忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/18 13:35 |
6.君の瞳に映る華/マックス(フンヅワーラー)
PC:(ジルヴァ ラルク) マックス
NPC:謎の女
場所:シカラグァ連合王国・直轄領


--------------------------------------------------------------

 軽快なくせに気力のなさそうな足取りで、マックスは雑踏の中を歩いていた。
 日はもう暮れかけ、街中の活気あふれた空気にも、冷気が忍び込んできた。い
そいそとした足取りで女性たちは次々とマックスを追い抜かす。帰って腹を空か
せた旦那と子どものために食事をつくらなければならないと急いでいるのだろ
う。それを呼び止めようと、露店では、売れ残りを売り切ろうと、大声を張り上
げている。いや、露店だけではない。「うちの宿ほど安いとこはない」「いや、
そっちは馬の世話がおざなりだ。うちの宿は良心的だ」と、旅人の袖をひっぱっ
て客の取り合いまでもが始まっていた。と、その後ろでは、この急いだ空気に乗
じて一稼ぎしようと、スリが目を光らせて物色していた。
 そんなせわしない空気の中、マックスは浮いていた。だが、浮いているはずな
のだが、誰もマックスに目をくれない。スリにとっては、ぼうっとしたマックス
など格好の獲物だと思いそうなものなのだが、スリの目からは、マックスは外れ
ていた。注がれる視線といえば、時折、家路に急ぐ女性に肩が当たって、「ぼ
さっとしてんじゃないわよ」という肩越しに見せる険悪な横顔のまなざしを投げ
られるだけだ。
 おかしな言い方かもしれないが……マックスは、浮いているはずなのだが、非常
に周囲に馴染んでいた。なぜ、と言われると、細かく見れば、理由はいくつか見
つかる。1つ、足取りは緩いものの、その実、流されるように歩いているため。
1つ、視線は泳いでいないくせに、視野広く見つめたような空気が「余所者」と
いう空気を薄れさせている。1つ、平面的な顔立ちはこの地域の民族に近い。……
色々あるのだが、今ひとつ、それらは決定打に欠けている。この男を説明するの
に、まわりくどい言葉はいらない。この一言で集約される。
 平凡なのだ。
 いや、平凡に見える、というべきか。なんというか、マックスは、薄い人間で
あった。見た目も薄く、気力も薄く、表情も薄く、印象も薄い。自然、それは
「平凡」という、実態のはっきりしない概念に収められる、というメカニズムで
ある。
 予定では、今日は旅のための買出しをする予定だったのだが、思いがけない、
出費をしてしまった。
 もしかすると、もう数日、滞在させてもらうことになるかもしれない。好意で
寝床をを借りているあの男に言ったらなんと言われるかはわかっている。
 「馬鹿だな、あんた」さして熱の無い目で、そう言うだろう。
 だが、マックスはさして気にしていなかった。自分の人を見る目というもの
に、多少なりとも自負があったし、もし、あのラルクという少年が金を返しにこ
なくとも、それは自分の見る目というのを過信した、自業自得の結果だからだ。
 さして、急いだ旅でもないし。と、マックスは心の中で付け加える。
 まぁ、なんにしろ、安酒の一本でも買って、機嫌をとっておくにこしたことは
ないだろう。

 突如、花の香りがした。

 視界に入ったのは、風に舞い、赤い夕日の光を受けながら輝くブロンドの髪。
 反射的に、振り返る。花の香りを振りまきながら、恋をする少女のように軽や
かなステップで道を歩く女の後姿が見えた。煩雑な人ごみの隙間を、踊るように
通り抜けてゆくその姿はやけに現実味が無かった。
 なんだ、あれは。
 マックスは、ゾッとした。
 あんなに浮いた……いや、それどころでは無い。あんなに”目立つ”存在が、すれ
違う瞬間まで、視界に入らなかった。……いや、周囲の人間は、あんなおかしな女
の存在に気づいていない……いや、いると認識すらしていないのだろう。
 女が、足取りをとめないまま、チラリとこちらを見た。
 艶やかな顔立ち。大きな目と、小さいが鮮やかな唇が印象的な、その顔が、二
コリと笑った。

「ちょっと、あんた、なにぼーっと突っ立ってんだい!」

 その声で気づいた。どうやら、足を止めていたらしい。慌てて前を向くと、買
い物帰りの女性がにらんでいた。「すいません」という台詞が言い終わらないう
ち、怒鳴った中年の女性はもう早足で去っていた。
 再び、後ろを振り返ってみたが、ブロンドの女の姿は無かった。甘い花の香り
がまだ僅かに残っていたが、それもすぐに消えた。
 マックスは、二度ほど瞬きをして、そして、何事もなかったようにまた歩き出
した。

PR

2007/02/11 23:53 | Comments(0) | TrackBack() | ○君の瞳

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<5.君の瞳に宿る不幸/ラルク(マリムラ) | HOME | 7.君の瞳とその笑顔/ジルヴァ(夏琉)>>
忍者ブログ[PR]