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2024/05/16 21:57 |
ファランクス・ナイト・ショウ  4/ヒルデ(魅流)
PC:ヒルデ、クオド
場所:ガルドゼンド -イェッセン伯領ヒュッテ砦
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「……ふぅ、これでもう三日も棒に振ったか。いっそ開戦してくれればやりようもあるの
だがな」

 姿を隠し易い木立の中で、ヒルデは空を見上げて溜息をついた。雲が少ない空は少し薄
い青を湛え、少し寒々しい印象を与える。もう少しすれば本格的な寒さが訪れるであろう。
――そんな中でテントもなしに野宿をする気にはどうしてもなれない。


 ガルドゼンド国イェッセン伯領ヒュッテ砦。両国の首都に挟まれる位置にあるこの砦は、
両国が対立状態にある現状ではまさに最前線の中の最前線。少しずつではあるが人員は増
員され、魔術師も何名か派遣されているという話もある。――つまりは、いつ開戦しても
おかしくないという事。

 それが、ヒルデが街で仕入れてきたこの砦に関する噂だ。加えて、"英雄"アルスラーン
もまたこの地にいるという。先の戦いで白の傭兵と並んで敵を薙ぎ倒したと名高い、いわ
ばガルドゼンド国民にとって希望の星とも言うべき存在だ。
 その逸話は枚挙に暇がなく、例えば独りで千にも及ぶ敵兵を蹴散らしただとか、あるい
は魔術師が放つ火球の術を片っ端から跳ね返し味方を護っただとか、彼の者に一睨みされ
ただけで敵兵は恐慌状態に陥りまともに戦えなくなるだとか。
 中にはとても人間業とは思えないようなものも含まれている為全てが真実とも言えない
だろうが、火のない所に煙は立たぬという言葉にもあるとおり、それなりの人物なのだろ
う。

 ヒルデの目的はその"英雄"アルスラーンにある。もし何者の加護もなくそのような事を
成し遂げたのだとすれば、それは主の宮殿に招くに相応しい器と言える。とりあえずは、
誰の息も掛かっていないかどうかを確かめる必要があった。
 それを確かめるのならば本人に聞くのが一番手っ取り早い。上手く行けばその場で契約
を結ぶ事もできるだろう。だが、イムヌスの影響力がそこそこにあるこの地で戦乙女であ
る自分が砦に乗り込んだ所で門前払いを食うのは目に見えている。
 結局、こうして砦の前で外に出てくるのを待ち構えるしかないのだ。

「やれやれ……とはいえ他に有効な手もないしな」

 マントで作った簡易テントから少し離れ、砦の様子を観察する。――とはいえ、取り立
てて何か変化があるわけではない。

「ん?」

 何か物音が聞こえた気がして振り返ると、砦へと歩く一団の姿が見えた。兵隊らしき者
が六名、軍馬が一頭に荷馬が数頭。一団の先頭を歩く青年は片手で馬の手綱を取り、もう
片方の手でやけに鍔が広いバスタードソードを抱えている。
 おそらくは封印用であろうリボンが装飾の目的でつけられているようにも見え、ヒルデ
は思わず苦笑した。まるでお気に入りの人形を抱えている子供のような――それが彼の横
を歩く従者とほぼ同じ感想である事には当然気づきもしなかったが。

「――will o' wisp、elven cloak」

 ヒルデが姿隠しの呪文を唱えると、彼女と彼女の馬が不可視のカーテンで包まれるよう
に姿を消していく。この術は光を歪める事によって姿を晦ます、わりと簡単な部類に入る
ものだ。物音はまったく隠せないし、よく見ると歪んでいるのが分かるので効果の方も高
いとは言えないが、消耗も少なくこういう場合には重宝する。

 しばらく眺め、やがてヒルデは興味を失い視線を外そうとする。軍装の馬に乗る人影は
なく、おそらくはなんらかの事情で馬だけを補給するのだろうと思った。求めているのは
英雄のみ、普通の兵隊には用がない。――だが、何か違和感を感じる。

「!?」

 違和感の正体に気づいた時ヒルデは驚愕した。一団の先頭を歩く青年が、こちらを見て
いる。妖精の外套に包まれているはずの自分を。
 驚いた拍子に青年と目が合ってしまった。笑みを浮かべてブンブンと手を振ってみせる
青年。この辺りに他に人影はなく、間違いなく自分に対して手を振っている。――それは、
姿隠しの術が効果を成していないという事。

「誰に手を振ってるんですか?」

「え?あそこに女の人が」

「……オレには見えませんけど」


 聞こえてきた会話から先頭の青年以外にはちゃんと術の効果が出ている事は分かった。
しかし、逆に何故先頭の青年だけには効果が出ていないのかが分からない。精神に働きか
け、こちらを"見えない"と錯覚させる類の術なら抵抗されれば見えてしまうが、光の精霊
の術は単純にこちらが風景に溶け込んでいるだけだ。抵抗も何もあったものではない。

「何か特殊な能力を有しているのか……?」

 結局そのまま砦へと入っていく一団を見送ってヒルデは呟いた。仮にそうだとしても恐
らく本人はそれを自覚していないだろう。――もしかしたら将来英雄となりうる人物かも
知れない。一応、顔は覚えておく事にする。

 それ以降はまたこれまでの三日間と同じく何があるというわけでもなく、ただただ時間
だけが過ぎていった。

 そしてその二日後、痺れを切らしたヒルデはついに単身ヒュッテ砦へ潜入を試みる事を
決意した。

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2007/02/12 16:52 | Comments(0) | TrackBack() | ○ファランクスナイトショウ

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