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PC レイヴン ロッティー
場所 宿屋
NPC アルシャ ジェーン イステス
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宿敵編
――― 守れるものなら…守って見せろよ……戦く大地 。
不吉な黒い風が穏やかな田園の上を、ゆっくりと撫でていった。
ロッティーは窓から入ってくるその風に細い肩を震わせると、そっと窓を閉
め振り返った。
「父は・・・大丈夫でしょうか・・・」
そこには、父の身を案じるアルシャが座っていた。
裕福な家に生まれ、温室の花のように育てられたアルシャにとって、今回の
精神的ダメージは計り知れないものだった。
その脳裏にはまだはっきりと、血に塗られ崩壊した屋敷、そこに転がるかつ
ての使用人たちの姿が焼きついている。
「大丈夫よ。きっとレイヴンさんが何とかしてくれるわ」
優しいセリフとは裏腹に、ロッティーの表情は険しい。
実は、ロッティーもあれ以来何度もハーディン氏の未来を占っていた。
彼の死は『彼を守る人間』――レイヴンの登場によって回避される『道』が
出来た。
しかし、その先を占おうとする度に、彼女の集中力は何かに邪魔され、今後
の展開を何一つ掴むことができなかった。
こういう状態になる理由をロッティーは幾つか知っていた。
そして、どの理由も、未来は彼女にとっていい方向には進まないのだ。
トントン。
ドアのノックが、答えの出ない不安に陥ったロッティーを現実に引き戻し
た。はっと顔を上げ
「「レイヴンさん!?」」
二人は声を合わせて立ち上がる。
しかし、扉を開けて入ってきたのは、余所行きのフードを被った灰色の髪の
少女。
「ジェーン・・・」
「お邪魔するわよ」
招かれざる客である、この年下のひどく大人びた少女を、アルシャが不思議
そうに眺めていた。
「一体どうしてここに?」
「マザー・エルゼの遣いできたのよ」
「エルゼさんの・・・?」
<<クーロンの道標>>とも呼ばれるエルゼは、ジェーンの居る占い館の『主
人』であり、本来ハーディン氏を占うはずの女性だった。
ロッティーは実際にあったことはなかったが、その力量はクーロンで名を馳
せているという事実だけで十分に窺い知れた。
「マザー・エルゼは今回の事をとても残念に思ってるわ。マザーがハーディン
を占っていればソフィア姉さんが死ぬこともなかったんですもの」
「エルゼさんは何と?」
「今すぐハーディン氏とその娘を伴ってクーロンの占い館に来るように。です
って」
エルゼの申し出はあり難いことだった。
しかし、何故かロティーには素直に受けることができなかった。
それは同業者としての意地なのか、予感なのか、ロッティー自身にも分から
ない。
「レイヴンさんが戻ってくるまで、待ってください」
ジェーンは、言葉を濁すロッティーを探るように覗き込むと、妖しく囁く。
「占って、あげましょうか?」
「え・・・?」
群青色の瞳は、今、青白い星のように輝いていた。
その色は何処か不吉で、ロッティーは思わずひるんだ。
「悩み事があるんじゃない?そのくらいだったら私だって占ってあげられるわ
よ」
「いえ、いいです・・・」
「占ってもらえばいいじゃないですか、ロッティーさん」
アルシャがどこかはしゃぐようにロッティーをけしかける。
しかし、ジェーンの言葉は、アルシャの想像していたものとはかけ離れたも
のだった。
「貴女は――これ以上この事件に関わると、死ぬわよ。ロッティーさん」
顔面蒼白のアルシャに対し、ロッティーは驚くほど無表情でその言葉を聞い
ていた。
「それは・・・忠告ですか?」
「占いの結果よ」
口元を上げて、ジェーンは試すように目の前の年上の占い師を見上げる。
―――義母さん、気をつけて。義母さんの頭に何かが落ちてきて、死んでし
まう夢を見たの。
―――貴方様には死相が出ております。
瞬きも、息を吸う音さえも聞こえない空白の時間。
その間にロッティーの中で、過去に自分が言った台詞がこだまする。
(――――あぁ。)
それは絶望ではなく、むしろ恍惚の吐息であった。
(そういう事だったのか)
占い師は、自分の未来を占うことが出来ない。
そして、ハーディンの未来を占えない自分――――
彼の運命に己の運命が交差して、『何かが』起きようとしている。
「有難う、ジェーン。おかげで悩む必要もなくなったわ」
ロッティーは、笑みさえ浮かべていた。
穏やかな顔は変わらぬままだというのに、彼女には揺ぎ無い強い意志が見ら
れた。
「面白く、ないわ」
その笑みに思わず魅せられたジェーンは、口を尖らせて心底呟く。
「面白く無い」
「そうかしら。私は、今まで自分の言葉というものがどれほど他人に影響を及
ぼすのか、ちっとも知らなかったんだわ!あなたのおかげで知ることが出来た
のよ?ジェーン」
どこか、歌うように話すロッティーにたまらずアルシャは声を上げる。
「ロッティーさん!!貴女の身をそんな危険に晒すわけにはいきません!!私
は、自分の事ぐらい何とかします、だから…」
「私は、大丈夫よ。このことはレイヴンさんにはけして言わないで」
「でも!!」
「お願い」
そっとアルシャの手を握ったロッティーの目は、穏やかな琥珀色から、まば
ゆい金へと変化していた。
アルシャは一瞬頭が真っ白になって、ただ頷く。
「はい……」
「……………じゃあ、私はそろそろお暇するわ」
その光景を横目で見てたジェーンは、未だ不機嫌な顔をしていた。
それでも、その勝気な目でロッティーを見上げて、捨て台詞を吐くことは忘
れない。
「私とあなた、どっちが勝つか勝負よ」
「私も自分の命がかかってるんですもの、負けるわけにはいかないわ」
その言葉は、いままでロッティーが口にしたことも無い、好戦的なものだっ
た。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「本当に、良かったんですか?」
そういって、心配そうに見つめるアルシャを残して、ロッティーは部屋を出
た。
もうすぐ夜になるが、レイヴンたちが現れる兆しは無い。
何時までも窓の外を眺めている気にもなれず、ロッティーは外に出ることに
したのだ。
「失礼、お嬢さん」
そこに、若い男の声がかかる。
艶やかな黒銀色の髪に、暗闇に溶けるような黒い服に。
薄暗い宿屋の廊下の照明の下でも、その青白い肌だけがくっきりと浮かび上
がって・・・
(闇に―――囚われる)
脳裏に浮かんだ危険信号にロッティーは即座、後ずさる。
恐怖と反比例して輝きだした瞳に、男の腕が素早く伸び視界を覆った。
冷たく細い指先が、ただ、それだけでロッティーから一切の光を奪い、闇へ
と誘った。
動くことの出来ないロッティーに冷ややかな声が届く。
「無駄な抵抗だ。悪魔に幻など、効かん」
悪魔……『四つ羽の死神』?
目の前の男は、一瞬見ただけでも忘れられないような美貌の持ち主だった。
今は頭の中でその男の顔を思い浮かべる。
ハーディンに死を運ぶ、死神に自分も殺されてしまうのだろうか。
圧倒的な力の持ち主を前に、体が震えたが、ロッティーの本能は別のことを
告げていた。
(彼は、『私』の敵ではない。今はまだ……)
今は、まだ?
「ハーディンの娘は何処だ?答えぬならばお前は二度と光を見ることはできな
いぞ」
威圧的な口調の裏に、脅すような…否、試すような響きが宿る。
この場所を突き止めた男なら、当然ロッティーを脅すまでも無くアルシャを
見つけられるはずだ、それなのに、なぜわざわざこんな真似を・・・?
「震えが止まったな」
「貴方の敵は私ではないわ」
ロッティーの言葉に、男は怒るわけでもなく、ふと自嘲の笑みを浮かべたよ
うだった。
「奴が女などと手を組んだとは、気でも狂ったのかと思ったが…」
「奴……?」
ロッティーは男の言葉に何か引っかかるものを感じて問いかける。
運命が、交差して。
人は再び出会う。
運命の鍵を握るのは、すべてを壊す『四つ羽の死神』と――『再会』のカー
ド。
――屍を見下ろすレイヴンと、漆黒の悪魔――
ユルサナイ。
俺は貴様を決して!!
「あ…」
「そう、俺の敵は――」
ロッティーの頭の中で、何かが繋がろうとしていた。
未来――?それとも過去…?
「イステスッ!!」
怒声が二人の間にあった、一瞬のつながりを断ち切った。
男、イステスが離れ、ロッティーの視界に再び光が戻る。
イステスの立っていた場所は、床から壁にかけて、いく筋もの跡が傷となり
残っている。
レイヴンの鉄鎖だった―――。
「ロッティー大丈夫か!?」
精神世界に無理やり干渉されることになったロッティーは、自我のコントロ
ールが出来ず、ただ呆然と座り込んだ。
そんなロッティーの姿がレイヴンの怒りに余計に火をつけ、レイヴンはかつ
ての相棒を鋭く見つめた。
イステスもあの冷静な態度を捨て去り、同様の激しさをもってレイヴンを見
ていた。
「そうだ!俺の敵は貴様だ!レイヴン!!」
PC レイヴン ロッティー
場所 宿屋
NPC アルシャ ジェーン イステス
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宿敵編
――― 守れるものなら…守って見せろよ……戦く大地 。
不吉な黒い風が穏やかな田園の上を、ゆっくりと撫でていった。
ロッティーは窓から入ってくるその風に細い肩を震わせると、そっと窓を閉
め振り返った。
「父は・・・大丈夫でしょうか・・・」
そこには、父の身を案じるアルシャが座っていた。
裕福な家に生まれ、温室の花のように育てられたアルシャにとって、今回の
精神的ダメージは計り知れないものだった。
その脳裏にはまだはっきりと、血に塗られ崩壊した屋敷、そこに転がるかつ
ての使用人たちの姿が焼きついている。
「大丈夫よ。きっとレイヴンさんが何とかしてくれるわ」
優しいセリフとは裏腹に、ロッティーの表情は険しい。
実は、ロッティーもあれ以来何度もハーディン氏の未来を占っていた。
彼の死は『彼を守る人間』――レイヴンの登場によって回避される『道』が
出来た。
しかし、その先を占おうとする度に、彼女の集中力は何かに邪魔され、今後
の展開を何一つ掴むことができなかった。
こういう状態になる理由をロッティーは幾つか知っていた。
そして、どの理由も、未来は彼女にとっていい方向には進まないのだ。
トントン。
ドアのノックが、答えの出ない不安に陥ったロッティーを現実に引き戻し
た。はっと顔を上げ
「「レイヴンさん!?」」
二人は声を合わせて立ち上がる。
しかし、扉を開けて入ってきたのは、余所行きのフードを被った灰色の髪の
少女。
「ジェーン・・・」
「お邪魔するわよ」
招かれざる客である、この年下のひどく大人びた少女を、アルシャが不思議
そうに眺めていた。
「一体どうしてここに?」
「マザー・エルゼの遣いできたのよ」
「エルゼさんの・・・?」
<<クーロンの道標>>とも呼ばれるエルゼは、ジェーンの居る占い館の『主
人』であり、本来ハーディン氏を占うはずの女性だった。
ロッティーは実際にあったことはなかったが、その力量はクーロンで名を馳
せているという事実だけで十分に窺い知れた。
「マザー・エルゼは今回の事をとても残念に思ってるわ。マザーがハーディン
を占っていればソフィア姉さんが死ぬこともなかったんですもの」
「エルゼさんは何と?」
「今すぐハーディン氏とその娘を伴ってクーロンの占い館に来るように。です
って」
エルゼの申し出はあり難いことだった。
しかし、何故かロティーには素直に受けることができなかった。
それは同業者としての意地なのか、予感なのか、ロッティー自身にも分から
ない。
「レイヴンさんが戻ってくるまで、待ってください」
ジェーンは、言葉を濁すロッティーを探るように覗き込むと、妖しく囁く。
「占って、あげましょうか?」
「え・・・?」
群青色の瞳は、今、青白い星のように輝いていた。
その色は何処か不吉で、ロッティーは思わずひるんだ。
「悩み事があるんじゃない?そのくらいだったら私だって占ってあげられるわ
よ」
「いえ、いいです・・・」
「占ってもらえばいいじゃないですか、ロッティーさん」
アルシャがどこかはしゃぐようにロッティーをけしかける。
しかし、ジェーンの言葉は、アルシャの想像していたものとはかけ離れたも
のだった。
「貴女は――これ以上この事件に関わると、死ぬわよ。ロッティーさん」
顔面蒼白のアルシャに対し、ロッティーは驚くほど無表情でその言葉を聞い
ていた。
「それは・・・忠告ですか?」
「占いの結果よ」
口元を上げて、ジェーンは試すように目の前の年上の占い師を見上げる。
―――義母さん、気をつけて。義母さんの頭に何かが落ちてきて、死んでし
まう夢を見たの。
―――貴方様には死相が出ております。
瞬きも、息を吸う音さえも聞こえない空白の時間。
その間にロッティーの中で、過去に自分が言った台詞がこだまする。
(――――あぁ。)
それは絶望ではなく、むしろ恍惚の吐息であった。
(そういう事だったのか)
占い師は、自分の未来を占うことが出来ない。
そして、ハーディンの未来を占えない自分――――
彼の運命に己の運命が交差して、『何かが』起きようとしている。
「有難う、ジェーン。おかげで悩む必要もなくなったわ」
ロッティーは、笑みさえ浮かべていた。
穏やかな顔は変わらぬままだというのに、彼女には揺ぎ無い強い意志が見ら
れた。
「面白く、ないわ」
その笑みに思わず魅せられたジェーンは、口を尖らせて心底呟く。
「面白く無い」
「そうかしら。私は、今まで自分の言葉というものがどれほど他人に影響を及
ぼすのか、ちっとも知らなかったんだわ!あなたのおかげで知ることが出来た
のよ?ジェーン」
どこか、歌うように話すロッティーにたまらずアルシャは声を上げる。
「ロッティーさん!!貴女の身をそんな危険に晒すわけにはいきません!!私
は、自分の事ぐらい何とかします、だから…」
「私は、大丈夫よ。このことはレイヴンさんにはけして言わないで」
「でも!!」
「お願い」
そっとアルシャの手を握ったロッティーの目は、穏やかな琥珀色から、まば
ゆい金へと変化していた。
アルシャは一瞬頭が真っ白になって、ただ頷く。
「はい……」
「……………じゃあ、私はそろそろお暇するわ」
その光景を横目で見てたジェーンは、未だ不機嫌な顔をしていた。
それでも、その勝気な目でロッティーを見上げて、捨て台詞を吐くことは忘
れない。
「私とあなた、どっちが勝つか勝負よ」
「私も自分の命がかかってるんですもの、負けるわけにはいかないわ」
その言葉は、いままでロッティーが口にしたことも無い、好戦的なものだっ
た。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「本当に、良かったんですか?」
そういって、心配そうに見つめるアルシャを残して、ロッティーは部屋を出
た。
もうすぐ夜になるが、レイヴンたちが現れる兆しは無い。
何時までも窓の外を眺めている気にもなれず、ロッティーは外に出ることに
したのだ。
「失礼、お嬢さん」
そこに、若い男の声がかかる。
艶やかな黒銀色の髪に、暗闇に溶けるような黒い服に。
薄暗い宿屋の廊下の照明の下でも、その青白い肌だけがくっきりと浮かび上
がって・・・
(闇に―――囚われる)
脳裏に浮かんだ危険信号にロッティーは即座、後ずさる。
恐怖と反比例して輝きだした瞳に、男の腕が素早く伸び視界を覆った。
冷たく細い指先が、ただ、それだけでロッティーから一切の光を奪い、闇へ
と誘った。
動くことの出来ないロッティーに冷ややかな声が届く。
「無駄な抵抗だ。悪魔に幻など、効かん」
悪魔……『四つ羽の死神』?
目の前の男は、一瞬見ただけでも忘れられないような美貌の持ち主だった。
今は頭の中でその男の顔を思い浮かべる。
ハーディンに死を運ぶ、死神に自分も殺されてしまうのだろうか。
圧倒的な力の持ち主を前に、体が震えたが、ロッティーの本能は別のことを
告げていた。
(彼は、『私』の敵ではない。今はまだ……)
今は、まだ?
「ハーディンの娘は何処だ?答えぬならばお前は二度と光を見ることはできな
いぞ」
威圧的な口調の裏に、脅すような…否、試すような響きが宿る。
この場所を突き止めた男なら、当然ロッティーを脅すまでも無くアルシャを
見つけられるはずだ、それなのに、なぜわざわざこんな真似を・・・?
「震えが止まったな」
「貴方の敵は私ではないわ」
ロッティーの言葉に、男は怒るわけでもなく、ふと自嘲の笑みを浮かべたよ
うだった。
「奴が女などと手を組んだとは、気でも狂ったのかと思ったが…」
「奴……?」
ロッティーは男の言葉に何か引っかかるものを感じて問いかける。
運命が、交差して。
人は再び出会う。
運命の鍵を握るのは、すべてを壊す『四つ羽の死神』と――『再会』のカー
ド。
――屍を見下ろすレイヴンと、漆黒の悪魔――
ユルサナイ。
俺は貴様を決して!!
「あ…」
「そう、俺の敵は――」
ロッティーの頭の中で、何かが繋がろうとしていた。
未来――?それとも過去…?
「イステスッ!!」
怒声が二人の間にあった、一瞬のつながりを断ち切った。
男、イステスが離れ、ロッティーの視界に再び光が戻る。
イステスの立っていた場所は、床から壁にかけて、いく筋もの跡が傷となり
残っている。
レイヴンの鉄鎖だった―――。
「ロッティー大丈夫か!?」
精神世界に無理やり干渉されることになったロッティーは、自我のコントロ
ールが出来ず、ただ呆然と座り込んだ。
そんなロッティーの姿がレイヴンの怒りに余計に火をつけ、レイヴンはかつ
ての相棒を鋭く見つめた。
イステスもあの冷静な態度を捨て去り、同様の激しさをもってレイヴンを見
ていた。
「そうだ!俺の敵は貴様だ!レイヴン!!」
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