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2024/05/18 16:50 |
10.君の瞳に映る欠片/ジルヴァ(夏琉)
PC:ジルヴァ マックス (ラルク) 
場所:シカラグァ連合王国・直轄領(宿屋前)
―――――――――――――――――――――――――――

 マックスから受け取った剥いた栗を口に入れようとした瞬間に目の前の建物の窓が
割れた。

 宿屋の、隣の建物に面した窓を椅子が突き破ったのだ。椅子は隣の建物の壁にあた
り、しかも二階から登場したので落下して地面に衝突し、用途を二度と果たせないほ
どに分解した。

 ジルヴァとマックスは通りに立っていたので、ガラスの破片は当たっていない。し
かし衝撃音と今起こった出来事の脈絡のなさに、2人を含めて周囲の人間が凍りつい
た。

「…あんた、何かしたのかい?」

 不覚にも栗と取り落としたジルヴァは、あてつけがましくマックスを見上げる。

 その理不尽な言い様にマックスは何か反論しようとしたようだ。しかし、その言葉
は封じられる。

 同じ窓からさらにどさりと何かが落下したのだ。
 
 跪いていたのは、肌に一点の曇りもない黒い女。
 肌も髪もぬばたまのように黒い女は、このような登場の仕方をしていなければ、建
物の影に宵の口の薄闇が凝って形を持ったように見えたかもしれない。

 大きく息を吐くと女は編んだ髪をかき揚げ頭を上げる。
 そして通りに立つジルヴァを見つけて、目や口の大きい派手な作りの顔が思い切り
歪んだ。その表情を音声に直すなら一言、「げ」だ。

 しかし、彼女はこの場はジルヴァを無視することに決めたようだ。

 南国美人は、鋭い破片の散った地面に降り立ったにも関わらず、すぐさま立ち上
がった。そのとき、彼女が拳で目元を拭ったのにジルヴァは気づく。しかし彼女はジ
ルヴァのほうにはもう見向きもせず、通りの奥をきつい眼光で見据えると、その方向
に向かって駆け出した。

 立て続いた出来事に頭がついていかなかったのか、なんとなくその場にいた皆でそ
れを見送ってしまった。

「えっと…」

「何だい?」

 女の背を呆然と見送ったマックスの呟きにジルヴァが反応する。

「え、いや、とくに意味はないんですけど。というか…なんだったんでしょう」

「さぁね。痴話喧嘩かなんかじゃないのかい?」

 野次馬がざわめきだしていると、宿の従業員が悪態をつきながらでてきた。涼しい
ことになっている窓からは、他のものが飛び出る様子はないが、この分だと中も煩い
ことになっているに違いない。

「戻るよ」

 ジルヴァはマックスの裾をひっぱって言った。

「え…、いいんですか?」

「騒がしいのは好きじゃないんだよ。晩飯くらい奢るから、もうすこし付き合いな」


「はぁ…」

 ジルヴァが歩きだすと、マックスも歩き出す。「晩飯をおごる」という言葉が聞い
ているのかもしれない。

 大きな通りまでひっぱって歩き、彼が逃げ出さない、という確信を得てから裾を放
した。

「ったく。今夜はどこで寝ようかねぇ」

「あの程度の騒ぎなら、時期に収まると思いますよ。しばらくしてから宿に戻れば問
題はないと思いますが」

「そういう問題じゃないよ。ケチがついちまったんだ。あんなわけの分からないとこ
ろに戻りたくないね」

 ジルヴァが吐き捨てるようにいうと、然したる特徴のない男の顔に怪訝な表情が浮
かんだような気がした。きゃんきゃんと煩い老婆であるジルヴァが、あのような事件
について知りたがろうとしないことを不思議に思っているのかもしれない。

 ジルヴァだって、普段なら連れの愛人が絡んでいようが、というかそれならなおの
こと好奇心が刺激されるだろうし、そのように振舞うほうが自分にとって自然な行動
だということも知っている。

 ジルヴァは夜の空気を大きく吸い込む。煮炊きや喧騒の生活の匂いが胸を満たす。


 今回は、今夜どころか明日の夜だって、あの部屋に戻れるか分からなかった。

 なにしろ、割れた窓から噴出した強い魔法の気配に、ジルヴァの肌は今だにビリビ
リと痛んでいたのだから。


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2007/02/11 23:55 | Comments(0) | TrackBack() | ○君の瞳

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