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2024/05/19 01:29 |
ヴィル&リタ-8 報酬はあなたの笑顔で/ヴィルフリード(フンヅワーラー)
PC:ヴィルフリード、リタルード
NPC:ハンナ、マリ(『甘味処』のおかみ)
場所:エイド(ヴァルカン地方)
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「……彼女か?」

 物置を空けた時の、ヴィルの第一声にリタは、珍しく睨んできた。ちょっとし
た冗談なのだが、それすらも許されないらしい。
 逆にちょいと年をくった彼女の方は、ニッコリ笑っていた。嬉しい、とか楽し
い、とかそのような類の笑みではなく、「リタが嫌がっているのを面白がってい
る」といったような、子供が時折見せるような笑い方に見えた。

「一応、なんか来てた人は、お引取りいただいたけど」

 そう言って、リタに手を差し伸べようとすると、そのカノジョの方がその手を
握ってきた。アンタじゃないんだが、と勿論そんな子供じみたことは言うわけも
なく、しょうがないので、引っ張って起き上がらせる。

「ありがとうございます。ハンナといいます。
 あなたが、割引で仕事を引き受けてくださる冒険者ギルドの方?」

 自力で立ち上がり、お尻をパンパンとはたいているリタに、ヴィルは困惑の表
情で問う。

「誰?」

「ハンナ。カノジョじゃないよ。ってか、ヴィルさん、”カノジョ”の発音がおっ
さん臭いよ」

 さっきの発言が未だに気に触っているらしい。ヴィルの嫌いなキーワードをト
ゲを含んで使ってくるくらいに。……機嫌が悪いようだ。

「悪かったって。な? おっさんの軽いジョークだよ。
 ってか、そうじゃなくて。ってか名前は今本人から聞いたし」

 一呼吸して、それでリタは、自分の中の何かを入れ替えたらしい。

「……で。どこまで聞いてるの?」

「多分、全然」

「マリさん、少し、迷惑かけるかもしれないけど……もう迷惑かけちゃってるけ
ど。中、少しいい?」

 マリは気持ちのよい承諾をすると、リタを案内する。それについていくリタの
背中に、ヴィルはもうひとつ、気にかかることを聞いた。

「っつーか。割引ってなんの話だ」



「つまりは、と。
 追いかけられている、と。んで、追いかけられてるのが、こちらの」

 顔を向けると、近距離だというのにハンナは笑顔で手を小さく振ってくれた。

「えーと。ハンナさん」

 そこで、お茶を一口飲んで、あらためて、状況の整理を続ける。

「で。こちらのハンナさんは、引き受けないと仕事内容を話してくれない、と。
しかも、割引で引き受けろ、と」

 笑顔で、こくりとうなずくハンナ。
 ごほん、と咳払いをして、精神の安定をはかる。

「ちょいと。リタ君。こっちに来ようか」

 さほど離れていない部屋の片隅に、リタをちょいちょいと手招きして呼び寄せ
る。リタは「はーい」と言いながら、ぱたぱたと足音を立てながら来てくれた。

「えーと。仕事の内容を知れない状態で値段の相場の検討もつかない状態で、さ
らに割引を要求するって、どういう神経してるのカナ? あの淑女は? いくら
リタ君の紹介だとはいえ、限度があるってこと、分かるよね?」

「えー? 冒険者って、なんかいかにも!って感じの男に、いかにも!って感じ
で駆け込んできた女性を、これまたいかにも!って感じでワケも事情も聞かず助
けて、最後にはいかにも!って感じで、『報酬はあなたの笑顔ですよ……』とか言
う職業じゃないの?」

「俺はそんな同業者、今までこのかた一人も見たことが無いんだが」

「ロマンが無い職業なのねー」

 狭い部屋で、さして声のトーンを落としもしていなかったので――部屋の隅に呼
んだのは単なるポーズだ――、まる聞こえだった会話に、ハンナが加わった。

「ロマンで食ってけるか! ってことで、断る!」

 途端に。ハンナの顔が少しだけ、歪んだ。余裕があると強がっている人間の、
皮がぺらりとはがれ、少しだけ覗かれた、本当に困った顔。
 すぐにそのはがれた皮は張りなおされ、「あら、そ」とハンナは笑顔を作った。
 ――見なければよかった。ヴィルは後悔した。
 あぁ、女のこういう部分が、本当に卑怯だ。だが、たまらなくそういう部分が
かわいいとさえ思う自分もいる。

「……冒険者ギルドに割引制度は、基本的に無い。ただ、割安で済ませようという
のならば、ギルドを介さずに冒険者に直接頼むことだ」

 ハンナは、何を言われているのか、わからない顔をしている。
 たとえ、今さっきのが演技だったとしても、その演技力に免じてやる。チク
ショウ。俺、女に騙されやすいからなぁ。
 心の中でそう愚痴りながら、言葉を続けた。

「……あんたの頼みごとの内容を聞かない限り、俺で成功するかというのもわから
ないし、他の同業者を紹介することもできない。
 金だけならば、必要ないと割り切ることもできるが、縁がからむ仕事には、
『信用』っつーもんが必要だ。他のヤツに紹介するとしても、そいつは俺を『信
用』してくれるから話を聞いてくれる。だから、俺自身が信用できないものなん
かを回すことなんか絶対にしちゃいけない。それに、そいつがあるからこそ、
こっちも覚悟っつーもんができる。
 俺たちは、信用も覚悟もできないことに、命は賭けれない」

 あぁ。言ってしまうのか、俺? 絶対めんどくさいことになるぞ? 心の中
で、ご親切にも冷静な部分の自分が忠告をしてくる。あぁ、チクショウ、わかっ
ている。わかっているとも。
 けどなぁ、ここまできたら、かっこつけさせてくれよ。

「このラインだけは、譲れない。
 あとは、あんた次第だ。ハンナさん」

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2007/02/11 23:48 | Comments(0) | TrackBack() | ○ヴィル&リタ

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