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2024/05/04 14:25 |
3.君の瞳へ届く憐憫/マックス(フンヅワーラー)
PC:ジルヴァ ラルク マックス
場所:シカラグァ連合王国・直轄領
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 心の窓が瞳だというならば。
 自分の心の窓は、すりガラスでできているのだろう。

 だから、自分は




 ある公衆の場所で、見知らぬ誰かが、困った様子で「助けてください」と叫
んだとき。実際に助ける人は5%ほどらしい。
 しかし、「そこの人、助けてください」などと名指しされると、助ける人の
割合は90%ほどに跳ね上がる。
 だから、とりあえずその呼びかけに反応したマックスの行動は、実に普通
だったといえる。

「えーと」

 ほんの2秒前ほどに立ち去ろうとしていたので、身体を反転させて、涙目の
男を見る。
 どうやら、そのタイミングの動作で目を引いてしまったのだろう。
 
「なにを……助けたら」


「へ?」

 男は、何を質問されたのかが分からないというよりも……つながらなかった
ようだ。
 ちらりと、理不尽な言葉を叫んでいた老婆を見る。ちらりとだけ。ごくまっ
とうな心理として、「からまれたくない」というのがあるのは、負い目を感じ
る必要もない当然の気持ちだ。
 老婆は……仕方のないことだが、マックスの方を注視しているらしかった。
布で瞳が隠れていたのであまりわからないが。とりあえず、男を引きずること
をやめたようだ。
 ……とりあえず、これで「助けた」ということにはならないか。と、なんの
期待もよせず、そんなぬるいことを夢想する。

「だから、ですね。
 一部始終を見てたわけですけど……。
 どうやら、あなた方は……ぶつかった様子で。……ですよね?」

「……はぁ」

 今目の前の男の心理は手に取るように分かった。
 とりあえず、なにか返事をしなければいけないように感じたときに出るの
だ。この相槌は。

「で、ぶつかった瞬間を、私は見たわけじゃないので、どちらが悪いのかはわ
かりませんけどね」

「あたしが悪いってのかい! この弱者である老婆が悪者ってのかい!?」

 キィキィと叫ぶヒステリーな声と、その老婆の一挙一動に反応する鈴の音
が、見事なハーモニーを奏で……なんというか……聞き苦しかった。
 あぁ、これは、老婆にも過失があったな、と感じながら、マックスは、変わ
らず淡々と続ける。

「いえ……あの。だから、私にはわかりませんけど。
 あの、こちらの方が、謝ったわけですから、こちらの方にはなんらかの過失
があった……わけですよね?」

「あ、はい。余所見をして走ってて……」

「で、謝った」

「はい」

「で、こちらの方の要求は『謝るな』」

 老婆を見るが、返事はしない。むくれているのか。満足しているのか。それ
とも、勘がよさそうなので、案外、マックスの思っていることに気づいたのか
もしれない。

「……でしたよね?」

 しょうがないので、男に振る。

「はい……」

 理不尽な思いなのだろう。そうだろう、過失は相手にあるという態度でい
て、それを認める謝罪を拒否するそれは、まぎれもない”理不尽”と呼ばれる
ものなのだから。

「つまり、あなたは自分が原因であることを認めて、さらには……」

 変な言い方だなぁ、と思いながら、マックスは少し躊躇したものの、続け
た。

「……謝ってしまった。それも、謝罪をするなといわれたのに、更にもう一度
謝ってしまった。
 ……まぁ、それで暴力を振るったこちらの……奥さんもわる……」

「アタシはこー見えても独身だよ!」

 ……自分の都合の悪いところを、無理矢理さえぎったようだ。
 とりあえず、目をつけられたくないので、マックスはこの老女の意向に沿う
ことにした。

「……失礼。
 で、話を戻しますが。
 こちらの……ご婦人は」

 反応は無い。セーフらしい。
 少し安心して、続ける。

「湖月亭の月餅で、許そう、と。
 そう、和解をもちかけたわけですよね?」

「え? あ、はい」

 まだ、男は、何もわからないらしい。

「で。私は、何を助ければ……?」

 男はあんぐりと口をあけたままだ。

「その和解策は、無茶というものではないですし……。
 これから、あなたに何かしらの用事がなければ、……湖月亭ですから、少し
お金はかかるでしょうけど、可能なものでしょうし。一緒に行くことが無理な
らば、代金をここでお支払いすれば……誠意は少し欠けるでしょうが、解決す
るお話ですよね」

「そうそう、ヒトをオニ婆ァのように扱って『助けて下さいぃぃぃ』って叫ん
で。失礼にもホドがあるとは思わないのかい?」

 極度に誇張した似ていないモノマネを老女は披露する。
 ……あの暴行っぷりはオニ婆ァの称号にふさわしいものだが。

「で」

 男は、目が虚ろだ。
 酷なことだろう。なにもかもが、ふさいでいるような状況だ。
 しかし、酷なのは自分も同じことだ。何にも関係なかったのに、なぜこんな
ところに突っ立っているのか。
 マックスは、最初と同じ質問を繰り返した。できるだけ、嫌味に聞こえない
ように、事務的に。

「私は、何を助ければいいんでしょうか」

 男は、数度口をパクパクさせて、うぅ、とうめき声をもらし……蚊の鳴くよ
うな声を搾り出した。

「お金……貸してください。……生活費に余裕が無くて」

 これほどまでに情けない声を聞いたのは初めてだった。
 だから……彼にしては、本当に珍しいことに……本当に、本当に珍しいこと
なのだが、マックスは、同情の念をわずかに抱いてしまった。

 それが、始まりだった。

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2007/02/11 23:52 | Comments(0) | TrackBack() | ○君の瞳

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