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2024/05/04 05:17 |
2.君の瞳に怯えるギルダー/ラルク(マリムラ)
PC:ジルヴァ ラルク マックス
NPC:エルネスト(回想
場所:シカラグァ連合王国・直轄領
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 あの人は言った。強くなれ、と。
 だから必死でついていった。他に頼る者はなかった。

 あの人は言った。オマエは必要なかったから捨てられたんだ、と。
 だから今度こそ捨てられないよう、貪欲に目にする全てを学んだ。

 なのに。あの人は言うのだ。
 オマエは人の中に帰れ、と。自分には必要ない、と。





「……どうしてですか、エル」

「オマエを養うのはもう飽きたよ。だから、山を下りろ」

 ハーフエルフの中でも、人間・エルフ双方に馴染めず、一人旅をする『はぐれ』は
少なくない。その『はぐれ』と呼ばれる女・エルネストは、気まぐれに拾った捨て子
をあっけなく手放した。

「人の成長は早いから面白いよ、ラルク」

「……僕はもう面白くないんですね?」

「まあね」

 それは、ラルクが拾われて丁度十五年目の事だった。

「人の子の成長は驚くほど早い。エルフにもハーフエルフにも考えられない速度だ」

 身長の高いエルは、ラルクを見下ろしながら腕を組む。

「僕は……役に立ちませんか」

「雑用は一通り出来るけど、オマエ鬱陶しいからね」

 グサグサと言葉に心臓を貫かれながら、彼女の言葉を聞いていた。
 頭が重くて、顔を上げることすら出来なかった。

「教えられることはもう殆ど覚えたろう。教える楽しみがなくなっちまったんだよ」

 小さな頃から「見るからに似てないだろう。オマエは拾ったんだ」と聞かされ続け
てきた。血の繋がりがなくても、すぐに罵声を浴びせながらも、根気強く色んな事を
教えてもらった。彼女の外見はいつまでも変わらなかったが、ラルクの身長は拾われ
た当初の倍以上になっていて、その目に見える違いが、やけに孤独感を煽った。

------オマエはアタシが捨てられた歳になるまで面倒見てやるよ。

 昔言われた言葉が蘇る。ああ、彼女は十五で『はぐれ』になったのか。
 目から溢れたものに視界を阻まれ、世界が歪む。頬を伝って、ソレはすたすたと地
面に落ち続けた。
 捨てられる自分にも、そしてかつて捨てられた彼女にも何もできない。そんな無力
感。

「山を下りたら冒険者ギルドにでも入るんだね。
 アタシの教えた弓の腕があれば、死なない程度に食えるだろ」

 まだ、顔が上げられない。

「ごめんなさい、僕……」

 言葉が詰まる。いったい何と言おうというのか。

「そういうときはゴメンじゃない、アリガトウって言うんだよ」

 頭をはたかれた。いつもと違い、吹き飛ばされることはなく。

「あ……」

 頭を上げたときにはもう、彼女は姿を消していた。





 あれからもう七年になる。
 結局彼女に教えて貰ったことしか知らないのだと痛感し、冒険者ギルドに登録した
わけだが、弓の腕を必要とする仕事はそう多くはなかった。弓と森の知識、雑用以外
に何も出来ないというコンプレックスは、未だ根強く、なかなか抜け出せそうにな
い。

「おー『味方殺し』じゃん、今日も一人でお仕事ですかー?」

 冷やかした今の男は、ラルクの不名誉な通り名を好んで使う。イヤなオヤジだ。

 冒険者ギルドに登録したばかりの頃、大したことないはずの仕事なのに、一緒に仕
事を請けた同行者に何故か死人が出る、という不幸な偶然が続けて三度起こった。一
度目は土砂崩れに巻き込まれ、二度目は足を滑らせて河で溺れたのだ。
 どちらも短い別行動中のことだったが、一緒に行動していたら土砂崩れの前兆に気
付けたのでは、とか、プレートメイルを脱ぐのを手伝えれば泳げたのでは、と気が重
かった。
 三度目は野獣に襲われ、戦死した。応急処置も間に合わなかった。
 弔い合戦となった野獣戦で味方を誤射した光景を、彼は偶然居合わせ、目撃したら
しかった。
 誤射された男の命に別状はなかったのだが、彼が吹聴した為に誤解が誤解を呼ん
で、今では通り名となってしまっている。三度とも自分のせいで死人が出たのだと噂
されると、本当にそう思えてきて隠れて泣いた。自分はやはり、いらない子なのか
と。しかも、生き残った同行者達は皆、揃いも揃って国を出てしまったため、もう弁
護もしてもらえないという始末。……彼らは今、どうしていることだろう。生きてい
るのだろうか?

 以来、一緒に仕事を請けてくれる人などいようはずもなく、一人寂しくギルダー人
生まっしぐらなわけだ。

 酒飲みオヤジを無視して通り過ぎ、背中で品のない笑い声を聞いた。
 自分はあんなヤツにも蔑まれる程度の人間なのか。悲しくなる。

 角を曲がり、向こうからこっちが見えなくなった途端に走り出した。
 少しでも早くヤツから離れたかった。そして、幸い足は人より早かった。
 通りを一本全速力で駆け抜ける。人が驚いて避ける気配が伝わってくるが、いかん
せん、俯きがちに走っていたので、周りの景色なんて見えていない。

 がふっ、という衝撃と共に、視界が黒く染まった。
 もがもがと動く何かから離れて、やっと視界を塞いだのが黒い布だと分かった。そ
の布を纏った小柄な女性が、やはり転んでいたのだ。

「……あたしみたいなババアにぶつかっておいて、タダで済むと思うなよー!」

 至近距離から不意打ちのキィキィ声に、両手で耳を塞ぐ。
 老女はしばらく手足をバタバタさせて、何か、多分恨み言を叫んでいた。耳を塞い
でいて内容までは聞き取れないが、騒音であることは確かだった。
 しばらくして急に罵声が止んだので、慌てて起きるのを手伝おうと手を伸ばす。

「すみませ……」
「謝るな!(ゴフッ」

 言い終わる前に鳩尾を殴られた。怯んで一歩後ろに下がる。

「ごめんなさ……」
「謝るなって言ってんだろ!(ゲシゲシ」

 今度は両足で攻撃。何なんだこの人は。

------そういうときはゴメンじゃない、アリガトウって言うんだよ。

 こんな時にエルの言葉を思い出して泣きそうになる。
 でも、この状況でありがとうはおかしいだろう!?

「と、とりあえず起きられますか」

 もう一度手を差し伸べる。これで駄目なら逃げようと、本気で思いつつ。

「……湖水亭の月餅、食わせな」

 アッという間だった。しっかりと手首を捕まれ、まるで手錠をかけられたようにな
る。彼女の力は予想以上に強く、暴れたくらいでは解けそうにもない。
 そんなに悪いことをしたのか、僕は。
 半泣きな顔で、周りに助けを求めようと顔を上げる。

 特に興味もなさそうにこちらを見ている男と、目があった様な気がした。
 が、すぐに視線を逸らされる。

「そ、そこの人! 助けて下さい!!」

 涙声が、通りに響いた。
 通りで見ても見ぬフリをしていたその他大勢の視線が、その男に集中する。


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2007/02/11 23:52 | Comments(0) | TrackBack() | ○君の瞳

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