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PC レイヴン ロッティー
場所 約100年前のとある町~クーロン
NPC フォルゼン・ザウバー イステス アルシャ エルゼ ジェーン
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追憶編
「ほれ、もうそこらへんで降参したほうがいいんじゃないのかい?」
薄暗い地下水道で2人の男が対峙している。
一人は常人に比べるとはるかに背が高く、筋骨隆々で逆三角形の逞しい体つ
きをしている。
人間ではない、オウガと呼ばれる鬼に近い種族だ。
「もっとも、降参したところでお前さんの罪は重いぜ?」
血のような真紅の髪を逆立たせた鬼がにやりと笑いながら言う。
その手には巨大な槍が握られている。
ずいぶん使い古した物らしく、柄に刻まれた傷や刃の血曇りが数々の戦闘の
歴史を髣髴させる。
「どうするよ、賞金首のフォルゼンさんよぉ?」
手入れは怠っていないらしく、触れただけで切れてしまいそうな穂先をもう
一人の男―フォルゼンに向ける。
「賞金稼ぎがぁ、これ以上邪魔するなら殺す!!」
フォルゼンと呼ばれた男は、くすんだ金色の髪を振り乱し、青い目を血ばら
せて叫んだ。
年のころは40代後半だろうか、元はなかなかの知的でダンディーな顔つきを
していたのだろうが、
今ではオウガも顔負けの鬼のような面をしている。
薄汚れ、ところどころ擦り切れたボロボロの服は、よく見れば聖衣であるこ
とがわかるだろう。
しかし、今の彼は聖職者というものからは程遠い、殺意と憎悪の塊と化して
いる。
そんなフォルゼンを、赤い髪のオウガはどこか悲しい目で見つめる。
「俺様はなぁ、聖職者であったお前さんを一応尊敬してたんだぜ? 別にお前
さん達が信仰っしているっつぅ神さんが正しいとかは思っちゃいねぇけどよ。
お前さんの性格は好きだったよ」
そこで一度言葉を切り、ふぅと溜息をつく。
「だがなぁ、それはいけねぇよ。オウガの俺様だってわかるんだ、今のお前さ
んの姿はちょっとどころじゃなくて…かなりヤバイぜ?」
「うるさい! 貴様に何がわかる!! 貴様にぃ、キサマニィィ!!!」
フォルゼンのその言葉を聞いてオウガは再び溜息をつく。
「わからねぇな。俺様は超能力者じゃねぇんだ。とりあえずは…」
フォルゼン・ザウバー。
今ではあまり信仰されていないノイヴェル教の信者であり、かなりの人格者
であった。
教会に妻と孤児達9人で暮らしていたが、彼の妻が不治の病に侵され、その治
療のために多額の借金を作ってしまい、住居であった教会も失ってしまう。
それでも彼の必死の治療で妻は何とか回復の兆しをみせた。
孤児達を含めて野宿生活となってしまった彼は、それでも残った借金を返す
ために必死に働いたが、現実は非情だった。
妻の病が再発したのだ。
もはや治療のお金もなく、見込みもなかった。
返すあてのない彼にお金を貸してくれる所もなかった。
それでも彼は必死にお金を集めた。
ところが、ある日。
本当に突然だった。
町に突然魔物が現れたのだ。
魔物はすぐに町の警備隊に退治されたが、たくさんの死傷者が出た。
「っと、これが俺様がわかっていることさ。お前さんの家族もその時に、お前
さんを残して全員死んだんだってな。どうだ、よく調べてあるだろう?」
その言葉が引き金になったらしく、フォルゼンが叫び声をあげながら怪しく
光るナイフを振りかざしながら飛び掛ってきた。
「ふ、ふ、ふざけるなぁ! 死んだのではない! 殺されたのだ!!」
高速で迫るフォルゼンの気迫とナイフを平然と見つめながら、オウガが答え
る。
「ああ、知ってるよ。それも魔物によってじゃなく、警備隊によって殺された
んだろ?」
オウガのその一言に、フォルゼンの動きが止まった。
「なんで俺様がそれを知っているのか、不思議そうだな? 簡単なことさ、お
前さんに殺された連中はその時の警備隊と原因を作った金持ち共だったからだ
よ。あの事件はタチの悪い金持ちが、暇つぶしで生物を化け物に変えちまう特
殊な薬品を食い物に混ぜ、ホームレスや下町の住人に配ったのが始まりだった
からな」
動きの止まったフォルゼンに赤髪のオウガが一歩近づいた。
「そうさ、その通りだ! あの日、あの時、救民とかほざいて奴等が食料を配
って回ったのさ。中にはいぶかしんで近寄らないものもいたさ。だが、あの時
の私達はその日の食べ物を得ることじたいが困難だった。それに私達には孤児
達が、大切な子供達がいた。私は奴等から食料を貰った…」
「久しぶりに食卓に並んだたくさんの料理を見て、子供達は喜んだよ」とフ
ォルゼンはその光景を思い出したらしく微笑んだ。
「子供達があんまりにもはしゃぐものだから、私と妻は自分達の分もあの子達
にあげた。子供達は…それはもう大喜びしたものさ」
しかし、次の瞬間にはフォルゼンの表情がふたたび凶悪な鬼の形相に変化し
ていた。
「貴様にはわからんだろう。愛するモノが目の前で化け物に変わり、愛いする
モノが目の前で八つ裂きにされた、この痛みを!!」
フォルゼンが叫びながらオウガに迫る。
手には怪しく刃の光るナイフが握られている。
「私の復讐はまだ終わってはいない! まだ、あの時の首謀者である貴族が残
っている!! あいつを…この手で八つ裂きにするまではぁあ!!!」
汚れた聖職者が両手でオウガに突き出す。
遅い。
少し訓練をつんだ者なら簡単に避けられる程度の速さだった。
が、赤い髪のオウガはナイフを避けようとも手首をつかんで叩き落そうとも
しなかった。
ズン…
重い音を立て、ナイフはオウガの腹部に突き刺さった。
「どうしたい、お前さんの復讐心ってのはその程度なのかい?」
普通の人間なら致命傷のはずだが、しかし赤髪のオウガはひるみもしない。
「いい気になるなよ。このナイフには猛毒が塗られている。時期に毒が回って
貴様は死ぬのだ!」
しかし、次の瞬間、勝ち誇ったフォルゼンの表情が驚愕に染まっていく。
突き刺さったナイフをどんなに力を入れて押しても引いても上下左右に捻ろ
うとしても、まったくビクともしないのだ。
「残念だが、俺様はあらゆる毒に抵抗力があるんだ。その程度の毒じゃあ風邪
も引きやしないぜ?」
低く呟くように言うと、オウガは左手でフォルゼンの手をナイフごと掴ん
だ。
「ば、馬鹿な…。6種類の毒を調合して作った猛毒だぞ!? 本当に効かないの
か!?」
「歯ぁ食いしばれよ? ちぃっとばかし強くお仕置きするからな」
フォルゼンの言葉を無視し、オウガは汚れた聖職者の頬に鉄拳を放った。
ヒットの瞬間に左手を離したためか、フォルゼンは血と折れた歯を吐きなが
ら数メートル程宙を飛んび下水道を転がっていった。
「目ぇ覚めたか? バカ野郎が」
派手に水しぶきを上げて壁に激突したフォルゼンに、オウガは悠々と歩いて
近づいていく。
「確かに、お前さん達の身に起こった事件は許されることじゃねぇよ。だけど
な、お前さんがやったことも許されることじゃない。生命ってのは重いもんな
んだ」
「今の俺のパンチよりもずっとずっとずっとな」と悪戯っぽく笑う。
「あの事件の首謀者である貴族―キシロフォードっつったかな? それとそれ
に関わった、まだお前さんの手にかかってない数名の貴族。そして人を化けも
んに変える薬品を売った商人。こいつらは正式に裁判が行われることになっ
た。まぁどんな判決が出るかはわからんがな」
オウガは倒れたまま動かないフォルゼンの頭を掴んで持ち上げた。
「だがお前さんも同罪だ。命を奪うほうに回っちまった瞬間にな。結局、お前
さんも奴らと同じ、ただの人殺しだったってことだ」
フォルゼンを掴んでいる方とは逆の方の手で、オウガは自分の腹に刺さって
いるナイフを引き抜いた。
ブシュッ
っと少量の血が飛び散りながら、怪しい色の刃をしたナイフが現れる。
「痛てぇじゃねぁか。ぜんぜん効かねぇ…わけねぇだろうが。こんな超猛毒作
りやがって、俺様じゃなけりゃ即死だっての…」
フォルゼンを通路の方に放り投げると、毒ナイフを持っていた布でくるみ、
皮袋の中に入れた。
「私は、私はいったい、どうすればいいんだ…?」
不意に、フォルゼンが口を開いた。
「大切なものをすべて失ってしまった…私は…どうすればいいんだ? 教えて
くれ…教えて…くれ」
目から涙を流し震える声で言った。
「あぁ? そんなの知るかよ。自分で考えろ」
無慈悲にそう言い放つと、オウガはフォルゼンに背を向けた。
「俺様はただ腹が立った。だから腹いせにぶん殴った。それだけだ」
そのままオウガはフォルゼンを残して歩き出した。
「ま、まて、なぜ連れて行かない、私を捕まえに来たんじゃないのか?」
倒れたまま、フォルゼンは呻きながら呟く。
常人では聞き逃してしまうかもしれないか細い声だったが、赤い髪の賞金稼
ぎにはしっかりと聞こえていたらしい。
「ふざけんじゃないぜ。捕まえるくれぇなら殺して死体を引きずって帰る。そ
のほうが楽だからな」
矛盾している。
さっき生命の重みがなんとか言ってたんじゃないのか。
だが、もはやそんなことを言う力も勇気もフォルゼンにはなかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
日が暮れ、夜の賑わいを見せ始めた酒場に巨大な人影が入ってきた。
逆立った赤髪の厳つい顔つきをしたオウガだ。
店内のほぼ全員が振り返るが、その顔を見た瞬間に全員が何事もなかったか
のように視線を戻す。
ここの酒場は行き付けだった。
最初こそはその場に居合わせた者ことごとくが恐怖に凍りつくか、度肝を抜
かれて震えるかだったのだが、今ではよい飲み仲間である。
頭が天井に着いてしまいそうな巨体でオウガは店内を軽く見渡すと、カウン
ターにのっしのっしと歩いていった。
この店は冒険者ギルドも兼ねているのが便利だ。
「よぉ、マスター。景気はどうだい?」
カウンターの椅子にドンと座りながらオウガは店主に話しかける。
これでも椅子が壊れないように気を使っているつもりである。
「ああ、一時期は誰かさんのおかげで客足が減ったが、いまは上々だよ。“戦
く大地レイヴン”」
オウガーレイヴンを前にしても怯むことなく返してくる。
最初にこのオウガが訪れたときも平静としていたのは彼だけだった。
ここの店主は肝も据わっていると有名だ。
「そんなに愚痴るなって、うじうじ根に持つのはお前さんの悪い癖だぜ?」
「お前ほどあっさりしすぎてるのも考え物だと思うぞ?」
相変わらずのポーカーフェイスで店主は答える。
「それで、フォルゼンはどうした?」
そう言いながら鋭い目つきでオウガを見てきた。
「それがよぉ、賞金首のフォルゼンはよぉ、ちょっと力入れすぎて木っ端微塵
になっちまったんだよ。証拠の品持ってきたからそれで勘弁してくれ」
店主の鋭い視線を感じながらも、レイヴンは平然と嘘を言ってのけ、布の固
まりを取り出した。
「やっこさんが使ってた毒ナイフだ。気をつけろよ、数種類の毒を合わせて作
った猛毒物らしい」
店主が聞くよりも早くレイヴンが答えた。
カウンターの上におかれた布をそっと開き、店主は中のナイフを手に取っ
た。
「たしかに、これはフォルゼンが使用していた猛毒:クロガラスに間違いない
ようだな」
店主はナイフを布に納め、それをカウンターの下の引き出しの中に入れた。
「こういう場合、普通なら死体を確認しないといけないんだが…まぁいいだろ
う、お前はギルドランクBだからな。フォルゼンは賞金首リストから削除して
おく」
そう言うと、店主は金貨の入った袋を取り出しオウガの目の前に置いた。
「いやぁ~悪いな」
このときレイヴンは嘘をついた。
ギルドに対して偽りの報告をするのは禁止されており、した場合はもちろん
罰を受けることになる。
ばれれば…だが。
「何か飲んでいくか?」
「あぁ、そうだな。いつものやつ頼む」
レイヴンは金貨の入った袋を収めながら答えた。
「そうくると思った」
店主は苦笑しながら一本の一升瓶を取り出した。
ラベルには大きく黒い字で“鬼生殺し(おになまごろし)”と書いてある。
「好きだな。ここら辺だとお前だけだぞ、こんな酒を頼むのは」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
すっかり夜もふけたころ、レイヴンは酒場を後にした。
月夜に照らされた街道をのしのしと歩きながら、レイヴンは考え事をしてい
た。
フォルゼンはあの後どうしただろうか。
死んだだろうか。
生きているとしたらまずどうするだろうか。
ギルドに嘘の報告をしたのは別に初めてではない。
それにまるっきり嘘というわけではない。
レイヴンは賞金首のフォルゼンは死んだと報告した。
これからは違うフォルゼンが違う生き方をしてくれるはずだ。
それはレイヴンの勝手な妄想に過ぎないのだが、そうであると信じたい。
だが、もしフォルゼンが再び狂気の殺人者に戻ってしまったのなら、そうな
ってしまったら今度は本当に息の根を止めなくてはならない。
その時はギルドに責任を追及されているだろうが…
まぁ、そんなことにはならないだろう。
「腹減ったなぁ」
まだわからない未来のことを思って悩むのなんて性に合わない。
そう思い込み、近くの屋台で焼き鳥でも買おうと決めた。
「(ん、なんだありゃ?)」
しばらく歩き、大きな橋を通りかかったときである。
橋の中腹あたりに一人の人影があった。
よくは見えないがシルエットの大きさから見て子供かもしれない。
「(こんな時間に何やってんだ?)」
目を凝らしてみると、その人影は少年であることがわかった。
いや、よく見なければ少女と間違えるところだった。
美しい黒髪が月の光に反射されて黒銀色に輝いている。
いや、元から黒銀色なのかもしれない。
ちらりと見えた横顔は氷のように青白く、それでいて妙に美しく、魅惚れて
しまいそうなほど綺麗な顔をしていた。
「おい――…!?」
不思議に思って声をかけようとしたそのときである。
蒼海色の瞳がかすかに揺れたように見えた。
黒銀髪の少年が橋から身を投げた。
「うお!?」
驚いたのはレイヴンである。
まさか今、目の前で自殺をされるとは思ってもいなかった。
「バカ野郎が!」
そう叫んだときには、すでに体は少年を追って橋から飛び降りていた。
少年のほうが先に飛び降りていたが、レイヴンはすぐに少年においついた。
すばやく空中で少年の身体をキャッチし、抱きこんだ刹那。
レイヴンは全身を強く打ちつけられる感覚に襲われた。
ドッボーーーーーーーンッ!!!
橋のはるか下方で巨大な水しぶきが上がった。
レイヴンは少年を抱えたまま、何とか岸まで泳ぎ着いた。
少年を岸に上げ、自分も岸に上がった瞬間、レイヴンを鋭い痛みが襲った。
ちょうど今日、フォルゼンに刺された部分だ。
「ぐぅ、あの時の傷か!?」
油断していた。
まさか今になって毒が効き始めたのだろうか。
それとも飛び込んだ瞬間に塞ぎきっていなかった傷口が開いたのだろうか。
とにかく傷の度合いを調べないといけない。
手で探ると妙な感触がした。
柔らかい。
明らかに自分の発達した腹筋の肌触りではない。
「(マジかよ…内臓が飛び出してやがる…)」
冷やりとして視線を移すと、そこには青白く細長い物体が生えていて…
「なんじゃこりゃあぁ!?」
よく見ると、何のことはなかった。
先ほど助けた少年が鋭い目つきでこちらを睨んでいた。
その少年の青白い腕が自分の腹―フォルゼンに刺された部分―に埋まってい
た。
「何やってんだよ?」
今自分が言いたかった言葉を、少年が先に口にした。
声変わり前の少女のような声だが、不思議と惹きこまれそうな声色だった。
「そりゃあこっちのセリフだ。まだガキのクセに投身自殺なんかしやがって。
おまけに助けた俺様にナイスなパンチをお見舞いするんだんてどういうつもり
だ。一瞬ヒヤッとしただろうが!」
そこまでレイヴンが言うと少年は無言で睨んできた。
綺麗な瞳だが氷のような冷たさも併せ持っている。
睨んでくる少年に向かって、レイヴンは睨めっこの様に次々と表情を変えて
みせた。
「ぶっ…」
「あ、今笑っただろう! 俺様の勝ちだ!」
いたずらっぽく笑うレイヴンの顔に少年はパンチを繰り出した。
「俺様の二連勝だな」
レイヴンは楽々とその拳を掴みくるりとひねって見せた。
「うるせぇ! 余計なことしやがって! 放せ!」
痛みにもだえながらも、少年は必死に抵抗する。
これ以上あがいたら自分で自分の肩を砕きそうだったので、仕方なくレイヴ
ンは放してやった。
すると少年は勢いあまって地面に激突してしまった。
「急に放すなよ!」
「いや、お前さんが放せって言ったんじゃないか」
やれやれと言った感じにレイヴンは地面に座った。
はじめて見た時はこんなに気性の激しいやつだとは思わなかった。
まったく、人は見かけによらないってのは本当だな…と痛感した。
いや、人だけとは限らない。
「お前さん、アークデーモンだな?」
それまで痛みにもだえていた少年が、レイヴンのその一言で急におとなしく
なった。
「図星か…あほなやつだ、アークデーモンがあの程度の高さから転落して死ぬ
わけねぇだろ?」
と、そこまで言ってレイヴンは少年の身体がかすかに震えているのに気がつ
いた。
その理由にレイヴンはすぐに気づいた。
「そういうあんたはオウガだろ? 俺を殺すのか…?」
少年が震える声でそう言った。
やはり、この少年は虐待を受けていたのだ。
「お前さん、生まれてどのくらいだ?」
突然の質問に少年は虚を突かれたのか、きょとんとしている。
「黙ってちゃわからんだろ。いくつだ?」
「…2週間」
震える声でそう答えた。
「えらく若いじゃないか。なのに自殺なんか図りやがって、阿呆が」
「う、うるせぇ! 余計なお世話だって言ってんだろ!? それにさっきは死
のうとしたんじゃねぇ!」
少年は必死に否定してくるが、レイヴンにはそれが嘘だとばればれだった。
「んん? それなら何しようとしてたんだ?」
いたずらっぽくレイヴンは少年に顔を近づける。
「さ、さかな…魚を獲ろうとしてたんだ」
尻餅をついて後ずさりながら少年は答える。
「そうか、なら獲りに行こうぜ」
そう言うや否や、レイヴンは少年の足を掴んで川の真上で宙吊りにした。
長い黒銀色の髪の先っぽが水につきそうでつかない際どい位置だ。
もっとももう全身ずぶ濡れだが。
「や、やめろ! 嘘だ嘘だ!」
「んなこたぁ知ってんだよ!」
少年の数倍声を張り上げてレイヴンは怒鳴った。
そしてひるんだ少年を無慈悲に川に落とした。
しかし少年は何も言い返さなかった。
今まで言い争っていた雰囲気とはまるで違う。
本気で怒鳴ったレイヴンを前にして、少年は呆然としていた。
「俺様は種族で決め付ける奴は大っ嫌いだ」
そんな少年を見下ろしながら、レイヴンは静かに言った。
「だがな、自分から命を捨てるような奴はもっと大っ嫌いなんだよ!」
レイヴンの声は大気を震わせ、大地を揺るがす。
川の水までをも恐れさせ まさに大地が戦いている様な光景だった。
「死にてぇなら勝手に死ねばいい。二度目は止めねぇからな」
そう言い放つとレイヴンは少年に背を向けた。
「ま、待てよ…」
背中から声が聞こえた。
弱々しい、勇気を振り絞って出した声だ。
しかし、レイヴンは立ち止まらない。
「待てよ…」
「………」
「待てつってんだろ!」
やっとの思いで張り上げた声が背中から飛んできた。
これが精一杯だろう。
レイヴンはゆっくりと振り向いた。
身体ごと振り向かれ、少年はわずかに怯んだが負けじと踏ん張る。
「なんだ?」
「俺は、俺は強くなりたい!」
心の底からの叫びだった。
「それで?」
レイヴンの無感情な、刺すような視線で見つめられ、少年は身がすくみそう
になるが、必死でこらえ、声を出す。
「あんたに、ついて行ってもいいか?」
レイヴンは少年を睨んだ。
少年も負けじと睨み返した。
レイヴンはまたしても睨めっこの要領で顔を変えた。
しかし今度は少年は笑わなかった。
するといつの間に近づいたのか、少年のすぐ側まで来たレイヴンは少年の身
体をくすぐり回した。
いつ接近したのか、少年にはまるで見えなかった。
「うひゃあぁあははははははは、やめ、あひゃあはははははははははははぁ」
少年は逃れようとするが、レイヴンの力からは逃げられない。
やがて少年が笑いつかれてぐったりすると、レイヴンは少年を担いで川から
上がった。
「俺様の三連勝だ」
「…ぅ、うるへぇ…」
少年はもう息も絶え絶えと言った感じだ。
「れったぃに、つほくなってやる…」
ろれつの回らない声でそれだけ言うと少年は目を閉じた。
「おい、待てよ。お前さんの名前はなんていうんだ?」
「つ、ついて行ってもいいのか?」
少年はすぐに身を起こしてレイヴンの顔を見上げる。
その目はさっきまで自殺しようとしていたものとは思えないほど輝いてい
た。
「あ~わかったわかった、好きにしろ。だが条件があるぞ?」
「…条件?」
少年が訝しそうに眉をひそめた。
するとレイヴンは急にまじめな顔になり、少年をじっと見つめた。
「生命を粗末にしないことだ」
レイヴンは少年の瞳をまっすぐ見ながら言った。
少年もレイヴンの瞳をまっすぐに見つめ返した。
度胸だけはあるらしい。
もっともレイヴンは、自殺ができるから度胸があるとは微塵も思ってはいな
かった。
一度道を見失っても、そのせいで死を選んだのだとしても、それを乗り越え
て必死に生きようとする、そういう奴が好きなのだ。
人によっては程度が違うし簡単なことではないが、それほど難しいことでも
ない。
少なくとも自分は出来た。
この少年にも今を乗り越えて、もっと色々な世界を見てもらいたい。
その結果がどうなるかは、今は知ったことではない。
レイヴンは自分の偽善者ぶりに心の中で苦笑いした。
そして若すぎるアークデーモンの少年に再び聞いた。
「で、お前さんの名前はなんていうんだ?」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
レイヴンはクーロンの町を疾走していた。
その巨体からは想像もつかないほどの速度で、石畳の上を駆けていく。
人ごみを避け、裏路地を音もなく走り抜ける姿は、まるで風のようだった。
「イステスの野郎。ややこしいことをしやがって…」
表情にこそ出さないものの、レイヴンの心は穏やかではなかった。
イステスの虚無の空の影響で、アルシャは夜のクーロンの街に放り出されて
いた。
虚無の空の影響を受け、範囲内から追い出された者も、虚無の空が消えた後
は無意識のうちに帰ってくることが出来る。
もちろん、その間の記憶は完全に抜け落ちるのだが…
しかしそれはある程度の土地勘があればの話だ。
なければそのまま、わけもわからずに知らない土地をさまよう事になるだろ
う。
温室育ちのアルシャに、クーロンの土地勘があるとは思えない。
この広いクーロンの街の中から、一刻も早く見つけ出さねばならない。
普通なら無理だ。
しかし、レイヴンにはそれほど苦労するようなことではなかった。
レイヴンの使役する魔法の中に“ある特定のものを探知することができる”
というものがある。
これのおかげでレイヴンは数多くの賞金首の居場所を見つけ出すことが出来
た。
今回もこれのおかげでアルシャの位置を特定できた。
それはよかったのだが、安心する暇なくアルシャに近づく複数―しかも男―
の反応を感じ、さすがに冷やりとした。
間に合うかはわからないが、全速力でアルシャの元に向かっていると、今度
は別の反応が突然現れたのだ。
反応は少女と老婆のように感じられたが、何か違うような気がした。
偶然通りかかったのだろうか?
それにしても、この少女の反応はどこかで感じたことがあるような気がする
のだが…
なんにせよ、彼女達がアルシャを助けてくれるとは微塵も思えなかった。
しかし、ふと少女の反応が消え、得体の知れない獣のような反応が出現した
のだ。
その直後、男達が蜘蛛の子を散らすようにアルシャから離れていった。
「なんだか知らねぇが…助かったのか?」
そう呟くがレイヴンはそれで安心できるほど楽観的ではない。
なにやら嫌な予感がするのだ。
レイヴンの嫌な予感は大抵の場合は当たる。
そしてやはりその数秒後に、アルシャと老婆と得体の知れない少女(いつの
間にか獣の反応が消えて出現していた)の3人の反応が消滅したのだ。
レイヴンのこの魔法も万能というわけではなく、やはり色々と制限がつく。
一つは大地の上にいないと反応しないこと。
石造りの建物や洞窟の場合を除くと、屋内では反応しないのだ。
もう一つは距離だ。
魔法の使用者から一定以内の距離に存在していないと反応しない。
最後に結界や妨害で探知が遮断されている場合だ。
この場合は探知妨害されている場所がこちらからわかる場合もあるのだが、
大抵はわからない。
今回も妨害されているのか、結界があるのかわからない。
もしかしたら木製の建物に入ったのかもしれないし、長距離に瞬間移動した
のかもしれない。
「っと、ここらへんだな、最後に反応があった場所は」
いろいろ可能性はあるが、とりあえずレイヴンはあたりを調べることにし
た。
最初に地面に広がる大量の血痕を発見した。
もしもアルシャのものだとしたら、これは致死量だ。
レイヴンは背筋が凍る思いで血痕を触った。
まだ固まってはいない。
つぎに指に付着した血を舐めて見た。
かつて文字通り人を喰らって生きてきたレイヴンは、人間の血にも詳しかっ
た。
ドロリとして不味い血。
たいていの場合は男の―それも正常な状態じゃない、薬か何かをやっている
者の血だ。
レイヴンは深く溜め息をついた。
とりあえず、アルシャは無傷のようだ。
今のところは、だが…
「ったく、心臓に悪いなこんちくしょうが」
続いて獣の毛らしきものだ。
なんというか、先ほどの得体の知れない獣と少女に関係がありそうだ。
「なんつぅ~か、いよいよキナ臭くなってきやがったな」
悪態をつくがそうもしてられない。
これ以上の手がかりもないのだ。
「仕方がないな。一度、宿に戻るとするか」
アルシャも心配だがロッティーのことも心配だ。
しかし、しばらく見ないうちにロッティーはずいぶんと逞しくなったと思
う。
背も大きくなったみたいだが…果たして大きくなったのだろうか、レイヴン
には同じに見えた。
だが、だからといってロッティーをこのまま放っておくのはさすがに心配だ
った。
ここはクーロンだ。
何があるかわからない。
ロッティーとの再開。
そしてかつての戦友との再開でそう痛感した。
「退屈しない街だぜ、本当に」
皮肉げに呟くと、銀髪のオウガは闇に消えるように姿を消した。
PC レイヴン ロッティー
場所 約100年前のとある町~クーロン
NPC フォルゼン・ザウバー イステス アルシャ エルゼ ジェーン
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追憶編
「ほれ、もうそこらへんで降参したほうがいいんじゃないのかい?」
薄暗い地下水道で2人の男が対峙している。
一人は常人に比べるとはるかに背が高く、筋骨隆々で逆三角形の逞しい体つ
きをしている。
人間ではない、オウガと呼ばれる鬼に近い種族だ。
「もっとも、降参したところでお前さんの罪は重いぜ?」
血のような真紅の髪を逆立たせた鬼がにやりと笑いながら言う。
その手には巨大な槍が握られている。
ずいぶん使い古した物らしく、柄に刻まれた傷や刃の血曇りが数々の戦闘の
歴史を髣髴させる。
「どうするよ、賞金首のフォルゼンさんよぉ?」
手入れは怠っていないらしく、触れただけで切れてしまいそうな穂先をもう
一人の男―フォルゼンに向ける。
「賞金稼ぎがぁ、これ以上邪魔するなら殺す!!」
フォルゼンと呼ばれた男は、くすんだ金色の髪を振り乱し、青い目を血ばら
せて叫んだ。
年のころは40代後半だろうか、元はなかなかの知的でダンディーな顔つきを
していたのだろうが、
今ではオウガも顔負けの鬼のような面をしている。
薄汚れ、ところどころ擦り切れたボロボロの服は、よく見れば聖衣であるこ
とがわかるだろう。
しかし、今の彼は聖職者というものからは程遠い、殺意と憎悪の塊と化して
いる。
そんなフォルゼンを、赤い髪のオウガはどこか悲しい目で見つめる。
「俺様はなぁ、聖職者であったお前さんを一応尊敬してたんだぜ? 別にお前
さん達が信仰っしているっつぅ神さんが正しいとかは思っちゃいねぇけどよ。
お前さんの性格は好きだったよ」
そこで一度言葉を切り、ふぅと溜息をつく。
「だがなぁ、それはいけねぇよ。オウガの俺様だってわかるんだ、今のお前さ
んの姿はちょっとどころじゃなくて…かなりヤバイぜ?」
「うるさい! 貴様に何がわかる!! 貴様にぃ、キサマニィィ!!!」
フォルゼンのその言葉を聞いてオウガは再び溜息をつく。
「わからねぇな。俺様は超能力者じゃねぇんだ。とりあえずは…」
フォルゼン・ザウバー。
今ではあまり信仰されていないノイヴェル教の信者であり、かなりの人格者
であった。
教会に妻と孤児達9人で暮らしていたが、彼の妻が不治の病に侵され、その治
療のために多額の借金を作ってしまい、住居であった教会も失ってしまう。
それでも彼の必死の治療で妻は何とか回復の兆しをみせた。
孤児達を含めて野宿生活となってしまった彼は、それでも残った借金を返す
ために必死に働いたが、現実は非情だった。
妻の病が再発したのだ。
もはや治療のお金もなく、見込みもなかった。
返すあてのない彼にお金を貸してくれる所もなかった。
それでも彼は必死にお金を集めた。
ところが、ある日。
本当に突然だった。
町に突然魔物が現れたのだ。
魔物はすぐに町の警備隊に退治されたが、たくさんの死傷者が出た。
「っと、これが俺様がわかっていることさ。お前さんの家族もその時に、お前
さんを残して全員死んだんだってな。どうだ、よく調べてあるだろう?」
その言葉が引き金になったらしく、フォルゼンが叫び声をあげながら怪しく
光るナイフを振りかざしながら飛び掛ってきた。
「ふ、ふ、ふざけるなぁ! 死んだのではない! 殺されたのだ!!」
高速で迫るフォルゼンの気迫とナイフを平然と見つめながら、オウガが答え
る。
「ああ、知ってるよ。それも魔物によってじゃなく、警備隊によって殺された
んだろ?」
オウガのその一言に、フォルゼンの動きが止まった。
「なんで俺様がそれを知っているのか、不思議そうだな? 簡単なことさ、お
前さんに殺された連中はその時の警備隊と原因を作った金持ち共だったからだ
よ。あの事件はタチの悪い金持ちが、暇つぶしで生物を化け物に変えちまう特
殊な薬品を食い物に混ぜ、ホームレスや下町の住人に配ったのが始まりだった
からな」
動きの止まったフォルゼンに赤髪のオウガが一歩近づいた。
「そうさ、その通りだ! あの日、あの時、救民とかほざいて奴等が食料を配
って回ったのさ。中にはいぶかしんで近寄らないものもいたさ。だが、あの時
の私達はその日の食べ物を得ることじたいが困難だった。それに私達には孤児
達が、大切な子供達がいた。私は奴等から食料を貰った…」
「久しぶりに食卓に並んだたくさんの料理を見て、子供達は喜んだよ」とフ
ォルゼンはその光景を思い出したらしく微笑んだ。
「子供達があんまりにもはしゃぐものだから、私と妻は自分達の分もあの子達
にあげた。子供達は…それはもう大喜びしたものさ」
しかし、次の瞬間にはフォルゼンの表情がふたたび凶悪な鬼の形相に変化し
ていた。
「貴様にはわからんだろう。愛するモノが目の前で化け物に変わり、愛いする
モノが目の前で八つ裂きにされた、この痛みを!!」
フォルゼンが叫びながらオウガに迫る。
手には怪しく刃の光るナイフが握られている。
「私の復讐はまだ終わってはいない! まだ、あの時の首謀者である貴族が残
っている!! あいつを…この手で八つ裂きにするまではぁあ!!!」
汚れた聖職者が両手でオウガに突き出す。
遅い。
少し訓練をつんだ者なら簡単に避けられる程度の速さだった。
が、赤い髪のオウガはナイフを避けようとも手首をつかんで叩き落そうとも
しなかった。
ズン…
重い音を立て、ナイフはオウガの腹部に突き刺さった。
「どうしたい、お前さんの復讐心ってのはその程度なのかい?」
普通の人間なら致命傷のはずだが、しかし赤髪のオウガはひるみもしない。
「いい気になるなよ。このナイフには猛毒が塗られている。時期に毒が回って
貴様は死ぬのだ!」
しかし、次の瞬間、勝ち誇ったフォルゼンの表情が驚愕に染まっていく。
突き刺さったナイフをどんなに力を入れて押しても引いても上下左右に捻ろ
うとしても、まったくビクともしないのだ。
「残念だが、俺様はあらゆる毒に抵抗力があるんだ。その程度の毒じゃあ風邪
も引きやしないぜ?」
低く呟くように言うと、オウガは左手でフォルゼンの手をナイフごと掴ん
だ。
「ば、馬鹿な…。6種類の毒を調合して作った猛毒だぞ!? 本当に効かないの
か!?」
「歯ぁ食いしばれよ? ちぃっとばかし強くお仕置きするからな」
フォルゼンの言葉を無視し、オウガは汚れた聖職者の頬に鉄拳を放った。
ヒットの瞬間に左手を離したためか、フォルゼンは血と折れた歯を吐きなが
ら数メートル程宙を飛んび下水道を転がっていった。
「目ぇ覚めたか? バカ野郎が」
派手に水しぶきを上げて壁に激突したフォルゼンに、オウガは悠々と歩いて
近づいていく。
「確かに、お前さん達の身に起こった事件は許されることじゃねぇよ。だけど
な、お前さんがやったことも許されることじゃない。生命ってのは重いもんな
んだ」
「今の俺のパンチよりもずっとずっとずっとな」と悪戯っぽく笑う。
「あの事件の首謀者である貴族―キシロフォードっつったかな? それとそれ
に関わった、まだお前さんの手にかかってない数名の貴族。そして人を化けも
んに変える薬品を売った商人。こいつらは正式に裁判が行われることになっ
た。まぁどんな判決が出るかはわからんがな」
オウガは倒れたまま動かないフォルゼンの頭を掴んで持ち上げた。
「だがお前さんも同罪だ。命を奪うほうに回っちまった瞬間にな。結局、お前
さんも奴らと同じ、ただの人殺しだったってことだ」
フォルゼンを掴んでいる方とは逆の方の手で、オウガは自分の腹に刺さって
いるナイフを引き抜いた。
ブシュッ
っと少量の血が飛び散りながら、怪しい色の刃をしたナイフが現れる。
「痛てぇじゃねぁか。ぜんぜん効かねぇ…わけねぇだろうが。こんな超猛毒作
りやがって、俺様じゃなけりゃ即死だっての…」
フォルゼンを通路の方に放り投げると、毒ナイフを持っていた布でくるみ、
皮袋の中に入れた。
「私は、私はいったい、どうすればいいんだ…?」
不意に、フォルゼンが口を開いた。
「大切なものをすべて失ってしまった…私は…どうすればいいんだ? 教えて
くれ…教えて…くれ」
目から涙を流し震える声で言った。
「あぁ? そんなの知るかよ。自分で考えろ」
無慈悲にそう言い放つと、オウガはフォルゼンに背を向けた。
「俺様はただ腹が立った。だから腹いせにぶん殴った。それだけだ」
そのままオウガはフォルゼンを残して歩き出した。
「ま、まて、なぜ連れて行かない、私を捕まえに来たんじゃないのか?」
倒れたまま、フォルゼンは呻きながら呟く。
常人では聞き逃してしまうかもしれないか細い声だったが、赤い髪の賞金稼
ぎにはしっかりと聞こえていたらしい。
「ふざけんじゃないぜ。捕まえるくれぇなら殺して死体を引きずって帰る。そ
のほうが楽だからな」
矛盾している。
さっき生命の重みがなんとか言ってたんじゃないのか。
だが、もはやそんなことを言う力も勇気もフォルゼンにはなかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
日が暮れ、夜の賑わいを見せ始めた酒場に巨大な人影が入ってきた。
逆立った赤髪の厳つい顔つきをしたオウガだ。
店内のほぼ全員が振り返るが、その顔を見た瞬間に全員が何事もなかったか
のように視線を戻す。
ここの酒場は行き付けだった。
最初こそはその場に居合わせた者ことごとくが恐怖に凍りつくか、度肝を抜
かれて震えるかだったのだが、今ではよい飲み仲間である。
頭が天井に着いてしまいそうな巨体でオウガは店内を軽く見渡すと、カウン
ターにのっしのっしと歩いていった。
この店は冒険者ギルドも兼ねているのが便利だ。
「よぉ、マスター。景気はどうだい?」
カウンターの椅子にドンと座りながらオウガは店主に話しかける。
これでも椅子が壊れないように気を使っているつもりである。
「ああ、一時期は誰かさんのおかげで客足が減ったが、いまは上々だよ。“戦
く大地レイヴン”」
オウガーレイヴンを前にしても怯むことなく返してくる。
最初にこのオウガが訪れたときも平静としていたのは彼だけだった。
ここの店主は肝も据わっていると有名だ。
「そんなに愚痴るなって、うじうじ根に持つのはお前さんの悪い癖だぜ?」
「お前ほどあっさりしすぎてるのも考え物だと思うぞ?」
相変わらずのポーカーフェイスで店主は答える。
「それで、フォルゼンはどうした?」
そう言いながら鋭い目つきでオウガを見てきた。
「それがよぉ、賞金首のフォルゼンはよぉ、ちょっと力入れすぎて木っ端微塵
になっちまったんだよ。証拠の品持ってきたからそれで勘弁してくれ」
店主の鋭い視線を感じながらも、レイヴンは平然と嘘を言ってのけ、布の固
まりを取り出した。
「やっこさんが使ってた毒ナイフだ。気をつけろよ、数種類の毒を合わせて作
った猛毒物らしい」
店主が聞くよりも早くレイヴンが答えた。
カウンターの上におかれた布をそっと開き、店主は中のナイフを手に取っ
た。
「たしかに、これはフォルゼンが使用していた猛毒:クロガラスに間違いない
ようだな」
店主はナイフを布に納め、それをカウンターの下の引き出しの中に入れた。
「こういう場合、普通なら死体を確認しないといけないんだが…まぁいいだろ
う、お前はギルドランクBだからな。フォルゼンは賞金首リストから削除して
おく」
そう言うと、店主は金貨の入った袋を取り出しオウガの目の前に置いた。
「いやぁ~悪いな」
このときレイヴンは嘘をついた。
ギルドに対して偽りの報告をするのは禁止されており、した場合はもちろん
罰を受けることになる。
ばれれば…だが。
「何か飲んでいくか?」
「あぁ、そうだな。いつものやつ頼む」
レイヴンは金貨の入った袋を収めながら答えた。
「そうくると思った」
店主は苦笑しながら一本の一升瓶を取り出した。
ラベルには大きく黒い字で“鬼生殺し(おになまごろし)”と書いてある。
「好きだな。ここら辺だとお前だけだぞ、こんな酒を頼むのは」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
すっかり夜もふけたころ、レイヴンは酒場を後にした。
月夜に照らされた街道をのしのしと歩きながら、レイヴンは考え事をしてい
た。
フォルゼンはあの後どうしただろうか。
死んだだろうか。
生きているとしたらまずどうするだろうか。
ギルドに嘘の報告をしたのは別に初めてではない。
それにまるっきり嘘というわけではない。
レイヴンは賞金首のフォルゼンは死んだと報告した。
これからは違うフォルゼンが違う生き方をしてくれるはずだ。
それはレイヴンの勝手な妄想に過ぎないのだが、そうであると信じたい。
だが、もしフォルゼンが再び狂気の殺人者に戻ってしまったのなら、そうな
ってしまったら今度は本当に息の根を止めなくてはならない。
その時はギルドに責任を追及されているだろうが…
まぁ、そんなことにはならないだろう。
「腹減ったなぁ」
まだわからない未来のことを思って悩むのなんて性に合わない。
そう思い込み、近くの屋台で焼き鳥でも買おうと決めた。
「(ん、なんだありゃ?)」
しばらく歩き、大きな橋を通りかかったときである。
橋の中腹あたりに一人の人影があった。
よくは見えないがシルエットの大きさから見て子供かもしれない。
「(こんな時間に何やってんだ?)」
目を凝らしてみると、その人影は少年であることがわかった。
いや、よく見なければ少女と間違えるところだった。
美しい黒髪が月の光に反射されて黒銀色に輝いている。
いや、元から黒銀色なのかもしれない。
ちらりと見えた横顔は氷のように青白く、それでいて妙に美しく、魅惚れて
しまいそうなほど綺麗な顔をしていた。
「おい――…!?」
不思議に思って声をかけようとしたそのときである。
蒼海色の瞳がかすかに揺れたように見えた。
黒銀髪の少年が橋から身を投げた。
「うお!?」
驚いたのはレイヴンである。
まさか今、目の前で自殺をされるとは思ってもいなかった。
「バカ野郎が!」
そう叫んだときには、すでに体は少年を追って橋から飛び降りていた。
少年のほうが先に飛び降りていたが、レイヴンはすぐに少年においついた。
すばやく空中で少年の身体をキャッチし、抱きこんだ刹那。
レイヴンは全身を強く打ちつけられる感覚に襲われた。
ドッボーーーーーーーンッ!!!
橋のはるか下方で巨大な水しぶきが上がった。
レイヴンは少年を抱えたまま、何とか岸まで泳ぎ着いた。
少年を岸に上げ、自分も岸に上がった瞬間、レイヴンを鋭い痛みが襲った。
ちょうど今日、フォルゼンに刺された部分だ。
「ぐぅ、あの時の傷か!?」
油断していた。
まさか今になって毒が効き始めたのだろうか。
それとも飛び込んだ瞬間に塞ぎきっていなかった傷口が開いたのだろうか。
とにかく傷の度合いを調べないといけない。
手で探ると妙な感触がした。
柔らかい。
明らかに自分の発達した腹筋の肌触りではない。
「(マジかよ…内臓が飛び出してやがる…)」
冷やりとして視線を移すと、そこには青白く細長い物体が生えていて…
「なんじゃこりゃあぁ!?」
よく見ると、何のことはなかった。
先ほど助けた少年が鋭い目つきでこちらを睨んでいた。
その少年の青白い腕が自分の腹―フォルゼンに刺された部分―に埋まってい
た。
「何やってんだよ?」
今自分が言いたかった言葉を、少年が先に口にした。
声変わり前の少女のような声だが、不思議と惹きこまれそうな声色だった。
「そりゃあこっちのセリフだ。まだガキのクセに投身自殺なんかしやがって。
おまけに助けた俺様にナイスなパンチをお見舞いするんだんてどういうつもり
だ。一瞬ヒヤッとしただろうが!」
そこまでレイヴンが言うと少年は無言で睨んできた。
綺麗な瞳だが氷のような冷たさも併せ持っている。
睨んでくる少年に向かって、レイヴンは睨めっこの様に次々と表情を変えて
みせた。
「ぶっ…」
「あ、今笑っただろう! 俺様の勝ちだ!」
いたずらっぽく笑うレイヴンの顔に少年はパンチを繰り出した。
「俺様の二連勝だな」
レイヴンは楽々とその拳を掴みくるりとひねって見せた。
「うるせぇ! 余計なことしやがって! 放せ!」
痛みにもだえながらも、少年は必死に抵抗する。
これ以上あがいたら自分で自分の肩を砕きそうだったので、仕方なくレイヴ
ンは放してやった。
すると少年は勢いあまって地面に激突してしまった。
「急に放すなよ!」
「いや、お前さんが放せって言ったんじゃないか」
やれやれと言った感じにレイヴンは地面に座った。
はじめて見た時はこんなに気性の激しいやつだとは思わなかった。
まったく、人は見かけによらないってのは本当だな…と痛感した。
いや、人だけとは限らない。
「お前さん、アークデーモンだな?」
それまで痛みにもだえていた少年が、レイヴンのその一言で急におとなしく
なった。
「図星か…あほなやつだ、アークデーモンがあの程度の高さから転落して死ぬ
わけねぇだろ?」
と、そこまで言ってレイヴンは少年の身体がかすかに震えているのに気がつ
いた。
その理由にレイヴンはすぐに気づいた。
「そういうあんたはオウガだろ? 俺を殺すのか…?」
少年が震える声でそう言った。
やはり、この少年は虐待を受けていたのだ。
「お前さん、生まれてどのくらいだ?」
突然の質問に少年は虚を突かれたのか、きょとんとしている。
「黙ってちゃわからんだろ。いくつだ?」
「…2週間」
震える声でそう答えた。
「えらく若いじゃないか。なのに自殺なんか図りやがって、阿呆が」
「う、うるせぇ! 余計なお世話だって言ってんだろ!? それにさっきは死
のうとしたんじゃねぇ!」
少年は必死に否定してくるが、レイヴンにはそれが嘘だとばればれだった。
「んん? それなら何しようとしてたんだ?」
いたずらっぽくレイヴンは少年に顔を近づける。
「さ、さかな…魚を獲ろうとしてたんだ」
尻餅をついて後ずさりながら少年は答える。
「そうか、なら獲りに行こうぜ」
そう言うや否や、レイヴンは少年の足を掴んで川の真上で宙吊りにした。
長い黒銀色の髪の先っぽが水につきそうでつかない際どい位置だ。
もっとももう全身ずぶ濡れだが。
「や、やめろ! 嘘だ嘘だ!」
「んなこたぁ知ってんだよ!」
少年の数倍声を張り上げてレイヴンは怒鳴った。
そしてひるんだ少年を無慈悲に川に落とした。
しかし少年は何も言い返さなかった。
今まで言い争っていた雰囲気とはまるで違う。
本気で怒鳴ったレイヴンを前にして、少年は呆然としていた。
「俺様は種族で決め付ける奴は大っ嫌いだ」
そんな少年を見下ろしながら、レイヴンは静かに言った。
「だがな、自分から命を捨てるような奴はもっと大っ嫌いなんだよ!」
レイヴンの声は大気を震わせ、大地を揺るがす。
川の水までをも恐れさせ まさに大地が戦いている様な光景だった。
「死にてぇなら勝手に死ねばいい。二度目は止めねぇからな」
そう言い放つとレイヴンは少年に背を向けた。
「ま、待てよ…」
背中から声が聞こえた。
弱々しい、勇気を振り絞って出した声だ。
しかし、レイヴンは立ち止まらない。
「待てよ…」
「………」
「待てつってんだろ!」
やっとの思いで張り上げた声が背中から飛んできた。
これが精一杯だろう。
レイヴンはゆっくりと振り向いた。
身体ごと振り向かれ、少年はわずかに怯んだが負けじと踏ん張る。
「なんだ?」
「俺は、俺は強くなりたい!」
心の底からの叫びだった。
「それで?」
レイヴンの無感情な、刺すような視線で見つめられ、少年は身がすくみそう
になるが、必死でこらえ、声を出す。
「あんたに、ついて行ってもいいか?」
レイヴンは少年を睨んだ。
少年も負けじと睨み返した。
レイヴンはまたしても睨めっこの要領で顔を変えた。
しかし今度は少年は笑わなかった。
するといつの間に近づいたのか、少年のすぐ側まで来たレイヴンは少年の身
体をくすぐり回した。
いつ接近したのか、少年にはまるで見えなかった。
「うひゃあぁあははははははは、やめ、あひゃあはははははははははははぁ」
少年は逃れようとするが、レイヴンの力からは逃げられない。
やがて少年が笑いつかれてぐったりすると、レイヴンは少年を担いで川から
上がった。
「俺様の三連勝だ」
「…ぅ、うるへぇ…」
少年はもう息も絶え絶えと言った感じだ。
「れったぃに、つほくなってやる…」
ろれつの回らない声でそれだけ言うと少年は目を閉じた。
「おい、待てよ。お前さんの名前はなんていうんだ?」
「つ、ついて行ってもいいのか?」
少年はすぐに身を起こしてレイヴンの顔を見上げる。
その目はさっきまで自殺しようとしていたものとは思えないほど輝いてい
た。
「あ~わかったわかった、好きにしろ。だが条件があるぞ?」
「…条件?」
少年が訝しそうに眉をひそめた。
するとレイヴンは急にまじめな顔になり、少年をじっと見つめた。
「生命を粗末にしないことだ」
レイヴンは少年の瞳をまっすぐ見ながら言った。
少年もレイヴンの瞳をまっすぐに見つめ返した。
度胸だけはあるらしい。
もっともレイヴンは、自殺ができるから度胸があるとは微塵も思ってはいな
かった。
一度道を見失っても、そのせいで死を選んだのだとしても、それを乗り越え
て必死に生きようとする、そういう奴が好きなのだ。
人によっては程度が違うし簡単なことではないが、それほど難しいことでも
ない。
少なくとも自分は出来た。
この少年にも今を乗り越えて、もっと色々な世界を見てもらいたい。
その結果がどうなるかは、今は知ったことではない。
レイヴンは自分の偽善者ぶりに心の中で苦笑いした。
そして若すぎるアークデーモンの少年に再び聞いた。
「で、お前さんの名前はなんていうんだ?」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
レイヴンはクーロンの町を疾走していた。
その巨体からは想像もつかないほどの速度で、石畳の上を駆けていく。
人ごみを避け、裏路地を音もなく走り抜ける姿は、まるで風のようだった。
「イステスの野郎。ややこしいことをしやがって…」
表情にこそ出さないものの、レイヴンの心は穏やかではなかった。
イステスの虚無の空の影響で、アルシャは夜のクーロンの街に放り出されて
いた。
虚無の空の影響を受け、範囲内から追い出された者も、虚無の空が消えた後
は無意識のうちに帰ってくることが出来る。
もちろん、その間の記憶は完全に抜け落ちるのだが…
しかしそれはある程度の土地勘があればの話だ。
なければそのまま、わけもわからずに知らない土地をさまよう事になるだろ
う。
温室育ちのアルシャに、クーロンの土地勘があるとは思えない。
この広いクーロンの街の中から、一刻も早く見つけ出さねばならない。
普通なら無理だ。
しかし、レイヴンにはそれほど苦労するようなことではなかった。
レイヴンの使役する魔法の中に“ある特定のものを探知することができる”
というものがある。
これのおかげでレイヴンは数多くの賞金首の居場所を見つけ出すことが出来
た。
今回もこれのおかげでアルシャの位置を特定できた。
それはよかったのだが、安心する暇なくアルシャに近づく複数―しかも男―
の反応を感じ、さすがに冷やりとした。
間に合うかはわからないが、全速力でアルシャの元に向かっていると、今度
は別の反応が突然現れたのだ。
反応は少女と老婆のように感じられたが、何か違うような気がした。
偶然通りかかったのだろうか?
それにしても、この少女の反応はどこかで感じたことがあるような気がする
のだが…
なんにせよ、彼女達がアルシャを助けてくれるとは微塵も思えなかった。
しかし、ふと少女の反応が消え、得体の知れない獣のような反応が出現した
のだ。
その直後、男達が蜘蛛の子を散らすようにアルシャから離れていった。
「なんだか知らねぇが…助かったのか?」
そう呟くがレイヴンはそれで安心できるほど楽観的ではない。
なにやら嫌な予感がするのだ。
レイヴンの嫌な予感は大抵の場合は当たる。
そしてやはりその数秒後に、アルシャと老婆と得体の知れない少女(いつの
間にか獣の反応が消えて出現していた)の3人の反応が消滅したのだ。
レイヴンのこの魔法も万能というわけではなく、やはり色々と制限がつく。
一つは大地の上にいないと反応しないこと。
石造りの建物や洞窟の場合を除くと、屋内では反応しないのだ。
もう一つは距離だ。
魔法の使用者から一定以内の距離に存在していないと反応しない。
最後に結界や妨害で探知が遮断されている場合だ。
この場合は探知妨害されている場所がこちらからわかる場合もあるのだが、
大抵はわからない。
今回も妨害されているのか、結界があるのかわからない。
もしかしたら木製の建物に入ったのかもしれないし、長距離に瞬間移動した
のかもしれない。
「っと、ここらへんだな、最後に反応があった場所は」
いろいろ可能性はあるが、とりあえずレイヴンはあたりを調べることにし
た。
最初に地面に広がる大量の血痕を発見した。
もしもアルシャのものだとしたら、これは致死量だ。
レイヴンは背筋が凍る思いで血痕を触った。
まだ固まってはいない。
つぎに指に付着した血を舐めて見た。
かつて文字通り人を喰らって生きてきたレイヴンは、人間の血にも詳しかっ
た。
ドロリとして不味い血。
たいていの場合は男の―それも正常な状態じゃない、薬か何かをやっている
者の血だ。
レイヴンは深く溜め息をついた。
とりあえず、アルシャは無傷のようだ。
今のところは、だが…
「ったく、心臓に悪いなこんちくしょうが」
続いて獣の毛らしきものだ。
なんというか、先ほどの得体の知れない獣と少女に関係がありそうだ。
「なんつぅ~か、いよいよキナ臭くなってきやがったな」
悪態をつくがそうもしてられない。
これ以上の手がかりもないのだ。
「仕方がないな。一度、宿に戻るとするか」
アルシャも心配だがロッティーのことも心配だ。
しかし、しばらく見ないうちにロッティーはずいぶんと逞しくなったと思
う。
背も大きくなったみたいだが…果たして大きくなったのだろうか、レイヴン
には同じに見えた。
だが、だからといってロッティーをこのまま放っておくのはさすがに心配だ
った。
ここはクーロンだ。
何があるかわからない。
ロッティーとの再開。
そしてかつての戦友との再開でそう痛感した。
「退屈しない街だぜ、本当に」
皮肉げに呟くと、銀髪のオウガは闇に消えるように姿を消した。
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