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2025/03/10 07:39 |
シベルファミト 16/しふみ(周防松)
第十六話 『不敵な語らい』

キャスト:しふみ ベアトリーチェ (ルフト)
NPC:商人っていうかリーダー格っていうか(イン・ソムニア) 下っ端さん達
場所:ムーラン

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「いいな~、いいな~。こっちもいいし~、あ~でも、これも捨てがたいっ」

色とりどりの宝飾品を前に、ベアトリーチェは目をキラキラさせながら本格的な品定
めを始めていた。
三時間が経過したところで、ようやく『買う』という方向に思考が進んだらしい。
一方。香油マッサージを終えたしふみは、長椅子に体を横たえながら、その様子をぼ
んやりと眺めていた。
彼女は宝飾品にベアトリーチェほど興味がなく、さんざん冷やかすと飽きてしまった
のである。
しふみの興味はズバリ、エステなのだ。
香油マッサージと髪の手入れは終わったが、残る「爪磨き」が終わっていない。
何やらネイルアーティストの仕事が立てこんでいるとかで、随分待たなければならな
いらしい。
細長い形の爪は、さほど荒れているように見えないが、「綺麗に見えるからと言っ
て、手入れを怠るものではない」というのがしふみの考えである。

(まったく、犬はどこまで行ったのかのぉ)

早くしてもらわなければ、せっかく得た心地よさが抜けきってしまうではないか。
そう思うと、しふみはちょっと不機嫌になる。

「迷うなぁ、うーん」
「金はあるのじゃ。欲しいと思ったもの、全てを買えば良かろう」

年長者がわずか十二歳の少女に言うものではないアドバイスである。
普通なら「本当に欲しいものにしなさい」とか諭すところだ。

「それもそうね。じゃあ、ここからここまで、全部買うわ!」

あっさり頷き、ベアトリーチェは豪快な買い方をしてのけた。

「ありがとうございます。お客様、実にお目が高いですね」

商人の男は愛想よく笑う。
しふみは、そいつの顔をぼんやりと眺めた。
褪せた茶色の髪。
あまり商売人向けには見えない、吊り上がった目。
細い顎。

――違和感。

商いをして生計を立てている人間というのは、たとえ裏側ではどんなに他人をボロク
ソにけなしていたとしても、それを絶対に外に出さない人種である。
親切さと気配り、謙虚さ。これを裏側が見えないほどに押し出して商売しているの
だ。
しかし、この男にはそれがない。
つい最近商売を始めたばかりだから、と解釈するには、男の態度は堂々としている。

(あまり関わりあいにならぬほうがよい)

しふみはそう直感した。

視線を感じ取ったのか、男はしふみに微笑みかけてきた。

「どうです、お嬢さま。姉妹でおそろいの髪飾りなどは」
「結構じゃ。わしは装飾品に興味がないのでな」

さっさと帰れ、と言外に含めてしふみはそっけなく天井を向いた。

「そう仰らずに。こちらのブルー・サファイアを使った髪飾りなどはいかがでしょう
?」

なおも男は食い下がる。
しふみはしつこさにうんざりした様子で、億劫そうに長椅子に横たえていた体を起こ
す。
と、ドアの外で、コトッ、とかすかな物音がした。

「あれ? なんかいるんじゃない?」

ベアトリーチェが様子を見に行こうとすると、男は血相を変えた。

「い、いえ、気のせいでしょう。ああ、そういえばこちらに伺う前に、子猫を一匹見
かけましたが」

どこかあやふやな口調で、男はほんの一瞬、視線をさまよわせた。

「猫いるのっ? 猫見たい!」
「な、なりません。あんな汚らしい子猫を抱いたら、せっかくのお召し物が汚れてし
まいますよ」

なおもドアに向かおうとするベアトリーチェを、男は不自然なほど引きとめる。

「のぉ、お主」

しふみは、笑みを浮かべて男を見つめた。

「使えぬ部下を持つと、ほんに泣くほど苦労をさせられる。そう思わぬかぇ?」

男の口元が、引きつった。

途端。

バァン! とドアが乱暴に開け放たれると、ムーランの民族衣装に身を包んだ男が二
人、現れた。
しふみは笑みを消した。

「おっと、大人しくしてりゃ危害は加えないからよ、じっとしてな」

商人の男は、態度をガラリと変え、ふてぶてしく笑った。

「やはり商売人ではなかったな」
「見抜いてやがったな。勘の鋭い女だ」

悪態をつき、男はくるりと民族衣装をつけた男二人に向き直る。

「お前ら、ホント使えないな。おかげで計画が少し狂っちまったよ。三時間も粘らせ
やがって」
「す、すみません」

二人は小さくなったが、やがて『仕事』を思い出したようで、脅しのつもりか刃物を
ちらつかせながら、しふみを取り囲んだ。

「どういうつもりかぇ?」

商人――リーダー格の男は、明らかに見下す視線をしふみに向けた。

「ウォーネル=スマンを知ってるか?」
「……知っておるかぇ?」

明かに自分に話を振られたというのに、しふみはベアトリーチェに尋ねていたりす
る。

「しーらなーい」

ベアトリーチェは明るく答え、ひょいと肩をすくめた。

「……ムーラン有数の大金持ちなデブさ。俺らの雇い主だよ」
「それがどうかしたのかぇ」
「豪遊してる姉妹がいるって聞いたんでね、是非ご招待したいとさ」
「その割に随分物々しくないかぇ。女を招待するというのなら、牛車(ぎっしゃ)で
もつかわすのが慣わしぞ」

のん気な発言に、男が脅し文句を並べるよりも早く。

「牛車って何?」

ベアトリーチェが口を挟んだ。

「牛が引く車のことじゃ。馬が引くよりものんびりしておるぞ」
「へぇ~」
「あんまりイライラさせんじゃねぇっ、女ァ!」

堪忍袋の緒が切れたのか、男は近くのくず入れを蹴飛ばした。
しふみは、別に怖くもなんともなかった。
直後に起こった、ある異変の方がよっぽど衝撃的だった。

「お姉さま、ベアこわーい」

ベアトリーチェがそんなことを言いながら、しがみついてきたのである。
あり得ない。
あの、ナイトストールに狙われていても平然としていた娘が。
腕が折れても全く意に介した様子のなかった娘が。
たかが、男がくず入れを蹴っ飛ばしたというだけで怯えるなどと。

しふみは疑問に思ったが、見下ろしたベアトリーチェの目を見て、あぁ、と何かを感
じ取った。
ベアトリーチェは何かを企んでいる。

(合点がいった)

やはりそうだ。
これは演技だ。
そうとくればこちらも演技に応えないわけにはいかない。
しふみは、しがみつくベアトリーチェの頭部を抱みこむようにして抱き寄せた。

「おのれ、女子供を罵倒するとは何事ぞ」

毅然とした態度で男どもを一喝し、大切な妹を守ろうとしている姉の姿に映ったこと
だろう。
しかし。

(嬢。何を考えておる)
(ん。ちょっとお金持ちの家で暇つぶししたいの)
(金持ちの家に行ってどうするつもりじゃ)
(わかってるクセに~。お宝ごっそりいただくのよン)
(……世間ではそれを強盗とか泥棒とか言うのだぞ)
(いいじゃん、どうせロクなやつじゃないわよ、その金持ちって奴)
(手配されたいのかぇ)
(だーいじょうぶ、そうならないようにするから)

実際には、彼女達は男どもに聞こえない声で不敵な語らいをしていた。

「雇い主には傷をつけるなって言われてるけどな、アンタの返答次第じゃ酷いことも
するぜ。例えば――アンタの妹に」
「…………」

しふみはむっつりとした表情で相手をしばらく睨み――ふっ、と体の力を抜いた。
見た限り、それは一切の抵抗をあきらめたかのようである。

「わかり申した。その金持ちとやらの家に連れて行け」
「物わかりのいい女は好きだねぇ」

(“うつけ”が)

思わずしふみは腹の中で毒づいた。
いやらしい笑みを浮かべつつ、男どもが取り囲む輪を縮めてくる。

「逃げようったって無駄だぜ」
「そのようなことをするか」
「それじゃあ、さっさと引き上げるぞ」
「きゃあっ」

リーダー格の男に乱暴に腕を引かれたベアトリーチェが、悲鳴を上げる。
わざと上げたのだとしふみは気付いたが、何故か男どもは全く気付いていない。
まだ少女だから人をだますために演技をすることもない、などと勝手に思いこんでい
るのだろうか。

「安心しな。お前のお姉ちゃんが馬鹿をやらない限りは、酷いことはしねぇよ」

言っている本人のみが残酷な脅しと思っているらしいことを、ベアトリーチェに吹き
込んでいる。

「そんな……」

それに怯えてみせるベアトリーチェの表情も声音も、完全な演技である。
しふみ以外の誰も見抜いてはいなかったが。

男二人がしふみの左右を囲み、リーダー格の男がベアトリーチェの腕を無理矢理引く
形で、彼女達は部屋から連行されることになった。

(では、参ろうか)
(オッケー。しばらく演技してるからヨロシクね)

“姉妹”は、周囲の男どもに知られることもなく、お互いの顔を見てほくそ笑んだ。

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2007/02/12 20:57 | Comments(0) | TrackBack() | ○シベルファミト

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