PC:(マックス) ラルク ジルヴァ
NPC:ナーナ=ニーニ
場所:シカラグァ連合王国・直轄領
―――――――――――――――――――――――――――
先ほどの空から降ってきた花びらは、自分たちだけがみたものではなかったらしい。
その証拠に、外を歩く人々は、浮足立った様子で先ほどの現象を話題にしていた。
「…まさか、シカラグァっていうのはさっきみたいなのがしょっちゅう降ってくるわけじゃないだろうね」
「そんなわけないですよ。僕も、何年もこの街に住んでますけど、あんなの初めてですし」
それにしてもきれいでしたねぇ、とラルクはまたへらっと笑う。
「言い眺めだったってのは否定しないけどね。あたしゃ、あんなのがしょっちゅうなのはごめんだよ」
ジルヴァはまだざわざわする両腕を擦る。
先ほど大気中に満ちていた魔法の力は今は霧散しているものの、不快感はまだ残っていた。
なぜ、自分が魔力に対してこのような反応を示すのか、実はジルヴァ自身も知らなかった。
まわりの人間がそういうものとして扱ってきたのでとくに疑問に思うこともなかったが、実は相当特殊な体質だと自覚したのはここ数年のことだ。
「あれ…あの人」
夕方に寄ったラルクの宿にジルヴァが強引についていく流れになっていたのだが、ラルクが不意に足を弛めた。
「なんだい?」
「あの人…さっき昼間の人じゃないですか。ほら、ジルヴァさんの宿から出てきた」
ジルヴァは、ラルクの視線の先をたどって、口元をゆがめた。
街道を大股に歩いてくるのは、黒い女。
この国の人間ではないことを示す漆黒の肌と、それを露出させる特徴的な衣装の彼女は、店の明りに照らされて行き交う人たちから浮き上がって見えた。
ラルクが彼女に気づいたときには、ナーナ=ニーニはジルヴァに気付いていたのだろう(なにしろ、ジルヴァも彼女以上に目立っている)。ジルヴァの視線を捉えて、ぐんぐん近づいてくる。
そして、ナーナ=ニーニは立ち止まると、目をまるくしているラルクを完全に無視して、ジルヴァを見下ろして言った。
「アノ人ハ?」
この場合の“あの人”とは、考えるまでもなくジルヴァのつれの男のことだ。
まるでジルヴァが男を隠しているとでも思っているかのように、強い口調で問う。
「知らないね。あんたが置いてきたんだろ」
「本当ニ?」
「嘘ついてどうすんだい」
ジルヴァはナーナ=ニーニを見上げて、睨みつける。
ナーナ=ニーニも、ジルヴァに怒気を含んだ視線を返すが、本当にジルヴァが何も知らないと判断したのだろう。視線を外して、先に歩きだそうとした。
「待ちな」
ジルヴァは、持っている杖をしゃらんと鳴らしてナーナ=ニーニを呼びとめる。
彼女は、表情は強張っているが、足を止めて振り返った。
「あんだけ騒がしといて。いったい何が原因だったんだい」
呆れた様子でジルヴァは問うた。
ナーナ=ニーニとジルヴァはシカラグァまで、いろいろ諍いはありながらも一緒に旅をしてきた間柄だ。
ナーナ=ニーニは直情的な性質と属してきた文化圏の影響からか、些細なことからジルヴァに嫉妬をしたり男に腹を立てたりしていたし、物品の破壊も少なくなかったが、さすがにここまで行動の理由のわからない状態はなかった。
ナーナ=ニーニの無事は確認ができたし、ナーナ=ニーニに弱気な様子がないところから男の無事も確実なのだろうが、蚊帳の外というのはあまりよい気分はしなかった。
あまりこのあたりの言語の語彙が多くないナーナ=ニーニはしばらく考えて言葉を探していたようだが、短い言葉を口にした。
「浮気」
「はぁ?」
あまりに簡潔すぎる返答に、ジルヴァが聞き返す。
ナーナ=ニーニは、眉間にしわを寄せて、考えると、さらに言葉を重ねる。
「金髪ノ女ガ…」
「金髪の女?」
「ン…」
どう伝えればよいのか、それともジルヴァにこれ以上伝えるべきか否かを悩んでいるのか、ナーナ=ニーニはさらに眉間のしわを深くする。
「モウイイ」
しかし、きっぱり諦めてしまったようで、それだけ言い捨てると、またくるりと踵を返す。
その後ろ姿は、ジルヴァとのこれ以上の会話をきっぱりと拒否していた。
「もういいって…、あんたはよくてもあたしはちっともわからないじゃないか」
声をかけるわけでもなく、ジルヴァは呟いた。
「うわぁ…、なんだか、すごく迫力のある人ですね…というか、ジルヴァさん、知り合いだったんですね」
ジルヴァとナーナ=ニーニのやり取りの間、見事に存在を無視されていたラルクが、ナーナ=ニーニの後ろ姿を見送って言う。
何がおもしろいのか、うっすら興奮しているようだ。
「まぁ、胸糞悪いことにその通りだよ。知り合いの知り合いってとこだね」
詳しい説明をする気はさらさらなく、ジルヴァはそれだけ答えた。
浮気と金髪の女という言葉だけを捉えれば、おそらくは男が自分以外の女といるところをナーナ=ニーニが目撃してぶちぎれた、というのが大まかな筋なのだろう。
ナーナ=ニーニの言い淀んでいる様子から考えると、もう少し面倒な事情があるのかもしれない。
そういえば、ラルクがブロンドの女性がどうとか言っていたように思う。
このあたりでは金髪の女は多くはないようだが、ジルヴァやナーナ=ニーニほど目立つものではないだろうし、特に関係はないだろうが、ジルヴァは少しひっかかりを覚えたのも事実だった。
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NPC:ナーナ=ニーニ
場所:シカラグァ連合王国・直轄領
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先ほどの空から降ってきた花びらは、自分たちだけがみたものではなかったらしい。
その証拠に、外を歩く人々は、浮足立った様子で先ほどの現象を話題にしていた。
「…まさか、シカラグァっていうのはさっきみたいなのがしょっちゅう降ってくるわけじゃないだろうね」
「そんなわけないですよ。僕も、何年もこの街に住んでますけど、あんなの初めてですし」
それにしてもきれいでしたねぇ、とラルクはまたへらっと笑う。
「言い眺めだったってのは否定しないけどね。あたしゃ、あんなのがしょっちゅうなのはごめんだよ」
ジルヴァはまだざわざわする両腕を擦る。
先ほど大気中に満ちていた魔法の力は今は霧散しているものの、不快感はまだ残っていた。
なぜ、自分が魔力に対してこのような反応を示すのか、実はジルヴァ自身も知らなかった。
まわりの人間がそういうものとして扱ってきたのでとくに疑問に思うこともなかったが、実は相当特殊な体質だと自覚したのはここ数年のことだ。
「あれ…あの人」
夕方に寄ったラルクの宿にジルヴァが強引についていく流れになっていたのだが、ラルクが不意に足を弛めた。
「なんだい?」
「あの人…さっき昼間の人じゃないですか。ほら、ジルヴァさんの宿から出てきた」
ジルヴァは、ラルクの視線の先をたどって、口元をゆがめた。
街道を大股に歩いてくるのは、黒い女。
この国の人間ではないことを示す漆黒の肌と、それを露出させる特徴的な衣装の彼女は、店の明りに照らされて行き交う人たちから浮き上がって見えた。
ラルクが彼女に気づいたときには、ナーナ=ニーニはジルヴァに気付いていたのだろう(なにしろ、ジルヴァも彼女以上に目立っている)。ジルヴァの視線を捉えて、ぐんぐん近づいてくる。
そして、ナーナ=ニーニは立ち止まると、目をまるくしているラルクを完全に無視して、ジルヴァを見下ろして言った。
「アノ人ハ?」
この場合の“あの人”とは、考えるまでもなくジルヴァのつれの男のことだ。
まるでジルヴァが男を隠しているとでも思っているかのように、強い口調で問う。
「知らないね。あんたが置いてきたんだろ」
「本当ニ?」
「嘘ついてどうすんだい」
ジルヴァはナーナ=ニーニを見上げて、睨みつける。
ナーナ=ニーニも、ジルヴァに怒気を含んだ視線を返すが、本当にジルヴァが何も知らないと判断したのだろう。視線を外して、先に歩きだそうとした。
「待ちな」
ジルヴァは、持っている杖をしゃらんと鳴らしてナーナ=ニーニを呼びとめる。
彼女は、表情は強張っているが、足を止めて振り返った。
「あんだけ騒がしといて。いったい何が原因だったんだい」
呆れた様子でジルヴァは問うた。
ナーナ=ニーニとジルヴァはシカラグァまで、いろいろ諍いはありながらも一緒に旅をしてきた間柄だ。
ナーナ=ニーニは直情的な性質と属してきた文化圏の影響からか、些細なことからジルヴァに嫉妬をしたり男に腹を立てたりしていたし、物品の破壊も少なくなかったが、さすがにここまで行動の理由のわからない状態はなかった。
ナーナ=ニーニの無事は確認ができたし、ナーナ=ニーニに弱気な様子がないところから男の無事も確実なのだろうが、蚊帳の外というのはあまりよい気分はしなかった。
あまりこのあたりの言語の語彙が多くないナーナ=ニーニはしばらく考えて言葉を探していたようだが、短い言葉を口にした。
「浮気」
「はぁ?」
あまりに簡潔すぎる返答に、ジルヴァが聞き返す。
ナーナ=ニーニは、眉間にしわを寄せて、考えると、さらに言葉を重ねる。
「金髪ノ女ガ…」
「金髪の女?」
「ン…」
どう伝えればよいのか、それともジルヴァにこれ以上伝えるべきか否かを悩んでいるのか、ナーナ=ニーニはさらに眉間のしわを深くする。
「モウイイ」
しかし、きっぱり諦めてしまったようで、それだけ言い捨てると、またくるりと踵を返す。
その後ろ姿は、ジルヴァとのこれ以上の会話をきっぱりと拒否していた。
「もういいって…、あんたはよくてもあたしはちっともわからないじゃないか」
声をかけるわけでもなく、ジルヴァは呟いた。
「うわぁ…、なんだか、すごく迫力のある人ですね…というか、ジルヴァさん、知り合いだったんですね」
ジルヴァとナーナ=ニーニのやり取りの間、見事に存在を無視されていたラルクが、ナーナ=ニーニの後ろ姿を見送って言う。
何がおもしろいのか、うっすら興奮しているようだ。
「まぁ、胸糞悪いことにその通りだよ。知り合いの知り合いってとこだね」
詳しい説明をする気はさらさらなく、ジルヴァはそれだけ答えた。
浮気と金髪の女という言葉だけを捉えれば、おそらくは男が自分以外の女といるところをナーナ=ニーニが目撃してぶちぎれた、というのが大まかな筋なのだろう。
ナーナ=ニーニの言い淀んでいる様子から考えると、もう少し面倒な事情があるのかもしれない。
そういえば、ラルクがブロンドの女性がどうとか言っていたように思う。
このあたりでは金髪の女は多くはないようだが、ジルヴァやナーナ=ニーニほど目立つものではないだろうし、特に関係はないだろうが、ジルヴァは少しひっかかりを覚えたのも事実だった。
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