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2024/05/04 03:26 |
4.君の瞳への月/ジルヴァ(夏琉)
PC:ジルヴァ ラルク マックス
場所:シカラグァ連合王国・直轄領
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乾燥した果物の入ったものと、木の実が入ったものと、その両方が入ったものと。
さらに、餡の入ってない分厚いクッキーに似た焼き菓子タイプのもの。

つまりは、近くにあった湖水亭の卸店にあった全ての種類を数個ずつ、すべてをあわ
せると20個は優に超えるだけの月餅を、さきほどぶつかった男に奢らせたジルヴァ
は機嫌よく男の背中をどつく。

「ったくジメジメしてんじゃないよ。こっちまで身体が重くなっちまう」

「…………」

褐色の肌の若い男は、ちらりとジルヴァのほうを見上げたが、すぐに視線は抱えこん
だ膝に落ちる。今にも「の」の字を地面に書き出しそうな風情だ。

目の前の大きな河の上では、小さな船がときおり行きかっている。
ジルヴァ抱え込んでいる袋からはまた新たな月餅を取り出すと、湖水亭の銘の入った
外装を剥いてかじりついた。

「あの、一つどうですか?」

昼行灯めいたもう一人の男が、若い男に話しかけた。
彼は、若い男がジルヴァに引きずられて行く時に、懇願の眼差しとともにはしと上着
の裾を掴まれてしまい、こうして二人と橋の下で月餅を食べるためになっている。

「………。
 いえ、結構です」

若い男は、話しかけた人物の手にある月餅----彼が、自分の金でついでに買ったもの
だ----を未練がましく見ながらも首を横に振る。

「欲しいなら欲しいって言えばいいだろうに」

奢らせた月餅を次々とパクつきながらジルヴァがそう言っても、もちろん彼はますま
すうなだれるだけだ。
河の流れは光を反射してきらきらと輝き、その上気持ちのいい風が吹いているだけ
に、男の周りの空気の淀みがくっきりと際立つ。

思えば、ジルヴァは連れの保護を離れてこんなふうに知らない人間と接するのは、実
に久々なのだ。

次はどれにしようかと、袋の中を探っていたジルヴァの手がふと止まった。
もう片方の手も袋の中に入れ、わずかにローブの袖を引き上げる。

枯れ枝を思わせる手の、その甲にはわずかに赤い血が滲んでいた。

ジルヴァの身体は魔力を受け付けない。
たとえ回復を意図した力の働きだろうが、それはジルヴァの身体を痛めつけるだけ
だ。
力の強さや相性によって、ただ皮膚がぴりぴりするだけであったり強く咳き込んだ
り、示す様は変わるがとにかく不快な目に遭う。

魔力に対する感度も状況によって変わってくるが、よほどの至近距離か直接ジルヴァ
に魔力が行使されないかぎりジルヴァにダメージがくることはない。
同じ街で魔法が使われた程度で逐一影響を受けていたのでは、そもそもジルヴァはこ
うして旅をすることも不可能だ。

ほんの少し皮膚が裂けただけで、黒い袖で拭ってしまえばもう血は止まっていた。菓
子を取り出し、二人の男を横目で伺う。

「…な、なにか?」

びくりと若い男が怯える。

「何でもないよ。ビクビクして、アンタほんっとうに情けないね!」

…この二人ではない、か。

ジルヴァはそう結論づける。
若い男はもちろん、ぼうと菓子を食べる昼行灯めいた方も何か力を振るったようには
思えないし、このほど近くで魔力をぶつけられたらジルヴァももっとはっきりしたも
のを感じるはずだ。

橋の上でも別段騒ぎが起こっているようでなない。先ほどと変わらず、直轄領らしく
賑やかに人の通りがある。

ならば、遠くでよほど強い魔法が使われたのか。

冷たい予感を、ジルヴァは即座に頭から追い出す。
往来で簡単な術が使われただけかもしれないではないか。例えば、キセルに火をつけ
るだとか。それがたまたま届くことだってありえないことではない。

今取り出した月餅をろくに味わいもせずに数口で飲み込むと、ジルヴァは勢いよく立
ち上がった。二人に向かってにたりと笑う。

「あたしはジル。黒い小鳥[バード]、うたうたいのジルヴァっつったらあたしのこと
さ。まぁ聞いたことはないだろうがね」

そう、今日は天気もいいし菓子もうまい。外にでて、こうして知らない人間をひっか
けることだってできたのだ。
たいした実害もなかったことをうじうじと考えているのは、全くジルヴァの性に合わ
ないことだ。

「アンタたち、名前くらい教えたって損はないだろう?」

杖の先の鈴をしゃんと鳴らして、ジルヴァは明るく言った。

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2007/02/11 23:53 | Comments(0) | TrackBack() | ○君の瞳

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