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2024/05/18 13:05 |
8.君の瞳と漂う香り/ラルク(マリムラ)
PC:ジルヴァ ラルク マックス
場所:シカラグァ連合王国・直轄領
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 呼び止められた男は、昼間の優しい人だった。

「あ、マックスさんだー。ジルヴァさん、よく気付きましたねー」

 へらへら笑い、近づくラルク。どうも力が入らない。
 困ったな、早く着替えないと本気で風邪を引いてしまう。
 そんなことを考える頭も緩慢で、考えることを放棄しそうだ。

 一方、通行人に荷物をぶつけられながら、マックスはジルヴァの相手をしていた。

「あの、とりあえずここで話は迷惑ですから……」
「じゃあアンタも来な」

 ニィと笑う。文句を言わせる気もないらしい。
 諦めたように小さく「はあ」と気のない返事をすると、マックスはジルヴァからラ
ルクへと視線を移した。

「そういうことらしいです」

 そういうこととはそういうことだ。彼女がそう決めたら、他の人が覆すのは難し
い。
 ジルヴァもマックスは逃げないと判断したのか、服の裾から手を離した。

「さ、行こうかね!」

 ジルヴァに小突かれてラルクがよろめく。思ったよりも足にきているようだった。
 宿に戻って体を拭いて、着替えて寝ていればよくなるだろうか?
 力無く歩くラルクの後を、ジルヴァが鈴を鳴らしながら歩き、マックスは黙々と歩
いた。




 宿はそう遠くなかった。
 顔見知りに片手を挙げて挨拶すると、いつもの部屋を頼む。ここは安い上に荷物預
かりもしてくれるので重宝しているのだ。着替えや日用品等、預けておいた箱を受け
取りながら、顔を背けてくしゃみをした。

「相変わらず景気悪そうね、ギルダーさん」
「うん、ちょっと水に落ちちゃって。タオルとお湯が欲しいんだけど」
「それは構わないけど、お連れさんがいるなら狭いんじゃない?」
「……そうかな?」

 寝に帰るためだけの安宿だ。風呂もついていない。部屋の広さも三畳の畳敷き。布
団を畳んで置いてあるので更に狭い。いつも独りなので不都合は感じなかったのだ
が……。

「あの、着替えるので少し待ってて頂けますか?」

 振り向いてそう聞いた。さすがに着替えるときは独りじゃないと狭すぎるかもしれ
ない。

「早く着替えた方がいいですよ」
「さっさと着替えな。あんまり待たせるんじゃないよ」

 二人とも優しいなぁ。
 ラルクは洗面器一杯のお湯とタオルを受け取って、部屋へと向かった。




 ずっしりと重く冷たいマントを体から引き剥がす。もう水が滴ってはいないようだ
が、明らかに乾いていないソレを窓辺に吊す。お湯に浸したタオルを固く絞り、擦る
ように体を拭き上げ、着替えのシャツに袖を通す。黙々と一連の作業を進め、そう時
間も掛けずに着替えを終わらせる。

「ふぅ」

 一息つく。
 みんなで甘栗を食べて、少し談笑して、独りになったら銭湯に行こう。お金を一部
返して、また残りを返す約束をして……。
 そんなことを考えながら鼻をかむ。途端に強い花の香りがした。

「……?」

 窓を開けて見下ろすと、雑踏の中にブロンドの髪が揺れている。彼女が香りの主だ
ろうかと考えたが、すぐに目を逸らした。強い香りのためか、それとも熱のせいなの
か、頭がクラクラしてきたのだ。再び彼女を目で追ったときにはもう姿はなく、幻覚
を見たのだろうかと頭を抱えた。確かに少し頭が熱い。



 タオルと洗面器を小脇に抱えたラルクが階段を下りると、ジルヴァに杖で小突かれ
た。

「遅い!!」

 今までで一番痛くない。手加減してくれているんだなぁと勝手に解釈して、ラルク
はニコニコと笑った。その表情にマックスは不思議そうだ。

「お待たせしました。広くはないですけど、上なら座って話せますよ」

 顔なじみに洗面器とタオルを返し、先に立って階段を上る。階段が若干急なので、
時折振り返っては様子を窺いながら進むが、引きずるほど長い裾でありながらジルヴ
ァは危なげなく階段を上っていた。最後尾を普通に上ってくるのはマックスだ。

「どうぞ」

 引き戸を開け、狭い部屋に招き入れると、ジルヴァは当然のように積んであった布
団の上に腰掛けた。座布団もない部屋だが、一応宿泊施設ということで板間ではなく
畳敷きなのが救いか。畳に直に腰を下ろす。

「さっきもこの花の香りがしたんですよ」

 くん、と鼻を鳴らし、漂う花の香りを嗅ぐ。手にした甘栗とは明らかに質の違う香
り。
 すると二人は、通りを見下ろすように立ち上がった。

「どうしました? ブロンドの女性と知り合いなんですか?」

 何気なく言ったその言葉に、空気が固まった。

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2007/02/11 23:54 | Comments(0) | TrackBack() | ○君の瞳

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