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2024/05/17 08:52 |
易 し い ギ ル ド 入 門 【12】/シエル(マリムラ)
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『 易 し い ギ ル ド 入 門 【12】』 
   
               ~ 続く障害 ~



場所 :ソフィニア
PC :エンジュ シエル
NPC:パリス ベルベッド イルラン

※ベルベッドに対してエンジュはアンジェラという偽名と使っている。
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 部屋から出て、食堂へ向かう予定が狂った。
 あの迷惑なエルフもひとまず退散したようだし、障害はない……はずだったのに。
 上手くいかない時には上手くいかないことが続くモノなのだろうか。

「パリス、その人は誰?」

 自虐的で卑屈な笑みを浮かべる女が立ち塞がる。
 魔女と揶揄される女・ベルベットだと、一目で分かった。
 パリスは咄嗟に目を逸らし、明後日の方向を見ている。その隣で一人、彼女の視線
に晒されているシエルが小さく溜め息を吐いた。
 彼女の不躾な視線にウンザリしたのだ。婚約者が仲良さそうに他の女と連れだって
歩いていたら、女の面子丸潰れだということくらい流石に分かる。分かるのだが、あ
の視線をぶつけられるのはあまり気分のいいモノでもなくて。

「困っていたところを助けていただいたんです。アナタこそどちらさま?」

 名前を聞くなら先に名乗れ。
 軽く挑発してみる。

「ベルベットよ。そこの男の婚約者」

 勝ち誇ったようなウィッチスマイルでベルベットが答えた。
 しかし、そんなことは当然知っているシエルは、驚くどころかあざ笑う。

「婚約者に目も合わせて貰えないなんて、アナタ相当嫌われているのね。
 か・わ・い・そ・う・に」

 ベルベットの顔が見る間に紅潮した。
 おや、どうも気にしていたらしい。

「アナタには関係のないことだわ。それよりちゃんと名乗ったらどうなの?」
「イヤよ」
「何ですって!?」
「アナタなんかに名乗る名前は持っていないわ」

 火花のバチバチという効果音が聞こえそうな対峙。
 顔を真っ赤にして髪が逆立ちそうな勢いのベルベットに比べ、シエルは対照的に涼
しい表情を保っている。互いが互いの目を見据える妙な緊張感に、皆が呑まれかけて
いた。

 そう、廊下にいた皆が遠巻きに様子を窺っているのだ。
 再び舞台のように視線を浴びても、シエルは表情を崩すことはなかった。




「ちょっと、何事!?」

 遅れてベルベットの後ろに現れたのはエンジュだった。ベルベットは廊下を曲がる
際にパリスを見かけ、エンジュをその場に待たせたまま、一人で引き返してきていた
らしい。
 険悪な空気は廊下の端まで届いたのだろう。待ちきれずに彼女を追ったエンジュ
は、シエルの顔を見つけると「しまった」という表情を一瞬浮かべた。
 不幸中の幸いか、ベルベットはシエルを睨み続けていた為、気付かない。

「アンジェラ、もう少し待ってて。大事な用が出来たの」

 シエルから視線を逸らすことなくそう答えるベルベット。
 エンジュはベルベットの肩を軽く叩くと、彼女に小さな声で耳打ちした。

「何があったの?」
「婚約者に連れがいたから挨拶してるの」

 シエルを睨んだまま、大きく薄い唇を広げて笑う。
 エンジュは辛そうに顔をしかめ、耳打ちを続けた。

「婚約? 勝ちも同然じゃない。結婚したい相手って彼なんでしょう?」
「そう……そうね、ええ、そうよ」

 ベルベットの顔色が少し落ち着きを取り戻し始める。

「バツが悪くて目を逸らしているけど、別に相手の女を庇う風でもないし。
 まあ、モテる男がファンの相手しているだけって見えなくもないけど」

 そこでやっと、視線がシエルから外れた。パリスを見たのだ。

「パリス、魔法生物の実験って楽しそうだと思わない?」

 ビクッと目に見えて体を震わせた男を見て、ようやく満足そうに笑うベルベット。

「分かっているんだったらいいわ。じゃあね、名乗る名前もない脇役さん」

 そういうと、ベルベットはエンジュを連れて去っていく。それを合図に、取り巻い
ていた群衆がちらほらと離れ始め、空気が通常のモノへと戻り始める。
 この男はダメだ……と本気で思っているせいか、不安そうに寄り添う演技が苦痛に
感じるシエルであった。




 気を取り直して談笑しながら、食堂の一角を陣取った。日が射し込まない席を選ん
で、それでも明るい室内に「永くは保たないな」と思いながら。

 パリスの評価としては、顔も悪くはなく、話も悪くなく、性格が悪い男でもなかっ
た。 が、それだけだ。
 明るく気さくな好青年、と言えば聞こえはいいが、婚約者には言い返すことも出来
ず、連れを庇うことすらろくに出来ていない。こんな人が家を出てやっていけるのだ
ろうか?

「婚約なさってるんですね、いいんですか? 私と一緒にいて」
「いいんです。親が勝手に決めた相手ですから。今時、時代錯誤な話ですよ」
「それは……望んでいないんですか」
「私だって出来ればあなたのような……いや、失礼」

 手をそれとなく握り、パッと離す。
(婚約者がいながら別の女を口説く男、それだけ聞いたら最低ね)
 そう思いつつも、恥ずかしそうに手を引っ込めた。

「同じ手を、一体何人に使ったのかしら」
「あなただけですよ」

(うわー、コレで信じる女がいたらバカだわね)

「ずっと前からあなたを知っていたような気がします」

 シエルの頬が朱に染まる。
(こんなに恥ずかしい台詞が吐けるなんて、どこかおかしいんじゃないかしら)
 聞いているこっちが恥ずかしいのだ。

「あの、さっきは本当にありがとうございました」

 真っ赤な顔でにこりと笑う。

「いえ、あなたと知り合えて、私の方が幸運でしたよ……おや、どうしました?」

 シエルが慌ててパリスの陰に隠れるも、時既に遅し。

「ああ、やはり運命だ!」

 花束を抱えたイルランに見つかってしまったらしい。
 シエルはこっそり頭を抱えた。

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2007/02/12 17:04 | Comments(0) | TrackBack() | ○易しいギルド入門

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