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『 易 し い ギ ル ド 入 門 【10】』
~ ドラマチックな出会い ~
場所 :ソフィニア
PC :(エンジュ)シエル
NPC:パリス イルラン
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『絶滅を危惧される魔法生物について』という講義は、思ったよりずっと興味深い、
面白いものだった。実は砂漠の民と共存していない古代種がいたりとか、様々な形態
の魔法生物の中でも飛行可能な形態が最も多く確認されている等々。
しかしエンジュが席を外した事にも気付いていたし、本来の目的も忘れる程でもな
く。頭の中で計画を反芻する。
(そろそろ……かしら?)
シエルは講義が終わると足早に出口へ向かった。その脇に案内係のパリスが立って
いるのを確認すると、一瞬速度を緩め、後ろから押される形で彼にぶつかる。
パリーン!
ざわついた会場が一瞬静まる。
俯き、髪で顔の見えないシエルの下には陶器製の仮面が真っ二つに割れており、そ
の音に驚いた人々は一度歩みを止めた。少し遠巻きに人が歩き出し、徐々にざわつき
始めても、膝を崩して横座りのまま立ち上がらないシエルの周りは不思議と避けら
れ、僅かながら空間が出来ている。
シエルは重い陶器製の仮面をわざわざ用意してきていたのだ。もちろん「割る」た
めに。
以前から持っていたモノだが、重くてあまり使ってはいなかったのだから惜しくもな
い。
シエルがゆっくりと顔を上げる。
目論見通り丁度光が射すその場所は、まるでスポットライトがあてられた舞台のよ
うだった。シエルの白く細い髪がさらさらと音を立てて揺れ、隙間から印象的な赤い
瞳が覗く。
シエルはパリスを見つめた。パリスは仮面を外したシエルに見つめられ、顔がどん
どん紅潮してゆく。二人はしばらく見つめ合ったまま動かない。そして通り過ぎる
人々は皆、二人に目を奪われてから部屋を出ていくのだ。素顔を晒し慣れないシエル
も、沢山の好奇の視線に頬が染まる。まあ、シエルの場合はこんな馬鹿げた芝居をし
ている事への気恥ずかしさから来ているのだが、表情に出さない限り、彼を見つめな
がら赤面しているようにしか見えないのだから天晴れだ。
ゆっくりとパリスから手が差し伸べられた。シエルがその手に手を延ばす。
だが、突然声に遮られて、その手は掴まる場所を失った。
「だ、大丈夫ですか!?」
シエルとパリスの間に立ち塞がるように、これまたパリスにも負けないほど赤面し
た男が割り込んだのだ。しかも声がでかい。
「……え、ええ。大丈夫よ」
視線をパリスに向けたまま、シエルは答えた。こんな所で邪魔が入るとは。
「あの、咄嗟に引き寄せたり出来れば良かったんでしょうけど、慌てていて……」
どうも後ろからぶつかった男らしい。
「しかもとても美し……いや、あの、見とれたりとかそんなことを言っているわけで
はなくてですね、えー……」
しどろもどろで何を言っているのだかサッパリ分からない。
「急いでいたところにお手間を取らせました。私は大丈夫ですからどうぞ行って下さ
い」
慌てるパリスをチラチラ見ながら、シエルはその男に愛想笑いを浮かべて見せた。
気分は勿論「さっさと行きやがれ」って感じで。
しかし、相手はそう思ってはくれなかった。
「イルランです、あなたは?」
「……名乗られる意味も、名前も聞かれる意味も分からないんですけど」
まずい展開になってきた。
「あの、運命って信じますか? 僕はあなたに運命を感じたんです!!」
残り少なくなった会場の全員が注目する。
この時になって初めて、男の顔をじっくり見ることになったのだが、驚くことに人
ではなかった。恐らくエンジュよりも純粋なエルフだ。
あーああ。あなたに運命を感じられても困る。というか、何でこんな時にこんなに
目立つことをしてくれるんだろう?
手を差し伸べられ、今この手を取ると運命を受け入れたようで嫌だなぁと頭をよぎ
る。
「えと、あの、困りますから」
立ち上がるタイミングを逃し、座ったままの不自然な格好で返答する。
その時になってやっと、呆気にとられていたパリスが動いた。
「君、彼女が困っているじゃないか。いい加減にしろよ」
隣に立ち、もう一度手をこちらへ延ばすと、今度は躊躇無く手を掴み引き上げる。
少々強引な立たせ方のおかげでバランスを崩したのか、立ち上がった途端抱きつく
ような形になってしまった。不幸中の幸いか、コレも計算なのかは分からないけれ
ど。
「ありがとう……ございます」
パッと体を離してパリスにお礼を言いながら下を向く。そしてイルランと名乗った
エルフの視線を避けるように、パリスの陰に隠れた。
「あなたのことを何でもいい、教えてください」
イルランは食い下がる。だが、シエルはパリスの後ろに隠れるように言った。
「私には運命は分かりません。でも、縁があればまた逢うこともあるでしょう。
……これ以上困らせないでください」
他に何と言って追い返せばいいのか分からなかった。
「では、次に遭ったときには名前を聞かせてくれますね?」
嬉しそうにイルランが笑う。
黙っていたら、彼はようやく部屋を後にしたようだった。
パリスの後ろから出てきて、ホッと胸を撫で下ろす。
「本当に助かりました」
「どういたしまして。少し落ち着けるところまで案内しましょうか?」
実は女性を口説き慣れているのではないかと思わせるほど、パリスの切り出し方は
あまりに自然だった。つい、吹き出してしまう。
「くすくす……お願いします。でも、お仕事があるのでは」
「今日は公開講座の案内係です。講義が終わった以上、誰も咎めませんよ」
二人は目を見て笑う。
まあ、第一段階の出会いはこんなところだろうか。コレから人が不特定多数出入り
をする食堂でもっと印象付けなければならない。
出来るだけ親密そうに話をしながら、二人は食堂へと向かった。
『 易 し い ギ ル ド 入 門 【10】』
~ ドラマチックな出会い ~
場所 :ソフィニア
PC :(エンジュ)シエル
NPC:パリス イルラン
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『絶滅を危惧される魔法生物について』という講義は、思ったよりずっと興味深い、
面白いものだった。実は砂漠の民と共存していない古代種がいたりとか、様々な形態
の魔法生物の中でも飛行可能な形態が最も多く確認されている等々。
しかしエンジュが席を外した事にも気付いていたし、本来の目的も忘れる程でもな
く。頭の中で計画を反芻する。
(そろそろ……かしら?)
シエルは講義が終わると足早に出口へ向かった。その脇に案内係のパリスが立って
いるのを確認すると、一瞬速度を緩め、後ろから押される形で彼にぶつかる。
パリーン!
ざわついた会場が一瞬静まる。
俯き、髪で顔の見えないシエルの下には陶器製の仮面が真っ二つに割れており、そ
の音に驚いた人々は一度歩みを止めた。少し遠巻きに人が歩き出し、徐々にざわつき
始めても、膝を崩して横座りのまま立ち上がらないシエルの周りは不思議と避けら
れ、僅かながら空間が出来ている。
シエルは重い陶器製の仮面をわざわざ用意してきていたのだ。もちろん「割る」た
めに。
以前から持っていたモノだが、重くてあまり使ってはいなかったのだから惜しくもな
い。
シエルがゆっくりと顔を上げる。
目論見通り丁度光が射すその場所は、まるでスポットライトがあてられた舞台のよ
うだった。シエルの白く細い髪がさらさらと音を立てて揺れ、隙間から印象的な赤い
瞳が覗く。
シエルはパリスを見つめた。パリスは仮面を外したシエルに見つめられ、顔がどん
どん紅潮してゆく。二人はしばらく見つめ合ったまま動かない。そして通り過ぎる
人々は皆、二人に目を奪われてから部屋を出ていくのだ。素顔を晒し慣れないシエル
も、沢山の好奇の視線に頬が染まる。まあ、シエルの場合はこんな馬鹿げた芝居をし
ている事への気恥ずかしさから来ているのだが、表情に出さない限り、彼を見つめな
がら赤面しているようにしか見えないのだから天晴れだ。
ゆっくりとパリスから手が差し伸べられた。シエルがその手に手を延ばす。
だが、突然声に遮られて、その手は掴まる場所を失った。
「だ、大丈夫ですか!?」
シエルとパリスの間に立ち塞がるように、これまたパリスにも負けないほど赤面し
た男が割り込んだのだ。しかも声がでかい。
「……え、ええ。大丈夫よ」
視線をパリスに向けたまま、シエルは答えた。こんな所で邪魔が入るとは。
「あの、咄嗟に引き寄せたり出来れば良かったんでしょうけど、慌てていて……」
どうも後ろからぶつかった男らしい。
「しかもとても美し……いや、あの、見とれたりとかそんなことを言っているわけで
はなくてですね、えー……」
しどろもどろで何を言っているのだかサッパリ分からない。
「急いでいたところにお手間を取らせました。私は大丈夫ですからどうぞ行って下さ
い」
慌てるパリスをチラチラ見ながら、シエルはその男に愛想笑いを浮かべて見せた。
気分は勿論「さっさと行きやがれ」って感じで。
しかし、相手はそう思ってはくれなかった。
「イルランです、あなたは?」
「……名乗られる意味も、名前も聞かれる意味も分からないんですけど」
まずい展開になってきた。
「あの、運命って信じますか? 僕はあなたに運命を感じたんです!!」
残り少なくなった会場の全員が注目する。
この時になって初めて、男の顔をじっくり見ることになったのだが、驚くことに人
ではなかった。恐らくエンジュよりも純粋なエルフだ。
あーああ。あなたに運命を感じられても困る。というか、何でこんな時にこんなに
目立つことをしてくれるんだろう?
手を差し伸べられ、今この手を取ると運命を受け入れたようで嫌だなぁと頭をよぎ
る。
「えと、あの、困りますから」
立ち上がるタイミングを逃し、座ったままの不自然な格好で返答する。
その時になってやっと、呆気にとられていたパリスが動いた。
「君、彼女が困っているじゃないか。いい加減にしろよ」
隣に立ち、もう一度手をこちらへ延ばすと、今度は躊躇無く手を掴み引き上げる。
少々強引な立たせ方のおかげでバランスを崩したのか、立ち上がった途端抱きつく
ような形になってしまった。不幸中の幸いか、コレも計算なのかは分からないけれ
ど。
「ありがとう……ございます」
パッと体を離してパリスにお礼を言いながら下を向く。そしてイルランと名乗った
エルフの視線を避けるように、パリスの陰に隠れた。
「あなたのことを何でもいい、教えてください」
イルランは食い下がる。だが、シエルはパリスの後ろに隠れるように言った。
「私には運命は分かりません。でも、縁があればまた逢うこともあるでしょう。
……これ以上困らせないでください」
他に何と言って追い返せばいいのか分からなかった。
「では、次に遭ったときには名前を聞かせてくれますね?」
嬉しそうにイルランが笑う。
黙っていたら、彼はようやく部屋を後にしたようだった。
パリスの後ろから出てきて、ホッと胸を撫で下ろす。
「本当に助かりました」
「どういたしまして。少し落ち着けるところまで案内しましょうか?」
実は女性を口説き慣れているのではないかと思わせるほど、パリスの切り出し方は
あまりに自然だった。つい、吹き出してしまう。
「くすくす……お願いします。でも、お仕事があるのでは」
「今日は公開講座の案内係です。講義が終わった以上、誰も咎めませんよ」
二人は目を見て笑う。
まあ、第一段階の出会いはこんなところだろうか。コレから人が不特定多数出入り
をする食堂でもっと印象付けなければならない。
出来るだけ親密そうに話をしながら、二人は食堂へと向かった。
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