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2024/05/17 01:27 |
易 し い ギ ル ド 入 門 【11】/エンジュ(千鳥)
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『 易 し い ギ ル ド 入 門 【11】』 
   
               ~ こいばな ~


場所 :ソフィニア魔術学院
PC :エンジュ シエル
NPC:パリス ベルベッド

※ベルベッドに対してエンジュはアンジェラという偽名と使っている。
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 部屋の中から拍手の音が聞こえた。そろそろ講座も終わりに差し掛かったようだ。

「ごめんなさい。引き止めてしまったわね」
「いいのよ。私、話を聞くのって苦手みたい。実際に動いて見る方がいいわ」
「あなた、魔法生物に興味があるの?」

 その言葉にベルベッドは探るような目でエンジュを見た。目の前に居るハーフエルフがどれだけ信用できる人物か見定めようとしているのだ。

「えぇ、本当は本物が見れれば一番良かったんだけど…」

 対するエンジュも、ねだる様な口調で答えた。ベルベッドが自分に好意を持っていることは分かっている。彼女は今、アンジェラから奪った生きた魔法生物を持っているのだ。親密になれば見せてもらうことも出来るかもしれない。
 後一押し何か彼女の心を掴まなければ……

「ハーフエルフに理解のある人と知り合えて嬉しいわ、ベルベッド。私たち良いお友達になれると思わない?」

 彼女の肩に触れると、エンジュは極上の微笑を浮かべた。
 弟のユークリッドと同様、男女両方に威力のあるらしいエンジュの端正な美貌にベルベッドも思わず魅入っていた。

「そうね……。少しここで待っててくれない?片づけが終わったらアタシの部屋で良いものを見せてあげるわ」

 それだけ言うと、慌ててエンジュの元を離れた。

「まぁ、最初はこんなもんよね」

 講義室の扉が開き、中から人々が出てきた。エンジュはシエルの姿を探して出口を覗いた。ちょうど、部屋の中でシエルの仮面が割れたところだった。

(うっわーっ!!)

 それは思わずエンジュが赤面したくなるような光景だった。儚げに座り込むシエルは美しく、見詰め合う二人は確かに運命の出会を果たした男女だった。しかし、シエルの性格とこれが茶番である事を知るエンジュには、まるで自分の娘のラブシーンでも見ているような気恥ずかしさが先にたつ。
 それでも、周知公認の中二人は出会ったのだから、それでよしとしよう…等とぶつぶつと心の中で呟いているのもつかの間、そこに邪魔が入った。
 
(エルフがどうしてこんな所にいンのよッ!)

 恋の邪魔者、イルランと名乗った男は本来なら魔術学院とは縁が無い純粋なエルフだった。しかも、遠くにいるエンジュにすら聞こえるような声で『運命』等という恥ずかしい言葉を繰り返している。用意された運命に運命を感じるなど、喜劇でしかないというのに。

(人間に恋したエルフはしつこいわよ…)

 これからの計画を大きく阻む危険性を感じ、エンジュはシエルを心配げに見つめた。

 本来エルフのように長寿で生涯を一人の伴侶と添い遂げる種族は、恋愛に関しては慎重でプラトニックな部分が多い。しかし、はるかに寿命の短い相手を伴侶として選ぶとなれば、そんな悠長な事は言っていられなくなる。本来の目的であるところの子孫繁栄を果たすべく、彼は全力でシエルにアタックしてくるに違いない。
 エルフの森に迷い込んだ父を匿(かくま)い、周囲の反対を押し切って子供まで成した母は、父の事以外では、実にたおやかな女性であったから、エルフの内に秘めた情熱をエンジュは身をもって知っていた。

 出来ればイルランの動きを牽制したい所だが、シエルとエンジュが知り合いである事がベルベッドに知れるとまずい。パリスが上手くイルランからシエルを守ってくれると良いのだが。

「一人の女も守れないような男に任せるのは心配よね……」

 シエルを守るには、自分が頑張るしかなさそうだ。

「アンジェラ、お待たせ。アタシの研究室に案内するわ。…どうかしたの?」
 
 頭を抱えるエンジュをベルベッドが不思議そうに覗き込んだ。

「ちょっと今、恋愛の難しさについて実感しているところ」
「あら、アンジェラは恋をしているの?」

 違う。と言いかけて、慌てて「そうよ」と言い直す。女同士の友情を深めるならば、作り話ででも打ち解けたように見せかけたほうが良い。

「どんな人なの?」
「そうねぇ…」

 取りあえず身近な異性を思い浮かべて、最初に出てくるのが弟というところが情けない。あの馬鹿を例に出すのも癪なので、はるか昔の初恋の相手などを頑張って記憶の奥底から掘り出してみることにした。

「いつも陽気で…冒険者だったから子供みたいな所もあったけど頼りがいのある人よ。奥さんと子供がいたけどね」
「…辛い恋なのね」
「……」

 自分を人間の世界に連れ出してくれた叔父への淡い初恋を話したつもりが、何だか間違ってしまたような気がしてならない。

「ベルベッドはどうなの?」
「アタシは、いないわ」
「え!?」

 あの時の切なげな表情に、エンジュは彼女がパリスに恋をしていると確信していた。予想外の答えに思わず声を上げる。

「でも、結婚したいと思う男はいるわ」

 そう言って、大きく薄い唇を広げて笑うと、ベルベッドの表情は冷酷な魔女のように見えた。

「そういう笑い方、しない方がいいわよ」

 それ以前に彼女が浮かべた微笑みは、ずっと魅力的だった。自虐的な笑みは見ているほうが辛くなる。

「魔女のよう。でしょう?アタシのうちは貧しくてね、子供を養うだけの稼ぎも無かった。幸い、アタシには魔法の才能があって、魔術学院に奨学金で通うことで何とかこうして生きてこられた」
「ベルベッド…」
「アタシの結婚したい男はね、金と家の力で才能が無くせに研究員を続けられるような男なの。そのくせ見てくれが良くて、好きな女の為なら地位も家も捨てられるって言うのよ?あんなぼんくらが、そんな生活に耐えられるわけ無いじゃない。
 絶対に、邪魔して見せるわ。」

 恋愛は難しい。それが嫉妬なのか、愛なのか見分けのつかないものならなおさらだ。

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2007/02/12 17:04 | Comments(0) | TrackBack() | ○易しいギルド入門

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