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2025/03/10 06:35 |
14.君の瞳に踊るワルツ/マックス(フンヅワーラー)
PC:ジルヴァ マックス ラルク 
場所:シカラグァ連合王国・直轄領(ご飯屋前)
―――――――――――――――――――――――――――

 春の日差しに、思わず目を細めた。
 いや、実際はそんなものはない。単なる幻覚である。

 食事を済ませ、夜気の冷たい空気を覚悟しながら外に出た途端、甘い香りが鼻
を抜いた。
 香水とは一線を隔す、上品でみずみずしい花の香り。
 瞬時、頭に浮かんだ昼間の女性の踊るブロンドの髪が春の日差しを連想させた
のだろう。
 だから、この光景も最初は白昼夢だと、思った。
 マックスは、瞬きをしながら、頬に触れた柔らかなそれを1枚つまんだ。
 ごく淡い緋色が色づいている、白い花びらを見て、再びその光景に目をやる。
 夜空から雪のように宙を舞い落ちる無数の白。

「……ふわぁ」

 ラルクが感嘆の声を上げる。
 どうやら、自分だけではないようだとマックスは確認する。

 びゅう、と夜風が吹き、思わず目をつぶる。
 再び目を開けた時、花びらと甘い香りは全て消えていた。

「……なんだい、ありゃ」

 苦そうな声を搾り出すジルヴァ。

「夢じゃなさそうですね……」

 マックスの持っていた、残された1枚の花びらがそれが現実だったことを物語る。

「魔法……ってやつですか?」
「……ふん」

 ジルヴァが、より一層不機嫌そうに鼻を鳴らす。

「背筋がゾワゾワする。毛虫が体中を這い回ったみたいだ」

 うへぇとでも言いたそうに、しきりに乾いた手の甲をさする。

「え? え? え? で、でも綺麗でしたよ……」
「そういう問題じゃぁないんだ」

 そう言いながら、ジルヴァは歩き出した。
 追従しようと歩き出すラルク。

「あの」

 止まる2人の足。
 のっぺりとしたマックスの顔を注視する2人の目。
 気まずい。が、言わねばなるまい。
 少し遠慮がちに、2人が歩き出した方向と反対方向を指差す。

「……私は、こっちなので……」

 空気が止まった。
 確かに、不思議な出来事だった。
 だが、だからと言って、わざわざ帰る方向と反対方向にまでいって、一緒に行
動するというのは、いかがなものか。
 しばらく固まっていた3人だが、一番に口を開いたのはジルヴァだった。

「そうだね。いったんここで解散するかい」
「え? え? え? でも、だって……い、今……。 ね、ねぇ? ジルヴァさん……」
「えぇ、では」

 一礼し、背を向ける。

「マックスさん!」

 冷えた空気に響く声が、自分で思ったよりも大きかったことにびっくりしたの
か、続いた声は小さかった。

「あ、あの……帰っちゃうんですか? 本当に……」
「はい」

 「どうして?」と仔犬のような目で訴えかけてくる。 

「……私が、あちこち転々として旅をしているというのは話しましたよね?」
「え……? あ、はい」
「今は、とあるところにお世話になっていましてね。
 まぁ、今はウェイターみたいなことをして……住まわせていただいているんです
よ。今」

 ラルクはマックスの言葉の続きを待ち続けてる。忠実な犬のように。
 察してはくれないか。諦めを持ち、マックスは切り出した。

「つまりは……仕事があるんです。今から」

 何を言われたか一瞬わからないという表情。

「いや……好意で働かせていただいているので……あまり遅刻のようなことはできな
いんですよ」
「……え?」

 ワンテンポ遅れて理解してきたらしい。
 そのラルクの袖口をジルヴァがひっぱる。

「ほら、行くよ!」
「え、あ、は、ハイ。 すみ……あ、いえ、ハイ!」

 足をもつれさせながらも、ジルヴァの引っ張られ歩き始める。
 それを確認し、マックスも歩き出した。

「マックスさぁん!」

 振り返ると、ジルヴァに襟をひっぱられているラルクの姿があった。
 能天気な笑顔で、手を振っている。

「また」

 にへら、という表現がぴったりの笑い顔。
 その表情にどう対応したらいいのかわからず、結局、マックスは一礼してその
場を去った。




「あら、マックス。今日は遅いのね」

 そう声をかけた女性は、白い肌を露にしてあでやかな衣装に着替えている最中
だった。
 マックスがいるというのに、一切そのようなことを気にしていないようだ。

「ちょっといろいろありまして」
「そう」

 女性は特にその後何も聞かず、着替えていく。
 女性の着替えている服は、紫色のチャイナドレスだが、胸元が大きく開いてい
るデザインだ。 また、長いスリットから白い太ももが惜しげもなくさらされて
いる。
 マックスも淡々と着替えのため、服を脱いでいく。
 女性は、鏡に向かって大振りのイヤリングをつけて、角度をチェックして、満
足げな表情でうなずきながら、鏡越しに声をかけてきた。

「マックス、今日は私、調子いい気がするわ。
 極上のお客さんを紹介してちょうだい。
 ね。」

 最後の一言と共に、マックスのさらされた胸元に細い指が這い、赤くべったり
塗りたくられた唇をマックスの頬に押し付けた。

「ファーシーさん、困ります。
 こんなの付いてたら、仕事になりませんから」

「マックスって、結構いい体つきしてるのね」

 女性は、くすくす笑いながら、ひらひらした服の裾を泳がせながら部屋を出て
行った。
 頬に付いた赤い後を、おしぼりでぬぐう。
 残ってはいないか鏡でチェック確認し、マックスは浅く深呼吸をし、白いシャ
ツをの袖に腕を通す。
 白粉のにおいが付きまとうこの職場で、気持ちがリセットできる瞬間だ。

 女性が男性客とお酒を飲み、おしゃべりの相手をする。
 男性客と女性が意気投合すれば、上の階にて2人きりの濃密な時間を過ごす。
 マックスはその男性客を席まで案内したり、飲食物を運ぶ”ウェイターみたい
なこと”をしていた。
 今までも、そのような所で働くこともあったし、それよりももっと露骨な所で
働くこともあった。
 このような場所で、キャラクターをという特性は重宝されるらしい。
 稼ぎもそこそこいいということで、マックスはこの手の仕事をよくしていた。
 スタッフ部屋から出るなり、声をかけられた。
 チーフマネージャーのバークレーだ。

「マックス。来てもらって早々なんだが、あそこのテーブルをフォローしてくれ
ないか?
 さっきから女の子が困ってるんだ」

 たまにこんなトラブルを押し付けられることもある。
 特に嫌がることもなく、淡々とこなすので、自然と自分に振られることが多い。
 はぁ、といつもの返事をして、バークレーの指し示すテーブルを見る。
 客は相当、酔いつぶれているようだ。
 様子から見ると、一人でずーっと愚痴り、嘆き続けているようで、席について
いる女性も辟易している。
 マックスは、蝶ネクタイのゆがみを軽く正し、その席に向かった。

「失礼します、お客様」

 赤毛の壮年の男性が、マックスに向き直った。
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2010/02/03 02:39 | Comments(0) | TrackBack() | ○君の瞳

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