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『 易 し い ギ ル ド 入 門 【12】』
~ 続く障害 ~
場所 :ソフィニア
PC :エンジュ シエル
NPC:パリス ベルベッド イルラン
※ベルベッドに対してエンジュはアンジェラという偽名と使っている。
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ベルベッドの後ろで、エンジュはこっそりと胸を撫で下ろした。
まさか、こんなに早い段階でシエルとベルベッドのバトルが繰り広げられるとは思っても見なかった。シエルの芝居は、ベルベッドからアンジェラの注意を逸らすことが目的である。これで、エンジュが上手くベルベッドに近づき、捕らわれた魔法生物を奪還できれば、あの恋人たちはソフィニアを逃げることが出来るというわけだ
。
不機嫌そうな顔で爪を噛むベルベッドの横に並ぶと、エンジュは明るい声で彼女の肩をたたいた。
「ねぇ、魔法生物を見せてもらった後、何処か飲みに行かない?嫌なことなんて忘れてしまいましょうよ」
「悪いけど、用事が出来たわ」
「え!?」
「明日、明日会いましょう!受付で私の研究室を聞いて頂戴。一日いるから」
それだけ言うと、ベルベッドは早足で行ってしまった。エンジュはそれを呆然と見送る。
「もしかして、逃げられた…?」
追いかけることも出来る。しかし、今の段階でベルベッドに警戒心を抱かれては折角の接触が台無しだ。明日会う約束は取り付けたのだ、今回は引き下がったほうが良いだろう。
「お腹もすいちゃったしね」
エンジュの独り言に同意するように、お腹が鳴った。
もしこのまま学院の食堂に向かえば、発情期エルフに迫られるシエルに出くわすことになったのだが、幸か不幸か、エンジュはすぐにでもこの硬苦しい学院から立ち去ることしか頭に無かった。どうも、こういった場所は肌に合わないようだ。
「仕事でなければ近づきたくないところよね」
* * * * *
腹ごしらえをする為に、ふらりと立ち寄った酒場。
有無を言わずに、奥から三番目の席に案内された。
そして、したり顔のマスターに出されたのは何故か野菜炒めセット。
「んー……」
どうやらこの店にはエルフの常連でもいるようだ。しかも、古い習慣を守る質素な食事を好むタイプの。
出されたものを返すわけにもいかず、荒く切られたキャベツを頬張る。塩コショウの利いた味付けはエルフの好みとは少々外れるところがあったが、物足りないという点では、隣のおばさんお手製のザワークラウトを思い起こさせた。この席に座るエルフも妥協した結果なのだろうと何となく思った。
「でもやっぱり足らないから、牛肉とブロッコリーの炒め物と、トマトとベーコンサンドと林檎のコンポート追加ね」
フォークにキャベツを突き刺したまま、エンジュはメニューを広げ、オーダーする。学生らしき若者たちが、目を丸くしてこちらを見ていたが、エンジュにとっては日常的な事で、特に注意を払ったりはしなかった。
「あの…」
しかし、そんな客に交じってこちらを見ていた一人の女が席を立ってエンジュに近づいた。エンジュが顔を上げると、そこには見覚えのある顔があった。
「アンジェラ…?」
「エンジュさん、でしたよね」
パリスの本当の恋人でジグラッドの民アンジェラは、一度だけ会っただけのハンターの名前を不安そうに口にした。
エンジュは隣の空席を勧めると、改めてアンジェラを観察した。彼女はエンジュのテーブルに置かれた一人分には多すぎる食事を不思議そうに眺めている。
大柄な女が二人並ぶと、酒場の隅っこだというのにやけに目立った。しかし、男を寄せ付けないタイプの美女二人に声をかけようという強者は今のところいなかった。さすが魔法都市ソフィニア、とエンジュはわけも分からず感心した。
「パリスは、うまくやってますか?」
「えぇ、まぁ、ね」
先ほどの光景を思い出して、エンジュは渋い顔をした。その顔を見て、アンジェラは察したのだろう、深いため息をつく。
「パリスは優しい人ですから」
「優しいねぇ…」
単に女に甘いだけなような気もするのだが。
「本当は、私が彼女と直接対峙するのが一番なのでしょう。一応戦いの心得はあります」
そう言いながら、アンジェラは外を気にしだした。そうだ、彼女は夜になると獣人に変身する一族だった。人狼の姿の彼女なら魔法使いのベルベッドから強引にパティの居場所を聞き出すことも可能だろう。
しかし、出来ない理由がある。
「一族のためにも、ソールズベリー大聖堂に近いこのソフィニアで騒ぎを起す事はできません」
それは彼女たち一族の背負う過去にあった。
これはシエルから聞いたことなのだが、かつて凶暴な人狼を抹消するためにイムヌス教の人間によってジグラッドの一族はひどい迫害を受けた、それが彼らを砂漠へと追いやった理由なのだという。
「大丈夫よ、必ずパティの居場所はつかむわ!明日もまたこの時間に酒場で会いましょう」
エンジュは自信を持ってアンジェラを励ました。
一人で人間の住む町にいることは心細いことだろう、エンジュにもその気持ちは十分理解できた。
できれば、彼女たちには幸せになってほしいと祈らずにはいられない。
『 易 し い ギ ル ド 入 門 【12】』
~ 続く障害 ~
場所 :ソフィニア
PC :エンジュ シエル
NPC:パリス ベルベッド イルラン
※ベルベッドに対してエンジュはアンジェラという偽名と使っている。
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ベルベッドの後ろで、エンジュはこっそりと胸を撫で下ろした。
まさか、こんなに早い段階でシエルとベルベッドのバトルが繰り広げられるとは思っても見なかった。シエルの芝居は、ベルベッドからアンジェラの注意を逸らすことが目的である。これで、エンジュが上手くベルベッドに近づき、捕らわれた魔法生物を奪還できれば、あの恋人たちはソフィニアを逃げることが出来るというわけだ
。
不機嫌そうな顔で爪を噛むベルベッドの横に並ぶと、エンジュは明るい声で彼女の肩をたたいた。
「ねぇ、魔法生物を見せてもらった後、何処か飲みに行かない?嫌なことなんて忘れてしまいましょうよ」
「悪いけど、用事が出来たわ」
「え!?」
「明日、明日会いましょう!受付で私の研究室を聞いて頂戴。一日いるから」
それだけ言うと、ベルベッドは早足で行ってしまった。エンジュはそれを呆然と見送る。
「もしかして、逃げられた…?」
追いかけることも出来る。しかし、今の段階でベルベッドに警戒心を抱かれては折角の接触が台無しだ。明日会う約束は取り付けたのだ、今回は引き下がったほうが良いだろう。
「お腹もすいちゃったしね」
エンジュの独り言に同意するように、お腹が鳴った。
もしこのまま学院の食堂に向かえば、発情期エルフに迫られるシエルに出くわすことになったのだが、幸か不幸か、エンジュはすぐにでもこの硬苦しい学院から立ち去ることしか頭に無かった。どうも、こういった場所は肌に合わないようだ。
「仕事でなければ近づきたくないところよね」
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腹ごしらえをする為に、ふらりと立ち寄った酒場。
有無を言わずに、奥から三番目の席に案内された。
そして、したり顔のマスターに出されたのは何故か野菜炒めセット。
「んー……」
どうやらこの店にはエルフの常連でもいるようだ。しかも、古い習慣を守る質素な食事を好むタイプの。
出されたものを返すわけにもいかず、荒く切られたキャベツを頬張る。塩コショウの利いた味付けはエルフの好みとは少々外れるところがあったが、物足りないという点では、隣のおばさんお手製のザワークラウトを思い起こさせた。この席に座るエルフも妥協した結果なのだろうと何となく思った。
「でもやっぱり足らないから、牛肉とブロッコリーの炒め物と、トマトとベーコンサンドと林檎のコンポート追加ね」
フォークにキャベツを突き刺したまま、エンジュはメニューを広げ、オーダーする。学生らしき若者たちが、目を丸くしてこちらを見ていたが、エンジュにとっては日常的な事で、特に注意を払ったりはしなかった。
「あの…」
しかし、そんな客に交じってこちらを見ていた一人の女が席を立ってエンジュに近づいた。エンジュが顔を上げると、そこには見覚えのある顔があった。
「アンジェラ…?」
「エンジュさん、でしたよね」
パリスの本当の恋人でジグラッドの民アンジェラは、一度だけ会っただけのハンターの名前を不安そうに口にした。
エンジュは隣の空席を勧めると、改めてアンジェラを観察した。彼女はエンジュのテーブルに置かれた一人分には多すぎる食事を不思議そうに眺めている。
大柄な女が二人並ぶと、酒場の隅っこだというのにやけに目立った。しかし、男を寄せ付けないタイプの美女二人に声をかけようという強者は今のところいなかった。さすが魔法都市ソフィニア、とエンジュはわけも分からず感心した。
「パリスは、うまくやってますか?」
「えぇ、まぁ、ね」
先ほどの光景を思い出して、エンジュは渋い顔をした。その顔を見て、アンジェラは察したのだろう、深いため息をつく。
「パリスは優しい人ですから」
「優しいねぇ…」
単に女に甘いだけなような気もするのだが。
「本当は、私が彼女と直接対峙するのが一番なのでしょう。一応戦いの心得はあります」
そう言いながら、アンジェラは外を気にしだした。そうだ、彼女は夜になると獣人に変身する一族だった。人狼の姿の彼女なら魔法使いのベルベッドから強引にパティの居場所を聞き出すことも可能だろう。
しかし、出来ない理由がある。
「一族のためにも、ソールズベリー大聖堂に近いこのソフィニアで騒ぎを起す事はできません」
それは彼女たち一族の背負う過去にあった。
これはシエルから聞いたことなのだが、かつて凶暴な人狼を抹消するためにイムヌス教の人間によってジグラッドの一族はひどい迫害を受けた、それが彼らを砂漠へと追いやった理由なのだという。
「大丈夫よ、必ずパティの居場所はつかむわ!明日もまたこの時間に酒場で会いましょう」
エンジュは自信を持ってアンジェラを励ました。
一人で人間の住む町にいることは心細いことだろう、エンジュにもその気持ちは十分理解できた。
できれば、彼女たちには幸せになってほしいと祈らずにはいられない。
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