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2024/05/18 22:55 |
ヴィル&リタ-9 笑顔の裏側/リタ(夏琉)
PC:ヴィルフリード、リタルード
NPC:ハンナ、マリ(『甘味処』のおかみ)
場所:エイド(ヴァルカン地方)
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「まぁ、一言でいうと痴情のもつれなんだけどね。ちょっと話が大きいけど」

「うわぁ、タチ悪いなぁ」

 リタルードが素直な感想を言うと、ヴィルフリードが「おい」と片手を上げた。

「お前、もしかして全然話聞いてないのか?」

「うん、あんまり。やばそうって雰囲気だけしか知らない」

「それなのにここまで一緒に彼女と行動してきたと?」

「うん。ていうか僕、自分から聞いてないし」

 リタルードが淡々と受け答えると、ヴィルフリードは茶を啜り、それからしみじみ
ため息をついた。

「…わっかんねぇなぁ」

「そうよねー。この子嫌よねー。
 基本的に情が薄いくせに、礼に適った好意は非常識な場面でもちゃんと
 示すあたりが嫌よね」

「ハンナ、話ずれてるから」

 リタルードがにっこりと、冷え切った声で言う。

「ほら、これも一種の情報提供?」

「いらないから。ほんと無駄だから」

「3人の間で共通する話題で親睦を深めようと思ったのに」

「えーと、話。話続けてくれないか?」

 いくらか凄みを利かせた声で、ヴィルフリードが割って入った。
 年齢と冒険者という職業に裏付けられた重みに、さすがにリタルードとハンナは口
をつぐむ。
 気まずい沈黙が落ち、自然とハンナの話を待つ格好となる。二人にみつめられて、
ハンナは脚を組み直し、長い髪を掻き揚げる。

 コンコン。

「マリさん?」

 リタが声をかける。細めに外開きのドアが開き、女主人が顔を覗かせた。手には木
でできた器の載った盆を持っている。

「あの、お話の途中でどうかとも思ったんだけど。お茶請けをお出ししてなかったと
思って」

「あ、ありがとう」

 リタルードが駆け寄って、器を受け取る。

「お茶のおかわりが欲しくなったら、こっちに声をかけてね」

「うん。ごめんね、迷惑かけて」

「気にしないでー。そのへんはセーラちゃんの貸しにしとくからぁ」

 不穏なセリフにリタルードが返しを思いつく前に、マリはドアを静かに閉めてし
まった。リタルードの手元には、上に扁桃を乗せた薄い焼き菓子の入った器が残る。


「え、ええと。食べる?」

 器をテーブルの上に置く。
 それに目を落として、ハンナが低いトーンで言う。

「セーラって誰」

「それを説明しだすと本が一冊は書けるから、今はやめといたほうがいいよ」

「冗談よ。というか、冗談言ってる場合じゃないわよね。
 ごめんなさいね、おじさま。あの、マリさんって人?
 まるで見計らったようなタイミグよね。
 すごく勘がいいのね。それとも運がいいのかしら」

 ハンナは焼き菓子を一枚摘む。整えられた長い爪には、色は塗られていない。菓子
を目の高さに持ち上げて----つまりは誰とも目を合わさないようにして、呟いた。

「まるで姉さんみたい」

 その言葉は、すとんとテーブルの真ん中に落下したように、静かにしかし澄み切っ
て響く。
 ハンナは、膝の上で手を組んで、まっすぐにヴィルブリードを見つめた。

「おじさま、ちゃんと話します。
 私も何もどうしたらいいのかきちんとわかっていないから、話ながら整理できると
思いますし」

「ん、あぁ。そうしてくれりゃあ、ありがたいな」

 女性の、場の空気を身にまとうような演技がかった言動は不得手なのだろう。真っ
直ぐにハンナに見つめられてヴィルフリードが居心地わるそうに言った。



「私の姉は、言ってみればまぁ、占い師なの。
 この辺りじゃわりと有名で----まぁ、まっとうに生きていたら、名前なんか耳にも
しないような類の客層だけど」

「つまり、裏の世界の重役ばっかあいてにしてるってことか?」

「ええ。それほどたくさん仕事をしてるわけじゃないし、名を売ろうとしてるわけで
もないから、子どもの頃から知ってる人だけを相手にしてるって感じね。
 というか、占い師って言っても、適切なときに適切な予言を出せるタイプの人じゃ
ないから、商業用の占いができないのよ」

「よければ、そのお姉さんの名前を教えてくれないか? 
 一応、このあたりの事情はそれなりに知ってる。
 聞き覚えがあるかも知れねぇ」

「ええと…」

 ハンナが、何故かリタルードの方を伺い見る。
 ぼそぼそと飲み食いしていたリタルードは、俯いたままに言った。

「イレーヌ」

 占い師というには、ありふれた短い名前だ。

「んー…、聞き覚えねぇな」

「そのあたりは気をつけてるし気をつけてもらってるもの。
 ギルド関連とはほとんど関係なく生きてるしね、私たち」

「そういうもんなのか?」

「ええ、魔法使いとも守備範囲が違うから。私たち、女って付加価値がなかったらど
うにもならない生活してるもの。あ、お茶冷めちゃったわね。仕方ないか」

 生地には薄く砂糖の衣がかかっているが、アーモンドは塩味を強くあしらってある
この菓子は、口の中が酷く乾く。ハンナは口の中を湿らせて、話を続ける。

「でもまぁ。それなりに人脈ってものもあってね。
 何年も二人だけで生活してたんだけど、身柄を引き取るから、自分のためだけに役
に立ってくれって人が現れたの。
 今までそういう人はずっと断って来たんだけど…。
 私も姉さんももうそんなに若々しくもないしね。お誘いがあるうちに受けとこうっ
て話になって…。えと、リタ?」

 若くはない----といいながらも、その目元はまだ肌が張っているし、手だってそれ
ほど荒れていない。ハンナの姿を観察していたら、話を降られ、ついリタルードは彼
女にきつい眼差しを向ける。

「何?」

「姉さんが媒介に使ってたもの覚えてるわよね」

「媒介っていうか、あの人の場合、頭の中に入ってくるものを浄化してもらうためで
しょ。
 加工した水晶の玉、3つ使ってある髪飾りだよね」

「そうそう。3つのうち、2つは補助のための石で、要になる石は一つなんだけど…
…」

 そのとき、ちらりとハンナの表情が揺らいだようにリタルードには見えた。
 続く発言に合わせてどのようなポーズを取るべきか、戸惑いと苛立ちと不安が合い
混ぜになったろうな色の空気。

 それは一瞬のことで、ハンナは自分の腹に手の平を当てて、きゅっと口角を吊り上
げた。

「今、それが『ココ』にあるのよねぇ」

 するすると服の上から、ハンナの手が平らな自分の腹部を撫でる。
 その言葉が染み渡るまでに、約数秒。

「…………………………なんで?」

 先ほどとは違う意味で凍りついた空気に耐え切れず、リタルードが真っ当な問いを
発する。

「だから、痴情の縺れだって」

「何? 何がどうどれくらい縺れたの?」

 核心をまった口にしないハンナに、リタルードが立ち上がって言う。
 その姿勢は咽元を掴む直前のようにも見える。

「言えない」

 口元は笑っていても、眼に今までに無かった本気を宿らせてハンナが返した。
 その眼光に、リタルードはたじろぐ。が、同じように強い眼を返す。

「それは、『言わない』じゃなくて、『言えない』なのか?」

 ヴィルフリードの問いで、二人の絡みが緩んだ。

「ええ」

 ハンナが首肯する。

「『女として』ではなく、ある程度強い力を持った存在----姉さんのことですけど、
に長年仕えていた人間として、言えないってことです」

「あー…、じゃあとりあえず話続けてくれや。とりあえず最後まで、な。
 痴話喧嘩されると話が終わらん」

「痴話喧嘩って」

「ハイハイハイハイ、続き。続きね」

 またもや食いつきそうになったリタルードを、ハンナが適当にあしらう。
 リタルードはむぅと黙る。が、内心では気持ちが少し軽くなる。

 3人という人数はこういうときにありがたいのだ。

 一対一より、きちんと普段自分が生きている世界に属することができる。毎日毎
日、泣いても笑っても、寝たり食べたり排泄したりする世界。

 感覚の一致しすぎる人間が二人でいると、その世界から遊離したファンタジーに没
入してしまう。それは文学的価値はあるのかもしれないが、ネガティブな側面しか持
たず閉じた性質のものである場合、危険だし不毛だ。

「それでまぁ、そういうことがあったから、監禁されてたんだけどさぁ。
 こういうのって、私もびっくりしたんだけど、出てこないのね。
 もしかして体内に入った時点で別のものに変化してるのかしら」

「自覚できる体調の変化はないの?」

「今のところないわ。で、隙を見て逃げ出してきてここにいるわけよ」

 『隙を見て』というが、こういうことに明らかに不慣れに見えるハンナがどこをど
うやって隙をついたのか。その疑問が二人の顔にありありと浮かんだのだろう。ハン
ナは付け加える。

「まぁ、姉さんが手伝ってくれたんだけどね。
 追っ手が明らかにぬるいのも、手回してくれてるんでしょう。
 私なんか姉さんのおまけだから、そんなに本気だして探してないのでしょうけど
ね」

 そのような騒動があったというのに、脱走を手助けするとは、姉とはどのような関
係なのか。また、重要な魔道具と思われる水晶がそんな状態なのに、姉と離れていて
いいのか。

 細かいということも出来ない本筋に関わる疑問は浮かぶが、とりあえずその種の問
いは、ハンナの話が終わるまで封印する。

「おじさまに、依頼します。
 ヴァルカン地方、いえ、エイドの街を離れるまででいいです。護衛をお願いします
わ。ある程度離れてしまえばもう追われることはないでしょうし、いくら相手が本気
でなさそうと言っても、私一人では逃げ切れそうにありません。
 私が連れ戻されるのは、姉さんも本意ではないでしょうし、戻るわけにはいかない
んです」

 一言一言、はっきりと発音するハンナの顔からは、先ほどまでの塗り固められたよ
うな笑みは消え、真摯にヴィルフリードを見つめていた。

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2007/02/11 23:49 | Comments(0) | TrackBack() | ○ヴィル&リタ

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