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2024/05/21 12:25 |
ナナフシ 2; Cruel dandy/オルレアン(Caku)
キャスト:アルト、オルレアン
NPC:変な人とか薄汚れたおじさんとか
場所:正エディウス国内
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裏返りかけたその声は通りに反響した。
そして、伸ばしかけた手は黒いエルフの手を掴んだ。後ろから。

「お嬢さん、この辺は物騒なのよって目の前の屑に聞かなかった?」

アルトが振り向いて、硬直。
振り向かなくても、目の前の屑とまで呼ばれた男も、硬直していた。

アルトの手を優しく、しかし有無を言わせぬ様に掴んでいたのは見事な縦巻の
………見事なオカマ軍人だった。




「…?あら、ごめんなさい。あなた、もしかして坊やのほうね。
まあ、それはいいわ。でもエルフが一人で出歩いてると、エルフの耳を切り取
られるわよ。エルフの耳は貴方達の象徴でもあり、変態マニア向けなんだか
ら、ね?」

さすがオカマ。だてに観察眼は男より女に近い。
どこで瞬間識別したのか非常に謎だったが、オカマは流暢なエディウス訛りの
ままでアルトを一瞥。好みは好みだが、若すぎる。とどうでもいいことを考え
ていた。

「そして、そこの屑。人の悪口は掃き溜めの泥の中で、国の悪口は家畜の尻の
穴の中ででもおっしゃいな。国家侮辱罪で舌を切り取るわよ」

一瞥して、氷河の微笑みで薄汚い男を見た。
男は愛想笑いを浮かべてじりじりと下がり、やがて建物の影か露店の影に消え
ていった。アルトはその様子を見て、あの男の言うとおりにしていたほうがよ
かったのではなかろうかと、淡い後悔を思った。


いつの間にか複数の軍人が周囲に居た。
“魔女の森色”と呼ばれる暗緑色の外套に身を収めた男性がこのオカマを含め
て4人。
と、一番屈強な男性がこちらへ近寄ってきた。

「いないわ、逃げられた」

「ギュスターヴ、ねぇこの子可愛いわよ?あなた年は幾つ?エルフだからこれ
でも私らより年上なのよ。可愛いわねぇ」

「エルフっていいわねー。歳とってもお肌が綺麗で」

アルトは真面目に絶望した。
一番屈強な男はどうやらギュスターヴというらしいが、どうも目の前のオカマ
と同類らしい。まず語尾が異常に女っぽいのだが、外見と著しい差がある。
その前にギュスターヴさんは黒いサングラスに黒い肌に筋肉質でオカマという
設定はそれ長生き長者番付のエルフでさえ初見えであった。

あまりの現実の過酷さに、アルトは何かを言おうとして、ここで何かを言った
らオカマらの餌食になる可能性を考慮して、口をつぐんだ。
代わりに、とりあえず最優先事項を片付けようと、別の話題を提示してみる。

「…離して、下さい」

「離して欲しい?」

「そう言ってますけど」

「じゃあ離れるまえに一つ、あなた…この辺で変な人とか見なかった?」

小首を傾げながら、本人は優しく穏やかに問いかけているつもりだろう。本人
は。
アルトは『今すぐ目の前で手を掴んでる貴方が割とそうっぽいです』と言いか
けてかろうじて自制した。森の妖精エルフは自分より幻想世界の住人と向き合
ってなお理性をとどめている。

「変な人ってだけじゃわかりません」

「そう、そうねぇ。この国にはもっさもさ居るものね。
入国時に犯罪者リストのポスターを見たでしょう?その内に「無慈悲紳士“ク
ルーエルダンディ”」て男の顔があったと思うんだけど、覚えてない?
“お姐さん”達ね、その男の人をちょっと捕まえて手足をもぎらなきゃならな
いんだけど……」

“お姐さん”を強調しつつ、彼はポスターを胸ポケットから取り出した。

それは絵に紳士として書いたような立派な髭の老人の顔だった。
こんな紙切れに乗るような人物に見えず、どちらかというと音楽のコンサート
や執事としてのほうがよほど容貌に適している。

「この人ね、頭の可笑しーい人なのよ。
軍に歯向かう馬鹿な豚以下の存在だから、見かけたら軍に連絡してね。ああ、
なんなら私の『個人的な』連絡場所でも…」

「いえ結構です」

即答。一瞬のためらいさえない、鮮やかで冷徹な返事。

「あら残念」

やや哀愁を帯びた口調で、とりあえず手を離す。
アルトはようやく開放された手をさすり、雑菌がついてないか、人体エルフそ
の他知性生命体に害悪なものが感染してないか即座に調べる。
と、オカマ系とはまた別の邪悪な気配に、第六感が「逃げて!ここから逃げて
ー!!」と叫んだ。実は前々から叫んでいたかもしれないが。

「オルレアン!」

黒い軍人、ギュスターヴの腰についた赤い剣が一閃を立つ。甲高い破壊音。
氷系の魔法らしき氷槍がオカマとアルトの前で粉々に砕ける。目の前にオカマ
との会話前とは見違えた鍛え抜かれた上半身。てか何でいつの間に脱いでるん
だ?

「あぁっ……ギュスターヴ素敵よ!まるでお姫様を救う王子様のようね!!」

「うふふ、昔の貴方ほどではないけどね★あぁ今でも目に鮮やかだわ、今のオ
ルレアンも素敵だったけど、昔の貴方は負けないぐらいにベスト騎士だった
わ」

「脱ぐ必要性は?」

がくりを膝を折って天を仰ぎながら、立ちくらみしたかのように崩れ落ちて目
の前の男に惚れ惚れする縦巻オカマを前に、上半身の筋肉美が美しいギュスタ
ーヴが雄雄しく
答えた。アルトは冷静に直視しないよう顔を横ずらししながら本音を吐いてし
まった。

「それよりも、奴よ!オルレアンさあ主に私の第七頚椎椎棘突起から僧坊筋、
肩甲棘から小円筋、大円筋より大菱形筋を続いて胸椎棘突起、そして広背筋・
胸腰筋膜などの、平たく言えば私の背後の筋肉に隠れて!」

「駄目!私そんな貴方の筋肉の全名称がついたその背中、直視できないわ!
まるで私を誘うかのようにその雄雄しくて豊かな鍛えられた筋の数々!!」

「平たく言った方が聞いてても読んでても分かりやすいですね」

そろそろアルトにも、この異次元幻想的世界が耐えれきなくなってきた。
エルフにさえ耐え切れぬ幻想世界、精霊界、そして必要ならば霊界や魔界にま
で意思疎通を可能にさえさせるエルフでも、この世界には脳が、魂が拒絶を示
す。



アルトがもし、この3秒先の未来を直視出来たなら。彼は即座にこの場所から
離脱していただろうに。どこかの異常眼保持者なら、もしかしたらわかったか
もしれない。
露店の柱にいつの間にやら、背筋をぴんと伸ばして佇む老紳士に。
そして、その紳士が似顔絵にまったく瓜二つで…しかも、シルクハットの上に
首を振ってる謎のいやし系人形。だけど毛が生えている。

オルレアン、ギュスターヴ、アルトの真下に魔法円が浮き出てきた。
アルトの形相が一瞬で人生最大の間違いをしてしまったという顔になる。その
魔法円は昔、流し読みした本の内容を思い起こさせた。

空間魔法。主に相手を異次元に密閉閉鎖するものだ。
下手すれば時間間隔の違う場所に飛ばされて、一分しかいないのに百年以上戻
ってきたら立っていた、なんていうのは有名なオチ。

しかし、現実は無残にも黒いエルフに微笑まなかった。
半径一メートル内にいたアルト、オルレアン、ギュスターヴは魔方陣の閃光に
のみこまれてしまった。






「恐いわギュスターヴ!訳のわからない異空間で三人っきりだなんて!」

「安心してオルレアン!三人いれば女は姦しいわよ!」

「女性は誰もいらっしゃいませんけれど」

しかも姦しいって何かの役に立つのだろうか?果てしなく疑問。
迷路のような黒い町並みに放り出された男三人はそれぞれに困惑と勇気と意見
を述べた。
確実に建築の技術と製法を無視した町並みには空はなく、空の変わりにごちゃ
ごちゃとした屋根やら天蓋やらがくっついて群れをなしている。

「やれやれ、『指導者』が一人しか釣れなかったとは我輩も落ちぶれたもの
よ」

と頭上から響いてきたのは年月と同時に歴戦を重ねてきた男の声。


オルレアンを右手で抱え、アルトを守るように立つギュスターヴ。傍目はカッ
コイイ。
アルトは全ての現象を拒絶し憎悪するような表情だったが。

「誰だ貴様は!」

「エディウスも落ちた。先君の時代はあれほどまでに輝かしい帝国だったの
に…。
見るがいい、国は割れ、民は腐敗し、軍は誇りを霞ませる。ああ嘆かわしい」

シルクハットが突然開いて、鳩時計が飛び出した。
ポコーポコーと、抜けた音を立てて鳩が鳴いている。ピンク色の鳩だった。

「我輩こそは先君の副将にて稀なる宰相ビレッジウェンストール伯爵であ
る!!」

「誰なんですかあれ」

「あれねぇ、先王のお気に入りのマッドサイエンティスト。
まだエディウスが黄金時代だった時に国税を湯水のように使って馬鹿げた機械
やら魔法を作ってたのよ。とにかく奇人でそこが面白くて先王に気に入れてた
んだけど、先王が死んで国が割れてからどこでも厄介払い」

アルトの呆然の問いに、オルレアンが興味なさそうに答えた。続くギュスター
ヴの説明。

「昔エディウスを一時期牛耳った魔女がいてね、魔女と闘ってぼこぼこに負け

上に牢獄に入れたっていう負け犬よね。
しかもその魔女は死んだっていうのに、その魔女の事件の後遺症に苦しみ嘆い
ている指導者達に制裁とかいいつつ、軍にちょこざいなテロを繰り返す阿呆
よ。
ああ可愛そうなオルレアン。安心して、世界中が例え敵となっても私は貴方の
永遠のその美貌を守る顔面筋となって貴方を愛するわ!」

「嫌よ!一緒に加齢という美の怨敵に闘ってくれるって夕日の海原で誓ったじ
ゃない!!」

「エディウスに海ってありましたっけ?」

アルトの冷静な突っ込みもどこへやら。
完全に独自世界となった二人を一瞥(主に侮蔑をこめて)してアルトは冷静に
現状を考える。

自分は関係ないのだから、この二人に組する理由は生理的・常識的・正義的に
もまったくない。むしろちょっと危なさそうだけど、口調とか性質だったら向
こうの“無慈悲紳士”のほうがよっぽとマトモに見える。頭の癒し系人形がち
ょっと可愛いし。
この際、この二人を切り捨てるか…!?とアルトがわずかな希望を胸にその紳士
を見る…と。

またどこから出したのか、丸い円形の円盤がついた四角い黒の物体。
またそこから音楽が流れている。風の魔法で空気振動を操っているようだ。
マントを翻し、シルクハットを深めに被り、決めポーズ。

「ふはははははははははっ、ついに我輩の聖なる傀儡人形「けだまりの民」を
使い、正統エディウスを食い物にする魔女の生き残りどもを成敗してくれる
わ!!」

「私の上半身の筋肉全てをかけてもオルレアンとエルフの娘は守り抜く!
男二人と女一人で(どうやらギュスターヴはアルトを女性と思っているよう
だ)嬲るとかいて、目にもの見せてやるわ爺っ!!」







エディウス人なんて嫌だ。アルトはそう思った。

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2007/02/11 23:30 | Comments(0) | TrackBack() | ○ナナフシ

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