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2024/05/21 11:37 |
ナナフシ  3:Do sollst nich toten!/アルト(小林悠輝)
キャスト:アルト オルレアン
場所:正エディウス国内?
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「ふははははははは!」

「うふふふふふふふふふふふふっ」

 なんだか不気味な笑い声が唱和している。変なポーズの紳士とやる気満々の
ギュスターヴが向きあって、互いを威圧しあっているんだか何だかよくわから
ないが、とりあえず笑っている。

 一触即発。別の意味で危険で、かつ、とてつもなくロクでもないことが起こ
りそうだ。ロクでもなくないことが起こらない可能性を何一つとして見出せな
くなって、アルトはとりあえず現実逃避に走ることに決めた。

 現実逃避、現実逃避、現実逃避……
 口の中でぶつぶつ言いながら目を瞑ってみるものの、逃れる先が見当たらな
い。子供時代を思い出してみても特別楽しかったわけでも辛かったわけでもな
いし、それは今に至るまで常にそうだった。惰性だけで生きてきたし、たぶん
これからもそうだろう。それでもまったく問題ないと思っていた。

 が、現実から目を逸らしたとき、思い出して没頭するような過去の一つ二つ
は作っておけばよかったと、アルトは初めて後悔して溜息をついた。自己反省
も現実逃避か。まぁ結果オーライ。

 と、自覚してしまったせいで音が戻る。
 いつの間にか笑い声は消えていた。代わりに殴打音だの太い罵声だのが響い
ている。戦いは殴り合いらしい。実に男らしくて潔い。光って唸る筋肉の名称
が絶叫されるのを聞いたが、もうマニアックすぎて何が何だかわからない。人
間の体の構造に興味ないし。

 白いエルフはどうだか知らないが、黒エルフは筋肉や骨や筋の一つ一つにわ
ざわざ名前をつけたりしない。人体に対する知識は、どこをどう破壊すれば効
果的に苦痛を与えて殺せるかに関することだけだ。他は、まぁ、日常会話に困
らない程度で十分。

「がんばってギュスターヴ! あなたの拳でその変態の脾臓を風船みたいに破
裂させちゃって!」

「エグっ!?」

 思わず目を開けてしまう。後悔したが遅かった。ばっちり見えたのは、漢同
士の熱い殴り合いだった。いつの間にか自称紳士も脱いでいる。鍛え抜かれた
肉体は、研究職とは思えない。いや、変なクスリでも開発していたのかも。
 エディウスの流行りはオカマと半裸? 嫌過ぎる。

 キャーキャー騒ぐオルレアンを横目に見ると、彼は完全な観戦モードで手を
振っていた。動くたびに、金髪巻毛がキラキラと輝きながら揺れる。それが妙
に現実離れして見えて(何一つとして現実らしい事柄は存在しないが)、アル
トは眩暈を覚えた。

 今なら、気絶しようと思えばできる気がする。
 最も簡単な現実逃避だ。この後の運命も一緒に手放すことになるが。
 いや、さすがにそれはマズすぎる。頑張って意識を保とう。いつまで?


「BGMチェーンジ!!」

 変態紳士が叫ぶと、四角い箱が垂れ流していた音が変化した。
 激しく、テンポ速く。今まで聞いた事がないほど人工的な音の旋律が鳴り響
いて、アルトは反射的に耳を塞いだ。本人達の気分は盛り上がるかも知れない
が迷惑だ。巻き添えにされた時点でも十分に迷惑しているというのに、まだ足
りないのだろうか。
 眼中にない、というのが本当のところだろうが。

「…………」

 少し、考える。
 目を凝らすと黒い箱の周りで踊っている風の妖精が見えた。
 一縷の望みをかけてエルフ語で囁く。

「風のお嬢さん、こんな野蛮な音楽は、美しい貴女には似合いませんよ」

“あら、これはこれで楽しいわよ?”

 撃沈。誰か世界を滅ぼしてくれないか。
 いや駄目だ。ここは異空間だから、普通に普通の世界が破滅したくらいでは
どうにもならない。一か八か本気で術者を殺してみるか? 多分、目の前の変
態に仲間はいないだろう。だって変態だから。

 アルトは本気で殺害方法を考えてみた。大丈夫、普通の人間なら素手でも殺
れる。打撃技など花拳繍腿、サブミッションこそ王者の技よ。でもマッチョに
触るのは嫌だし相手は普通の人間じゃないし。しかたない、見守るか。
 どうして武器を置いてきてしまったんだろう。剣帯が壊れたからだ。

 待て仲間いるかも知れない。類は友を呼ぶという言葉を思い出した。
 それに、術者を殺して戻れなくなったら、そもそもどうしようもないし。
 うん、やっぱり見守ろう。悪夢を眺めるのとおなじ、生暖かい目で。

「キエエエエエエエエエ――ッ!!!」

 奇声に驚いて乱闘を見ると、変態紳士がけだまりの民を振りかぶってギュス
ターヴに叩きつけるところだった。打撃武器だったのかアレ、と、アルトは空
回りする頭で感心した。

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2007/02/11 23:31 | Comments(0) | TrackBack() | ○ナナフシ

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