****************************************************************
『 易 し い ギ ル ド 入 門 【15】』
~ 夜の訪問者は騒がしく ~
場所 :ソフィニア
PC :エンジュ シエル
NPC:パリス シダ
****************************************************************
その夜は一段と闇が濃かった。
空には月さえ浮かばず、ソフィニアの苦学生たちは、蝋燭代すら惜しんで早々と床につく。
パリスは、煌煌と灯りをともし続けるヴァデラッシュ邸の書斎で書物をめくっていた。
はぁ。
一人ため息。
頭によぎる女性は、赤い髪の婚約者でも、しなやかな肢体を持つ獣人の恋人でもなく、
今は厚い雲に隠された月のように儚げで凛とした美しさをもつ白きハンターだった。
「シエルさん・・・」
彼の呟きに答えるかのように、勢いよく二階の窓が開け放たれた。
「見つけたわよ、パリス!」
「なっ!? わっ、いてっ」
ガタン!!
突然、自分に向かって言葉を投げつけられた女の声。
パリスは思わず逃げ出そうと立ち上がり、椅子につまずいて腰を打った。
あきれる様に鼻から息を吐くと、その人物は外から華麗に室内へと侵入した。
「アンタ、一体シエルに何をしたの?」
光の下で、改めて突然の侵入者を見ると、パリスは安心して長い息を吐いた。
シエルの相棒だというエルフではないか。
「なんだ、エンジュさんじゃないか。驚かさないで下さいよ」
「それはこっちのセリフよ」
エンジュは腰を抜かしているパリスの襟元を掴むと一気に引き上げた。
そのまま足元が浮くほど持ち上げて、エンジュは睨み付けた。
二人の身長はそう変わらないので、自分より高い場所に顔のある相手をエンジュは睨み上げるかたちとなる。
パリスはこのエルフの女性の何処にこんな力があるのだろう、と頭の端で思いながらも、その鋭い薄紅色の瞳に睨まれて縮みあがっていた。
「おーい、エンジュ。一応こっちは不法侵入なんだから、怪我はさせるなよー」
窓の外にはもう一つの人影があった。
動物のお面を被った謎の男だ。
しかし、その頭の上から突き出した黒い耳だけは間違いなく本物。
獣人・・・アンジェラの仲間だろうか。
パリスはシダの事を忘れていたので、そんなことを思った。
エンジュは仕方なく、といった様子でパリスを解放する。
喉をさすりながら、パリスは先ほどのエンジュの言葉を訊きとがめた。
「シエルさんがどうしたんですか?僕だって、急に彼女が魔法で姿を消してしまって困惑していたんですよ」
「アンタが何かやらかしたんじゃないの?」
「そんな!あの邪魔者エルフが来るまではとても良い雰囲気だったのに」
『話の通じない馬鹿エルフ』
ようやく合点がいった。
シエルの暴言は、あのイルランとか言うエルフに向けられたものだったのか。
エンジュは泥酔したシエルをそのまま部屋まで連れて行くと、シダからパリスの居場所を聞き出した。
その為、シエルがあれほど荒れていた理由については分からずにここまで来ていたのだ。
ちなみに、シダはエンジュがパリスに実力行使に出ないか心配でついてきたりする。
依頼人に怪我をさせて下がるのは、今後のシエルの評価だ。
「しかも、あのエルフは僕に決闘を申し込んできたんです」
エンジュの勘違いが分かってほっとしたのか、勢いづいたパリスは昼間のことを説明しだした。
その内容に、エンジュもまた頭がくらくらしてきた。
何となく、シエルの飲みでもしなきゃやってられない気持が分かってきた。
「ねぇ、シダ。エルフの村にそんな習慣あったかしら・・・」
「んー、少なくとも手袋投げつけて、先に相手に傷を一つでも負わせたら勝ちなんて勝負は聞かないね」
人のことは言えないが随分と人間かぶれなエルフではないか。
「その、決闘うけるの?」
「まさか!」
いっそ清清しいほどに、パリスは否定した。
確かに、アンジェラとパリスが駆け落ちするのに、危険を犯してまでシエルの為に決闘する必要などかけらもない。
「いっそ、エンジュが決闘うけてきたら?」
「ある意味そうしたわね」
シダの無責任な提案に、エンジュは大いに頷く。
「私は明日ベルベットの研究室に行くわ」
「本当ですか!?きっとパティーはそこに・・・」
パリスが思わず身を乗り出したところで、今度は扉の方から新たな人物が登場した。
「パリス!一体こんな夜中に何を騒いでおる!!」
「と、父さん」
息子に喝を入れた男は、じろりとエンジュに視線を向けた。
「お前の婚約者が夕方尋ねてきた。お前に新しい恋人が出来たとな。獣人の次はエルフか、まったくお前はわが家に異種の血を混ぜる気か」
「ち、違うよ。彼女は・・・」
これが二人の仲を引き裂き、ベルベットと手を組んだパリスの父親というわけだ。
パリスの甘いマスクとは正反対の四角い顔には、整ったヒゲが生えていたが、どうにも嫌味を感じさせた。
「こんばんわ。ヴァデラッシュさん」
エンジュも余裕たっぷりで微笑んでみせる。
(暴れちゃ駄目だよー)
窓の外で隠れているシダが小さな声で囁いてきた。
「私はベルベットの友達です。彼があまりに女性に不誠実なので彼に説教しにきたのよ」
「こんな夜中にか。非常識な」
「非常識なのは誰かしら」
「何だと・・・?」
エンジュはそれだけいうと、窓際まで戻り、最後に振り返った。
「パリス、あんたも男なんだからいい加減なんとかしなさいよね」
それだけ言うと、エンジュはそのまま闇へと飛び込んだ。
『 易 し い ギ ル ド 入 門 【15】』
~ 夜の訪問者は騒がしく ~
場所 :ソフィニア
PC :エンジュ シエル
NPC:パリス シダ
****************************************************************
その夜は一段と闇が濃かった。
空には月さえ浮かばず、ソフィニアの苦学生たちは、蝋燭代すら惜しんで早々と床につく。
パリスは、煌煌と灯りをともし続けるヴァデラッシュ邸の書斎で書物をめくっていた。
はぁ。
一人ため息。
頭によぎる女性は、赤い髪の婚約者でも、しなやかな肢体を持つ獣人の恋人でもなく、
今は厚い雲に隠された月のように儚げで凛とした美しさをもつ白きハンターだった。
「シエルさん・・・」
彼の呟きに答えるかのように、勢いよく二階の窓が開け放たれた。
「見つけたわよ、パリス!」
「なっ!? わっ、いてっ」
ガタン!!
突然、自分に向かって言葉を投げつけられた女の声。
パリスは思わず逃げ出そうと立ち上がり、椅子につまずいて腰を打った。
あきれる様に鼻から息を吐くと、その人物は外から華麗に室内へと侵入した。
「アンタ、一体シエルに何をしたの?」
光の下で、改めて突然の侵入者を見ると、パリスは安心して長い息を吐いた。
シエルの相棒だというエルフではないか。
「なんだ、エンジュさんじゃないか。驚かさないで下さいよ」
「それはこっちのセリフよ」
エンジュは腰を抜かしているパリスの襟元を掴むと一気に引き上げた。
そのまま足元が浮くほど持ち上げて、エンジュは睨み付けた。
二人の身長はそう変わらないので、自分より高い場所に顔のある相手をエンジュは睨み上げるかたちとなる。
パリスはこのエルフの女性の何処にこんな力があるのだろう、と頭の端で思いながらも、その鋭い薄紅色の瞳に睨まれて縮みあがっていた。
「おーい、エンジュ。一応こっちは不法侵入なんだから、怪我はさせるなよー」
窓の外にはもう一つの人影があった。
動物のお面を被った謎の男だ。
しかし、その頭の上から突き出した黒い耳だけは間違いなく本物。
獣人・・・アンジェラの仲間だろうか。
パリスはシダの事を忘れていたので、そんなことを思った。
エンジュは仕方なく、といった様子でパリスを解放する。
喉をさすりながら、パリスは先ほどのエンジュの言葉を訊きとがめた。
「シエルさんがどうしたんですか?僕だって、急に彼女が魔法で姿を消してしまって困惑していたんですよ」
「アンタが何かやらかしたんじゃないの?」
「そんな!あの邪魔者エルフが来るまではとても良い雰囲気だったのに」
『話の通じない馬鹿エルフ』
ようやく合点がいった。
シエルの暴言は、あのイルランとか言うエルフに向けられたものだったのか。
エンジュは泥酔したシエルをそのまま部屋まで連れて行くと、シダからパリスの居場所を聞き出した。
その為、シエルがあれほど荒れていた理由については分からずにここまで来ていたのだ。
ちなみに、シダはエンジュがパリスに実力行使に出ないか心配でついてきたりする。
依頼人に怪我をさせて下がるのは、今後のシエルの評価だ。
「しかも、あのエルフは僕に決闘を申し込んできたんです」
エンジュの勘違いが分かってほっとしたのか、勢いづいたパリスは昼間のことを説明しだした。
その内容に、エンジュもまた頭がくらくらしてきた。
何となく、シエルの飲みでもしなきゃやってられない気持が分かってきた。
「ねぇ、シダ。エルフの村にそんな習慣あったかしら・・・」
「んー、少なくとも手袋投げつけて、先に相手に傷を一つでも負わせたら勝ちなんて勝負は聞かないね」
人のことは言えないが随分と人間かぶれなエルフではないか。
「その、決闘うけるの?」
「まさか!」
いっそ清清しいほどに、パリスは否定した。
確かに、アンジェラとパリスが駆け落ちするのに、危険を犯してまでシエルの為に決闘する必要などかけらもない。
「いっそ、エンジュが決闘うけてきたら?」
「ある意味そうしたわね」
シダの無責任な提案に、エンジュは大いに頷く。
「私は明日ベルベットの研究室に行くわ」
「本当ですか!?きっとパティーはそこに・・・」
パリスが思わず身を乗り出したところで、今度は扉の方から新たな人物が登場した。
「パリス!一体こんな夜中に何を騒いでおる!!」
「と、父さん」
息子に喝を入れた男は、じろりとエンジュに視線を向けた。
「お前の婚約者が夕方尋ねてきた。お前に新しい恋人が出来たとな。獣人の次はエルフか、まったくお前はわが家に異種の血を混ぜる気か」
「ち、違うよ。彼女は・・・」
これが二人の仲を引き裂き、ベルベットと手を組んだパリスの父親というわけだ。
パリスの甘いマスクとは正反対の四角い顔には、整ったヒゲが生えていたが、どうにも嫌味を感じさせた。
「こんばんわ。ヴァデラッシュさん」
エンジュも余裕たっぷりで微笑んでみせる。
(暴れちゃ駄目だよー)
窓の外で隠れているシダが小さな声で囁いてきた。
「私はベルベットの友達です。彼があまりに女性に不誠実なので彼に説教しにきたのよ」
「こんな夜中にか。非常識な」
「非常識なのは誰かしら」
「何だと・・・?」
エンジュはそれだけいうと、窓際まで戻り、最後に振り返った。
「パリス、あんたも男なんだからいい加減なんとかしなさいよね」
それだけ言うと、エンジュはそのまま闇へと飛び込んだ。
PR
トラックバック
トラックバックURL: