、気分が良くなったらいらっしゃい
よ。
 ココに場所をメモしておくから」

 ああ、彼女は知っているのだ。と、シエルは思う。
 理由を問いただされるかと思っていたのに。エンジュが気にしないはずはないか
ら、聞いてこないということは、事情を多かれ少なかれ把握しているということなの
だろう。
 ユークリッドがいなくてもしっかり情報を押さえている彼女は、やはりBランクの
冒険者なのだ。

「悪いわね、いろいろと」

「シエルの為なら」

 その言葉とウインク一つ残して、エンジュは出かけていった。




 そのまま少し寝て、起きて。シエルはぼーっと天井を見上げていた。
 ここは「クラウンクロウ」という宿だ。シダに宿の名前を聞いた時の予想を裏切る
普通の宿。仕事で使いやすいだろうと思ったからか、それとも、予約なしで泊まれる
とのことだったからか。理由は忘れたが、実際に来るまでは冒険者の宿だと思ってい
たのだ。
 値段も手頃で、立地条件も悪くない。普段ならもっと客がいるだろうに、ソフィニ
ア入りする直前に起こった連続殺人事件のせいで客が逃げたらしい。まあ、そのお陰
で宿が取れた、というのもあるのだが……あまり気分のいい事件ではないのは確かだ
った。

「お陰で静かなのは助かるけどね……」

 頭痛が少し収まってきたせいか、随分気分は良くなった。横になるのも飽きたし、
何か食べておかなくてはなるまい。部屋まで食事を運んでもらうか、下で食事をとる
必要があるだろう。当初はエンジュと一緒に下で食べることにしていたから、運んで
もらうにしても一度降りて、頼まなくてはならないのだ。
 体を起こすと、まだ辛かった。頭に手を当てつつ、薄い黒布を頭から被っただけで
部屋を出る。
 伏し目がちに歩いていたら、階段の手前で人に衝突しそうになって思わず体が硬直
した。

「……大丈夫?」

 事前に足元が見えたから、実際にはぶつかっていない。でも、ビクッと震えたのを
驚かせてしまったのだと思ったのか、男は声を掛けてきた。シエルは顔を上げて、相
手の顔を見て、心底安堵の溜め息をもらす。
 イルランじゃなくてよかった。イルランと同じ目をしていなくて良かった、と。

「……ええ、平気よ」

「最近物騒なことが続いてるからねー。何もしないから安心して」

 そう笑って一番奥の部屋に入っていったのは本当に人だったのだろうか?
 少し輪郭が滲んで見えたのが自分の体調が原因なのか、分からなかった。




 シエルは学院の側を通りたくないという理由で遠回りを繰り返していた。時間を見
計らって宿を出たのだが、一向に目的地に着く気配はない。

「遅れるわね、このままじゃ」

 路地裏に入り込んでしまい、仕方なく地図を広げる。シエルの予想では次の交差点
を左折するハズなのだが、その交差点が見つからないのだ。

「人に聞くしかないかしら……」

 見渡すと壁に黙々と記号らしきモノを書き殴っている男がいる。というか、他に人
が見あたらない。話しかけようと近づくが、一向にこちらに気付く気配もない。

「あの、道をお聞きしたいんですが」

 声を掛けるが無反応。何やら大きな記号を書こうと腕を振り上げ、ぶつかりそうに
なる。
 何でそんなに人にぶつかりそうになるのだろうか。イルランの呪いか何かなのか。

 仕方なく心細い思いをしながらも、細い路地を抜け、ようやく目的地に到着した。
 入ろうとして、中を覗き、店員が野菜炒めを持っていく先を見て唖然とする。
 エンジュもアンジェラも見あたらない。見えたのは生粋のエルフ。

「……なんだっていうのよ」

 やっぱり呪いという字が頭に浮かぶ。気付かれる前に逃げ出そうと振り返り、走り
出したところで大きな胸にぶつかった。見上げると、驚いた顔のエンジュ。

「シエル?」

 店内からの只ならぬ視線を感じて、シエルはエンジュの後ろに身を隠した。
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2007/02/12 17:06 | Comments(0) | TrackBack() | ○易しいギルド入門

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