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2024/05/04 09:38 |
5.君の瞳に宿る不幸/ラルク(マリムラ)
PC:ジルヴァ ラルク マックス
NPC:エルネスト(回想
場所:シカラグァ連合王国・直轄領
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

「あたしはジル。黒い小鳥[バード]、うたうたいのジルヴァっつったらあたしのこと
さ。まぁ聞いたことはないだろうがね」

 そう名乗った彼女の名前を頭の中で反芻する。ジルヴァ。うん、いい響きだ。
 音のイメージでは、褐色の肌に黒く縮れた長い髪の表情豊かで豊満な女性……だ
が。
 ちらりと見上げ、黒づくめの細っこい老女と比べてしまう。
 まあ、そんなものだ。もう一度膝を抱え直す。

「アンタたち、名前くらい教えたって損はないだろう?」

 杖の先の鈴をしゃんと鳴らして、そのジルヴァが明るく言った……が、流れるのは
沈黙。
 顔を上げ、少しほんやりとした感じの青年に視線で促すが、彼も同じように視線で
返してくる。そちらが先にどうぞ、いえいえそちらこそ、と視線で譲り合いをしてい
るのだ。

 折角のいい気分を台無しにされたと思ったのかもしれない。
 ジルヴァは杖の先をピシッとこちらへ向けた。怖い。

「えと、僕はラルク、です。よろしく」

 僕は仕方なく口を開き、弱々しく笑う。
 味方殺しやギルダーという蔑称は、あまり進んで知らせたいモノでもない。
 そして、他に自分を表す言葉も知らなかった。何だか惨め。

「マックスです」

 食べかけの菓子を一旦下ろし、礼儀正しく男が名乗った。マックス。へぇ。
 その名前のイメージでは、体格の良い、明るい体育会系の好青年……なのだが。
が。
 再び菓子を黙々と食べる男は、体格が悪いとは言わないが、けして体育会系ではな
さそうに見える風貌で、なんというか、普通の人。
 そこでハタと思った。
 金持ちでもない人に金を借りた場合、それは相手の人が困ることになるのではない
か?
 それとも見えないだけで(失礼)実はお金持ちだったりするんだろうか……?
 うわぁ、もしかして酷いコトした!?

「……あの、どうしました?」

 マックスと名乗った男に怪訝な顔をされてしまった。
 どうも、考えが飛躍したせいか、妙な表情で凝視していたようだ。

「すみませっ(ゴフッ」

 つい、ペコペコと頭を下げて、老女に杖でどつかれる。
 膝を横に崩したような姿勢で地面に手を付き、辛うじて体を支ることに成功。転が
ったらまず間違いなく水路に落ちていただろう。
 命の危険性すら感じ、心臓をバクバクさせながら、老女を見上げる。

「まったく、簡単に謝るんじゃないよ」

 何故か楽しそうだ。こっちは命に関わったかもしれないというのに。

「ご……えーと、はい。気をつけます……」

 つい謝りそうになって、なんとか修正。
 おかしい、なんでこうなってしまったのだろう。
 疑問に思いつつも立ち上がろうと重心をずらし、

「うぁ」

 腰を浮かせて初めて脚の痺れに気付く。間に合わない。
 あたふたと手が宙を泳ぎ、スローモーションで落ちていく。あ、という男の視線に
気付いたが、時既に遅し。背中から飛沫も高く着水する。もちろん全身が水浸し。

「あー……」

 経緯を目で追っていた男が、座り込んで覗き込んできた。
 溺れることなく岸まで泳ぎ着けたのは、育ての親の教えの賜物だと感謝する。が、
体を引き上げるには水を吸ったマントは重すぎて、自力で這い上がれそうにない。

「……大丈夫ですか?」

 捨てられた犬みたいな目をしていると、男が手を伸ばしてくれた。いい人だ。
 差し伸べられた男の手を取り、なんとか岸へ上がる。服から水滴と呼べないほどの
水を滴らせつつ、照れ笑いをしながら頭を下げた。

「あはは……ありがとうございました」

「そうそう、それでいいんだよ」

 自信たっぷりに答えたのは男ではなく老女の方で。
 男と顔を見合わせ、笑う。

「なんだいアンタたち、あたしの顔になんか付いているっていうのかい」

 そもそも、落ちた原因は彼女なのに。
 マントを絞り、非常に情けない恰好のまま、おかしな気分になっていた。

「じゃあ、私はそろそろ」

「え、あ、あの、お金を……!」

 立ち去ろうとした男に縋るような目を向ける。
 男は懐から屋号入りの手ぬぐいを出すと、どうぞ、と差し出した。

「お金ができたら、しばらくはここにいるから来てくださいね」

 手ぬぐいとは珍しい。ありがたく受け取って髪を拭きながら、立ち去る男に声をか
ける。

「必ず返しに行きますから……!!」

 男は軽く手を挙げ、去っていく。いい人だ……!

「アンタ、返すアテはあるのかい?」

 いつの間にか隣に立っている老女に驚き、一歩引こうとして堪える。
 今度落ちたら、本当に這い上がれない気がして必死だ。

「とりあえず、狩りに……(ギルドの仕事がなかったから金欠なワケで」

「じゃあ、すぐ行かないと日が暮れるね」

 菓子の袋を閉じて、手に付いた粉を服で払い落とす老女。
 その仕草があまりに行く気満々で、かえってこっちが驚いてしまう。
 正直、ここで別れると思ってたのに。

「なんだね、迷惑なのかい」

 呆気にとられていたから、つい首を横に振った……あれ、断るべきだったのだろう
か?

「じゃあ、狩りとやらに行こうかね!」

 そう言って背中をどつく姿が何だかすごく楽しそうで。

「……ックシュン」

 寒さが身にしみる季節になったことを実感しつつ、まあいいかと思ってしまうのだ
った。




 着いたところは湖畔。
 といっても、シカラグァ直轄領は巨大な淡水湖に浮かぶ島の為、どこもかしこも湖
に面していると言えなくもない。しかも領内は大小様々な水路が走り、元々の川と人
工的な運河とで至る所が湖に繋がっている。

 まあ、とにかくさっき幸運にも水に落とさずに済んだ合成弓を構え、岩場の影に潜
んで獲物を待っているのだ。

「何にもいないじゃないか。釣りの方がマシなんじゃないのかい?」

 一応声を潜めて、ジルヴァは言った。少し退屈になってきたのかもしれない。

「いいんですよ、もうすぐですから」

 日は傾き、空は紫に染まる。
 夕暮れのオレンジを通り越した、ほんの僅かな時間。
 遠くから飛んでくる鳥の群が目に入った。その中でどれが太っているか、どれが健
康そうかを見極め、出来る限り引きつける。
 小さくジルヴァが欠伸をしたとき、引き絞った弓がヒュンと音を立てた。立て続け
に矢をつがえ、二本、三本と矢を射っていく。
 降り立とうとした鳥達は、慌ててもう一度飛び上がろうと隊列を乱し、逃げ切れな
かった数羽が湖に撃ち落とされた。
 よく見ようとジルヴァが立ち上がり、初めて細い紐の存在に気付く。

「なんだい、コレ」

「さっきの矢に端を結わえておいたんですよ。そうすれば猟犬がいなくても、矢と獲
物の回収が出来ますからね」

 試しに一本手繰り寄せてみると、岸まで太った鳥が流れてくるのだ。
 結局全ての矢に一羽ずつ丸々とした鳥が射抜かれていて、今日の収穫は六羽であっ
た。

「へえ、見かけによらず、やるじゃないか」

「え……そうですか?」

 ジルヴァが目をきらきらさせている横で、ナイフを取り出し、黙々と血抜きと羽む
しりを続けている。さすがに空気が冷たくなってきた。濡れた体でこれ以上長居は出
来ない。

「えーと、じゃあ」

 血抜きした鳥の足を紐で結び直し、拾った棒に吊す。

「今日は失礼しました。そろそろ帰らないと、お連れさんが心配しますよ」

「心配なんかするもんかね」

 もう大分暗くなってきた。足場が見えるうちに、人通りの多い道へ出なくては。
 とりあえず歩き出す。当然のようにジルヴァが後をついてくる。

「……ックシュン」

 何で気に入られちゃったんだろうと、それが不思議でならなかった。




「全部でこんなもんだね」

 ここは料理屋の勝手口。小銭をつかんで、店員が提示する。
 時々こうやって捕ったばかりの鳥やウサギなどを買い取ってもらっているのだ。

「ぼったくるんじゃないよ!」

『え?』

 思いも寄らぬ一言に、対応していた店員も自分も、気の抜けた声で反応する。
 もちろんついてきてしまった彼女の一言なのだが。

「アンタ、こっちが下手に出てると思って買い叩くつもりだね!?」

 キーキー声が耳に痛い。

「……あのね、おばあちゃん。いつもこの値段で買い取ってるんだよ」

 渋々対応する店員。しかし、彼女の罵声は留まることを知らない。
 延々と大声で罵声を浴びせるものだから、とうとう店主らしき人が奥から顔を見せ
た。
 ああ、ちなみに途中から耳を塞いでいたので、内容までは把握していない。
 わかっているのは彼女が叫ぶのをやめようとしなかったということだけだ。

「いったい何の騒ぎかね」

「ここではいつもこんなに安値で買い叩いているのかい」

 片手で耳を塞ぎながら出てきた店主は、思いの外静かに対応したジルヴァに興味を
持ったようだった。耳から手を外し、話を聞く体勢にはいる。

「こんなに安値、とは?」

「丸々太った六羽ものカモを、月餅三つ分とは何かの間違いだろうって言ってるんだ
よ」

 店主がちらりと店員を見やる。店員は小さくなって、顔を伏せたままだった。

「それは彼の勘違いです、申し訳ない。しかし、こちらも商売ですから」

「詐欺と商売は違うはずさね」

「ごもっとも。しかし、味方殺しの捕った鳥となると、こちらも高く売れない以上、
高く買い取るわけにはいかんのです」

 そう言って店長が提示した額は、当初示された額の十倍のものであった。
 あまりの展開に言葉が出ない。
 いままで、何で気付かなかったのだろう?

「仕方ないね、今日のところは勘弁してやるよ」

 そういうと、小突いて鳥を渡させ、金を受け取るジルヴァ。
 あれ、もしかして、これで借金が返せるのか? 

「……ックシュン」

 ……その前に宿に泊まる必要がありそうだった。風呂と布団があれば、酷くはなる
まい。
 いつもの安宿に向かおう。素泊まりできる冒険者御用達の宿に。

「ほら、半分。残りはあたしの交渉の報酬としてありがたーくもらっとくよ」

 楽しそうに、とても楽しそうに、ジルヴァは半分を押しつけてくれた。
 ……まあいい。当初予定よりも五倍の収入があったのだ。彼女には感謝しなけれ
ば。

「ありがとう、ジルヴァさん」

 若干熱っぽいような気がしながらも、思ったよりもいい人なんだなぁと笑った。


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2007/02/11 23:53 | Comments(0) | TrackBack() | ○君の瞳

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