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2024/05/18 15:05 |
7.君の瞳とその笑顔/ジルヴァ(夏琉)
PC:ジルヴァ ラルク マックス
場所:シカラグァ連合王国・直轄領
―――――――――――――――――

 真昼の光の強さよりも、ぽってりと熟れた果物のようになった傾いだ太陽の放つ
明かりのほうが、世界を美しく見せるとジルヴァは思っている。 

木の葉の輪郭や建物の造作が赤く際立つのはもちろんだが、この時間特有の、浮き
足だった埃っぽい匂いすら好ましい。

 結局行きかう人ごみの中、ジルヴァは宿に向かうラルクの後を杖の先に付いた鈴を
鳴らして歩いている。

 ある程度の問答はあったが、ジルヴァが負けるわけがない。飽きるまでは、ラルク
と行動しようと勝手に決めていた。
 喧嘩別れした相手の待つ宿に帰るのは気分が悪いし、ちょうどよいことに路銀も手
に入った。

「あ」

 ジルヴァの目が、人ごみの一角にとまる。

「少しそこで待ってな」

 ラルクの服の裾を掴んで立ち止まらせる。

 駆けていったジルヴァが、彼の元に戻ってきたとき、片腕に紙袋を二つ抱えてい
た。

「焼き栗は嫌いかい?」

「え…、僕にもくれるんですか?」

 わたわたと慌てる大の男に、ジルヴァは舌打ちする。

「失礼な奴だねぇ。やるよ。その上奢りだよ。今日は儲けさせてもらったから、それ
くらいやっても当然だろう?」

 そう言って袋の片方をラルクの方に押し出すと、さすがの彼も手を伸ばした。
 暖かい栗の袋を抱いて、彼の表情にちらりと笑みが覗く。と、次の瞬間に飛び出た
くしゃみのせいで、顔中くしゃくしゃになってしまった。

「くしゃみするときはあっち向きな! 唾がとんだじゃないか」

「すみませ…」

「その前に言うことがあるんじゃないかい」

「えと、ありがとうございます」

 礼を言い終わると同時に、また大きくくしゃみをする。今度は、ちゃんと顔を背け
ていた。

 元の肌が浅黒いのと夕暮れ時なのとでわかりにくいが、ラルクの顔色は、昼に会っ
たときよりもより土気色に近いようだ。風邪を引きかけているのかもしれない。裾を
掴んだときも、まだじっとりと湿っていた。

「栗食べないのかい?」

「あ、い、今はなんだか食欲がなくて」

 歩き出してから聞いてみると、不興を買ったと思ったのか、ラルクがびくりと身を
縮ませる。

 その様子が気に入らなくて、ジルヴァは彼の背中を杖で小突いた。ラルクがバラン
スを崩し、袋にいっぱい入っていた栗が二つほど落ちて、雑踏を転がった。

「ったく、人が話しかけるたびにびくびくして、うっとおしいったらありゃしない」


 ジルヴァは、手のひらでずっと転がしていた自分の栗をラルクに示した。

「こういう細かい仕事は苦手なんだ。剥いておくれ」

「あ、はい…」

 受け取ったラルクの目はうっすら涙がにじんでいるように見えたが、それでも片手
で栗を扱って、殻を割った。が、「うわぁ」と声を上げる。

「す、すみません…。中身割れちゃいました…」

 ジルヴァに返された栗は、実が薄皮に張り付いたまま二つに別れていた。これでは
刃物で皮を剥くか、中身をほじり出さなければ食べられない。

「使えないねぇ! こっちはアンタにやるから、もう1個やってみな」

「は、はい…」

 栗を剥くのが苦手なのか、あたりが悪いのか、それともジルヴァのかけるプレッ
シャーのせいなのか。二個目の栗も綺麗に二つに割れてしまった。

 ジルヴァが苛立つのと反比例して、ラルクは主人にしかられ耳としっぽがぺたんと
垂れてしまった犬のように肩が落ちる。

 本当に自分は細かい作業が苦手で、こういうときに困る、とジルヴァは思う。
 歯を使って剥いてしまってもいいのだが、今の保護者の前でそれをやって、たしな
められたことがあるのだ。

「………?」

 ジルヴァが、前触れなく足をとめてあたりを見まわした。遅れて立ち止まったラル
クは、タイミング悪く年配の女性とぶつかり、通りすがりざまに罵られる。

「…花の匂いがしないかい?」

「え、別に…。花売りの人ならあっちのほうにいますけど」

「いや、そんなしおれたのじゃないさ。もっと、薔薇か百合か、そういう…」

「さぁ…、僕は感じませんけど…」

 ラルクは、空気の匂いを嗅いで首を傾げている。ジルヴァは周りをまだきょろきょ
ろしているが、すぐに断念した。

「あぁ、駄目だ。もう消えちまった…ん?」

 何かに気が付くと、ジルヴァは黒い裾を引き摺って駆け出した。その反応の俊敏さ
は見かけの外見と釣り合わないもので、ラルクは遅れてついてくる。

 ジルヴァの走る速度はそれほどではないが、人の間を縫って器用に動くので、ラル
クは一苦労だ。

 それほど移動せず、程なくしてジルヴァは止まると、後ろから1人で歩いていた男
の服を皮のたるんだ手できゅっと掴んだ。

「栗を剥くの得意かい?」

 振り返ったのは、とりたてて特徴もない、中肉中背の男。

 凡庸としかいいようのない顔立ちに驚きを浮かべている男に、ジルヴァはニィと笑
いかけてやった。
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2007/02/11 23:54 | Comments(0) | TrackBack() | ○君の瞳

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