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2024/05/21 10:26 |
ナナフシ  5:Man wolle keinen Unsinn schwatzen!/アルト(小林悠輝)
キャスト:アルト オルレアン
場所:正エディウス国内?
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 ――さて、どうしたものか。

 二人で速やかに殴り倒した(いや、ただの殴打よりも悪質な方法で倒した)半裸の自
称紳士が目の前に転がっている。なんだかとても芸術的に荒縄が絡みついているのは、
もちろんオルレアンの所業だ。

 まったく、人間はどうしてこう……まぁ、いい。そんなことを今更気にしたって遅い。
 変人ばかりだったじゃないか、今まで出会ったのだって。

 うっかり相手に白目を剥かせたのは失敗だった。
 意識を残しておけば今すぐにでも拷問……もとい人道的な尋問で、とりあえずここか
ら脱出する方法でも聞き出せたのに。聞きたいことはいくらでもある。

 たとえばここから脱出する方法とか、他にもここから脱出する方法とか。

「ギュスターヴ、起きて、起きて!」

 背後でそんな声と共にあまり聞きたくない類の音が聞こえてくるのを意識から締め出
しながら、アルトは周囲を見渡した。

 黒い町並みは凍りついたように一切の変化を見せない。
 試しに近くの家の扉の把手に手をかけてみたが、動かすことはできなかった。
 どうやらこの世界は、それほど細やかに作りこまれているわけではないらしい。

「……」

 黒い景色は迷路のように入り組んでいるように見える。
 先ほどまでいた通りと雰囲気は似ているが、似ているという以上の類似点はないらし
い。枝分かれした道、奇妙に歪んだ建物。
 改めてじっと眺めていると空間の感覚がイカれそうだ。

 さて、どうしよう。行ってみるか?

 軍人二人と共に行動するのは嫌だが一人でさ迷うのもあまり気乗りしない。
 あの二人は……何か、これからも起こるかも知れない面倒ごとを押し付けるには便利
な気がする。あの二人自体が面倒ごとであるような気もする。


「オルレアン! よかった、無事だったのね!」

「目を醒ましたのねギュスターヴ! あなたの筋肉が――」

 とりあえずまた聞こえた会話を耳から締め出す。
 下手に聴力が高いのも考えものだ。なんで二言目には筋肉なんだ。

「....Falli」

 故郷の言葉で短い悪態をついてから、アルトは感情を人当たりのいい笑顔で隠して振
り返ったが、無駄な努力だという予感がしてならなかった。


      ☆ ・ ☆ ・ ☆ ・ ☆


「一体どこまで続くのかしらねぇ」

 呆れたように言うオルレアン。
 アルトは、誰がその問いに答えられるだろうと思った。

 唯一正しい解答を持っているかも知れない変態紳士は相変わらず縛り上げられたまま
沈黙している。その縄の端を掴んだギュスターヴが容赦なく引きずって歩いているから
近いうちに永眠するかも知れないが、今のところどうやらまだ生きているらしい。
 死にそうになったら救助しよう。いや、不要か。

「変態を捕まえたはいいけど帰れないんじゃどうしようもないわ」

「大丈夫よオルレアン、希望を持つのよ」

「そうね、あなたがいるもの」

 ――ああ、今の会話だけだったら普通にただの乙女なのになぁ。

 これだから人間は。そんなことを思ったのは、人間社会で生活するようになって今日
が初めてだという気がしないでもない。
 昔のことは忘れた。いや、嫌なことは忘れた。

 嫌なこと。連想してアルトは表情をかすかに強張らせた。
 そうだ、早く連れの元へ戻らなければならない。一人で放っておいたりしたら、また
子供みたいに拗ねる。それとももう手遅れで、とっくに嫌われてしまっただろうか。
 どちらにしても――早く連れの元へ戻らなければならないのだ。


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2007/02/11 23:33 | Comments(0) | TrackBack() | ○ナナフシ

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