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2025/03/10 06:34 |
9.『四つ羽の死神』激闘編~/ロッティー(千鳥)
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  PC  レイヴン  ロッティー
  場所  クーロン郊外・サイサリア地区
  NPC 虚無の空イステス アルシャ ジェーン
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激闘編

 一息で詰められる距離、近い様で、しかし遠い距離をあけ、二人の…否、2
体の男が対峙している。
 張り詰めた空気の中、双方無言で睨み合うその光景は一見して冷戦―冷たい
睨み合いの戦いに見えるが、見る者が見るとその戦いが、決して冷戦などと言
う『冷たい』表現の当てはまる事のない、激しいまでの怒りと怒りのぶつかり
合いだと言うのが分るだろう。

 先に動いたのはレイヴンの方だった。
 彼はその巨体からは想像もつかない程のスピードで悪魔との距離を詰めると
、鬼のそれと比べると細く、華奢にすら見える悪魔の肩を両手で掴んだ。

「おおおおおお!!!」

 レイヴンはそのまま雄叫びを上げてイステスを廊下の壁に叩きつけた。
 一体どれ程の力を入れればこうなるのか…
 頑丈なはずの石造りの壁は、悪魔が激突した瞬間木端微塵に吹き飛んだ。

 レイヴンはイステスを掴んだまま宿屋の外まで直進し、そのままの勢いで反
対側の建物に叩きつけた。
 だがその壁は先ほどの壁とは違い、衝撃で崩壊することなかった。

「イステス、お前さんも変っちまったな」

 イステスを壁に押しつけたまま、レイヴンが呟く様に言った。

「お前さんは、無抵抗の女子供には手を出さなかったんじゃあねぇのか?」

 呟くレイヴンの言葉には、静かな怒りが込められていた。

「それは百年前の話しだ。百年経てば、悪魔だって変る事もある。それに…」

 冷たく返すイステスは、そこでいったん言葉を区切り…

「俺を変えたのは、他でもない、貴様だろうが『戦く大地レイヴン』!!!」

 怒声と共にイステスはレイヴンの腕を掴み返した。そして…


 レイヴンの巨体が浮いた。


 イステスはその細身からは想像も出来ない膂力でレイヴンを投げ飛ばしたの
だ。
 投げ飛ばされたレイヴンは空中で身を捻り、片手で受身を取って着地する。
 顔を上げたレイヴンの眼に、高速で迫る拳が映った。
 一瞬で距離を詰めたイステスが放った拳だ。
 レイヴンはそれを片手でさばき、続け様に放たれた膝を肘で叩き落し、その
まま裏拳をイステスに叩きこむ。
 しかしイステスもレイヴンの裏拳を裏拳で受け止め、そのまま右回し蹴りを
繰り出した。
 遠心力をつけた素早く重い蹴りは、しかしレイヴンの巨大な手に足首を捕ま
れる。
 レイヴンが両手でイステスの足を折りに掛かるよりも早く、イステスは捕ま
れた足を軸にして回転し、左回し蹴りをレイヴンの側頭部に叩きこんだ。

「ぐぬ…」

 レイヴンが側頭部を押さえて呻く。
 常人がモロに食らっていれば、頭が砕け散るか、身体と強制的に離れ離れに
されるかの強烈な蹴りだった。

 イステスは呻くレイヴンに追い討ちをかけるべく抜き手を放つが、レイヴン
はそれよりも一瞬早く飛び退いていた。

「どうした、レイヴン? お前、弱くなったのか?」

 抜き手を放ったままの体勢でイステスが呟く。

「それとも、お前…手を抜いてるのか?」

 刹那、抜き手を放ったイステスの手に大量の魔力が集まる。
 魔力は黒い風となってイステスの手を包んで行く。

「どっちだ、戦く大地!!!?」

 叫び、手に集まった黒い風の塊をレイヴンに投げつける様に開放する。
 放たれた黒い風は、まるで黒い刃のような形をなし、地面を、空気を、音を
切り裂きながらレイヴンに迫った。

「れ、レイヴンさん!」

 凄まじい速度で迫る黒いかまいたちに集中していたレイヴンは、危うくその
声を聞き逃す所だった。
 レイヴンの真後ろ、彼が破壊した宿屋の廊下から、自分を呼ぶロッティーの
声が聞こえたのだ。
 おそらくそこには、崩壊した廊下の穴から顔を覗かすロッティーがいるのだ
ろう。

「ちっ」

 レイヴンは舌打ちをし、地面に手を押しつけた。
 瞬間、地面が盛り上がり土の壁が突き出てきた。
 黒いかまいたちは土の壁に阻まれて四散した。

 レイブンは歯軋りした。
 舌打ちをしたのはロッティーに対してではない。
 むしろこんなに早く回復してくれて嬉しいくらいだった。
 精神世界に干渉されたことで何か障害が残らないか心配だったが、声を聞く
限りその心配はないだろう。

 原因はイステスだった。
 いくらレイヴンの身体が大きいとはいえ、彼にはロッティーが見えていたは
ずだ。
 もし、レイヴンがロッティーに気づかず回避に回っていたら…

「イステスよぉ、お前は本当に変っちまったんだな…」

 そう呟き、レイヴンは先ほどのイステスの言葉を思い出した。


―――俺を変えたのは、他でもない、貴様だろうが―――

 レイヴンは再び歯軋りした。


「レイヴンさん。ごめんない、私…」
「ああ、いや、謝らねぇといけねぇのは俺のほうだ。すまねぇな、こんな目に
合わせちまって…」

 ロッティーの言葉を遮り、レイヴンは彼女に振りかえりながら言う。

「だが、安心しろ。お前さんも、アルシャもぜってぇに守ってやる。これ以上
は指一本触れさたりはしねぇ」


―――イステス、お前さんも変っちまったな―――


 突き出してきた時の逆再生の様に戻って行く土の壁を見つめながら、イステ
スはレイヴンの言葉を思い出す。

「レイヴン、お前は百年経っても変っていないんだな」

 レイヴンに視線を移したイステスの瞳は、今までの激しい感情の爆発が嘘の
様に恐ろしく冷たくなっている。


「百年前も、お前は同じ事を言っていたよな?」


 イステスの背中から、漆黒の翼が突き出す様に生えた。

「だが、全てが同じではないな。今度は、お前が失う番だ」

 イステスから強大な魔力が溢れ出す。
 その尋常ならざる量にレイヴンもロッティーもハッとしてイステスを見る。

「何をする気だ、イステス!!」

 レイヴンが怒号を張り上げるが、イステスは冷たい目を向けるだけだ。


「れ、レイヴンさん。空が!?」

 ロッティーが悲鳴にも似た声をあげる。
 レイヴンも空を見上げ、絶句する。

 今日の夕方は雲がなかった。
 時間帯で言えばもう夜なので、空にはきっと雲一つなく、綺麗な星空が覗え
ていただろう。

 が…
 
 見上げた夜空には何も無かった。
 星も、雲も、いや、空事体が無くなってしまったのではないかと思えるほど
何もない空間が広がっていた。

「俺の二つ名を忘れたわけじゃないだろ? 戦く大地」

 イステスのその言葉に、レイヴンはハッとして彼に視線を戻す。

「イステス、まさか『虚無の空』を『張っていた』のか?」

 レイヴンの言葉に、イステスは冷たい笑みを浮かべる。

「一番最初、お前は俺を掴んで宿の外に運び出したよな」

 言いながら、悪魔は『虚無の空』を見上げる。

「それはあのままあの場所で戦闘を続行していたら、そこの女占い師やハーデ
ィンの娘に被害が出ると思ったからだろう? いや、そうじゃないな。お前は
あの宿にいた人間、全員を守ろうとしたんだろう? ふ、邪魔な人間は平気で
殺めるくせに、無関係な人間は守ろうとする…お前はぜんぜん変って無いな」
「イステス、そいつは俺様をちぃっとばかし買かぶり過ぎだぜ? 外に移動し
ちまったのは不可抗力だ。それに、もし無関係の人間を巻きこみたく無いと思
ってんなら、人通りの多い外に戦場を移すわけねぇだろ?」

 空を見上げるイステスへ軽口を叩きつつも、レイヴンの額からは汗が噴出し
ていた。
 少しずつ後ずさり、背後にいるロッティーを一瞥する。

「ふ、今は夜だから人通りは少ないと思ったんだろ? 実際人っ子一人見当た
らないしな」

 イステスの言う通りだった。
 夜で、郊外とは言えここはクーロンだ。
 多少の人通りはあってもおかしくは無かった。
 しかし、今は人っ子一人、猫一匹見当たらない。

「俺の『虚無の空』は、任意の対象を外す事が出来る。そうした対象は虚無の
空の下にはには存在しなくなる。いや、無意識の内に遠ざけるようになる。今
ここには俺とお前等しか、存在していない。そんなことも忘れていたのか? 
レイヴン」

 レイヴンは今日何度目かの歯軋りをした。
 別に忘れていたわけではなかった。
 おそらく彼が宿屋に現れた時から『虚無の空』は張られていたのだろう。

 ただ、イステスが本当に『虚無の空』を使うとは思わなかったのだ。


「イステス、ロッティーが『虚無の空』の中にいるのはどうしてだ?」
 
 レイヴンが真剣な口調で問うた。
 結果はわかりきっていたことだが、何かを期待していたのかもしれない。

「ふ、ふふ、くはははははははははははははははははははははははははははは」

 イステスは笑った。
 底冷えするような悪魔の笑い声を上げた。
 空気を震わせる黒い風が吹きぬける。
 その気配にロッティーが身震いした。
 だが、ロッティーの琥珀色の瞳は、イステスの心が泣きながら笑っていたの
をはっきりと見ていた。

「くそ! ロッティー!! これに包まれ!!!」

 ロッティーを現実に戻したのはレイヴンの叫び声だった。
 我に返ったロッティーの目に映ったのは、視界を覆い尽くす大きな赤いマン
ト。
 レイヴンが咄嗟にロッティーに向って自分が羽織っていたマントを投げたの
だ。

 ロッティーがマントに包まれた。

 刹那。


 『虚無の空』が発動した。


 真っ暗の視界の中、ロッティーは自分の身体に物凄い圧力が掛かるのを感じ
ていた。
 悲鳴を上げたくとも上がらなかった。
 肺が押し潰されて声が出ないのだ。
 立っている事が出来ず、両手を突き、押しつけられるように地面に沈んだ。

 なんとか息が出来るのは、マントのおかげなのだろう。
 いや、息が出来るだけでは無い。本来なら人間が耐えられるはずの無い重圧
なのだ。
 ロッティーはマントを握り締ながら、レイヴンの身を案じた。


「イス…テスゥ! テメェ、マジで、マジでやりやがったな!!」

 物凄い力で上から押しつけられ、レイヴンは跪くように膝を突いていた。
 周りの建物が悲鳴を上げ、あるいは押し潰されて行く。

 そんな中、漆黒の羽をはやした悪魔だけが、平然と佇んでいた。

「ぐ、ぬぅ…」

 レイヴンが歯を食いしばり呻く。
 重圧がじょじょに強まっていく。
 虚無の空が一回り大きくなっている…
 いや、その表現は正しくなかった。

 虚無の空が段々と落ちてきているのだ。

「このまま空に押し潰されて死ぬか? 戦く大地。それとも、俺の手で逝かせ
てやろうか?」

 イステスの手に、いつのまにか巨大な大剣が握られていた。

「ハルバード…お前との友情の証として、お前の持っているハルベルトと共に
作った剣だったな」

 大の大人でも持て余すような巨剣―ハルバードをイステスは片手で振るう。

 重圧に押し潰されそうになるも、レイヴンは冷静に辺りに視線を配らせ、イ
ステスに気づかれない様に何かを探す。

「なあ、イステス…どうせ殺すんなら…最後の頼みってのを…聞いてくれねぇ
かい?」

 重圧に途切れ途切れになるも、レイヴンは口元を緩めて笑みを浮かべながら
言った。

「……遺言くらいなら聞いてやろう」

 イステスは大剣の切先をレイヴンの喉にあてがうと静かにそう言った。

「あいつは助けてやってくれねぇかな?」

 と言い、レイヴンは側に落ちているマントの中心をちょこんとふくらませる
マントに比べるととても小さなふくらみを重圧に逆らいながら親指で指差す。

それを見て、イステスは冷笑した。

「この期に及んで、何を言ってんだ」

 しかしそれは冷笑ではなかった。
 何か、昔を懐かしんでいるような、そんなニュアンスを含んだ笑みだった。

「確かに、な」

 レイヴンもまた、重圧に押し潰されながらも笑っていた。


「…レイヴン、俺はずっとお前に聞きたい事があった。殺す前に聞いておいて
もいいよな?」

 再び、イステスから笑みが消えた。
 レイヴンモまた、笑みを消していた。

「あの時、俺はあの場所にはいなかった。俺が駆け付けた時には、彼女はもう
永遠の眠りについた後だったからな」
「待て、その話しは…」

 レイヴンが苦しげに話しを止めようとするが、イステスは構わず続ける。

「彼女の命を奪ったのは、本当に…貴様なのか? レイヴン」

 イステスは何を期待していたのだろうか、答えは分かりきっていた事だと言
うのに…

 一瞬の空白、いや、それは一瞬だったのか一年だったのか…
 レイヴンはゆっくりと口を開いた。


「そうだ」


 かつての相棒の口から出た答えに、悪魔はわずかに戦慄した。
 鬼の首に当てていた巨剣が震え、赤い筋を生んだ。

「う、うおおおおおおおおおおおおああああああおおおおおあおおおおおお」

 悪魔が咆えた。
 巨剣を振り上げ、大上段に構える。

 しかしその瞬間、鬼が足元に転がっていた巨大槍斧―ハルベルトを掴んだ。
 そしてがら空きになった悪魔の喉笛に突き刺そうとし…
 しかし、これまでに無いほどの重圧がレイヴンを襲った。
 ハルベルトの槍がイステスの喉に届く寸前、レイヴンは地面に沈んだ。

「死ねぇ!!! 戦く大地!!! レイヴン!!!!!!!」

 イステスが大剣を振り下ろす。


 が、それが振り下ろされる事は無かった。


「な、なぜだ…なぜ…?」

 地面に埋まるレイヴンを庇う様に、一人の小柄な影がイステスとレイヴンの
間に割りこんでいた。
 イステスの大剣は、彼女の目前で停止している。
 一歩間違えれば、彼女は真っ二つになっていただろう。
 
 いや、それ以前に…

「ロッティー?」

 いつまで経っても訪れない死に疑問を抱き、顔を上げたレイヴンがすっとん
きょうな声をあげた。
 彼女はレイヴンを振りかえらず、じっとイステスを見つめていた。

「なぜ、君が? エフィメラ…」

 イステスが震える声をあげた。
 彼の目には、ロッティーが別人に映っているようだ。
 おそらくロッティーと同じような黒い、綺麗な長髪の女性が見えているはず
だ。

 虚無の空の重圧が一瞬収まった。

 レイヴンは目を閉じ、ハルベルトをドリルの様に回転させながらイステスの
胸に打ちこんだ。

 口と胸から大量の血を噴出しながら、イステスは数m吹き飛んだ。
 その胸は大きく抉れていたが、普通の人間だったら穴が開く位ではすまなか
っただろう。

 虚無の空が一瞬ぶれた後、跡形もなく消滅し、夜空を覗かせた。

「ロッティー、お前さん、いったいどうやってあの重圧の中を…いや、今はそ
んな事はどうでもいいか」

 ロッティーを一瞥した後、レイヴンはイステスに向き直った。

「く、くはっはっはっはっは、皮肉なもんだ、お前が殺した彼女に助けられる
なんてな」

 イステスは胸を押さえ、起きあがる。

「その女占い師に感謝するんだな戦く大地」

 そう言い、イステスは漆黒の翼をはためかせる。

「まて、イステス!」

「いいのか、俺なんかにかまっていて?」

 胸を押さえ、苦しそうにイステスは笑う。
 その意味がわからずレイヴンは片眉を上げる。

「言っただろう? 『虚無の空』は任意の対象を外せるってな。ハーディンの
娘もその対象に入れておいた。今頃は夜のクーロンを一人で歩いているだろう
よ?」

 その意味を理解したロッティーの顔色が変る。
 夜るのクーロンはとてもじゃないが温室育ちのお嬢さんが生きて変えれるよ
うな所では無い。
 
「はっはっは、あばよ!」

 そう言い残し、イステスは夜空に舞い上がって行った。


「れ、レイヴンさん」

「やってくれたな。ロッティー、ちょっくらアルシャの嬢ちゃんを迎えに行っ
てくる。もう少し宿屋で待っててくれや」

心配そうなロッティーを振りかえるレイヴンの顔はしかし、なにか嬉しそう
でもあった。
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2007/02/25 23:24 | Comments(0) | TrackBack() | ○四つ羽の死神

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