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2024/05/18 12:46 |
9.君の瞳は虚ろ/マックス(フンヅワーラー)
PC:ジルヴァ ラルク マックス
場所:シカラグァ連合王国・直轄領
―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「どうしました? ブロンドの女性と知り合いなんですか?」

「ブロンドの女性?」

 マックスが答える前に、ジルヴァが先に答えた。

「いえ、この香りが……あ、もう消えてますけど……まぁ、香ったとき。
 窓の下の人ごみに、ブロンドの女性が……」

 なんとはなしに、マックスの心臓が、ビクリ、と震える。
 しかし、隣の老婆は、「やれやれ」というようにため息をついた。

「……どうして、その香りの主が、そのブロンドの女性だと、人ごみの中から特定
できたんだい?」

「……へ?」

 ラルクは言っている意味すらもう理解できないらしい。完全に熱にやられている。

「色惚けてんじゃないよ、この小僧が。もうアタシらは帰るから、とっとと寝な」

 ラルクは、数秒ぼうっとしていたが、ふふ、と笑って……熱に浮かされているの
でその様子は傍から見ていて不気味なものではあったが……「やさしいんですね」
と言った。
 あの湖に落ちたときからずいぶんと時間が経過している。この遅すぎる忠告
は、決して「優しい」ものではないと思ったが、マックスは何も言わなかった。
本人らがそれで丸く収まるのならば、それに越したことはないし、何よりも早く
休んだほうがいいという点ではマックスは同意見だった。

「ありがとうございます」

 のん気な笑顔で、ラルクはそう言った。
 靴を履いていると、お金を返すと言われたが、マックスは断った。ラルクの病
状が悪化したら医者にかかる金が必要になると思ったからだ。これで医者にかか
る金もなく、この三畳一間の部屋で死なれては寝覚めが悪い。……まぁ、万が一そ
のような状況になっても、マックスという男は、それをさほど気にする男ではな
いのだが。




 外に出ると、もう薄暗くなりかけていた。人通りの多さも、もう薄らいでいる。
 マックスは、少し冷えた外の空気を吸うと、改めて隣にいる老婆のことを思った。
 思えば、この老婆との直のコミュニケーションは、マックスから行ったことは
無い。ラルクという仲介がいたからこそ、一緒に行動していたに過ぎない。
 このまま別れるのが無難だろう。
 そう思っていたら、ジルヴァは、マックスに焼き栗の入った袋を渡し、歩き出
した。そういえば、「栗を剥くのは得意か」と呼び止められたことを思い出す。
どうやら、剥けということらしい。

「もう、冷めちまった」

 と、ブツブツジルヴァは言った。

「焼き栗はしばらく冷ましたほうが剥きやすいですよ。薄皮が、蒸気で蒸らされ
て剥きやすくなるから」

 栗の腹のあたりに爪を入れる。パキン、と小気味良い音がすると、中から薄皮
も綺麗に剥けた栗が、ころんと出てきた。

「どうぞ」

 ジルヴァは上機嫌そうにその栗をつまんでパクリと口の中に入れる。

「うまいね」

 栗が、ということか。それとも、マックスの栗剥きが、ということか。
 どっちだか分からなくて、マックスはとりあえず「はぁ」と答えておいた。

「ところで、どこに向かっているんです?」

 パキン。ころん。パクリ。

「あたしのツレん所だ」

 パキン。ころん。パクリ。

 マックスは、少し驚いた。だが、よくよく思えば納得できた。この老婆一人が
旅をするというのは、なんとなく、生き辛そうと思ったからだ。

「どうせアンタ、急いでいないんだろう? 送っていっておくれ」

 パキン。ころん。パクリ。

 ”特に断る理由もなかったので”という理由でマックスは、ジルヴァに並んで歩
いた。

 ペチ。

 栗の皮があまり膨らんでいなかったようだ。薄皮をつけたままの栗が、爪の跡
をつけて出てきた。
 ペリペリと薄皮を剥いていると、

「アンタにやるよ」

 とジルヴァが言った。栗を剥いているお礼なのか。それとも、爪の跡のついた
栗は嫌なのか。どっちなのか判じかねたが、とりあえず、マックスはラルクに倣
うことにした。

「ありがとうございます」

「ふん」

 ラルクの時の満足そうな感じとは微妙に違うニュアンスで鼻を鳴らした。
 その後、ジルヴァは何も話しかけず、歩いていった。マックスも、それを特に
気にした風もなく、栗剥きをしながらついていく。
 栗に爪を入れながら、マックスは暇つぶしがてら、考えていた。
 ジルヴァには、「嫌われてはいない」が、ラルクとは違い、「気に入られては
いない」、というところだろう。
 それでは、何故、そんな「どうでもいい人物」と一緒に自分のねぐらにつれて
いくのか。
 案外、この老婆のことだ。”帰りづらいなにか”とかいうもののがあったかもし
れない。と、”暇つぶしの遊びがてらの妄想”をぼんやりと思う。しかし、現実的
な「栗の皮を剥いてもらうため」という本命の意見が頭の中に占めている。
 と、ジルヴァの足が止まった。

「ここでいいよ」

 マックスは、剥き途中の栗を、最後に剥き、それを渡した。


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2007/02/11 23:54 | Comments(0) | TrackBack() | ○君の瞳

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